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転生者を探せ! 乙女ゲーム世界破綻対策本部局 新人かがやまちの場合  作者: 家具付
序章 始まりはマンホール

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いざ、乙女ゲーム?世界へ!

まさに、ドサッという感じで落ちたわけだ。受け身も取れないで地面にダイビングした私だったが、めちす先輩は何度もやってきた事なのか、慣れていらっしゃる。

軽く埃なんか払っちゃって余裕そうだ。

しかし私はと言えば、見事に地面に伏せている。


「いつまでその状態でいるんだ」


「今起き上がります」


言い返してのろのろと起き上がると、目の前はさっきまで見ていた扉がたくさんある部屋、じゃなかった。

風邪の吹き抜ける大草原、青々と草が萌えている草原、建物なんて何一つ見当たらない大草原、そう、人のいない……


「いったいどこなんでしょう、ここは」


「お前が発音を間違えたせいで、飛ばされる場所に誤差が出たらしいな」


先輩は手持ちのスマホ風機械をいじりながら、場所を特定しようとしている。


「本当にどこだ、ここは。まさかあのタイミングで発音何て間違える、そそっかしい奴がいるとは思わなかった」


「そそっかしいっていうところですかここ!?」


何か意味違うよな!?

不平不満を込めてにらめば、先輩が言う。


「お前のぽかで場所の特定から始めなければならない探索、何て大変なんだぞ。大抵仲間内の誰かがいる場所に飛ぶわけだからな。誰もいない場所に飛ぶなんて事になったら、その大前提が狂う」


指で画面をいじっている先輩。

そういえば私はなんで、そのスマホ風機械を持たせてもらえないんだろう。


「研修中はこの機械を持たないで、指導者が二人三脚で仕事を教える事になっているんだ」


最初から便利機械は持たせない考え方、か。

しかたがない。

私は目を閉じて、風の匂いを感じ取ることにした。

目を閉じて心を広げて、感覚を広げて行って……条件がいい、日本のごみごみとした雑踏と大違いで、どこまでも感覚が伸びていく。

そこから人の気配を拾い上げていく。人の気配があったもの、人が通った形跡のある物。

人間はほかの動物以上に痕跡を、残す生き物だから見つけるのは早いんだ。


「おい、まち何をしている?」


自分の意識が大草原の結構な範囲を確認した時、私は先輩に声をかけられた。


「ちょっと黙っててください、人の形跡割り出してます」


「は……?」


広がって広がって、「あった!」

位置情報がうまくいかなかったらしく、人里までの道が分からないらしい先輩に、私は笑顔で言った。


「ここから南西に三キロ半、そこに集落がありますよ!」


「なんでそんなことが分かる!?」


「さあ、行きましょう最初は集落ですよね! そこからいろいろ学び取っていきたいと思います!」


私は感覚が広がる解放感のため、ハイテンションで先輩の前を歩きだす。


「おい、かがや、かがやまち! その自信は一体どこからくる!? 新米が変な事をするな!」


「これから夜になる前に、人里に行くのも大事だと思うんですけれど」


夜は獣が出るだろうし、こう言う大草原なら、そこを狩場にしている狼みたいな生き物もいるだろうし。

うっかり寝るなんて、私と先輩の軽装備ではやっちゃいけないことだ。

まさかおばあちゃん家周辺での大サバイバル生活が、こんな事に役立つ日が来るとは。

ひゅうひゅうとならない口笛を吹きながら、私は意気揚々と先輩の先を歩く。

先輩は私を止めようとしているが、私は一つの方向を指さしだ。


「先輩、ほら、見てください、炊事の煙が上がってます、やっぱり何か人里があるんです!」


あの、ほのかながら続いている細い煙は、間違いなく人がいる証であり、この時間だから炊事の煙に違いないのだ。

山の大サバイバル大会で、おばあちゃんの家の薪のお風呂の煙は、方角を見失った時でも、帰る場所を明確にしてくれたものだ。

そんな事を思いながら、先輩にどや顔でその煙を指さし続けていれば。


「……もはやお前がどこの出身でも驚かないぞ、お前の出身国はどこなんだ」


「日本に決まっているじゃないですか」


「日本のどこで、方角も何もわからない状態から、人里の場所を割り出して、そこに確実に行けるんだ!? お前の体の中には方位磁石があるのか? それともお前は鳩なのか? 星の磁場がわかるのか?!」


