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転生者を探せ! 乙女ゲーム世界破綻対策本部局 新人かがやまちの場合  作者: 家具付
三章 封印されていた異世界

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会話位は通じたい!

小島を歩き回り、ココナツの様な物を発見して即座に木に登り、私はそれを手に入れた。

ついでに探知機でそれの検索をしてみると、


「ココヤッツ。内部に飲料可能な水分を蓄える木の実、外側はほぐちによし」


と言う検索結果が出てきたため、とりあえず三つほど手に入れた。これで水を確保できるわけだ。

探知機は異世界のオーパーツ検索機能があるため、こういう使い方もできるのだ。

地球でもココナツの内部の水はココナツウォーターである。ミルクでは無いのは、あれは内側の可食部を削って混ぜて絞るからである。おぼろげな知識なので、間違っているかもしれない豆知識だ。

それを三つ小脇に抱えて、私は野営地を設定した。満潮になっても海水が来ない砂浜だ。

……森の中に入り込んで、迷子になるのが怖いと言うだけだ。それに、砂浜ならば通りかかった船に存在を知らせて、救助してもらえる可能性が高まる。

運が物を言う事になりそうだが、異世界共通お守りがあるので、その運を是非とも引き寄せたい。

そんなあれこれの後に、私は木の枝を削って先端をとがらせて、銛っぽい物を作成した。

これで浅瀬の魚をとるのである。……普通は出来ない? 人間頭を使うんだよ。

頭を使うからこそ人間なのである。そう言うわけで、私は小島をぐるりと一周しようとして……少し進んだ先で、倒れ伏す男性を発見した。ボロボロの見た目だが、今問題になりそうな大きな怪我をしているわけでも、死んでいるわけでもなさそうな男性だった。


「え、ちょ、ま」


見つけてさすがに混乱した。混乱しない方がおかしいだろう。ええっと、こういう場合は。

乙ハタの探索班としては、自分の命を最優先である。

だが、……だが。

私は打算が働いたのだ。それはみずみさんの教えてくれた事を思い出したからとも言える。

何故か海賊の楽園に最初から転移できない”パイ恋”世界。

高い割合で難破するか、海に放り出される船。

一般的に無理ゲーサバイバルを強制される流れ。

それは、もしかしたら。



この目の前の男と出会う選択肢が、最初の一人につながっているからではなかろうか?


と。


その可能性があるならば、人命救助もやむを得ない。いや、元々人命救助しろよと言うわけだが、水も食料も極めて限りが有る極限世界で、他人まで助ける余裕をいつまでも持ち合わせられるわけもない。

だが、私は万に一つの可能性があるから、その男を揺さぶった。


「あんた、大丈夫? 生きてるみたいだけど、私の喋っている事、わかる?」


「う、うう……」


うめいた。意識を取り戻せそうだ。周りには……あ、ここにもココヤッツが実をつけている。よし。

私は彼に声をかけた後に、またせっせとココヤッツの木によじ登り、その実を地面に落とし、小脇に抱えて彼の元に戻った。

それから、仰向けに倒れていて、非常に具合の悪そうな彼の目の前で、ココヤッツの上部を削り、穴を開けて、自分の膝の上に彼の頭を乗せて傾斜を作って、彼に中の水を飲ませたのだ。

口を開けまいとした男だが、干からびそうだったのか、渇きに耐える事は出来なかったらしく、ほどなくごくごくと中の水を飲み干した。

そして大きく息を吐き出したので、私は口を開く。


「意識ちゃんとありそう?」


「*****? **、*****!」


「なんたる事だ、言葉が通じないなんて!?」


私は前代未聞の事態に叫んだ。異世界に来て、言葉が通じない問題が発生した事は、複数の異世界を渡った経験の中で、一度も無かったからだ。

おい、”パイ恋”創造神!! 界渡を引っ張ってくるなら、言葉が通じない無理ゲーやめろよ! なんとかしろ!!

叫んだ私の太ももの上に頭を乗せたその男性は、私をじっと見ているが、どう意思疎通をするべきか、真剣に考えざるを得ない私だった。

やめてくれ、真面目に。

しかし、水分補給をして体が楽になったのか、男が身じろぎをして起き上がる。

そして頭を抑えて何か自分の体調を確認した後に、彼は私の方を見た。


「**? +++++? ・・・・・?」


……これは異国の言葉をいくつか使い分けて、意思疎通を図ろうとしている様子だ。

だが私は首を横に振って、そのどれもが使えないと訴えた。

彼はぽかんとして目を丸くして、私を上から下まで眺めて……何か納得した様子だった。

おそらくは全く見慣れない格好の私が、彼の知るどの国の人間でも無いと察したからである様子だ。

しかしとにかく、私は一度決めた野営地に戻らなければならない。夕飯を確保しなければならないのだ。

私は彼を無視して、木製草履では歩きにくい砂浜をえっちらおっちら歩き出す。

……何故か彼もついてきた。これは二人で行動する事になるのかもしれない……

この彼が、最初の一人につながる重要人物の可能性がますます高まる気がして、私は彼についてくるなと言う仕草はせずに、元来た道を引き返し、野営地に戻ったのだった。



次は食べるものの入手だ。ココヤッツの内部も可食部であるので、魚が捕れなきゃ水を飲み干した後のそれをかち割って中身をナイフで削る事は確定しているが、これは非常食になるであろう。

