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パンデモニウム  作者: 墨崎游弥
イーノック編1 ~破綻へのカウントダウン~
9/30

ジューダス

 独房のような部屋。イーノックはベッドに腰かけ、絶望したような顔で頭を抱えていた。

 そんな中、ダクトがガタガタと音を立てていることに気づいたイーノック。彼は不意に振り返り、ダクトに視線を移した。

 ダクトを塞ぐものの一部が高熱で柔らかくなり、曲げられる。そうして開けられた穴からはにゅっと手が伸びてきた。


「おい……こんなところにまで来たのか。ジューダス」


 イーノックは言った。


「パロ支部の構造はそれとなく分かってるからな。100年前から変わっていなくて安心した」


 その声の3秒後、ダクトからオレンジ色の髪の男がずるん、と出て来た。手以外の骨格は原型をとどめておらず、彼はダクトの下に横たわる。人間のようで人間でない、まるで死後硬直のとけた死体のようにジューダスは動かなかった。だが彼は死んでいない。


「俺がお前を襲って誘拐したという体ならお前が疑われることはないぜ。とりあえずお前はここから逃げろ」


 と、ジューダスは骨格を再生しながら言った。


「いいのか?お前が疑われることになるぞ」


「馬鹿野郎。俺はほとんど顔が割れていない。存在が疑われているくらいだからな。ダクトの中を俺の血をたどって脱出したらここに示された場所に行け。いいか?」


 右半身の骨格が元に戻ったジューダスはイーノックに紙切れを渡す。

 ――パロの森。ここなら人に見られることなく会長を殺すことができる。


「ああ。生きて会うぞ」


 イーノックはそう言うとダクトに手をかけた。腕以外の関節を外し、直径15センチメートルのダクトを通れる程度に骨を粉砕する。イーノックの体に激痛が走る。


「……ジューダス。よく耐えられたな」


 イーノックはただ両手だけを使って前に進む。骨も筋肉も使い物にならない100㎏を超える自分自身の巨体を引きずりながら出口を目指す。

 ダクトにはジューダスの血がところどころに塗られており、イーノックが脱出するための目印となった。


 少しずつダクトの内部の温度が下がってきた。どうやら外に近づいているらしい。イーノックは前進しながら両足の先端から再生を始めていた。簡単に逃げだせるように。

 やがてイーノックはダクトの出口にたどり着く。ジューダスが溶かして開けた穴からはパロの町の景色が見えている。

 手と膝から下以外の骨を砕き、イーノックは外に出る。雪こそ積もっていないが、冷たい地面に投げ出され、イーノックは咳き込んだ。それから体中が再生するのを待つ。


 パロ支部の建物付近に誰かが来ることもなくイーノックは再生を終えた。これから向かう先はパロの森。パロの峡谷と呼ばれる魔族の生息域とは反対側である南側にある。

 イーノックは立ち上がり、南へ向かって歩き始めた。




 同刻、パロ支部の内部。

 ジューダスは部屋のあちらこちらを炎で焦がし、声を上げた。


「ここに囚われていた男は俺が焼き殺した!これからこのパロ支部の構成員を一人ずつ殺す!!!」


 そう言った後、ジューダスは鉄格子を溶かして廊下に出る。

 この声は独房だけでなく、付近の部屋で待機していた者や支部長の耳にも届いた。


「動くな!声を上げるな!どちらかの行動をすればお前を撃つぞ!」


 ショットガンを持った構成員2人がジューダスを挟んだ。


「お?」


 ジューダスが声を上げるのと同時に構成員たちは引き金を引いた。ショットガンの弾がジューダスに命中し、彼は血を流す。が、彼は倒れない。直立不動のまま正面に立っていた構成員を睨んだ。

 そして、口から撃ち込まれた銃弾を吐き出した。


「なんだお前……さては人間じゃねえな!?魔族か!?」


「ご名答だ。じゃ、逝ってくれ」


 ジューダスの指先に炎がともる。正面にいた構成員が光の魔法を撃とうとしたときもすでに遅かった。彼は一瞬にして焼かれる。後ろの構成員も光の魔法を撃つがジューダスはそれさえも見切る。後ろの敵を見ずしてその左胸に強烈な蹴りを入れ、2人を絶命させた。


「お前は自分の仕事をしっかりやれよ、イーノック。注意なら俺が引く。こちらにはアレもいるからな……」


 ジューダスは廊下を進んでいった。




 ジューダスの行動を離れた場所で監視する者がいた。彼女は監視カメラの様子を見て傍らにいる男クレイグに言った。


「あの魔族。本当にこの支部を滅ぼしかねない。私が倒してくるよ」


 つややかな黒髪を揺らめかせた白スーツの女ケベラ・クライネヴァはすっと立ち上がった。彼女こそがこのパロ支部の支部長。


「いけません、支部長。俺が仕留めてきます。支部長は魔族が2人だったときに援護を」


「言うじゃないかクレイグ。あの魔族はひとまずお前に任せる。いいね?」


「はい」


 クレイグは銀の鎖を取って部屋を出た。

 彼がある程度離れたことを確認し、ケベラは純白の日傘を取った。打倒魔族。打倒ジューダス。ケベラの瞳はまるで燃えているようだった。


「いやな予感がする。あの魔族単体じゃなかったらいくらクレイグでも……」


 ケベラは廊下を進みながら考える。だが、事態は一変した。ロビーの方から何かの鳴き声と足音が聞こえる。ケベラの脳裏に何かがよぎる。

 ――この寒冷地には古代からの生物(サーベルタイガー)が生き残っている。その生物を仮に凶暴化させる真似ができるならば。

 ケベラは先を急いだ。



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