「夏休みになるたびに、おばあちゃんの家で大サバイバル大会してたら、大体手に入る能力ですね」


「なんだその大サバイバル大会って」


「おばあちゃん、でっかい山を持ってたんですよね。それも一人で。なんか金とか株の転がし方とかが分かる、化け物みたいな人だったとか。それで小さい頃から、おばあちゃんの家に遊びに行くとなったら、まずサバイバル大会が行われたんですよ。大人とペアになって」


途中から私の方がサバイバル上手になって、大人を助けていたのはちょっとした笑いだ。

何しろ木をこすり合わせて火を熾す事まで、やれるようになったのだから。

山に生えている、食べられる植物の事かも結構詳しいし、口の中に入れればどれが食べられないのか実は、わかる。

おばあちゃん曰く、私は昔のおばあちゃんに似ているそうだが。

おばあちゃんみたいに、強い女性にはなれなかった。サバイバル生かす職業につかなかったし。

でも、セクハラ撃退した時には、サバイバルで培った体の使い方で撃退したっけな。


「何日山にこもっていられるかっていう、我慢大会みたいなものでしたけど。私最後には夏休み一杯山の中でしたよ。その頃には自分の巣がありました」


水が出る心配のない岩場の隙間に、寝袋持ってそこに、一か月。

川があったから魚は取れたし、若芽は食べられる物も多かった。

夏になるたびに真っ黒に日焼けしたものだ。

なつかしい。そんな記憶もおばあちゃんが死んで、山は売り払われて今じゃどこかのホテルのペンションが立ち並ぶ空間になったから、余計に懐かしいのだろう。


「なるほど、そう言った生き残りの手段をたくさん持ち合わせているから、お前を選んだのか、あいつら」


私の話を聞いた先輩が、そろそろ人里が見えてきた……獣除けの柵が見えてきたから……スマホもどきをしまった。


「こちらの常識は俺の方が持っているから、お前はうかつなことをするな。新米」


最初から命令であるが、何処か分からない場所に飛ばされた以上、その指示は正しいのだ。

それでもいい。先輩が人里を見つけて、ほっとしたのが分かったから。

大人しくしていよう。先輩の後ろについて、彼の事をよく観察する構えになった私だった。

柵の前には見張りが立っていて、私たちを見て問いかけてきた。


「どこから来たものだ? ここしばらく、誰もやってこないというのに」


「転移術が失敗してしまい、スタンシアに向かうところだったのだがここがどこなのかわからない」


「ああ、迷い人なのか。確かにその言葉に偽りがないらしい」


見張りが指先をいじった後、私たちに何かをかけたらしい。

一瞬私たちの体が、銀色に光ったのだ。


「え、光った!?」


「そちらの娘さんは、よっぽど田舎者だったのだな、相手の言葉が真実か確かめる術、真実術を初めて見たのだろう」


「ああ、この子の里はとても辺鄙で、術の大半を知らないんだ」


「そんな子を連れてどうしてスタンシアに」


「この子の同郷の人間が病気になって、仕事が出来なくなったから代わりにこの子を連れて行く事になっていたんだ」


私の設定そうだったのか。

黙っていなきゃいけない、と頭の中で念じながら、私は見張りを見ていた。


「とりあえず、一晩の宿を貸していただけないだろうか」


「かまわないだろう、村長の家に行けば、旅人は一晩くらいは止めてもらえる。昔から客人は歓迎するものだ」


よし、野宿は免れたらしい。

私はほっとして、先輩の後に続いた。




村長の家では確かに、そこそこの歓迎を受けた。ご飯は異世界ご飯だった。米を求めちゃいけないし、日本食を求めてはいけない。

文化が違うのだ、と言い聞かせて、私はどこか西洋チックなご飯を食べた。

基本が豆のおかゆという事は、ここはそんなに裕福な土地じゃないのだろう。

それと、村の造りから見て、何処かの小さな中継地点なのだとも感じた。

人をもてなす事は上手だけれど、質素。

そんな変な感じのする場所だけれども、私は藁の布団で熟睡した。

そして鶏の鳴き声で目を覚まし、先輩に連れられてその村を出る。


「いいのか。橋は落ちているというのに」


「橋の方で知り合いが待っているかもしれないから」


先輩は丁寧に、連泊を辞退した。

私ら、痕跡が残らない方がいい職業だもんな。目立っちゃいけないんだ。

異世界の住人であり、異世界を飛び回る職種。

うん、普通におかしい職業である。

村の人たちから、甘くて保存のきく果物菓子をもらって、水筒をもらって、柵を出て一キロほど歩いてから、先輩が言い出した。


「おい、かがや」


「はい」


「ここから橋への最短距離が分かるか」


「わかったら信じてくれるんですか」


「昨日のあれで、お前の何かが尋常じゃないのはわかったからな。信じてもいい物だと思う事にした」


ぽかん。

私はぽかんとした。だってこの手の事を信じてくれる人なんて、普通居ないのだ。

方角があっていても、たいてい偶然という事になる。

百発百中でも、偶然で片付けられるか、不気味扱いなのに。

この人、信じてもいいと思ったんだ。

よし。すごいやる気が出てきた。


「ちょっと待ってください、橋の特徴ってどんな感じですか」


「このあたりだ、交易の中継地点だからしっかりした橋だろう。大きいのは間違いない。それからその周囲に街があるはずだ」


「それだけあれば探せます」


私は昨日と同じように、心を大きく広げていく。草原の先、川、街、橋……あれか!

