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パンデモニウム  作者: 墨崎游弥
イーノック編1 ~破綻へのカウントダウン~
11/30

会長暗殺

食人シーンがあります。苦手な方はご注意ください。

 イーノックの足取りは重い。パロの森にたどり着けば後は会長を殺すだけとなる。


 やがてイーノックは森にたどり着く。パロの森は寒い地域らしく針葉樹林。イーノックはこの針葉樹林になつかしさを覚えていた。彼も寒い地域の出身なのだ。

 イーノックは暗殺依頼の内容を確認する。場所はパロ支部またはパロの森。どちらかに会長が現れた場合に暗殺せよ、とのこと。会長がパロの森を訪れるのは夜明け前。イーノックは腕時計を見た。午前5時。


「まだ来ないか?この季節の夜明けは遅いが」


 イーノックは森の中に落ちている岩に腰かけた。冷たさはあまり感じない。




 イーノックが1時間半ほど待つと、足音が聞こえてきた。やってきたのはきっと一人ではない。視線を向けると、そこには2人の男がいた。鮮血の夜明団の会長アンドレ・ウィルソンとレオン。やはり護衛をつけないわけがなかったのだ。


「やあ、イーノック君。話があるとはどういうことかな?」


「言いにくいことなのですが……」


 イーノックはその言葉を発した瞬間、レオンの胸に氷の塊を貫通させた。次の狙いは会長。

 対する会長は護衛用に持っていた短剣を抜いた。


「申し訳ありません。これも会長代理直々の任務です」


 イーノックは冷気の塊を放つ。冷気の塊は氷の刃となって会長アンドレ・ウィルソンの胸を貫いた。アンドレ・ウィルソンは絶命する。倒れる彼を見たイーノックはこれからの鮮血の夜明団の行く末を悟っているかのように見えた。

 ――俺は鮮血の夜明団を裏切る。それはシオンとウォレスを裏切ることとイコールで結ばれる。だが俺はやらなければならない。

 イーノックは長い息を吐いた。これからやることは証拠隠滅。まだ自分が殺したことを知られてもいいときではない。

 イーノックは着ていた服のボタンをすべて外した。彼も服の下にインナーを着ておらず、鍛え抜かれた体が露になった。


「俺はヴィオラさんと会長を天秤にかけた。どうか俺を許さないでください」


 イーノックの胸の真ん中が縦に裂けた。魔族が人間や吸血鬼を捕食するときの動き。裂け目はさらに広がり、歯のようになった肋骨がアンドレ・ウィルソンとレオンをかみ砕く。やがて2人の遺体はイーノックに飲み込まれた。



 さらに30分ほど経つとジューダスがやってきた。


「どうだ、イーノック。殺せたか?」


 ジューダスがイーノックと再会したときの言葉がこれだった。


「抜かりはない。あとは本部に戻るだけか」


 と、イーノックは言った。そんなイーノックを心配しているような目で見るジューダス。イーノックの精神は大丈夫なのだろうか。




 ジューダスが去った後のパロ支部。

 ケベラが吸血鬼化したサーベルタイガーを撃退し、パロ支部は平穏を取り戻した。だが、クレイグの表情は明るくなかった。


「支部長。どうも気になるのです」


 クレイグは言った。


「続けな。何が気になるのか、その理由も含めてね。根拠があれば私も何かアクションを起こそう」


「オレンジ色の髪の魔族がいたでしょう。あいつはパロの峡谷に住む魔族ではないかもしれない。理由はパロの峡谷の魔族と違って俺たちと同じような服を着ていたから。それから、北の方の住人が騒いでいた様子がなかったから」


「なるほどねえ。よく考えたじゃないか」


 ケベラは何か考えたようにほくそ笑んだ。彼女が何を考えているのか、クレイグにはわからなかった。

 そのとき、ケベラの元に紙飛行機の形をした手紙が届く。彼女はそれを取り、開いて中身を見た。差出人は本部所属のカナリアという魔物ハンター。目を通すうちにケベラは表情を変える。


「クレイグ。状況が変わった。というか、あんたの言うパロの峡谷住みじゃない魔族については大当たりみたいだ」


「もっと簡潔に教えてくださいますか?」


「本部にも魔族はいるらしい。それで魔族についての知識のあるパロ支部の魔物ハンターを一人派遣しろ、だと。やれやれ、カナリア先生ってば相変わらず人使い荒いなあ」


 と、ケベラは言った。


「というわけでね、クレイグ。本部の魔族の強さが未知数だからあんたに頼みたいんだけど大丈夫だよね?ほんとは私も行きたいんだけどさ」


「はい。とは言っても今日ここを出られるというわけではないんですよね?」


 困り顔でクレイグは言った。


「まあ、そういうことだねえ。とりあえずあんたの実力は信頼しているよ!」




 イーノックはジューダスとともにディサイドの町、鮮血の夜明団本部へ帰還する。出発から4日。鮮血の夜明団の雰囲気は一変していた。誰が敵で誰が味方かもわからない状況において、まるで誰もが敵であるかのように。


「どうしたんだ、イーノック。大丈夫か?」


「なんでもない」


 と、イーノックは言ってロビーにいる魔物ハンターたちから目をそらした。彼は申し訳なさゆえに魔物ハンターたちを直視できなかったのだ。


「心配はいらねえ。誰が敵かわからねえこの状況でも俺はお前の味方だ」


 ジューダスの言葉がイーノックの心を軽くした。そして、2人は地下へ向かう。



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