表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者を探せ! 乙女ゲーム世界破綻対策本部局 新人かがやまちの場合  作者: 家具付
一章 たぶん初級じゃない任務!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/46

幕間 解析班の不思議な人

やっと日本に戻ってきたというのに、私は大浴場にたどり着けない。

もうあちこち汚れてくたびれて疲れて切っていたから、異世界から戻ってきた昨日は、寮の部屋のシャワーを使ったのだ。

そのためゆっくりと足を延ばして、なんて事は望めなかった。

それでも寮の部屋全部に、きちんとお湯が出るシャワーがついているって、結構なすごい事だと思う。

ちなみに洗濯機は共同だった。洗濯機も、探索班の服はかなり汚れる事もあって、かなりハイレベルな洗濯機だった。

ちょっとそこんじょそこらじゃお目にかかれないぞこんなの、と思うような、コインランドリーに設置されていても驚かない奴だ。

そこに、自分の番号を入力し、番号というのは社員番号である……スイッチを押すと洗濯機が動く仕組みである。

とっても便利だが、一人当たり一日に三回までという回数制限がかかっている。

もっとも、皆三回以上使ったりする事は滅多にないから、上限を超えた人というのはいないらしい。

私もたくさんの泥にまみれた衣装を、一度シャワーで流してから、濡れた服を絞って洗濯機を使わせてもらった。

大変に素晴らしいふわふわ具合になったので、これがうれしい。

家が燃えてしまったため、私の手持ちのタオルとかも少ないから、これは後でどこかで仕入れて来なくちゃいけないけれど、明日は休みではないので、保留である。

どこかのホテル並みに、誰でも使っていいリネンがいっぱいあるのは、ここで本当に命とかを削っている人たちに対する、気遣いのような物だろう。

料理自分で作らなきゃいけないけれども。

さてそれは置いておいて、私は迷っている。本当に大浴場が見つからない。

おかしい。この通路をまっすぐのはずなのにどうして……私は何度も通路を見回してみるのだが、ちっとも大浴場にたどり着けない。

困ったな。

そんな事を考えながら私は、踵を返して、元来た道を引き返そうとしたのだけれども。


「なんだなんだ、風呂に行きたいんだろう、こっちだこっち」


死角から声をかけられて、ちょっと大げさに反応してしまった。


「うぎゃわああわ!!」


「おお、愉快愉快。さて若い新人の女の子よ、広い風呂に入りたいのだろう」


声をかけてきたのは、一本道のどこから現れたのか、全く見当がつかない所から、首だけ出てきた異様な人間だった。

顔立ちは割と中性的で、太い黒縁の、どう見ても馬鹿っぽく見えてしまう眼鏡をかけた人だ。

髪の毛はぼさぼさで、それを豚の尻尾のようにくくっている。


「生首が喋った!」


「ああ、体の移動を忘れていた、失敗失敗」


その黒縁眼鏡の生首は、ぐいと前に進んだように見えた。

すると壁から、お化けのように体が現れたのだ。

人体通り抜けとかあり得ない。

ここはオトハタ、なんでもありなのか!?

色々なショックが頭をめぐる中、その黒縁眼鏡の男性は、全身を壁から出して、手を差し出してきた。


「初めまして新人の若い女の子。僕はじょなさと。リンゴが好きだからこんな名前になった解析班でも、結構長く勤めているみょうちきりんだよ」


「解析班の人ですか……」


差し出された手を思わずしっかり握ってしまう。ちゃんと感触があるし体温も高い。お化けじゃない。

その他の物の怪っぽい何かでもなさそうだ。


「長く勤めていると、この中で奇天烈な事を考えてしまってさあ! 壁を全部通り抜けられたら、大浴場に最短距離でたどり着けるんじゃないかと思ったんだ」


「人間は壁ぬけしなくていい!」


「そう? 便利だと思うんだけれどなあ」


「日本じゃ使わなくていい技術です!」


この人相当変な人だぞ……という思いが頭の中をぐるぐるとよぎる。

しかし私の考えている事は気にしないらしく、彼はにこにこと笑いながら、古式ゆかしい洗面器の中に、これまた様式美としか思えない黄色いアヒルさんを何匹も入れて、石鹸とかも持っていた。


「さあ、大浴場に行こう。君は大浴場に行くのが初めてだから、ここでちょっと戸惑ったと見える」


「この前使った時はすぐについたんです」


「そりゃそうだ。何日前?」


「三日以上前です」


「そこだよ。この三日のうちに術式がちょっと変わったから、それは全体掲示板に載せていたんだけれど、君はまだ見ていなかったと見える」


そんな事を言いながら、じょなさと先輩は踵を数回鳴らした。


「ここに案内の丸いシートあるでしょう」


踵を鳴らした彼は、足元を指さす。

指さされたところを見ると、そこには確かに、丸い足跡シートが貼ってあった。

いかにも急に作りました感が満載のシートである。

そこに、

Call Me !

と書かれていた。

呼べとはいかに。

意味が分からない私とは逆に、じょなさと先輩が高らかに言った。


「男女の大浴場、出て来い!」


は。……は!?

意味が分からなさ過ぎて、その横顔を見ていたわたしだったが、いきなり何もない待ったいらなモルタルの床から、ぬうっと見覚えのある大浴場の入り口が現れたのだ。


「上の方がさらに風呂場を新しくするときに、術式をいじらなくちゃいけないのと、業者を呼ばなきゃいけないのが積み重なったから、こうなったんだ。この足元のシートの所じゃないと、大浴場を呼べないから注意してね」


「何という冗談のようなつくり……どこのマジックハウス」


「この世界で一番びっくりな建物だと思うな。あ、お礼はコーヒー牛乳一本でいいからね!」


「え、奢るの前提」


私が突っ込みを入れて、断ろうとする前に、じょなさと先輩はさっさと男性の大浴場の方には行ってしまった。

こうなったらあとを追いかけるわけにはいかないため、もう、こっちもゆっくり大浴場を使わせてもらおう。

そんな事を心に誓い、私も大浴場の中に入って行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