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パンデモニウム  作者: 墨崎游弥
魔族編
12/30

イーノックは魔族なのか

 イーノックがパロ支部から帰ってきた翌日、シオンとウォレスとイーノックの3人に新たな任務が言い渡された。


「ディサイドの町のはずれに変な研究所があるでしょう?見たことあるかどうかはわからないけど。その場所を調査してほしいの。とある錬金術師が放棄した場所ともいわれているわ。入口は地上と地下の二つがあるみたい」


 会長代理のヴィオラは言った。本心の読めない彼女はシオンやウォレスにとって不気味に映った。だが、今は彼女に逆らえないとシオンらはその任務を受ける。

 目指すはディサイドのはずれの研究所。日が落ちてすぐの時間に3人は本部を出た。


「イーノック。去年のこの時期とかは3人での任務も結構あったね」


 ふいにウォレスは言った。イーノックはその言葉で何かを掘り出されたような気分になっていた。


「そうだな」


 イーノックはこれ以上何かを言おうとはしなかった。話しかけられることも拒否しているようにも見えていた。これから起きることを暗示しているかのように。




 3人はディサイドのはずれの研究所にやってきた。照明はついているものの、人の気配はない。敷地内は枯草で覆われ、地下へと通じる階段もある。廃墟なのか廃墟でないのかも定かではなく不気味であることには変わりない。

 3人は正面ではなく、地下への階段から研究所に侵入した。


 地下に続く階段、その壁には何者かの血の跡が付着していた。ここで何かよからぬことが起きたということは想像に難くない。血の跡を見たイーノックは複雑な表情をしていた。

 3人はさらに階段を降りる。


 階段の一番下には金属の扉があった。鎖と錠前でがっちりと封鎖され、誰にも入れないようになっていた。その鎖にイーノックが触れた。


「なるほど、材質は鉄か。ちょっと離れてくれるか?」


 と、イーノックは言った。

 シオンとウォレスが扉から離れたことを確認すると、イーノックは鎖を両手で持った。その鎖を引きちぎる。

 イーノックに引きちぎられた鎖とその破片を見てあっけにとられるシオンとウォレス。そんな2人をよそに、イーノックは扉の隙間に手をかけた。


「ふんっ!」


 鉄の扉は音を立てて開かれる。扉の奥には何体もの人間の標本があり、透明な液体に入っていた。が、この部屋は普通の研究所の臭いとは違った臭いがたちこめている。それはニンニクの臭い。イーノックは思わず鼻をつまんだ。


「苦手なのか?」


 と、シオンは尋ねた。


「……ああ。苦手というか、命にかかわる。この臭いのもとが俺の血液と混じれば俺は死ぬだろうな」


「吸血鬼よりひどいな。イーノック、お前一体何者なんだ?俺は魔物ハンターになった頃からお前を信頼していたが……」


 シオンが再びイーノックに尋ねる。そのときのシオンの顔は今までにないような顔だった。まるで、仲間さえ信じられなくなったような。そしてイーノックの表情も明らかに変わる。


「シオン、ウォレス……すべてはこの任務が終わった後に話す。それでいいだろう?俺は……」


 話すこともはばかられるようなこと。イーノックは確かに抱えていたのだ。

 悪い雰囲気を醸し出す2人をよそに、ウォレスは彼らの前に出た。


「イーノックの言う通り、その話はあとだ。俺が先陣を切るよ」


 と、ウォレスは言った。


 ウォレスが先頭に立って地下室に立ち入った瞬間、その場の空気の流れが変わる。ウォレスは何が起きるのか知らずとも光の戦輪を構える。

 1秒後。左側の奥にある培養槽が割れ、中にいた何者かが現れる。ごく単純な衣服をまとったそいつはじっとウォレスの方を見た。

 赤い双眸。口から覗く牙。培養槽の液体から匂う強烈なニンニク臭。シオンとウォレスの中で合点がいった。


「吸血鬼だ!誰かわからんがこんなところに吸血鬼の標本を所持してやがったな!」


「待て!変に動くなよ。あの吸血鬼がどう動くのかを見てからでいい。俺たちには光の魔法がある」


 先走ろうとするシオンをウォレスがなだめる。が、肝心の吸血鬼は待っているつもりもなくシオンたちの方に向かって走ってきた。武器を持っていなくても吸血鬼は危険な存在。言葉を離さなければなおさらだ。


「あぶねえ!」


 シオンがウォレスの前に出て吸血鬼を銀のサーベルで切り伏せる。銀のサーベルから炸裂する光の魔法によって吸血鬼は一瞬で灰となった。

 だが、安心する暇はなかった。次々と割れる培養槽。ニンニク臭は少しずつ強くなり、20を超える吸血鬼の群れが目を覚ました。彼らを目の前にしてもシオンとウォレスはひるまなかった。


「俺とウォレスが吸血鬼を相手する!イーノックは地上の入口を頼むぜ!」


 と、シオンは声を張る。ウォレスは吸血鬼たちに目をやり、イーノックは不本意ながらも階段を上る。

 さっそくシオンが動いた。ニンニク臭が立ち込める中をシオンは突き進む。近寄った吸血鬼はすべてシオンの持つサーベルに斬られて灰となる。彼が倒し損ねた吸血鬼には光の戦輪が命中する。これはウォレスがやった。

 研究所で目覚めた吸血鬼たちはすべて倒された。シオンは危険な場所から逃げて来たような顔で息を吐いた。


「やっぱり良い気分にはならねえな。こいつら、元は人間なんだもんな……」


 と、シオンは言った。


「そうだね。彼らもこうなっていた以上被害者というわけか」


 と言ってウォレスは灰に触れる。培養槽に入っていた液体で濡れた灰は水でといた粘土のように滑らかだ。ウォレスは先に進むシオンに遅れないようにと彼の後をついていった。


「次はどこに行くんだ!?」


「決まってんだろ、吸血鬼の年代を調べる。データがあればな。ひょっとしたらこの研究所についてわかることもあるかもな!」


 2人は吸血鬼の標本――仮死状態にされていた吸血鬼が保管されていた部屋のさらに奥へ進んだ。

 そこには階段がある。上の階へ続く階段。ここで何があったのかはシオンやウォレスも知らないが、壁には血痕があった。ここでかつて殺戮や残酷な行為が行われていたことを示唆するように。

 シオンとウォレスは無言で階段を上る。



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