探索結果からの判断
「どうやら世界情勢が、ゲーム原作中と大きく異なっているらしい」
私が王子様に襲いかかってきた得体の知れない黒服を、椅子をぶん投げて阻止した数日後。
私達乙ハタの捜索班にもたらされた情報は、そういう中身だった。
「ゲーム原作とどこまで異なるんでしょうか」
私は男爵家で与えられた客間で、小声で確認をとった。ゲーム原作と大きく異なる世界情勢。
それは間違いなく、何かしらの力が働いた結果としか思えない。
たとえば、最初の一人の介入のような。
目星をつけるならそこからか、と頭の中で考えていると、スマホもどきから声が聞こえてくる。
この音は異世界の人達には聞こえない周波数との事で、界渡をしている私や、めちす先輩、とむかしぶ先輩だけが理解できる音なんだとか。
なんだかたくさんの魔術的うんたらかんたらが働いているらしい。
そんな事は脇に置いて、私の問いかけに解析班の連絡係の人がこういう。
「本来ならば王位継承権第一位で生きているはずの第一王子が、廃嫡されている」
「え。」
第一王子が役割的に不在と言うだけで相当だ。王子に一体何があった。
と思ってから、なるほどそれ故に、生徒会長は狙われたのかとも納得してしまう。
王位争いのごったごたに、彼も否応なく巻き込まれているのだろう。
となると……”プリンス”である第一王子の侍従君はどういう立場になるのだろうか。
「第一王子の侍従は、現在は第二王子の侍従見習いという状態だ。つまり主を鞍替えしたというわけだな。ありふれた話だ」
「はい」
うまみのある方に人は流れていくものだから、それもそういう物なのだろう。
それでも離れなかった人とかは、逆転した際に忠義の家臣とべた褒めされるわけである。
歴史のありふれた話の一つだ。
「第一王子は王位に就けない状態にあり、仕方が無く廃嫡の憂き目に遭ったという情報がわかった。そして平和条約を結んでいる隣国とも、きな臭い事になっているらしい」
「ゲーム中では?」
「お互いに王族を留学生として交流させる程度には友好的だった」
「それってもうこの世界、ゲーム世界と違いすぎてまるで別物ですよね?」
「ちがいない。それもこれも、かがやまち君が学校内に潜入する事が出来た結果、こちらまで流れてきてくれた情報だ。下々の話に、こんなネタはそうそう入ってこない」
「そりゃそうかもしれませんね」
民というのは敏感だ。国がやばいとなったらすぐに逃げ出すのが一般的市民と言う奴で、貴族達は自分のうまみのために情報を隠蔽する癖がある。
今まで、貴族社会に潜り込めなかった我らが乙ハタの人々では、どうしたって手に入れられなかった情報なのだろう。
私が入り込んだ事で、私を起点として情報探知機が作動できたに違いない。
この情報探知機ってなんぞやという訳だが、私達乙ハタの探索班の持つスマホもどきの機能の一つだ。
持ち主を電波塔の一つのように使い、情報を集めていく機能である。
乙ハタの構成員があれこれ調べる事も探知機を使用しての事だけれども、歩いているだけで情報を拾い上げていく機能なんだとも聞いている。
ちょっとWi-Fiみたいだ。
それかBluetooth。
まあそれはさておき、そういう機能で貴族的世界の情報をこのたび初めて入手できた我ら乙ハタの、解析班の人達は難しい顔をしていそうだ。
「ここまで違うと、学園内に最初の一人がいる可能性もかなり低くなってきた。かがやまち君はとりあえず、可能な限り”プリンス”と接触を頼む。彼等はその世界の創造神に愛されているはずだから、彼等との接触で、こちらに大量の分析できる情報が回ってくるんだ」
「了解しました。後ほかには」
「悪目立ちをしないで欲しいと言いたいが、椅子を投げつけて刺客を吹っ飛ばした時点で、君の悪目立ちは十分に始まっている。……身代わりをしている男爵家のお嬢さんに嫌われて、学園に行けないようにならないでくれ」
「わかりました。……捜索開始します。えっーっと」
「右のボタンだからな。左のボタンを押すと通信が切れるからな。五秒以上は押すなよ」
「心を読んでくださりありがとうございます!」