一日がかりになるような距離の場所に、私はそれらしきものを見出した。


「ありました、さらに南下して三十キロ前後。大きな町です。川も大きい」


「あたりだな。スタンシアへ行く街、ダンダルフォンなら、そこに俺たちの同僚がいる」


「先輩、歩けますか?」


「お前にそれを言い返したいぞ」


「大丈夫ですよ、体力には自信がありまくってるんです。働いていたところで、一番遠距離を徒歩で移動していたの、きっと私なんで」


「どこからどう突っ込めば正しいのか、もうお前に対してはわからない」


「人間、備えあれば憂いなし、ってやつなんですよ。サバイバル大会が無かったら、私だってこんな風に、遠くの街を探し出したりできないですから」


「その能力に関しては、これから非常に役立つのが間違いないぞ」


後はお前のその、妙に抜けているような変な所が治ればな、とずいぶんな言い方だなおい。

抜けてないと言い切りたいのだが、それを言うと子供っぽい気がしたので、言わない事にしておいた。





てくてくてくてくと歩いていた私たちだが、何とここで大変な案件に遭遇した。


「まさか先輩との歩幅どころか、歩く速度が合わないなんて」


「お前は! なんで! そんなに! 足が速い! 俺の方が! コンパスは長い!」


息を切らせる先輩。だがしかし、どっちも足は止まらない。私が気を付けているから、開いた距離はそれ以上ひらかない。


「私今でもきっと、本気出せば山の藪の中、平地を走るように駆け抜けられますからね?」


「どこの忍者だ……風馬忍者か? 伊賀忍者か? 甲賀忍者か? それとも御庭番か?」


「うち、忍者の家系だったっていう嘘か真かみたいなお話、おばあちゃんしてましたねえ」


付き合いきれないという顔をされるんだが、私だって一人歩くよりもこうして、喋りながら歩く方が楽しいので、これはちっとも辛くない。

ただ意地になって私に追いつこうと、がんばっている先輩の代力が削られるだけで。


「先輩、私にもっとゆっくり歩けって、どうして言えないんですか」


「男の矜持だ……言ってたまるか……」



こんなやり取りをしながらも、私たちは無事に、日がおちる寸前、その目的の街、ダンダルフォンに到着した。

街の門の前では、私たちを待っていたらしい人が、手を振っていた。


「バズ! いや、もう、待てど暮らせど来ない物だから、一晩後かと思ったぞ!」


手を振る彼は、先輩に話しかけたのちに、私を見て相好を崩した。


「新しい子か、初めまして! 俺はヤカブだ。ここら辺ではヤコブ、という人の方が多いな」


確かに聞きようによってはヤコブに聞えそうだ。彼は先輩が思った以上にくたびれているのを見て、不思議そうな顔になった。


「どうした、バズがそんなにくたびれて。予測地点から百キロも離れていたわけじゃないのに」


「かがやまちが、俺たちの思っている以上に、緊急事態に強かっただけの話だ。あとサバイバル能力が高かった」


「すごいな。この現代でそれができるなんて。とりあえず家に着て、本部と連絡を取ろう」


「ああ……」


街に着て気が抜けたのか、先輩は深く息を吸いこんでから、吐き出した。





