基本情報からして難問
さてはて、一週間の付け焼き刃なマナー講習でなんとか、私は合格点をもらう事が出来た。
さすがにマナーがなっていないと、身代わりとして不適合なわけで、私の潜入捜査に支障が出てきてしまう。
そのため、これは仕事の一環なのだと言う暗示をめちゃくちゃに自分にかけて、色々面倒くせえなとか思っていたマナー講習を完了させたのだ。
私自身は幼少期から中学卒業までを山猿状態で生きてきたので、マナーとかを生まれた時から身につけている人達の、無意識の洗練された所作は出来ない。
だが、この男爵家のお嬢様の情報を、学校の関係者達はあまり持っていないと言う事が幸いし、ちょっと田舎くさい非常識さが感じられても、うまくごまかせるだろうという話だった。
これもあまたの異世界でありふれたあるあるなのだが、カントリーハウスで暮らしてきたお嬢様の詳細な情報を、首都の貴族達が持っている事は少ないと言うものがある。
この現実は、貴族令嬢が世間から離れて育てられる事が多いという慣習に基づいていて、下手すると王都で仕事をしている当主すら、自分の領地のカントリーハウスで生活している娘のあれこれを知らない、という事すら起こしてしまう物だった。
王都にやってきて人前に出るのは、ある程度の年齢に達した合格点のお嬢様やお坊ちゃまである、と言う事でもあるらしい。
異世界にはそういう慣習を持つ所が比較的多く、人間の考える事って意外と似たような感じなのだなと思わせる部分がある。
さて、そんな事情から、私のラベリングとしては”田舎から出てきたちょっと世間知らずの平凡顔のお嬢様”というものができあがった。
本物のお嬢様と入れ替われるようになった場合には、”平凡と思っていたけれども実は美少女だったお嬢様”にラベリングが変わる事になっているそうだ。
私は短期決戦で、すぐに最初の一人を見つけ出し、長い間、いろんな人の頭を悩ませている”プリ学”世界を解決する一手になりたいものである。
もう私を含めて三人しか、ここに来たくないと言うほどの状況に陥っている乙ハタなので、早急な解決は必須であろう。皆嫌な所で、私やめちす先輩や、とむかしぶ先輩まで嫌になったら、もう手の施しようが無くなってしまうからだ。
さて、そもそもの”プリハイ”ってどんな乙女ゲームだったんだ? という疑問も多かろう。私も概要しか聞いていないけれども、ざっとこんな感じである。
正式名称を”プリンスとハイスクールでキスを あなたはそして純愛を知る”と言うこてっこての名称の乙女ゲームで、攻略対象は八名と大所帯。この八名は皆、何かしらの分野で”プリンス”と言われるほどの優れた才能を持ち、その見目の良さから学園の内外にファンを持っているという設定だ。
実際の王族という身分設定の攻略対象は、他国も合わせると三人で、残りの五人はそれなりの爵位の貴族の令息達である。
隠しキャラは一人と乙ハタにとってみると安心設計で、この隠しキャラは教師の一人で、女子生徒から熱烈な支持を集めている美形教師という事になっている。禁断の教師と生徒のラブだ。現実世界だったら大問題の恋愛であろう。
プレイヤーはそんな、隠しキャラ含めると総勢九人の攻略対象と恋愛をしていくわけだが、”プリハイ”は純愛を掲げているので、逆ハーエンドは存在しない。ゲーム中での重大イベントである、真夏の学園舞踏会において、今後自分の攻略するキャラが決定づけられる選択肢があるそうで、そこで一人決めると、もうほかのキャラとの恋愛的なイベントは存在しなくなる。友情イベントはあるらしいが、どこまで行っても友情にしかならないそうだ。
……とまあ、ここまでならまあまあ、キャラクターが魅力的なら良い感じの乙女ゲームだが、純愛をテーマとするこのゲーム、実はくせ者で、”プリンス”にあまたのファンがいるというのがキーポイントだ。つまり”プリンス”とプレイヤーが接近すると、ファン達から抜け駆けした不届き者という扱いを受け、攻撃を受けるゲーム内容なのである。
この攻撃で体力ゲージがゼロになると、休学という事になってゲームオーバー。
プレイヤーはファン達と戦ったり、説得したりと、”プリンス”攻略と同じくらいに、”ファン対処”を行うゲームなのである。
こんな内容だが、私が知らなかっただけで界隈では初年度の売り上げがトップになった名作で、地球でのファンが非常に多く、ファンが多いすなわち扉をくぐって転生する人が多いと言うわけになる。
このため、最初の一人以外をこっちの世界に連れ戻しても、新たな第二第三の転生者が扉をくぐっていき……もういたちごっこになっているわけだ。
こう言った事情があるので、乙ハタは門とか、扉とか言われている物を作って、それを閉ざすために必要な最初の一人を、なんとかしてできるだけ早く、見つけ出したいわけであるのだ。
通算で言うと、何度も時を巻き戻してもらっているそうだが、五回くらい世界大戦が起きていて滅亡しかけている世界だし、十回くらい色々な生き物が絶滅している世界だし、もっと多いのが文明の崩壊だそうだ。地球の文明の流用は時に、そう言った悲劇を度々巻き起こす物なのであろう。
「まあそれも、今まで一度も学園内に潜入できなかったからであり……これからはかがやまちが潜入できるようになったから、希望が見えてきたというわけだ」
と言ったのは、解析班の一人で、何か自分達の見落とした隠しルートがあるのではと、完全にコンプリートしたはずのゲームをやり直してまで、解決の糸口を探していた真面目な人である。
こう言った裏事情もふくめて、私は明日、入学式を迎える。
緊張するほどの初々しさは無いので、とにかく、早く解決できる事を祈りたい訳であった。




