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パンデモニウム  作者: 墨崎游弥
シオン編 ~彼が疑いを抱いた訳~
3/30

伏せられたものを知る者

 タウミエル社5階。シオンの策に乗ってしまった一人がその所業を自ら話してしまった。彼をはじめとする5階の社員は一斉に焦りはじめた。


「あー、うるせえ!今隠しても無駄だからな!もう告発されてんだよ!」


 部屋の中のざわめきを鎮めるようなシオンの一言。態度が一変し、度肝を抜かれた社員たちは一気に黙り込んだ。

 それを確認すると、シオンは手に光を纏う。すると、社員たちがシオンを怯えるようになった。シオンが手に纏った光は吸血鬼の弱点。これを受ければどれほど強力な吸血鬼であろうとも重傷は避けられない。


「光の魔法か?吸血鬼に特効って話のアレだろう。知っているとも。魔物ハンター以外に詳細を話すなと言われていても私はわかるぞ」


 唯一シオンを恐れなかった人物は言った。彼は真ん中付近のデスクに座って書類を作っていたようだったが、シオンの乱入に対して全く混乱している様子は見せていなかった。

 彼は何者なのか。なぜ魔物ハンターでなくとも光の魔法について必要以上の知識があるのか。


「おや、アスンシオン。焦っているか?そうだろうな。光の魔法は一般的に秘匿されている。光という名に反して、なあ」


「そうだっけな。一般人には言うなとは言われているが」


「知らないのか。それは悪かった。総員、この部屋から出ろ!廊下で待機だ!邪魔者は私が排除するので心配いらん!」


 社員が邪魔になるのか、彼はうろたえていた社員たちを外に出していた。このとき、シオンは後悔していた。自分より強いウォレスが来るべきだった、と。

 社員たちは続々と外に出ていき、部屋に残ったのはシオンともう一人――タウミエル社の社員でありながら魔法を使う男ヨナス・マーフィー。


「おい、おっちゃん。なんで一人ここに残ったんだ?」


「おっちゃんではない。ヨナス・マーフィー、まだ36歳だ。ここに残った理由は言えないな。それでもお前が目障りであることには変わりない。そして俺は人間だ」


 ヨナスは右手に隠し持っていたロープを出した。どのような布とも似つかない光沢のある繊維。シオンはそれを知っている。

 スラニアシルクという魔力をよく通す素材。シルクと言われるものの、布以外にも使われる代物。それを持っているヨナスが只者ではないとシオンは悟る。


「これで縛れば私の魔法でお前は動けん!そら!」


 投げ縄のようにしてロープが放たれた。シオンはそれをひらりと躱す。


「チクショー!ミニスカートは男を紳士にするって嘘なのかよ!?」


「それは女が穿いたときの話だ!お前みたいなのがミニスカートを穿いたところで目の毒でしかない!」


 その一言と同時にヨナスは左手にもう一つの武器を持った。それは吹き矢。シオンが反応する前に矢が放たれた。

 シオンのふくらはぎに矢が刺さる。その痛みは通常の矢をはるかにこえるもの。シオンはそれに思い当たるものがあった。


「人体操作魔法か……!」


「いかにも。魔力を放つにも訓練がいる上に向き不向きがあるからこうやって武器を使わせてもらっているがね」


 と、ヨナスは言った。

 シオンは後悔していた。せめて武器――剣でも飛び道具でもいい、それらを持ってこなかったことについて。彼は話だけでなんとかできるのだろうと考えていたのだ。

 そうしているうちに、シオンの足が少しずつ麻痺してきた。


「わかったよ、おっちゃん。俺もう何もしないからさぁ。はやく解いてくれよ」


「どうせ何か考えているのだろう?見え見えだ。例えばそのロープを……」


「そんなのもしないって!俺もう打つ手なしだからさあ!」


 シオンはそう言いながらも周囲の様子をうかがっていた。光の魔法とともに習得した雷の魔法。その派生であるシオンの考えた探知魔法を周囲に張り巡らせる。たとえ魔力を飛ばすことができなくても壁や床などを伝って様子を探ることはできる。

 ――反応あり。シオンもよく知っている魔力。シオンは下を向いてにやりと笑った。


「ここか!吸血鬼化の元となった場所は!」


 勢いよくドアが開けられた。ドアを開けた人物はウォレス。返り血や衣服の乱れはなく、彼が戦ったような形跡も全くない。


「ウォレス!こいつが怪しい!ヨナス・マーフィーだ!」


「なんだって!?こいつが!?」


 ウォレスは視線をヨナスの方に移す。ヨナスは吹き矢とロープを持ち、今にも魔法を使わんとしていた。加えてシオンの足には吹き矢が刺さっており、動けない。彼には人体操作魔法がかけられているのだろうとウォレスは推測した。


「そう言ってくれるな、小僧。手が滑ってこいつの骨を折ってしまいそうじゃないか」


「お前が仮にそうしたら、俺の魔法がお前の頸動脈を切り裂くぞ」


 脅しには脅しを。そういわんばかりにウォレスは言った。彼の手には光の戦輪がある。それがウォレスの魔法であり、ヨナスも警戒はしているようだ。魔法を使える者同士の脅しは時として脅し以上のものとなる――大惨事を引き起こすことだってあるのだ。

 すると、ヨナスは右手のロープをほどき、吹き矢を床に置いた。


「全く。魔法が使える者はやっかいだ。特にリーチが長い相手はな」


「そうか。お前が俺を厄介だと思ってくれて何よりだ。で、何を隠しているんだ?」


 ウォレスは言った。

 隠している。シオンはすべてヨナスのことが漏れていると考えていた。


「しゃべらなければお前を輪切りにしてもいい。俺にはその力もあるからね。それから、あまりにも時間がかかるようだったらもう一人来るよ」


 と、ウォレスは続ける。部屋の空気は先ほどにも増してぴりぴりとしていた。


「お前は黙秘権を知っているか?都合の悪いことを話さなくてもいいという権利だ。大陸のこの自治区では黙秘権が認められている」


「は?」


 ヨナスが言うとシオンは聞き返す。

 シオンたちの住む大陸、レムリア大陸の中央地区において確かに黙秘権は認められている。しかしシオンはヨナスの発言に納得がいかなかった。なぜヨナスは頑なに話そうとしないのだろうか。

 膠着した状況を打ち破るようにして、一人の男が部屋へ入ってきた。

 褐色の肌、束ねられた銀色の髪、大柄な体を覆う黒のスーツ。シオンとウォレスにもなじみのある人物、カインであった。


「よう、ウォレス。場所はここだな?」


 部屋に入るなりカインは言った。


「合ってます。ここに首謀者がいるということで」


「ほう……」


 カインはそう言うとヨナスの方を見た。ヨナスはどこか焦ったような顔を見せていたが、下手に動くことはしなかった。



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