表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者を探せ! 乙女ゲーム世界破綻対策本部局 新人かがやまちの場合  作者: 家具付
三章 封印されていた異世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/46

信じて利用してみせる

船に揺られて一週間。週休二日は夢のまた夢、私は毎日雑用をこなし続けた。

野菜とかとても恋しくなる食糧事情で、保存のあれこれはこの世界ではそこまで発展していない。塩漬けや干物、砂糖漬け。そう言った物が主流の保存食に加えてのかっちかちのパンというかビスケット言うか、そんな食べ物で毎日をまかなうわけだ。

魚は釣った。時間が空く限り釣りにいそしんだ。保存食だけでは食料が足りなくなる可能性の方が高いからだ。

そういう事情から、休み時間と思われる時間の間中、私は魚を釣り続けて、もう釣り道具なんて見たくないって普通は思うで有ろう位に、魚釣りにいそしんだ。

普通はって事はお前違うんだろう、と言われるであろう。無論そうなのだ。おばあちゃんの山でのサバイバルでも、釣りというのは非常に役立つスキルだったし、当時も食料を求めてのあれこれは大事な物だった。

そんな幼少期の私は、毎日魚を釣る事にたいして否やは無い。


「ちび助、魚を釣るのなれてるな」


「川魚とかの方が釣ってました」


「山間出身か? それにしちゃあ、あれこれ慣れてるよな」


「ある程度は何でも出来なくちゃ、独り立ちなんて出来ませんって」


「なるほどなあ」


そういうやりとりを船員達と行いつつ、女だとばれないように立ち回る。そんなのは簡単だった。トイレ事情は面倒くさかったが、立ちションするな、厠が汚れると小さい頃ボコボコにされた記憶があるから、立ちションするのできない、という言い訳をすると、


「とんでもない潔癖の家庭環境だったんだな」


で済まされた。変な家だと思うよりも先に、船に乗る人間の人種は多種多様、風俗も大違いというわけだったからか、その程度で済ませられたわけだ。

着替えなんて持ち合わせに無いので、着替える事も無い一週間だった。ぼろきれで多少体は拭いたわけだが、そのぼろきれを濡らすのは海水というわけで……お察しという感じはする。

港に着いたら風呂に入りたい。風呂じゃ無くて言い、真水で体を清めたいし、頭だって洗いたかった。

幸い、この船の食糧事情は最悪というわけでは無かった事から、いつかの過去のようにネズミを捕まえて食べる事はしなくて済んだ。ネズミを食べるのは……思い出したくも無いサバイバルまっただ中の極限状態を思い出す。

あの時は狩りに失敗するし、釣りも成果が上がらず、ふらっふらになりながらも、目の前を通ったネズミを素手で捕まえて……気付いたら内臓を外して焼いて食べていた。

肉の味はした。……あまり味の細かいところは覚えていない。

その話をしたおばあちゃんに、なんでそんな状態になってたのにリタイアしに来なかったんだと怒られたっけ。親戚一同を死なせるつもりは、ばあちゃんには無かったし、無理な時はちゃんと狼煙をたいてリタイアできたはずだった。

リタイア用の狼煙が湿気てて、使えなかったと言うと、母屋まで戻ってこいと怒られたのも覚えている。

さてそんな私のがちなサバイバル事情はどうだっていいだろう。

私は海水を浴びる結果、ばさばさになった髪の毛を歯抜けの櫛でとかしてまとめて、周囲の気配を探ったのだ。

船の上という通常とは違う状況下なので、定期的に当たりの気配を探るべきなのだ。

何が起きるかわからないのが異世界なので、その中でも海賊が跋扈する大海で、油断は出来ないだろう。


「……」


私は船室のすみっこに座り込んで、目を閉じて、周囲の気配を薄く薄く探っていく。厚めに探ると乗り物酔いに似た症状が出やすいのは、微に入り細に入り探ってしまうからだろう。

私はこれが最大何キロ先まで感知できるか、限界に挑戦した事は無いけれど、数キロくらいは出来ると、乙ハタに入ってから体感している。三キロとか四キロは探れる。そのおかげで人為的建造物を探すのも、最初の一人を探すのもやりやすくなったのだから。

うすく、うすく、ひろく、ひろく。

手足の感覚が遠くなる代わりに、皮膚感覚に似た何かが研ぎ澄まされていく。音では無い波長、波の音では無い揺らぎ、人間が細かく感知できないはずの気圧の変化が、薄く薄く理解できるようになっていく。


「……!」


見えた。私は今見えた物が、船にとって大事な物だったから、飛び上がる勢いで立ち上がって、船長室に向かって駆けだしていた。

駆けだして、船長室の前に来て、がんがんと扉を叩く。

そうすると、船長が出てきた。昼寝をしていた彼は、少し眠たそうだった。


「どうしたんだ」


「私、新米の占い師なんです」


「はあ」


「その占いで、前方二キロに、略奪船が数隻、交戦しているのが見えました!! 一つは商船っぽくて、もう二つは海賊船、それからその地点に到着する手前で、嵐が来ます! 航路を変更してください!!」


