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パンデモニウム  作者: 墨崎游弥
魔族編
17/30

裏切りの魔族

 ジューダスの放った火柱は3階のシオンとウォレスにも見えていた。

芝生の炎と火柱に紛れ、オレンジ色の髪の魔族――ジューダスは逃げてゆく。その方向は電気柵のある方。まさか、彼は――


 ジューダスの名前も、彼が魔族であることも知らないシオンとウォレスは窓の外の光景が異様なものに見えた。電気柵――それも厳重に包囲するような代物を無理に超えようとして生きていられるはずがない。


「クレイグさんのところに行こう。これはただ事じゃないぜ」


 異常事態だと感じていたシオンは言った。彼としても、今動くしかないと思っていたのだが。


「待て。魔族を倒す方法を捨てる気なのか?」


 クレイグのいる地上へ向かおうとするシオンをウォレスは止めた。


「なんで俺たちは2人いるんだよ。手分けすりゃあいいってモンだぜ」


 と、シオンは言う。彼には彼なりの考えがあり、シオンはクレイグを優先しようとした。


「手分けだって? 単独で魔族を相手する気か?」


「するしかねえよ。あいつはイーノックと違う。多分」


「……やれやれ。わかったよ」


 ウォレスはシオンの思いを前にして、折れた。彼ならジューダスを追えるのかもしれない、という期待も籠っていた。

 シオンは研究所の窓から飛び降り、ジューダスの追跡をはじめた。先ほど、ジューダスは電気柵を破壊して逃げた。これから彼が向かう場所はどこだろうか、と考えるシオン。

 それにしても、電気柵の電圧をものともしないジューダスは吸血鬼以上に強靭な体を持っているのだろう。そのことからシオンが思い浮かべたのは、魔族。純粋なる人外の存在。吸血鬼以上に危険であることは明白だ。


「考えなしに飛び出しちまったが……」


 本部に向かうか、とシオンは考えた。魔族であるイーノックやカインも本部に出入りしている。もしジューダスが魔族ならそこに向かってもおかしくはないだろう。




 ブスブスと焼け焦げたジューダスの身体は少しずつ再生する。人間であれば命に係わる程度の電圧を耐えていた。それは魔族である彼からしてみては、夏日程度の感覚ではあるのだが。

 ジューダスは辺りを見回した。本部まで時間がかからないというわけでもない。追手も振り切った。一つ困ることといえば、片腕をなくしたこと。だが、いずれまた生えてくる。


 本部に戻る道中。ジューダスはタウミエル社の前にいるカインを目にした。人間と同じ服装で、人間になりすました彼はジューダスに目を向ける。


「何があったんだ?」


 カインはふと、ジューダスに声をかけた。

 ジューダスには今、左腕がない。カインはそれを不審に思っていた。


「魔物ハンターとの戦いでな。ま、気にすることはないぜ」


 ジューダスはそう言って、道を通り過ぎた。


「ジューダスのやつ、流石だな」




「戻ったのね、ジューダス」


 本部の地下――その裏口から足を踏み入れたジューダスにかかる声。彼を待っていたヴィオラは淡々とした口調で言った。


「ああ。それにしても、弱点までしっかりとデータが残っていやがったぜ。俺を選んで正解だったな」


 と、ジューダスは答える。


「ええ、ご苦労。それと、ジューダス。左腕がないのね。それほどの相手がいたの?」


「北の結構強いヤツだよ。あとは、研究所に保管されてたアレだ。突き刺さるだけで俺の肉が溶けるかと思ったぜ」


 北、という言葉に顔をしかめるヴィオラ。北とはパロの町のこと。パロの町は魔族との交戦が最も多い場所。それゆえ、パロ支部の魔物ハンターは基本的に実力が高い。ジューダスの左手を失わせるに至った人物も。


「北が介入しているのね。人間も、少しはやるじゃない」


 と、ヴィオラは心底厄介そうに言う。彼女に人間を認めるような気ははなからなかった。


「こちらもこちらで、動きがあるやつらを探っていく。そうね、まずは北のあいつ。確か、クレイグ・ダァトとかいうヤツ。魔族狩りという異名もあるくらい」


「そいつを俺に殺せってか?」


「いいえ。カインあたりにやらせればいいでしょう」


 ふっ、とヴィオラは笑った。

 そして彼女はその場を去る。向かった先は、地下空洞のさらに奥――人間たちの知らない場所。ヨハネが調査に行ったきり戻らない場所。


 ヴィオラの目の前に現れる、白色で血痕のしみついた繭。その内部からは、何かが脈を打つ音がわずかではあるが漏れていた。内部にいるものは、生きている。


「そろそろ目覚めの時でしょう。あの日、人間どもに瀕死の重傷を負わされて。それも、アレで切り刻まれたのだから何十年もかかるでしょう。でも、貴男は」


 ヴィオラはここで言葉を止めた。


 繭の中にいる『誰か』はヴィオラを含めた限られた者しか知らない。そして。ヴィオラは、繭の中にいる者の遺した言葉に従って行動している。

 ディサイドという町を消して、新たに王国を創る。繭の中の者こそが、王にふさわしい。同じ魔族であるイーノックは王子だ。


「レムリア大陸のすべてを欲するわけではない。私と彼が欲しいのは、この町一つに過ぎない。我々は新たな魔族の王国を創生する」



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