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異世界人喰らい  作者: 稲荷竜
ユージーンという男
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ユージーンという男2

 山賊たちは連れだってだらだらと山をくだる。

 裾野に広がる草原に出るころには、すでに気分的にはピクニックだった。

 スケジュールはもう決まっているのだから、緊張感なんかない。


 ユージーンの予定では、村に行って、普通に金品や作物を受け取って、そのあと村人たちを奴隷に落とすつもりだった。

 あの村は年寄りばかりだから、全員即奴隷落ちでいいだろう。



「ああ……そういやァ、一人、若いのがいたか」



 見せしめに殺した男の死体にすがりつき、「お父さん!」と泣き叫んでいた少女を思い出す。

 ずいぶん歳の離れた親子だなあという感想を抱いた気がする。


 まだ幼くて、ユージーンの好みではないが――

 成長するまで数年間飼育してみるのもおもしろいかもしれない。



「親分、親分、村の連中、抵抗しますかね?」



 ギドが赤くなった鼻をおさえながら、ひょこひょことついてくる。

 跳ねるようにちょこまか動くギドを見ていると、小猿を連想する。



「抵抗ねェ……『境界都市』に遣いを送ったり、傭兵雇おうとしたりは、やってたみてェだが」

「ほんとですかい!?」

「……そんぐらい把握しとけ。テメェはどこまで無能なんだ」

「す、すいません!」

「……有能な部下によれば、最後に女か男かもハッキリしねェのが一人、村に入っただけらしい。傭兵を雇うのには失敗したろうなァ。そもそも、『異世界人』を相手にするような傭兵なんざこの世にいねェだろうが。だからわざわざ『俺は異世界人だ』って名乗ったんだしなァ」

「旅人ですかね? こんな時にあの村に入るなんざ、運の悪い……」

「どうしようもねェ『巡り合わせ』ってのはあるもんさ。『こいつとさえ出会わなければ』っていう相手に遭うタイミングは、望まずともやってくる。その旅人にとって、今回がそういうタイミングだったんだろうよ」

「親分と出会っちまったのが運の尽きですね!」

「人を疫病神みてェに言うんじゃねェよ。……その通りだとは思うがな」



 疫病神。

 そういう『この世界にはない単語』を口にする時、ユージーンは自分が異世界転生者であることを思い出す。


 思い出すと――イヤになる。

 だから最近は、気が向かない限りステータスを視界から消して、この世界で生まれた、前世もなにもないただの現地人みたいな生活を心がけている。


 ……自分が特殊な出自を持つ、世間的には『恵まれた生まれ』であることを思い出すと――

 自分よりさらに恵まれた生まれの、この世界に君臨する、本物の『チート能力者』たちのことが、頭によぎる。


 思い出すだけでひどいストレスだ。

 どうあがいても埋まりようのない能力差。それを鼻にもかけず当然のように行使する超越者ども。ステータスを閲覧できるだけに、常に突きつけられる『お前は特別じゃない』という現実。


 ……最初は違った。

 幼いころ、自分のことを、特別だと思っていた。

 異世界転生者。

 前世の記憶を引き継ぎ、能力を獲得し、己を研鑽して、この世界で英雄になれるものだと信じていた。自分は神さまに選ばれたスペシャルな存在だということを疑いもしなかった。


 だというのに――思い知らされた。

『オマエなんか無価値なんだ』と。



「……チッ。めんどくせェ」



 舌打ちをして、思考を打ち切る。

 周囲にいる仲間たちは、ユージーンが突如不機嫌になったのを察してか、静かになった。


 気まずいピクニックが続き――

 彼らはようやく、目的の村を視界に収める。



「親分! 見えてきましたぜ!」

「見りゃァわかる」



 ギドは本当に無駄なことをいちいち大声で言う男だ。

 ……ただ、そのお陰で周囲の雰囲気がやわらぎ、山賊たちは談笑を再開した。


 手に入れる酒は、何日もつだろうか。

 どのぐらいの食糧が貯蔵されているだろうか。


 奴隷にする老人たちは、どのぐらいの値がつくのだろうか。

 唯一の若い女の処遇はどうするべきか――



「楽しそうですね」



 ――不意に。

 村までもう少しというところで、正面に誰かが立っていることに気付いた。


 たった一人で立つそれは、少女のような顔をした、少年だった。

 身ぎれいで、柔和。

 威圧的なところなどなにもない、その少年が――



「あなた、異世界人ですよね? 『におい』でなんとなくわかります」



 ――ジッと、こちらを見ている。

 数十名の山賊と、たった一人で向かい合い、ジッと――怖がるでもなく、威圧するでもなく、震えるでもなく――


 ただ、見ている。

 口元だけ笑ませながら、笑っていない目を開いて、真っ直ぐに立って。



「なんだァ、テメェ?」



 ユージーンは問いかけた。

 たった一人で立つ少女のような少年は、感情のうかがえない声で応じた。



「我らは『不死の傭兵団』」

「……」

「依頼に従い、異世界人を殺しに参りました」

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