スマホもどきは、近くに電波塔みたいなものがない地点では、あまり使えない不便機械だったようだ。一世代前の携帯電話を思い起こす。ほら、バリサンとかが大事だったあの頃だ。

電波塔は、もともとこの世界にある物を有効活用できるようにしているらしい。

スマホもどきが、その世界の神様が決めた電波を受信するそうだ。

電波電波言ってるけれども、実際には神様のエネルギーらしい。うまく説明が出来なくて悔しい。

そして今回、先輩のスマホもどきが位置検索できなかったのは、まさに電波がすごく弱かったからなんだって。


「こっちからもお前たちの居場所が割り出せないし、そっちからの連絡も届かないし、本気でお前たちの迷子が大変な事になっていたぞ、お前たちが集落にたどり着いて、連絡が出来てようやく、安否が確認できたわけだ」


ヤカブさんがいう。すごく心配させちゃたらしい。


「それにしても、かがやまちの自然を味方に付けるの、すごいな」


「えへへ」


照れるのだけれども、ここでめちすばず先輩が言った。


「元を正せば発音に失敗したのがいけない。お前は発音の練習という新たな練習をしてから、もう一度ここに飛ばされるだろう」


「はい。練習はします」


そこ大事だし。


「さて、明日はどういった風にオーパーツを見つけるのか、実際にやっているところを見せなきゃな」


ヤカブさんが話を変えてくれたため、ふてくされずに済んだ私だった。

ヤカブさんの家の中は、やっぱり目立たない感じの庶民風だ。

とっても狭いし。防音は高いらしいけれど。壁に分厚い布がかかっている分、防音はちゃんとしている。仲間と話し合うためだろう。

だが家の中は適当さ加減がやはり日本風、と思わないでもない感じだ。

多分フローリングが白木だからだろう。しっかり磨かれているから、ワックスをかけなくてもつやつやしているが。

なんだかお寺の中を思わせるような床だ。古いお寺の床は人が行き交いした分、つやつやして足の裏に心地よい。

そしてそこに、裸足でいる事の爽快感はやはり、自分日本人だな、と思うものがある。

室内で土足厳禁、これ日本の考え方だし。


「さて、バズ、今ここの問題を話すぞ、まちも心して聞くように」


「数日で何か大きな変化が?」


木をくりぬいたコップに、温かい香草茶……紅茶が高級品で一般人は買えないらしい……は独特のハーブの匂いがする。わるくないお茶だ、緑茶みたいで。でもくしゃみが出そうなメンソール感。


「ああ。知り合いで王宮に入れる奴が、王宮のドレスの最新モードがクリノリンだっていう情報を持ってきた」


クリノリン。あ、ドレスの中に着る骨組みか。パニエが重いから発明されたもので、ドレスが軽くなって、一層膨らみが大きくなったという話もあるあれだ。

そしてクジラを無差別に狩る理由の一つになったとかならなかったとか。


「クジラのあれだろう? この世界にそれを利用する考え方があったか?」


「いや、人より大きな海の獣は悪魔だ、という考え方のこの世界で、それをしようって考える奴は普通居ない。ここからドレス関連のどこかに、転生者がいる可能性が高くなってきた。調べたところ、この街の職人が作ったことも判明した」