「……占い師の言葉が、完全に信じられると思っていたのか? ちび助、新米って事は何でも見通せる本物じゃ無いだろう?」


「……言いましたからね。警告しましたからね? 私が教えなかったなんて言わないでくださいね?」


こんなどこの生まれかもわからない、自称新米占い師の言葉をすぐに信じてくれるわけが無い。わかっていたが、言わないで黙っている事は出来ないので、私は教えただけの話だ。

私は船長室の前を去り、通路を歩いて、嵐が近付き、そして略奪船にも近付く中で、どう自分の身を守るかを考える事になっていた。

……私は人間と斬り合ったり殺し合ったりする技能は無い。体術は護身術にちょっと暴力的な物が追加された程度で、荒くれ者達と真っ向からやり合う力は持っていない。

誰か、身を守ってくれそうな味方を手に入れなくちゃいけない。

そう思った時に、頭に浮かんだのはキャプテン・シンだった。

千里眼と私を判断した彼なら、私の見た物を信じてくれる可能性が高いし、手元に置いておいた方が、港に着くまでは得だと判断してくれるだろう。


「よし」


方向性は決まった。私は耳飾りを外し、異世界の誰もが私の言葉を理解できなくなる様にしてから、船の甲板の端っこで、誰も見ていないのを確認してから、探知機を作動させた。


「探索班、かがやまちです、応答願えますか。どうぞー」


「ああ、よかった、今日も連絡があって。まだ港に着かない?」


「パールレディまでまだかかりそうです」


「パールレディ!?」


探知機の向こうであおやどまがる先輩が大声を出す。そういえば、進路の港の名前を言っていなかった事をここで思い出した。一週間も言い忘れていた私は残念な頭だ。

探知機の向こうが騒々しくなる気配がして、副局長の声がした。


「おい、なんて豪運だ。そのパールレディこそ、我々が目指していた”パイ恋”の海賊の楽園の港町の名前だ! お前そこに向かっているのか!」


「この船は向かっておりますが、数時間後に嵐に直面し、なおかつ進路の方角では現在略奪船が商船と交戦中、おそらくそれにも巻き込まれます。船長に伝えましたが、取り合ってもらえておりません」


「……冷静だなかがやまち。肝が太くてとんでもない新人だな……わかった。とりあえず身を守る事を最優先にし、自分以外の事は考えなくていい」


「交戦中のどさくさに巻き込まれたふりをしての、そちらへの強制帰還は出来そうですか」


「三日前にも調べたが、ほかの扉からこちらへの強制転移や強制帰還は可能になったが、きりみかとくがわたの二名を帰還させられた後、なんとかしてお前を戻そうとしているが、創造神による妨害波長が強力で、何をやっても弾かれる。……すまない。パールレディに着けば、こちらに一時帰還が可能になる可能性が高くなる。持ちこたえてくれ」


「了解しました。引き続き探索を続けます」


「わかった。数時間は連絡が取れなくなると判断する。夜に可能ならば生存報告を頼んだ」


「はい」


私はそういうやりとりをして、探知機をまた服の中に隠した。……空を見上げる。


「必ず日本に帰るまで生き延びてやる。それが出来ない私じゃ無い」


自分に強く言い聞かせて、私は見た物を信じてくれそうな、キャプテン・シンを探すべく、表の甲板の方に走っていった。

表の甲板では、キャプテン・シンがほかの船員達とともに、甲板掃除を行い終わったところだった。だからまっすぐに走っていって、その服の裾をつかんだ。


「シン!! 聞いて! 見えた!」


「目玉のいい坊主、今度は何を見た?」


裾をつかんだのが、私だとわかるとキャプテン・シンはうっとうしそうな視線では無く、面白がる表情に変わる。そして私を見下ろして問いかけてきてくれた。

見えた物を信じてくれそうだったから、私は見た物を話した。嵐と略奪船の二つを。

ほかの甲板掃除をしていた船員達は、それを聞いてぎゃははと大笑いをした。


「自称占い師の小僧の言う事、あんた真に受けるのかよ!」


「占いってのがそんなに命中率の高い物なら、占い師は大もうけだろう!」


「違いない!」


船員達が大笑いをするのはありふれた反応で、悔しいとも思わない。だが、私の盾になれそうな人間に、信じてもらえれば自分を守れる。

私はシンを見上げた。黒い瞳が見下ろしてくる。そして、秀麗な口を開いた。


「信じてやる。で、嵐の規模の見立ては?」


「大雨。雷が鳴る。結構な時化」


「略奪船とぶつかる時も嵐は続くか?」


「続かない。でも嵐で消耗している時に、ぶつかったら結構まずい規模の略奪船」


「そりゃあ全体的に大嵐だな」


真面目に聞いているシンに、誰もが大笑いをしていた。

シンだけが、私の言葉を、信じてくれていたから、私にとっての最悪の事態にはならない、とそれだけは予測できた私だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