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モノクロの蝶  作者: Riviy
第八章:疑心暗鬼の光と闇
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第八十四ノ世界:不穏、平常心、微笑


その翌日。匡華と村正は朝食を摂りに広間に向かっていた。広間の扉を開け、中に入る。いつものように席に着く際、あのオドオドとした少年とすれ違った。二人はその少年に()()()()()()()()()()()、通り過ぎる。気配で、その少年が振り返ったのが分かった。驚いているのも分かる。それでも二人は振り返らずにいつもの席へ腰をおろした。二人ずつ座っていたので、今日からは向かい合って座る事になる。そして、二人の目の前に本日の朝食が現れた。今日は洋食のようだ。匡華は、落ち着いた様子でカップを手に取った。そして中身を飲む。中身は紅茶だと思っていた匡華は、驚いたようにカップから口を離し、顔をしかめた。そんな匡華に村正も気になり、目玉焼きを食べる前にカップを覗き込んだ。中身は牛乳。微かに湯気があがっているところから見るとホットミルクのようだ。


「……紅茶だと思ったんだ」


言い訳をするように匡華が言う。ムゥ、と頬を膨らませ、少々不機嫌だと云う。その様子に村正はクスリと笑う。


「まぁまぁ、苦手なものじゃなくて良かったと思いましょうよ。ホットミルクと云えば、蜘蛛が好きな飲み物ですね」

「嗚呼、祢々は確か、コーヒーだったか…あ、違った、アイスコーヒーだ」


村正がそのまま話題を変える。二人は朝食を食べながら、友人達の事を話す。代表者は一気に少なくなったにも関わらず、広間は今まで通り、穏やかな雰囲気だった。匡華と村正と同じように向かい合って座っているある意味色んな意味で宿敵の青年達。一人、優雅に朝食後のお茶を楽しんでいる女性。そして、あのオドオドとした少年。自分達を含め、残った世界は五つ。本当に、少なくなったな。そう匡華は思った。横目で横を見る。昨日まで千早と鳳嶺が此処に座っていた。一瞬、いつものように楽しく朝食を摂る二人の幻が見えた。二人ほど代表者が減ったところで神様も他の代表者達も、何も気には止めないが、自分達にとっては、寂しいの一言だった。匡華は村正が自分を心配そうに見ている事に気付き、彼もだと思いながら、大丈夫だと云うようにトーストにかぶりついた。


「匡華は好きな飲み物あります?」

「うーん、そうだね……どれも好きだよ。強いて云えば紅茶かな」


気分を変えるように村正の問いに答える。村正は安心したように微笑んだ。匡華も微笑む。その時、空気が揺らいだ。時空が揺らいだ。一瞬にして警戒が走ったが、脳の片隅になんとなく正体を見つけてしまっていた。残った代表者が一斉にその方向を振り変える。そこは広間の中央。中央にはなにやら歪みが発生していた。そして、その歪みから現れたのは少年だと思わしき神様。神様はブカブカの袖口で口元を隠しながら、いつも通り、いや、少し登場の演出が違う事に驚く代表者達を見渡す。そして、いつものように宣言する。


「〈吉原の華〉を消滅した。これで残ったのは五つ……半分になったねぇ。ハハッ」


そう言って、神様は愉快そうに笑い出す。笑う、と云っても抑揚がないように聞こえるため、震える肩が愉快だと告げている。匡華はホットミルクを飲みながら、警戒を軽く解きつつ、神様の次の行動を窺う。村正も殺気の一部をそのまま残しながら窺う。その殺気にまたあの少年がびくついていた。が、神様は笑った後、何も言わなかった。それに訝しげに首を傾げていると、突然、神様は両腕を広げて叫んだ。突然叫んだことでオドオドとした少年がビクリと肩を震わせていた。その様子を横目に見た神様は口角を、誰にも知られぬように上げた。


