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モノクロの蝶  作者: Riviy
第七章:『荒神』
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第七十九ノ世界:真



村正、祢々切丸、蜘蛛切丸がいつものように壁に三人仲良く寄りかかっていた。楽しそうに会話をしていた。だが、いつも以上に何故か、静かだった。その静寂を破ったのは、村正が牢屋の外を見た時だった。


「村正?」

「兄さん?」


二人が村正の様子に首を傾げながら、村正が視線を向ける牢屋の外に目をやる。牢屋の外は相変わらず、可笑しなほどに真っ暗闇だった。その時、その暗闇にボヤァとなにかが浮かび上がった。三人の体に警戒と緊張が走った。そして、牢屋の前に現れたのは、一人の青年らしかった。青年は格子を片手で掴み、腰を少し屈めると、牢屋の中で傷だらけになって固まり、傷を舐め合っているように見えたのか、三人を鼻で嘲笑った。それにムッと蜘蛛切丸が鼻に皺を寄せる。すると、青年は牢屋の中にスルリと入って来た。いつも暴行を加えるような村人達とは雰囲気も身だしなみも、全然違う。天と地の差があるようにも感じた。青年は警戒するように固まる三人を見下ろす。その瞳は、村人達が自分達に向ける瞳と、冷たい瞳と同じだった。


「誰?」


祢々切丸がいつもよりも低いトーンで青年に言う。ギロリ、と青年を睨み付けながら言う祢々切丸を青年は嘲笑った。


「自分か?自分()は、『荒神』。『創命』さ」


『創命』、生き残った良心の『荒神』、そして、〈シャドウ・エデン〉を再生した命を司るかみ。滅亡させた『荒神』・『滅命』と対を成す、ある意味、光、正義である。しかし、何故、そんな奴が此処に?恐らく、村正達と同じ、血縁者、子孫であろう事は容易に想像出来る。なぜなら現役の『荒神』は遠くの昔に死亡しているからである。

青年は村正達から目を離すと薄暗い牢屋の中を悠々と歩き出す。その様子を視線で追いながら、彼らは警戒を続ける。


「俺は『旋律せんりつともしび』と云うものから生まれた守護持ちだ。お前達もだろ?」

「……まぁ、そうだけど」


蜘蛛切丸が青年を睨み付けながらその問いに答える。

『旋律のともしび』とは緑の光、赤い光、茶色の光、黄色い光、青い光、白の光と黒い光が合わり、虹色に輝く球体の事である。『創命』、『滅命』の血縁者、子孫が誕生する際に現れる。武器を守護に持つためか、炎のある場所で生まれ落ちる事が多い。村正、祢々切丸、蜘蛛切丸も『旋律の燈』から生まれ落ちたのであり、『荒神』なのは間違いようがない。

青年が彼らをクルリと振り返った。そこで三人は蝋燭の明かりでようやっと、はっきりと青年の姿を目にしたのだった。燃えるような赤いセミロングに、星のように輝く薄い黄色の瞳。清潔感あふれる白い軍服に身を包んでいる。その腰には一振りの刀剣。自分達と同じ生まれ方をした、同じ守護を持っているにも関わらず、何故こうも違う?三人の中で、何かが蠢いた。


「なんで、此処まで扱いが違うと思う?『創命』は正義、『滅命』は悪と歴史がそう定めたからさ。だから、お前達は蔑み、疎まれる……この世界から。『滅命』ってのはな、赤い目、朱の目を持つ」


大きく両腕を広げながら、演説するように言い放つ青年。そして、黙ったままの三人を見下ろした。この後の言葉を聞いたら、もう戻れない。そんな気がした。けれど、恐ろしかった真実が現実になるのが自分達の証明になる気がした。


「知ってるか?『滅命』は、赤い目、朱の目であれば守護が例え有名なものであろうとも、関係ねぇんだよ。お前達が村正を、祢々切丸を、蜘蛛切丸を持っていようといまいともな。悪なる者は罰せよ…『創命(俺達)』でさえも知っている常識の提起。歴史が全て、歴史は一度も間違えてなどいない!俺達が全て正しい!俺達が正義だ!」


そう言って、青年は笑う。それが正しいと微塵も疑っていない。その事実に、三人は目を見開いた。村正がゆっくりと立ち上がった。立ち上がった彼を二人がどうした?と見上げる。だが、そう思ったのはあくまで目を逸らしたかっただけで。本当は、村正の感情は分かっていた。

つまり、迫害の対象となった明らかな証拠は瞳の色。彼ら、歴史を重んじる者にとって、重要なのは見た目で、守護武器が有名であろうとなかろうと妖刀であろうとなかろうと、瞳が紅ければ、そいつは滅亡を行った者の血縁者、悪役は罰しろ、と云う事なのだ。なんと云う思考回路だ。そんな思考回路で自分達はこのような目に遭ったのか?