「技術者手に入れて言う事聞かせる、ってのも金がかかる。かなり金持ちの場合が大きいな、船を自分の家で持っているかもしれない」


バズ先輩がにやりと笑った。


「転生者が絞られてきたぞ。それも最初の転生者だ。初期の転生者ほど、世界を壊す力が強い」


「最初の転生者が見つかれば、後はその縁をたどれば、ほかの奴らも芋づる式に見つけられるからな」


「あの、意味がよく分からないんですけど、最初とか縁とか」


私はついに話についていけなくなり、手をあげて発言した。


「ああ、新人はそこはちゃんと習わなかったのか? まあ実行部隊とかかわらないと、探索班はあまり気にならない事だけどな。最初の転生者が、この世界と地球をつなげる穴をあけたんだと思ってくれ。そして二人目からはその穴をくぐって入ってきたと。そして穴をくぐってきたら、穴に記録されると」


「だから最初の転生者が見つかれば、最初の人間があけた穴も見つかる。最初をなかった事にする手順の中に、二人目以降の転生者の強制帰還もふくまれるってわけだ」


「色々大変なんですね」


最初の転生者を見つける事だけを考えればいいのは、探索班のいい所なのだろうか。

分からないけれども、私は出されたお茶を飲みながら、妙に真剣な顔のバズ先輩の方を見た。

何か不安要素があるのだろうか。

新人の私には、どこに不安要素があるのか、感じ取れないのだが。


「先輩、難しい顔ですよ」


「クリノリンを広めた何処が、ホシの居場所なのか考えていたんだ。この世界で転生者の可能性がある人間は、意外と限られているはずなんだが」


「え、ここゲーム風の世界なんですよね。だったらゲーム中の登場人物に近いひとが、怪しいんじゃないんですか」


普通、ゲームのキャラに転生したと思い込んで、シナリオ変えようって思わないだろうか。

それが基本だと思う私は変なのか。

不思議でたまらない私に、教えられる言葉。


「庶民には情報がなかなか、回ってこないんだ。探索班の限界だな。探索班はどうやっても旅人もしくは、庶民にしかなれない。貴族間の情報やあれこれやいさかいは、いかんせん見つかりにくいんだ」


言われてみれば確かにそうだ。探索する方であるこっちは、こっちから出ていくのが前提、えらくなったり出世したりすれば、目立ってしまうし世界にとっても不安な要素になる。

えらくなるぎりぎりのラインで、情報を探りまくらなきゃならないのか。

難しいものだ。

なんて思いながら、私はヤカブさんがくるくると回している、お茶の中に入れられたおさじを見ながら、物は試しで感覚を広げてみた。

流石、大きな河の橋の街、人は大勢いるようだ。とりあえずそこから、人を避けていく。

避けて行ってそうして。

私は変な物に引っかかった。

これはどこだろう。街の西の方。そこで何というのかわからないのだけれども、この世界とは違う感じのする人間らしきもの、が五感に引っかかったのだ。

それ以上はわからなかったけれども。

明日進言してみようか。さすがに、街の場所まではわかるのは理解されても、人間の異なった感じまでわかるなんて、理解はされない気がした。

西の方に行ってみたい事だけ、伝えてみよう。報連相は大事だ。


「先輩、この街の西の方には、何があるんでしょうか」


「西? 貴族の屋敷が多いんだ。どうしてそんな事を聞くんだ」


「この街、東西に長いじゃないですか。こっちは東の方でしょう? 西の方に何があるのか気になっても、変じゃないでしょう」


「西の方が色々、貴族や金持ちの別荘が多いな。後お抱え職人が多い」


「それって、貴族が職人に注文するのが簡単って事ですよね」


ぽつりと言った事に、先輩二人が真顔になった。


「だな」


「考えてみればそうだ。この街の距離なら、職人が身近で、職人に個人的な物を作成する注文がしやすい」


「明日は西に行ってみる方が、仕事がしやすいかもしれないな」


良く気付いた、とヤカブさんが私の頭を撫で繰り回す。私は子供じゃないのだから、撫で繰り回されても髪型が崩れて嫌なだけだ。


「髪の毛が崩れます! 編み込み大変なんですからね!」


文句の一つでも言ってみれば、ヤカブさんは手を離した。


「一応、明日のために実行部隊が動けるように、手配をしておいた」


このやりとりの間に、バズ先輩は仕事の連絡をしたらしい。早い。有能だ。


「場合によっては一瞬で、決着がつく事もあるからな」


一瞬がどういう事なのか、分からない私だったが、仕事が早く終わるのは大歓迎だった。


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