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私はそれから夕方にはルイスの店を出て、夜ご飯前に家に戻ってきた。アガーテ祭の最後の日は昼に来てと言われた。どうやらドレスやらメイクアップはやってくれるらしい。
そういえば、転生してから初めて女の子として着飾れるんだ!最近じゃルイスとドロシーの勧めもあり、男装してるのか中性的なのか自分でも分からなくなってきている。それに皆が口を揃えて「似合わない」と言うもんだから、最初の漲る自信はとうに消失した。
アスランにも「変装なら髪切って名前を変えただけで十分だろ」と言われてしまい、男装している意味が迷走中だ。これを機にスカートやワンピースも着てみようかな?マリアは美人だしお洒落も楽しそう。…うん、良い考えかも。
どうやら私はかなり楽しそうに考え事をしていたようで、食事を作るのを手伝ってくれている彼は不満げである。人の不幸は蜜の味というが、アスランにとっては人の幸福は気に入らないのだろうか。意外に心が狭いな。
「ルイス君に会ってきたのか?」
彼は手を止める事なく私に聞く。今だに機嫌が直らないが、私に八つ当たりする気はないらしい。
「そうです!新しい本を読んだらしくて今度貸してくれるって約束して、あと私をモデルに服を作りたいんですって。それに。アガーテ祭の最終夜は一緒に行く事になりました」
「もう誘われたのか!?」
「えぇ、まぁ。あ、でも友人としてですよ」
私の答えを聞いていないのか、ブツブツと「先を越された」だの「気付いていない事が救い」だの言っている。答えを聞く気がないなら聞かないでほしい。
「アスランはアガーテ祭行くんですか?」
「え?…あぁ、もちろんだ」
「なんだ!自分だってもう相手いるんじゃないですか。それなら、私の恋愛を阻止しようとしないでくださ…」
「恋愛っ!?今恋愛って言ったのか!?」
「え、そうですね」
「続けて負ける事は?」
「連敗」
「親しみの情の事は?」
「親愛」
「今言ったのは?」
「恋愛」
四つん這いになり床を握りこぶしで叩くアスランを見て、大した意味もなかったとは言い出せなくなった。ルイスはまるで少女漫画や乙女ゲームに出てくるキャラのようで、私も女の子だって実感できて楽しいのだ。もしかしたらこれが恋愛なのかもと考えていたから、ふと口から出てきてしまった。でも私だって、彼への思いが恋の名を冠すものではないと知っている。
アスランは唐突に「好き」と呟く。私は痛くなるくらい心臓を弾ませ体を熱くした。顔が真っ赤になるのが分かり、砂糖菓子を詰め込んだような甘ったるい充足感に包まれている。
自分の一瞬の変化に内心驚き、私は彼に聞き返した。すると彼は私を情けない顔で見る。眉が下がり今にも泣き出しそうで、声も小さく掠れ気味だ。肩を窄ませ全体的に小さくなっている気がする。
「あの…ルイスとかいう男が、…好きなのか?」
あぁ、そう言ったのか。自分が言われたように勘違いしてドキドキするとか、恥ずかしすぎる。まったく、紛らわしい事しないでほしい。前世じゃ恋愛に縁がなかったから、こういう事には慣れていないのだ。
「好き、ですね。言葉とか態度は厳しいですけど自分の意見を持ってるって事ですし、感性が独特でセンスも良くて面白い人です。何より私の事を大切に思ってくれています。そんな人を嫌いになんてなれませんよ。もちろん、友人としてですけど…って聞いてます?」
「…俺のが大切に想っているのに…。俺に脈はないのか…?」
「何言ってるんですか?アスランとルイスは別人なんですから思いを競う必要ないでしょう?大体、生きているんだから脈拍はありますよ」
どちらも大事な友人なのに彼は何を言っているのだろう?私は2人とも好きだし、2人とも大切だ。それなのに彼はなぜ落ち込む?私がルイスと友達になったからといってアスランと友達じゃなくなる訳ではないのに。
「…いや、諦めない。そうだ、諦めたら終わりだ!」
「よく分かりませんが、その意気です!ネバーギブアップ!ドントマインド!アイキャンドゥーイット!」
私が適当に応援していると、彼は私のもとに跪き私の手を取る。いつになく真剣な表情を見て、「最初は怖がっていたっけ」と思い出した。
「お前は俺が大嫌いなマリアではなく、大好きなアシュレイだ。アガーテ様とカコス様に誓って、俺はアシュレイを諦めない!必ず守り抜く!」
いつもなら「私はあなたの主人ではない」とか言い返すのだが、この時は息が止まってしまう。アスランの事を冷静に観察する余裕も、冷血に振り払う無関心も、冷酷に笑い飛ばす無遠慮もなかった。頭が真っ白になり目を見開き、私はなぜか涙が出そうになる。描写しようのない興奮が波のようにやってきては、言い知れぬ不安と疑念がじわじわと迫ってくる。
あれ?これは何?自分を制御できなくなるこの感情は、一体何?
私は自分の変化に気付かないふりをする事は、もうできないのだと悟った。




