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パンデモニウム  作者: 墨崎游弥
イーノック編1 ~破綻へのカウントダウン~
10/30

狂戦士

 ジューダスの前にクレイグが現れる。ジューダスは目の前に現れた男が只者ではないことに気づいていた。


「監視カメラで見ていたぞ。イーノックのいた場所から出て来たようだがどうなのだ?」


 クレイグが尋ねるとジューダスは口角を上げた。


「イーノックは俺が殺した。敵に回すと恐ろしい男だったぜ。次はお前だ、魔物ハンターよォ!」


 ジューダスが両手の指先に火をともす。クレイグは顔をしかめ、両手につけた銀の鎖を垂らした。銀の鎖が照明の光を受けて鋭く輝く。


「来い。魔族殺しの力を教えてやる!」


 2人は同時に動いた。ジューダスは炎を放ち、クレイグは鎖を振るう。

 炎がクレイグに降りかかった。が、クレイグは鎖を振り、その炎を浴びなかった。鎖から放たれた光は壁となって炎を防いだのだ。

 これを起点としてクレイグは鎖に光の魔法を纏う。


「銀は光の魔法をよく通す。お前は耐えられるか?」


 ジューダスの目に飛び込む光輝く鎖。それがクレイグの手によって振り下ろされた。ジューダスの腕左は浸食され、そのまま失われる。

 ジューダスはクレイグとの距離を取った。ジューダスは怒るのか。それとも。


「ふはは……やってくれんじゃねえの!ハハハハハハハハハハッ!もっと俺を楽しませろよ!」


「は……?」


 クレイグは一瞬の気の迷いを抱いた。

 戦いは本来楽しいものであってはならない。戦いは常に血腥いものでなければならない。戦いを楽しむものはそれ故に戦いで命を散らす。自分は戦いに対してストイックであり続けるべきだと考えていた。だが目の前にいる魔族はどうなのだろうか。クレイグはそれが理解できなかった。


 一瞬の迷いは隙となり、敵に付け入るチャンスを与える。ジューダスはクレイグにできた隙を見逃さず、彼との距離を再び詰めた。ジューダスの右手に灯る激しい炎。


「くそ……こいつ……」


 クレイグは光の壁を張った。これで炎を少しは防ぐことができた。が、ジューダスは別の攻め方を考えていたのだ。

 ジューダスは来ていた服を真ん中から破り、彼の上半身が露になった。


「詰めが甘かったな!軟弱野郎!」


 その言葉と同時にジューダスの胸板が縦に裂け始めた。口が開くかのように。肋骨が露出し、体内が見える。肋骨はやがて歯のようになり、クレイグにむかって伸びた。これは魔族の捕食行為だった。


「下がりな!でないと、食われるよ!」


 クレイグはこの声を知っている。

 クレイグの後ろから白い服を着た黒髪の女がジューダスへと突っ込んだ。それと同時に傘が開く。開いた傘は光の魔法を纏っていた。


「支部長!?」


 支部長ケベラは何も言わなかった。彼女は目の前の敵だけに集中していた。

 一方のジューダスは咄嗟に捕食をやめた。歯のようになっていた肋骨は急激に縮み、胸から開いた縦長の穴は閉じていく。


「あぶねえ……肋骨ごと溶かされるところだったぜ」


 ジューダスは言った。彼は無傷。どうやら傘が歯に触れたというわけではなかったようだ。


「そんなにグロテスクな捕食方法なら触れてくれたほうがよかったんだがね。黙っておとなしくしていれば結構男前だというのに」


 ケベラは傘を閉じながら言う。冗談を言っているようにも見えるが、彼女は決して油断していない。むしろ警戒している。ジューダスが下手に動けばケベラはきっと無駄のない動きでジューダスに突っ込むだろう。

 ジューダスはさすがに焦りを見せた。躍起になって炎を放つ彼はクレイグとケベラにとってむしろ好都合だった。


「クレイグ!あんたは炎に当たってはいけない!防げるかい?」


「任せてください!」


 クレイグはジューダスの炎が届く寸前に光の壁を張った。防ぎきれなかった炎は逸れ、ケベラを狙う。だがケベラはそれを華麗に躱すとジューダスに詰め寄った。


「あんたに敗因があるとすれば我々を相手取ったことだ。こちとら伊達に魔族と戦っていない!」


 傘の先から炸裂する光の魔法。ジューダスの肩から体は大きく抉られた。その傷は光によって再生を阻まれている。

 ジューダスは無言でケベラとの距離を取る。このときから彼は不審だった。何かを仕掛けてくるような。炎を放ってきたことがまるで演技であるかのような。


「へへ……お前らの戦いを賛美するぜ。けどな、俺が相手するのもこれまでだぜ!」


 逃げる。ジューダスの取った戦法はこれだった。逃げる寸前にジューダスは炎の塊を放った。建物に引火することこそなかったが、クレイグとケベラは足止めをくらう。彼らはきっとジューダスに追いつけない。


「まずいな。奴はどんな目的でここを襲撃したと思うかい!?」


 爆炎に行く手を阻まれたケベラは言った。


「イーノックを殺したと言ったあたり彼への逆恨みでしょうか。もしくは俺たちに対しての逆恨みもあり得ます。支部長が着任してから俺たちが倒した魔族の数を覚えていますか?」


「ざっと25程度。これは少ない数字ではない。魔族がどんな民族なのか、詳しく知らないけれど仇を討つようなやつらであればその可能性もある」


 爆炎がおさまった。ケベラが先陣を切り、2人は玄関の方へ進んでゆく。ジューダスの気配は既にない。が、何かの唸り声が聞こえてきた。ケベラが会長室で聞いたもの。

 そして、ケベラは唸り声の正体を目にすることとなる。


「グルルルルル……」


 サーベルタイガーだ。彼らに違う点があるとすれば、吸血鬼化しているところ。単独ではなく5頭で固まってパロ支部に押し寄せてきた。


「近づけば食われる!クレイグは飛び道具を使えるメンバーを呼んできて!」


 ケベラは命令だけして傘に魔力を込める。彼女は一人で迎え撃つつもりだった。


「ご武運を、支部長。絶対に生き残ってください!」


 クレイグは走り出す。

 一方のケベラは傘の先端からビームのようにして光の魔法を放つ。1頭撃破。吸血鬼化したサーベルタイガーは灰になる。が、他の4頭はケベラに襲い掛かる。


「やめてくれるかい?動物虐待はしたくない。たとえ君たちが吸血鬼化していてもね」


 それは一瞬だった。光を纏った傘がサーベルタイガーたちに触れる。彼らは一瞬にして灰となった。


「ひとまず騒ぎは片付いたか。あとはこれからの動きを考えるか。あの魔族がどう動くかも気になるところだ」




 同刻、パロの町の北のはずれ。傷を負ったジューダスは峡谷の入口付近で休んでいた。ここには人間も来ない。ケベラによって負った傷を治すため、ジューダスは身を潜めることにした。傷が癒えたらイーノックと合流する。


「うまくやれよ。イーノック」



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