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転生者を探せ! 乙女ゲーム世界破綻対策本部局 新人かがやまちの場合  作者: 家具付
三章 封印されていた異世界

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週休二日が取れない問題

休暇明けに私が目にしたのは、疲れ果てた顔の局長が、色々な書面とにらみ合いを行っている現場だった。

総務の人達が、同じように目の下に隈が出来た状態で何かを確認している。

”プリハイ”と言う難問の世界を救助できたのだから、彼等も多少は休んでいると思ったのに、これは一体どういう問題が起きたのだろうか。

あまりにも殺気だった状態の総務に、私は次の転移先を聞く勇気が出なかった。

肌を刺すような痛い空気が流れているからだ。これにうかつに声をかけてはいけない、と私じゃなくてもわかるだろう。

そんな状態でいた彼等のうちの一人、みずみさんが顔を上げた。

そして立ち上がったと思うと、こちらに走り寄ってきたのだ。


「かがやさん! あなた連休二日とれなくても大丈夫!?」


「だしぬけにどうしたんですか……?」


徹夜のしすぎでおかしなテンションと思考回路になったのだろうか。乙ハタは福利厚生がこれでもしっかりしている方で、週休二日は確実にとる事を絶対とし、その週休二日は日本の週末である土日と基本的に決まっているはずなのだが。

この口ぶりだと、それを覆さなければならない問題が発生したと言いたげだった。


「かがやか。運がいいのか悪いのか……」


みずみさんの声を聞いた局長が顔を上げる。死にそうな顔色をしていて、難問中の難問である”プリハイ”が終わった後だとはとても思えない。


「……この状態と言い皆さんの目つきと言い、一体何があったんですか?」


「”プリハイ”が片付いたのだから、いい加減にこの世界をどうにかしろ、と異世界の創造神から重圧をかけられての、人員調整だ」


「ええ……ちょっとは総務の人達も休みましょうよ……」


「俺達もついに心置きなく休暇が取れると思っていた。何年もかけてもどうにもならなかったあれが、片付いたわけだからな。だがとある異世界の創造神からすると、それが終わったんだからいい加減にこれも片付けろと、重圧をかけるに至る理由になってしまった」


「えっ」


私は呆気にとられた。”プリハイ”はとんでもなく難問だったと探索班の誰もが言っていたから、それ以上の難敵などそうそう現れないと思っていたのだ。

あれ以上の難問が待ち構えている異世界ってなんなんだ。

口を開けて呆気にとられている私に、みずみさんが言う。


「……とにかく、創造神の意思をくんで、なんとかそこへの人員を確保したいのだけれど……探索班の皆が、難色を示しているの」


「それが連休二日につながっているんですね」


「そう」


そう大きくため息をついて近付いてきたのは、色々な書類を抱えていたあおやどまがる先輩だ。

彼女の顔色はほかの人と違って少しましに見える。


「私も以前からとっていた有給あけにこれにぶつかって、本当に大変よ。……かがやさん、時間とれる? 説明聞ける?」


「これからどこに行けばいいのかを確認したかったので、問題はありませんが」


「それなら、みずみ、説明お願い。私は人員を確保できないか、スケジュール調整をもう一回かけて、確認をとるから」


「今手が空いているのは?」


「やぶか、まびへし、とむかしぶ、しぐらひ の四人くらいだわ。ほかは異世界で探索中」


「めちすが居ないのは痛いわね」


「二人体制で動いているから、もっと人員が欲しいけど、今開かれている扉は四つ。そこのどれもに十人くらい投入しているから、無理よ」


「四つに減った事が幸いですけど、創造神が封印した所を解決しろって言って、五つ目として出現させたんでしょう」


「そう。今は扉の前に入らないようについたてを置いているけれど、総務への圧が日増しに増えているわ」


二人の会話から、とてつもない難問の匂いがする。封印されているなんてただ事じゃ無い。

週休二日が不可能な……異世界ってどういう条件で活動しなくちゃいけないのだろうか。

言葉の端々から嫌な予感がしたわけだが、聞かなければ拒否も出来ないので、私は書類とともにみずみさんから、その世界の事を聞く事になったのだった。




その異世界をに類似する舞台をもった乙女ゲームの名前を”パイレーツ 海原の愛した人”と言うらしい。

ファンの間では"パイ恋"と呼ばれるらしい。

文字通り攻略対象のほとんどが海賊という乙女ゲームで、プレイヤーの初期設定では、行方不明の父親の手がかりを求めて、海賊の楽園と言われる港町にやってきた少女、と言う事になっているらしい。

