大体誰でも同じことを考えるらしい
馬車の中には一人の男性が座っており、その男性の向かい側には、使用人と思しき見た目の男の人が、座っていた。
「この娘ですか」
「ええ、色々嗅ぎまわっていたようで
「まったく、命が惜しくないものですかね……」
私はまったく会話の流れが分からない。何が命が惜しくないだ、命は惜しいに決まっている。
だってまだ、限定のケーキ食べてない……!!
そんな事を思いながら、明らかに特権階級の男性を睨んだ時だ。
私の探知機が、ぶるぶると震えている事に気が付いたのは。
……そう言えば、変な時にびいびい鳴られたら困るから、サイレントモードにしていたんだった。
この探知機優秀で、サイレントモードにもできるのだ。
という事は、この男性が、この世界に入り込んだ最初の一人って事か?
そんな事を考えていると、男性が口を開く。
「いったいどこの商会の者です? 色々わたしの事を嗅ぎまわっていたようですが」
「どこの商会でもないけど」
「この! 若君何という口のききかただ!」
「いってええ!!」
私の口のきき方が、使用人の癇に障ったらしい。使用人が、容赦もなく殴りつけてきたのだ。
馬車の中で乱闘なんて、悪目立ちもいい所なんだが……そこら辺わかってんのかな。
私はそれでも、出来るだけ相手を刺激したくないのだが。
というか、言われた事に素直に答えただけで殴られるとか、どんな理不尽だよ!
うめきながら、痛みを紛らわせるために、深呼吸を繰り返していると、転生者が口を開く。
「どこの商会でもないのだったら、どうしてこちらの事を色々調べていたんですか?」
「ううう……」
「ズギ、あなたは少々乱暴が過ぎますね、彼女が答えられないほど痛みに苦しんでいるではありませんか」
「申し訳ありません、若君に対して、こんな下々の人間が何という言い方をするのかと思うと、頭に血が」
「あなたの心がけはとても立派ですが、私たちはこの娘の話を聞きたいから、こうして馬車に乗せたのですよ、気をつけなさい、今後は」
「ああ、若君、何と寛容なお心なのでしょう!」
寛容だったら、私が商会の手先で、嗅ぎまわっているとか思わねえよ、と思った物の、痛みが痛みであるために、私はうめいているばかりだった。
クッソ痛いな……
まともに喋れないほど痛い。こんなの山の中でも体験しない痛みだ。
しかし、この人が最初の転生者だったら、何とか探知機の紐を引っ張って連絡できれば……
と考えながら、スカートの中に隠した探知機を探る。
その間ずっと、探知機はびいびいと鳴っている。
だがここで、ひもを引っ張るという怪しい行為を、彼等が許すわけもなかったのだ。
「あなた、何を持っているんです? ズギ、取り上げなさい」
「かしこまりました」
「きゃあ! 何をするの!」
あっという間に、探知機をとられてしまったのは、私が手の中に探知機を隠したからだ。
手首を強く殴打されたら、手の感覚がなくなって、ぼろりと落したのだ。
「これは……?」
「怪しいものです、壊しますか?」
「……」
じっと私を見る転生者。私の持っていた物が明らかに、この世界の者と違っていたからだろう。
たまご型の探知機は、それ位、この世界に合わないものだ。
「もっと詳しい話が聞きたいですね、屋敷に連れて行きましょう」
「は……? はい」
ズギはいぶかしげな声をあげたものの、若君の命令には従うらしい。
馬車はこの間もずっと進んでいた物の、転生者の暮らす屋敷に向かう様子だ。
私は何とか、ここから脱出するか、探知機を取り返すかしたいのだが……どうすれば次の一手を打てるのか、全く分からなかった。
ただずっと痛みにうめくふりをして、無抵抗な仕草を見せて、油断を誘うほかなさそうなのは間違いなかったが。
「これは一体何なんです? 貴方は日本から来たのですね? でもどうやって……」
屋敷に連れていかれて、私は麻縄で縛られながら、転生者の質問を聞く羽目になっている。
相手の質問には答えない。ただ困った顔をする。
「これは一体何なんです? 日本人なら、痛みには弱いでしょう? 痛い目に遭いたくなかったら答えなさい」
「……絶対に、そのひもを引っ張って外しちゃいけない護身具です」
「ほう?」
私は罠を仕掛ける事にした。だってとりあえず、あの探知機の紐を引っ張れば、実行部隊と連絡が取れて、彼等を召喚できるのだ。
さあ、かかれ!
