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パンデモニウム  作者: 墨崎游弥
シオン編 ~彼が疑いを抱いた訳~
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カインという者

 ウォレスが援護を頼んだ人物はカインだった。


「さて、俺がこいつに何としてでも事情を吐かせる。お前らは紅石ナイフを押収してこい。最悪、吸血鬼は殺しても構わねえ。そもそも俺たちはそういう仕事をしている」


 と、カインは言う。

 自分たちより立場が上であるカインの言う事には逆らえない、とウォレスはカインの言葉に従うことにした。

 ウォレスがシオンに肩を貸し、2人は部屋を出る。事件の首謀者がいた部屋はヨナスとカインの2人だけとなった。


「ヨナス。事情を確認するぞ」


「そうだな。俺が調子に乗りすぎたのは確かだ。が、ここの社員は俺を除いて全員吸血鬼になった。社長も含めて、な」


 ヨナスが言うとカインは口角を上げた。それを隠すようにして彼はメモを取る。任務の遂行に不要な感情を押し殺して。




 シオンとウォレスが部屋を出た頃にはシオンの足の痛みは治まっていた。吹き矢はいつの間にか抜け落ち、シオンのふくらはぎには固まった血が付着しているだけだ。

 5階の廊下は吸血鬼となった社員たちでごった返し、混乱の様子が見受けられた。それもすべてシオンのせいであるが。


「静粛に!静粛にしてください!」


 ウォレスが両手に光の戦輪を持って言った。その光は吸血鬼を殺す力があり、吸血鬼と化した社員たちに向かって放てばよほどのことがない限り彼らは死ぬ。ウォレスが両手に光の戦輪を持つという行為はある種の脅迫行為にも近いのだ。

 ざわざわとしていた廊下は次第にしずかになり、2分ほどで私語をする者はいなくなった。


「あー、この中に紅石ナイフを持っている方はいらっしゃいませんかね?赤い何かのかけらです」


 と、シオンはウォレスに続けて言う。ウォレスに比べて言い方がきっちりしているというわけではないが、彼も目が笑っていない。もし何かあれば相応の対応をする、そのような目つきだった。


「紅石ナイフってアレか。全部倉庫に……」


「言うな!」


 社員の声が聞こえた。これをシオンは聞き逃さず、その社員に近づいた。社員は恐怖と戸惑いの混じったような表情でシオンを見た。するとシオンは倉庫に、といった社員に顔を近づける。


「倉庫ってどこ?すごく気になるなあ?前言撤回なんて言っちゃいけないんだからね!言ったら……そうだな」


 シオンの左手は光の魔力で包まれていた。これで触れれば吸血鬼となった社員は死ぬか重傷を負う。


「3階だ!3階の倉庫にまとめておいてある!」


「よし、本当だな?信じるぜ」


 ナイフで脅された銀行強盗か、はたまた拷問される者のように社員は紅石ナイフのありかを吐いた。シオンは社員の発言を聞いて彼から離れた。


「3階だそうだ。ま、そこに誰もいないとは限らないよな。ひょっとすると見張りがいたりしてな」


「そんなことを言うな、と言いたいところだけどありえないわけではないね。もし何かあれば俺が戦う。今のお前より俺は強い」


 と、ウォレスは言った。シオンとしては悔しいことではあるが、これは事実だ。剣という武器を持っていない丸腰のシオンはどうしてもウォレスに比べて戦いにくくなっているのだ。すべては潜入だとたかをくくって剣を持ってこなかった自分が悪い、とシオンは反省していた。

 2人は階段を降りようとしたが、そのときに一人の社員がシオンの後ろに立つ。そこから後頭部を狙った一撃を繰り出そうとした。が、シオンはその気配に気づいて振り返る。拳に纏った光の魔力を絶ったわけでもない。シオンは後ろから殺しにかかる者がいるであろうと考えていたのだ。


「あと2秒。そんだけ早かったら俺を殺せていたのにな!」


 振り向いた直後、シオンは光の魔法を纏った拳を襲い掛かってきた社員に叩き込んだ。次は蹴り。体の2か所――顔と鳩尾に光の魔法を受けた社員はその部分から灰となり、そのまま事切れた。


「どうやら人体の中心に並んでいる急所からだと光の魔法が伝達しやすいってのはマジらしいな。俺のよわ……ウォレスに比べたら弱い魔法でも簡単に倒せるなんてよ」


 吸血鬼と化した社員が一人シオンに殺されたことで、5階の廊下の空気が張り詰める。


「おい、人殺し!どうしてくれるんだよ!一人死んでしまっては仕事が回らん!」


 別の社員が言った。


「お、俺たちを追い出すの?やってみろよ、力づくでもいいぜ。俺はこの通り人体の急所をちゃんと狙える。こっちのウォレスは俺よりはるかに強い。それでもやるってか?」


 と、シオンは言った。彼が吸血鬼と化した人間を殺すことができるということはすでに証明されている。社員たちは2人――シオンとウォレスの実力を信じざるを得なかった。


「もういい。好きにするんだな」


 社員たちは2人に屈したようで、その声が上がる。

 シオンとウォレスは階段を降りて3階へ。


 3階。このフロアの廊下には誰もいなかった。部屋の中で何か騒ぎがあった痕跡もない。それもそのはず、ウォレスが極めて穏便な方法で内部を調べただけだから。


「3階の倉庫は一番奥で、トイレのすぐ近く。見張りや倉庫での待ち伏せが怖いな」


 ウォレスは言った。


「待ち伏せなあ。吸血鬼とはいえまた人を殺すことになるのか」


「割り切っているとはいえ、後ろめたくなるよな。俺もアンジェラみたいにできればいいんだが」


 フウ、とウォレスはため息をついた。彼の言っていたアンジェラは人間の味方を自称し、吸血鬼であれば容赦なく殺す。彼女こそが魔物ハンターのあるべき姿であろう、と思う者も多いのだ。しかし、シオンは彼女のやり方にもやや疑問を感じていた。

 2人は腹をくくり、倉庫へと向かって歩いて行った。



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