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パンデモニウム  作者: 墨崎游弥
カイン編
22/30

傷痕はもう一つの口

 シオンとウォレスがカナリアの行方不明を知ったのは1日が経ってからだった。指導者的立ち位置にいたクレイグとカナリアがいない今、シオン達を導く者はいない。


「自分で考えて行動しろってことか」


 シオンは言った。


「死んだことがわかっていなくてもいつ戻ってくるのかはわからない。俺達も考えてどうにかしないとだな……」


 と、ウォレス。

 ここは鮮血の夜明団本部のロビー。掲示板には新しい知らせが貼りだされている。その中には吸血鬼の国へ遠征に出たメンバーがほとんど全滅したという不吉な知らせもあった。が、シオンが小耳にはさんだのはパロ支部からやって来るという支部長――

 協力を仰ぐなら彼女しかいない。


「ああ。パロの支部長が来るまでは最低限でもな」


 シオンは言った。

 とにかく今は下手に動けない。が、その一方でシオンとウォレスはある依頼を受けていた。それは吸血鬼となった強盗の討伐。2人はその準備も進めていたのだった。


「俺達が今できるのは魔族の動きに気づくことだ。だがいつもやっていることだって疎かにはできない。そうだろう、シオン」


「だな」


 シオンは口角を上げた。

 ロビーの窓から見えるのはわずかに星の出た夜空。時刻は午前3時。強盗を討つにはうってつけの時間だ。

 2人はロビーに置かれたソファから立ち上がるとお互いの顔を見て外に出た。指定された場所は本部からそれほど離れていないアパートだ。




 この時間、寝ている人がほとんどというだけあってアパートの電灯は消えている。そんな中に一つ、黄色の光を放つ部屋があった。シオンもウォレスもその部屋だ、と真っ先に悟る。ここに目標とする人物がいる。


「適当なタイミングでチャクラムをあの中に投げ込む。それが陽動。中で動きがあればシオンが突入、俺がその後に続くよ」


 と、ウォレスは言った。


「おう」


 シオンはそう言うと腰に下げているサーベルに触れた。中での戦闘となればこれでどうにかすることになる。――できるのか。

 と、そんなときだった。アパートの一室に動きがあった。ウォレスはさっそくその中にチャクラムを投げ込んだ。が、様子がおかしい。中から聞こえる男の悲鳴。そしてカーテン越しに見える「何か」の捕食。胸部から牙のような肋骨のようなものが飛び出たと思えば、それは男をかみ砕く。

 ほどなくして男は、何者かに食われた。


「……え」


 困惑するウォレス。シオンも突入することを躊躇した。そのとき――

 窓ガラスが割られ、中からある人物――カインが現れた。彼の服装はいつものスーツではなく、上半身裸。胸には傷のようなものがあり、それが瞬く間にふさがってゆく。


「遅かったな? この通り、強盗犯は俺が捕食させてもらったぜ。いやあ、本当に刺激があるな、吸血鬼は。ドーピングにちょうどいいじゃねえか」


 と、カインは言った。彼の眼は笑っていない。それもそのはず、捕食しているところを見られたのだから。カインは2人を試すような顔で近づいてくる。


挿絵(By みてみん)


「何の冗談ですか、カインさん。いや、手伝ってくれたことについては感謝していますが!」


「感謝などここではどうでもいいな。俺は……お前らを生かしておけねえと思ったんだよ。ここに来れば、お前らを確実に待ち伏せできるってな」


 カインは魔族。シオンもウォレスもそれは知っている。ウォレスは不意打ちをしようとチャクラムを放った。すると――


「不意打ちか。俺がシオンに気を取られている間にやろうって考えたんだろう。なあ? だが甘い、そもそもの経験が違うんだからなァ!」


 カインはウォレスに狙いを定めた。急速に距離を詰め、その拳を叩き込もうとする。それと同時にシオンはカインの首筋にサーベルを突き付ける。そのサーベルは光の魔法を帯びていた。


「カイン。後ろ見ろよ。ちょいと油断したらお前の首が取れるぜ。そうじゃなくても光なんだから致命的だろうな?」


「……この野郎、ここまで頭が回るのか。いいじゃねえか、やってやる」


 カインは不気味な笑みを浮かべ、シオンとウォレスを一瞬だけ怯ませたかと思えば彼自身を中心に竜巻を作り出す。それが2つに分裂したかと思えばアパートや周囲の建物を破壊してシオンとウォレスを分断した。

 当のカインはその瞬間にシオンの方に寄る――


「これでコンビネーションも関係ねえな。いや、もともとそんなものはこの本部にはねえな」


 サーベルを持ち直すシオンを前にしてカインは言った。


「お? それ俺とウォレスの連携見ても言えんの?何か言えよ、カイン」


 と、シオン。彼なりに挑発しているつもりだったが――カインは動じることもなく、風の大砲を撃つべく力を溜め始めていた。シオンは今がチャンスだ、と考えてカインとの距離を詰める。この力の溜め方であれば――

しかし、シオンの読みは外れていた。カインの動きはすべてフェイク。本命は、横から。


「嘘だろ……」


 シオンが気づいたときにはもう遅い。突風がシオンの脇腹に当たったかと思えば、そのままシオンは吹っ飛ばされる。

カインはそのシオンを追跡し、さらなる一撃を叩き込もうとしていた。


 対するシオンはビルに激突して咳き込んでいたが、カインの様子には気づいていた。やるのならば一か八か。シオンは全身に光の魔力を張り巡らせた。これで直接の攻撃は厳しくなるはずだ。

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