プレイヤーは船に乗ったり港町で仕事をしたりして、父親の情報を求めていくわけだが、その途中途中で攻略対象達とのイベントが有るわけだ。

たとえば、商船に手伝いとして乗って、海賊の襲撃に遭って攻略対象と出会ったり、港町の仕事の途中で絡まれて、攻略対象と出会ったりする流れなのだという。

そういった事を行ったりしながら、プレイヤーは攻略対象達と愛を深めていく流れになり、結ばれたり別れたり逆ハーを作ったり監禁されたり……もろもろの終わりが有るそうだ。

それだけならそこまで週休二日がひっくり返らないのでは無いか、と思うのだが、何と初手から大問題が発生してしまうのだという。


「探索班はどんなに手段を尽くしても、海賊の楽園の港に行くための船に乗る前に転移するの」


「楽園に直で転移がされないんですか」


「そう。どうやら船に乗る前から、最初の一人への手がかりがあるはずなんだけれど……この、長旅の船に乗らなくちゃいけないっていうのが、一番最初の問題なのよ。船の中で、行方なんてくらませられないでしょう? だから地球に戻って二日休んで、地球に戻る前の時間に、船にまた戻るっていう手段が使えないの」


「どうしたって三十分は時間が経過するって話でしたっけ?」


「そう。完全にいなくなったその時間に、戻れるほど神様の力はどこも強力じゃないから、三十分は経過した事になる。その間に何か起きていたら……例えば船が沈んだりしていたら、もう詰みなのよ」


海の中に転移する事になり、溺れ死にかけた探索員が居たとみずみさんは教えてくれた。


「そうじゃなくても、場合によっては船から落ちたり船が難破したりして、どこかの絶海の孤島に一人で流れ着くっていうパターンも多くて……今まで一度も、探索班が第一の目標である海賊の楽園の港まで、到着できなくてね」


サバイバルが出来ず、死にかけた探索員も無数にいるそうだ。何しろ地球の便利道具を所持出来ない界渡達は、その世界にあってもおかしくない道具だけで生き延びなければならず、……サバイバル技術を誰もが習得しているわけではないから、そうなったらしい。


「どんなに手を尽くしても膠着状態だから、そこの世界の創造神に前の局長が掛け合って、その世界を封印してもらったの。当時から一番の難問だった”プリハイ”で、かなりの数の探索班の人間が重傷を負って、ここを去って行ったから」


「退職したんですか」


「日本では想像も出来ない大怪我を負った人達が、心を病んで去って行ったの。仕方の無い事だし、アフターフォローとかはすごくしっかりやったけど、それはそれこれはこれでしょう? だから当時人数が少なすぎたから、前局長が拝み倒してひれ伏して、なんとか封印してもらっていたのよ。でも今回、その”プリハイ”が解決したって事で、そこの創造神が、ならこっちもどうにか出来るはずだって事で、封印を解いて……局長に毎晩夢のお告げを」


「きついですね……」


「局長だけでは無くて、人員を調整する総務の全員に夢のお告げが来ててね……そのせいで皆寝不足状態なのよ」


そして地球に帰還して休めないとわかっている探索班の人間達は、皆封印されていた曰く付きのそこに行くのを嫌がり……総務の人間に色々な圧がかかって心労著しい、と言うわけだったらしい。


「これが今やってきた、一番問題の、封印されし異世界ってわけよ。……こんな事教えた後であれだけど、かがやさん行けそう?」


「……なかなか難しいですね」


「そうよね……」


「でも、それって二人体制が出来ない状態で、単独行動をしなくちゃいけない状況下に陥るって事でもありますよね」


「そう。だから、この世界に入れるのは、単独行動で生き延びられそうな人員なんだけど……」


皆なかなか難しいというわけである様子だ。

私も腕組みして考え込んだのだが……その時だ。

びいびい、ぶうぶう、と事務室に警報が鳴り響いたのだ。


「どうした!!」


「封印されし異世界”パイ恋”の扉が勝手に開き、別の世界から帰還してきた探索班の人員を飲み込もうとしています!! 至急応援を!!」


扉の所で補助をする解析班の人からの、悲鳴が響き渡る。


「動ける奴は皆来い!!」


局長が状況を把握するために立ち上がる。

私も、みずみさんも、あおやどまがる先輩も、その場で動けそうな人員は全員立ち上がり、扉を管理する部屋に駆けだしたのだった。

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