「ふ…ふざけんなっっ!!そんな、理由でオレらを悪者扱いすんな!」

「歴史を重んじてるからって、それ、言い訳でしょ?歴史が全て正しいとは限らない!」


蜘蛛切丸と祢々切丸が怒りに任せて叫ぶと青年は二人を憎らしげに見つめた。そして、何も言わずに立ち竦む村正を見つけ、口角を意地悪げに上げた。青年は腰の刀剣を抜き放ち、それを村正に向ける。祢々切丸と蜘蛛切丸が驚愕と怒りで立ち上がりかけるが、それを村正が制止した。何故?と二人が怪訝そうに首を傾げたその時、この牢屋と云う空間に張り巡らされた異様なものに気づいた。その異様なものは、恐らく…


村正の怒りに滲んだ瞳が青年を貫くが、痛くも痒くもなかった。今まで、自分達に逆らう『滅命』は何度も見て来た。歴史に従わず、正義に従わず、頂点に立つ『創命』に従わない愚かな『滅命』。そのたびに、この能力を使って無理矢理押さえ付け、封じ込め、従わせて来た。なんと言おうとも正しいのは、俺達だ。その事に、変わりはない。

だが、それは()()()()()()なのだ。

村正が何も言わない事を良いことに青年は言う。


「『天地てんち三神みかみ』の名において命じる。俺達の元へ集い、罪滅ぼしをしろ」


上から目線で、そう青年は言い放った。

『天地の三神』とは、『荒神』最強と云われた三人のことである。霧雨きりさめ草薙くさなぎ槌守つちかみと云う名の彼らは『創命』であると云われている。よく、確認してほしい。()()()()()()、だ。

その名が出た時、再び、三人の心臓が大きく脈打った。そして、沸き上がる怒り。青年がクスリと笑い、動けない三人を見、刀剣を持つ手に力を入れた。動けないのは、青年の能力によるものだった。青年はもう一声、脅しをかけようと口を開いた。


「…っ、あ…」


だが開いた口から漏れたのは、苦痛の呻き声だった。口元から垂れ落ちる紅い血。青年が不思議そうに目を見開きながら、痛む左胸を見た。そこにあったのは、刃の切っ先と白に咲いていく真っ赤な華だった。


「なんである、とでも思っているでしょう?」


青年が顔をあげるとそこにあったのは、意地悪げに自分(青年)を嘲笑う村正だった。暗い中に赤に近い朱が妖艶に輝く。その手には、青年が見た時は村長の部屋に抜けないように固定されて飾られていた刀があった。カラン…と自分の手にあった刀剣が硬いコンクリートの床に落ちてバウンドする。なんで、なんでこんなことに?そう混乱する青年の前に祢々切丸も蜘蛛切丸もゆっくりと立ち上がる。その手には、先程のように此処にはないはずの大太刀と脇差が握られていた。そして二人の瞳も、妖艶に不気味に、赤と朱に輝いていた。その時、青年は確信した。目覚めたのだ。今までは目覚める前に殺していたし、能力で押し込んでいた。だが、今回は違った。計算も、計画も何もかもが狂ったのだ。その原因は、絶対正義だと思い込んだ事。だが、その事にさえ気づかない。


「教えてあげますよ、燈弦ひつる

「…っな!」


なんで名前を!?そう言っているのは表情で分かった。それに村正も祢々切丸も蜘蛛切丸もクスリと笑う。


「不思議だよね。『荒神』だからかな、きみの名前、()()()よ」

「それに、守護武器もオレらの元に帰って来た。あんがとな?」


青年は混乱していた。実際、『荒神』だからと云って相手の名前は視えない。恐らく能力か、守護武器が与えた一時期なものか。けれど、そんな事、今まで聞いたこともない!そう考えていた青年の胸から容赦なく村正が刀を抜き放つ。微かに血が溢れ、青年は倒れこんだ。冷たい床には柄と鞘を結んでいた太い紐が落ちていた。カラン、と甲高い音がして、三人の足枷が意図も簡単に取れた。三人の手にある武器を包む光が足枷にもあり、それが要因のようだった。三人は倒れこみ、先程まで自分達を嘲笑っていた青年を見る。青年は自分達に助けてくれと言わんばかりに視線を向けている。許してくれと、だから助けてくれと。今まで、自分達を見下して来たのに、自分が危機に陥ればすぐに手の内を返す。なんだか滑稽すぎた。その視線を煩わしそうに三人は払った。

同じ者、同じ能力、同じ守護を持ち、同じ出生であるにも関わらず、処遇が違う。そして、『創命』と彼らの自分勝手な理由。そんなことで自分達は……彼らを支配しているのは、怒りと憎しみだった。