私はまた探索に戻るために、私のスマホもどきじゃない探知機を懐に戻すために、いったん通信を切った。
「……世界情勢がまるで違う」
それは違う道をたどる事になったのが、誰か創造神の思惑から外れたところからやってきた者が居ると言うことを意味する。
「どういう意味だ」
考えても答えは出てこないかもしれないが、私は指示通りに、ゲーム中ではとびきり重要人物であっただろう、”プリンス”達への目立たない程度の接触をする事になったのだった。
「全員シロか」
「”プリンス”は全員探知機が反応しませんでした。ついでに彼等の意中の女性であろう人達とも接触を行いましたが、探知可能距離での反応はなし。学園内にある道具その他も、この世界ではおかしくない物と判定されました」
「ならなんだ? どこに最初の一人がいる?」
入学から一ヶ月が経過した。もう一ヶ月も”プリハイ”に潜入している身の上としては、いい加減に終わらせたいと思ってしまう。
だが私という今までに無い条件での捜索班の人間がいる事で、今まで以上に色々とわかりそうな事もある様子だった。
「ゲーム関係者に最初の一人の手がかりが無い……と言う事は。かなり情報として進歩だ。探す範囲がかなり縮まる」
「広がってません?」
「探す場所が減るという事だ。しらみつぶしにあれこれ当たっていく以上の収穫と言える」
「なるほど」
「かがやまち君の気配探知能力で、ほかにつかめた事はあるか?」
「……あー」
スマホもどきという名前の卵形通信機からの言葉に、私はうなった後にこう言った。
「留学してきている隣国の王子様から、国に来いと打診を受けております」
「何故そうなった」
「入学式でのとっさの判断を非常に気に入られたご様子で…………いったん会話止めます」
私はそう言い素早く、探知機を懐に、通信可能な状態で入れて、振り返った。
「公子様。いかがなさいましたか? このような薄暗い庭園の物置に来るご用事がおありでいらっしゃるのですか?」
「お前を探してだ、マティルダ嬢」
「お前という呼びかけの時点で、落第ですわ。出直していらっしゃいませ」
「これはこれは手厳しい。だがおま……あなたがそういう強い女性である事が心惹かれて仕方が無い。是非とも俺と国に来てほしいものだ」
「お誘いをする相手はお選びになった方がよろしいですわよ。私一人っ子なので」
慇懃無礼もいいところだが、私はそう言っておほほと笑った。……笑うしか無い。
あの折りたたみ椅子ぶん投げ事件を、どこからか聞いたこの隣国の公子様は、私をあっという間に気に入った様子で、卒業もしていないのに隣国にともに来いと誘うのだ。
この人もシロなので、よくわからない事態になっているのは間違いない。
「俺の誘いをけんもほろろに断る女性はあなたくらいだ」
「私めとあなた様の身分差をお考えくださいませ。どこをどう切り取っても私には相応しくありませんわ」
「それだけ周りが見えているご令嬢だからこそなのだが」
私はじりじりと距離をあけていく。そうしないといきなり腰を抱かれて急接近なんて事を、この公子様はやるのだ。
ほかの女性相手に見た事が有るので間違いない。
多情な公子様相手に、私がときめく事も無論無いのだ。
「どうしても?」
「ええ、どうしてもでございますわ」
私は口元を隠しておほほと笑う。飛びかかられない距離を目算で確認しつつ。
「……あなただけは生かしておきたいというのに」
彼は不意によどんだ眼をしてぼそりと言う。……今聞き捨てならない言葉を言ったぞこいつ。
「何かおっしゃいましたか?」
答えるわけが無いけれども、にこりと微笑んで問いかける。公子様は微笑んだ。
「いや、何も。何もだが……是非ともあなたを国元につれて行きたいものだ。あなたほどの優秀な女性ならば、国で誰もが受け入れるだろうに」
……この会話の間中、通信機は稼働しっぱなしだ。つまり公子様の、私には聞き取れなかった言葉も聞こえていると言う事になる。
彼の言葉は間違いなく、変わりすぎたこの”プリハイ”に似た世界でのキーワードになる。
私の野生の勘が、そう告げている昼休みだった。




