ループ、ループループ。
彼が『この場所』を選んだのは、感傷によるものではない。
ただ、この場所以外を拠点としたならば、当時争っていた現地人たちに襲撃され、少なくない死者を出すことを知っていたのだ。
『境界都市』。
本来であれば、街を作るつもりも、石碑を作るつもりもなかった。
このような大仰な都市など、そもそも設計もできなければ実際に建造するのはもっと無理な話だ。
なにせ彼には巡り廻るしか能がない。
繰り返すだけ。死なないように繰り返すだけ。死にたいと思いながら繰り返すだけ。
何度も何度も何度も何度も。飽きても絶望しても自殺を繰り返したって、生き残れというなにものかの逆らえない命令を受けて、はいずり惰性で生きるだけだ。
きっと、第三者から見れば、この人生は順風満帆なものに見えるのだろう。
何度だって死にかけた。
けれど、死なずに生き続けた。
そのように他者からは観測できるであろう、波瀾万丈でしかし終わってみれば順風満帆な、幸運な人生。
なんと思われても、もはや気にもならなかった。
彼はループによって強さを手に入れなかったけれど、経験を手に入れた。
……正確に述べれば、感情を失っていったと言えるだろう。
彼はとにかく冷静だっただけだ。
なにが起きても騒がず、己の『死』に対応していっただけだ。
けれど、『ただ生きる』ことの難易度は、年齢とともに上がっていった。
ケガが治りにくい、病気が癒えにくい。
よくわからない、興味もない運命に巻きこまれた。
境界都市が形成されるまでに、現地人とのいさかいもあった。
例の『小部屋』の秘密を守ろうと、冒険者ギルドに狙われたこともあったし、ギルドの尖兵として異世界人が遣わされたこともあった。
彼は生き残ろうとしただけだった。
生き残るしか、できなかったから。
死ぬことさえできない彼の苦悩は、彼以外には想像もできない。
ただ、彼はループから抜け続けた。
生き残り、生き残り、生き残り、誰か俺を完全に殺してくれと願いながらもループには必ず出口があって、七日を超えるたびに絶望しまた新しい七日を迎え、それも繰り返し、でも抜けてしまい、彼以外の場所にもいくらかの年数が流れてもまだ生き残り――
気付けば、最古参の『異世界人』の一人と数えられていた。
生きながらえた彼はもはやなにも感じない。
笑いもしない。悲しみもしない。
その表情は長年、ピクリとも動くことがなかったけれど――
燃えさかる境界都市をビルの最上階から見下ろして、彼は久しぶりに笑う。
懐かしい顔を、見た気がしたから。