私は浅瀬で石やら流木やらをかき集めて、出入り口が一つしか無い円形を作り、魚が居る所を葉っぱのある枝でバシャバシャと叩いて、その円形に誘導して、ある程度集まったら石で入り口を塞いだ。

逃げ場の無い魚たちが泳いでいるため、それの数匹に狙いを定め、枝で作成した銛を振り下ろし、見事魚を手に入れた。

呆気にとられた顔をしたのは、私の後をくっついて歩いてきた彼で、私は魚のエラに穴を開けて血抜きをしつつ、手早く野営地に火をおこした。

そして魚を焼く。

これだけで、もう夕方である。食料と水の確保は、どこまで行ってもサバイバルでたっぷり時間を使う作業だ。

男はたき火の向かい側に腰掛けて、私が魚を焼くのを見ている。魚を狙っている顔だが、素知らぬふりをして、私は焼けた魚の大きい方を差し出した。

途端に彼が眼をまん丸にする。あ、これはもらえないと思っていたのだろう。


「***……、***? *********?」


「だからさあ、言ってる言葉何一つわからないっての」


私は魚を食いちぎりつつ返した。言葉が通じるとは欠片も思っていない。

彼は渡された魚をじっと見つめた後に、空腹に耐えきれなかったのか、大きな魚にかじりついた。それからは、何日も食べていなかった人のようにがつがつと食べ始めて、内心で、大きい方を渡しておいて良かった、小さい方だったらもっと欲しいと私の取り分を奪われていたかもしれない、と思ったのであった。


そして彼は疲れ果てていたのか、食べてすぐに寝入ったので、私は探知機に新たなる連絡を入れられないかと、彼からちょっと離れて、声が聞こえないだろう範囲まで遠ざかり、探知機を作動させた。


「あー、あー、こちらかがやまち、サバイバル真っ最中です、どーぞー」


「……かがや、お前飯食ったか?」


聞こえてきたのは副局長の声だった。局長があれこれ指示を出すのを、徹底的に補佐する出来る男の一人だ。副局長は二人体制である。休みを取るためだとも聞いた事がある片方が、応答に出てくれたのだ。


「魚を食べました。水もあと二日分は確保できそうです。……ただ、遭遇した異世界人との会話が不可能です、通訳可能な方法は?」


「界渡が探知機を所持しているのに会話が不可能? どうなっているんだ? 普通は異世界の神々が、界渡に加護を与えて会話可能にするはずだが」


「それは”パイ恋”の創造神様に言ってくださいよ……三つほどの言語を聞きましたが、どれとも日本語との互換性なし。このままだといろんな意味で問題があるので、そちらでどうにか出来る事ならば修正お願いします。それと転移先の小島で、倒れている男性を発見しました。この男性と出会う事が、もしかしたら今まで”パイ恋”で船に乗る所から始めなければならない理由だったかもしれません。画像データ送ります」


「わかった。……こいつは驚きだ、彼は”パイ恋”の好感度チュートリアル攻略キャラ、キャプテン・シンだな」


「……聞いてもわかりません。説明を」


「了解。キャプテン・シンは”パイ恋”の最初の好感度上げのためのチュートリアル攻略対象だ。基本このキャラとの親密度は友情から恋情まで。嫌われるイベントその他はなし。”パイ恋”でも上位の人気キャラだが、ゲーム中では海賊同士の戦闘により行方不明になり、途中退場扱いとなる。このキャラが途中退場になる事で、他の攻略対象との最終ルートが解禁されるイベントが発生する。わかるか?」


「つまりヒロインが最初に出会うはずの攻略対象なわけですね?」


「そうなる。ゲーム中ではヒロインの乗る船の襲撃に来るか、海賊の楽園の港で出会うかの二択での出会いになるが……どうやら何か違う事が起きている様子だな」


「そのようです」


「かがや、申し訳ないが引き続き生き延びて、情報を出来れば集めて欲しい。帰還可能になったら、すぐに知らせる」


「了解いたしました。よろしくお願いします」


そこで探知機での連絡は終わり、私は空を見上げて怒鳴った。


「創造神さま!! 世界を救って欲しいなら、通訳道具をください!!」


その途端である。

空の星が一つ光ったと思うと、いきなり降ってきたのだ。


「はあ!?」


私の真上に落ちてくると察して、その場を飛び退くと、小さな何かが私の立っていた場所に落下してきた。


「……これが通訳の道具……かな……?」


私は落ちてきた物を、そっとつまみ上げた。


「耳飾り……?」


落ちてきたのは、星の小さな飾りのついた、耳飾りだったのであった。

とにかくなくす前につけよう。私は片耳の分しか落ちてこなかったそれを急ぎ耳につけて、何事も無かったように熾火のくすぶる野営地に戻って、寝転がったのであった。

……肉食の危険生物が居ないのは、気配を探りまくってわかっていたからの行動、であった。

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