「本当の馬鹿者は誰でしょうねぇ、愚者」


クスリと、口元を押さえて妖艶に笑う村正。その爪に塗られた黒い証が、彼を妖しくも美しく彩る。三人は今さらながらに助けを求める青年を放置し、牢屋を出た。牢屋の中で、青年は紅く染まった手を空に掲げていた。


三人は何処までも続く闇に向けて歩み出した。暫く歩いていると不思議だと思っていた、牢獄だと思っていた空間は意図も簡単に消え去ってしまった。目の前に現れたのは、暗い空。そして、大勢の村人達。村人達は、あの青年がやって来ると思っていたのか三人の姿に驚愕していた。そして、その手にある武器にも。村正が横目で背後を見る。とそこにはコンクリートの建物があった。なるほど。恐らく、入り口がない建物で牢屋のみとして使っていたのだ。

村正達は、驚愕で顔を歪めていた村人達を睨み付ける。怒りと憎悪の瞳を向けられて村人達は自分達を虐待していた時とはうって変わり、恐怖を露にし始める。何故今さら、青年のように許しを乞う?それも彼らの神経を逆撫でした。


「ねぇ村正。ぼくたちは、何をされたんだっけ?」

「虐待ですかね」


ポツリ、そう呟いた二人の声が異様に大きく響いた。二人の会話で村正達がこれから何をしようとしているのか、容易に想像できた。いや、想像できないほど、村人達は馬鹿でも愚かでもない。ジリッ、と村長が歩み出た。その瞳には溢れんばかりの憎悪を宿し、それを三人に向けながら。自分達の行為を断じて正義と疑っていない、そんな瞳だった。顔の左半分が痣と火傷で覆われた蜘蛛切丸の鋭い視線が村長を貫く。が、彼はそれを鼻で嘲笑った。


「お主らが『荒神』であろうと『滅命』なのは事実。お主らは、悪。それは絶対なのじゃ。お主らが復讐で儂らを鏖殺おうさつしようとも、『創命』様方がお主らを始末するだけ。お主らは、死ぬ事が決まっておるのじゃよ。今までの奴ら同様」


奴ら同様?その言葉に三人は顔を一瞬顔を見合わせた。と、一瞬、頭にノイズが走った。ノイズの後、三人の頭に写りだしたのは、()()()()()()()()()()、村正達と同じ『()()』達。此処に成仏できない彼らの魂でも眠っているのか否や。嗚呼、全てが繋がった。此処は「偽善者の巣窟」だ。

ギリ、と三人が強く柄を握った。その途端、彼らを黒、水色、蜂蜜色の光が包み、持ち主と同じように怒りを露にし、武器に戻っていく。村長はそれを見て、自嘲気味に口角をあげて嗤った。


「時間切れ、じゃな」


何が時間切れなのか、分からないほど愚かでも哀れでもない。村長は先程までの瞳から一変し、優しい瞳を彼らに向ける。虐待を指示していた人物とは到底思えない瞳だった。そして、軽く頭を下げた。途端、小さな音が響いた。その音に顔を上げれば、村長がいたであろう場所にあったのは首から鮮血を吐き出す胴体だった。ゴトン、と音がして村人達の前に村長の安らかな顔をした首が落ちて来た。途端、村人達は悲鳴をあげ、腰を抜かし、逃げ出した。三人の目にうつる、なんとも愚かで滑稽な者達。村正を小さな黒い蝶が舞い、彼を月明かりの中、妖艶にうつしだす。祢々切丸が大太刀にまとう水色の光を手元に引き寄せるとそれを背後に幾つも浮かばせる。まるでそれは妖しく輝く狐火のよう。蜘蛛切丸が持つ脇差の光の破片が彼の傷ついた顔を優しく撫でるとその左目に朱に近い赤色の紋様が刻まれ、吸い込まれて行く。まるで何処かの英雄の紋章のように。


三人がゆっくりと足を踏み出す。怒りと、憎悪と、悲しみと……もう、自分がどんな感情を示しているのか分からない。ただただ、これはーーーー




その日、『創命』が懇意にしていた共犯者()が壊滅した。美しい下弦の月が見守る中で、そこは消えた。消したのは、ある三人の『荒神』。まるで、今までの『滅命』全ての感情を背負ったように月明かりの下、紅い血を吸った地面の上に悠然と立っていた。だが、それを排除するように自分達を正義と確信して疑わない『創命』が追う。悪は抹殺せよ、悪はこの世から血縁者もろとも罰せよ、と。




今から十数年前の事である。




「歴史が、かつての『荒神』が暴走したのは何故か?それは、人間の横暴さと善悪。それは、断じて正義と疑わない()の『創命』と同じ原因。歴史は、陰の部分を露にする」



今日は此処まで!

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