「さあ、最後の一つになるまで殺し合え!生き残るには、それが最善なんだから」


そう言って、神様は再び、歪みに消えていった。


…*…*…


少し時間は遡り。オドオドとした少年、アーギストは席に着こうとしている時、匡華と村正を見つけた。二人は自分の名前を知らなければ、容姿も……いや、容姿は少し考えれば予想出来るか。恐らく、鳳嶺が二人に自分の事を話している。だって自分は、彼を騙し討ちにしたのだ。友人で共犯者であろう二人に復讐を望むのは、可笑しい事ではない。それに友人達を失った二人が、そのまま復讐に燃える事だってあり得る。それでも良かった。もはや、神様に殺される事が決定し、未練がないように行動してきたアーギストにとっては、それでさえも良い結末だった。


そう思いながら、二人とすれ違った。しかし、二人は自分を見て、声を荒げる事も、行動アクションを起こす事もなかった。その想定外に、異様さに目を見開き、驚きのあまり振り返ってしまった。アーギストが振り返っても、それでも二人は何事もなかったかのようにいつもの席に歩いて行く。それを見送った後も、アーギストは驚いたままだった。此処に止まっていると怪しまれる。ハッと我に返って自分が使っている席に慌てて座った。慌てて座ったため、ソファーが軽く悲鳴を上げた。目の前のテーブルに現れた朝食のカップを取りながら、アーギストは頭をフル回転させる。


「(何故?何故何も起こさない?教えられなかった?それとも、何か窺っている?)」


ゴクリ、と良い具合の暖かさのホットミルクを飲み込み、アーギストは止まった。()()?もし、鳳嶺()がボクの思惑に気づいていたとしたら?その思惑を、あの二人に何かを吹き込んだ?……いや、まさか……けれど、その可能性がない訳ではない。相手が何か気づいたのには、自身も気づいていた。瞳が、闇堕ちの兆候を表していたために思考までは読み取れなかったが。あの時、自分の嘘に気づいたのだと思っていた。けれど、それが根本的に違っていたら?先程も考えたように自身の思惑だったら……そうだとしたら、彼らのあの行動は納得いく。


「(……………少しでも、ボクの事を…)」


半分は正解、半分は誤りを示した情報。代表者と代表者が連れてきた者。情報の事実から彼は少なからず、自分を信用していたのだろうか。だから、ボクの正体を、本当の裏切り者だと分かっても二人に復讐は頼まなかった?現にあの二人に復讐の色はない。あるのは、寂しさと強い意志。

アーギストはソファーの背もたれに糸が切れた人形のように、体を埋めた。手元から伝わってくるカップ越しの、ぬるいぬくもりを感じながら、アーギストはクスリと微笑んだ。カップが口元の位置にあるので、誰も自分が笑った事には気づかない。


「(全員、馬鹿だと思っていた……毒が効かなかった朱雀(あの女)も、嘘にすぐ惑わされる茉亞羅(あの女)も……そして、()()も、馬鹿だと思ってた…でも、違ったんだね。人に少しでも信じてもらえるって…)」


嬉しいものだね。

口元に浮かんだ笑みがどちらの意味での笑みか。自分でも分からなかった。けれど、確かに心は歓喜していた。アーギストは片手にカップを持ち直しながら、もう片方の手で朝食の皿に添えられているミニトマトを手に取った。そうして、代表者達を見回す。自分は此処にいる代表者に殺されない。神様に殺される。恐らく、〈夜の京〉代表者として新しい代表者が来るのだろう。アーギストは確信していた。そのためには、神様が来た時、秘密をはしっこだけでも披露しなければ。まぁもしかすると……もあるが。アーギストは気づかれないよう、二人を盗み見みた。朝食を摂りながら、この穏やかな雰囲気を満喫している。自分が思っている、いや、自分が手に入れた情報ものは合っている。それだけで、そんな確信が持てた。

ミニトマトを口に放り込み、咀嚼する。ちょうどその時、空気が、時空が揺らいだ。いつもと少し違うが、神様のご登場だ。アーギストは気を引き締め、演技を始める。


「(待っててよ、神様。ボクが、壊してあげるから)」




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