「引っ張ってはいけない理由は何ですか?」
「知りませんよ、聞いた事ないんで」
いけしゃあしゃあと嘘を吐く。転生者はじっと探知機を見ていた物の、ひもは引っ張らない。
引っ張って外せばいいのに。
そう思いつつ、私はいつでも立ち上がれるように、姿勢を直した。
「日本の防犯ブザーに似ていますね……引っ張ったら何が起きるんでしょうか……」
彼が完全に油断している、今しかない。
「えい!!」
私は全力を持って、立ち上がり、彼に飛びかかった、縄? そんなもの靴のかかとに仕込んでいた刃物で切ったわ!
こんな装備何の役に立つの、と周りに言われながらも、絶対に外せないんだと主張した隠し武器である。こんな役に立つとは思わなかった。
そして相手は、私が縄を抜けて飛び掛かるなんて思わなかったらしく、体勢を崩す。
「何を!」
「うおりゃああ!」
私は彼から探知機を取り戻すでもなく、ただ、その探知機の紐を思いっきり引っ張った。
引っ張ると……
“始まりの転生者、”ターゲット 認識しました! 実行部隊転移! 探索班は巻き込まれる前に帰還してください!
無機質な女性の声に似た声が響き渡り、その場は一面、モノクロと化した。
唐突に広がった、モノクロの世界に、転生者は動揺したらしい。
「な、なにを……転生者と言ったが、君は転移者じゃないのか!」
転生者が叫ぶから、私は胸を張った。
私は転生者でも、転移者でもない。
オトハタの構成員だ! 下っ端だけど!
「私はオトハタ探索班の一構成員! 貴方みたいな転生者を探すのが仕事さ!」
私が距離をとると、彼は明らかに混乱していた。私の言った事の中身が理解できないらしい。
「オトハタ……? 何故転生者を探して……?」
「転生者が世界を終わらせてしまうからですよ」
「いったいどこから現れたんだ!」
彼の問いかけに答えたのは、仮面をかぶった実行部隊の一人だ。
「あなたを憑依した体からはがさせていただきます」
実行部隊が転生者を中心に、三人、囲む。
「穏便に済ませたいので、大人しくしてください」
狐お面の人が言う。
「はがす? 違う、違う、私は生まれ変わったんだ、今度こそ素敵な恋愛をして、がっぽり儲けて、ぜいたくな暮らしを! 押しキャラだった彼女が美女になったんだから!!」
「あなたは生まれ変わったのではなく、もともと存在している人に乗り移った存在です。ですから、突然前世の記憶を思い出したように思っているだけですよ」
うわ、聞くと結構残酷かもしれない。
実際に、転生者はそのことを聞いてわめきだした。
「とりついていない、生まれ変わったんだ、今度こそこのイケメンの見た目で、日本の知識で!」
「残念ながらそれは叶わない望みになります」
実行部隊の一人が、話しかけて気をそらす役割なのだろう。残る二人が印を組み、一人に合図する。そこで一人が、転生者の魂を引っぺがす、あの鏡を取り出した。
それを構えて口を開く。
「人生はやり直せないからこそ、人生という物なのですよ」
無情な声で告げて、実行部隊が最後の印を組む。
「いやだ、いやだ、いやだあああああああ!!」
転生者は最後の悪あがきのように、実行部隊の中でも一番小柄な人にとびかかったが……そこで私は、今回の殴られた恨みがあったから、転生者に飛びかかって、後ろから蹴倒して押さえ込んだ。
猫お面の人が笑う。
狐お面の人が持っていた鏡は、吸引力だけならどの掃除機に負けない掃除機のように、ぐいぐいと転生者の魂を吸い込んでいき……
転生者の顔から、憑き物が落ちたように顔色がよくなり、彼は眠くなったように欠伸をして、目を閉じた。
鏡を見て、実行部隊の人たちがよし、という。
「君にまた助けられたね、帰ろう」
「はい!」
私は彼等の手を取り、そして毎度のごとく、落下するように、日本に帰還する事になった。
「や、やっぱり慣れない、これは慣れない!」
「私たちは慣れっこなんですけれどね」




