第七十三ノ世界:舞
〈シャドウ・エデン〉のある村。歴史を重んじる村。途切れてしまった歴史から〈シャドウ・エデン〉はあまり時が経っていなかった。いや、「あまり」も誤りであったのだろう。その時は、今とはまた違っていた。
その村で畑を耕していた子供が暗闇に浮かび上がった月や星を見上げていた。まだ視界の隅にはオレンジ色の空が見えている。と、その時、子供の目にあるものがうつった。それは虹色に輝く三つの光。その光を見つけた途端、子供は手にしていた鍬を放り投げ、大声で叫んだ。
「燈だ!燈だ!」
その子供の大声に畑を耕していた子供の両親や近所の者達、家の中にいた村人達、全ての村人達が空を見上げた。村人達からは様々な声が上がっている。そんな事などお構い無しに三つの光が村に向かって降下し始めた。その三つの光を追いかけて大名行列の如く、村人達が続く。三つの光は村の象徴とも云える一年中咲く桜の大木をクルクルと、舞い踊る。
「どっちだ…どっちなんだよ!?」
村長の息子がイライラするように叫んだ。彼らは何を待っているのか、三つの光は知る由もない。ただ言えた事は、村人達の顔が子供もお年寄りも若者も全員が全員、歪んでいた事であろうか。狂喜、それとも違う表情だった。
続いて三つの光は村の中心にある獣など避けのキャンプファイアーに向かった。暗くなった空にまで届くほどの火柱が三つの光を美しいまでに輝かせる。三つの光は炎に揺られて虹色に輝く。三つの光は大木の時のようにクルクルと火柱の周りを回ると、村人達が集まっているキャンプファイアーの前に舞い降りた。途端、三つの光はそれぞれ緑の光、赤い光、茶色の光、黄色い光、青い光、美しい白の光と深い黒い光を纏いながら人の形を形作る。フワァと優しい風が三つの人の形となった光から放たれ、村人達は顔を覆った。村人の一人が恐る恐る目を開け、「あっ」と声をあげる。それを皮切りに村人達がキャンプファイアーの前に突如として現れた三人の人物を見やる。村人達はざわめき立つ。どちらか、どちらかと異常なまでに近くの人と囁き合う。三人の人物は、この状況が理解できていないようで、座り込んだまま誰も顔を上げようとせずに視線をさ迷わせている。二人は青年、もう一人は少年であった。服は三人とも異なっており、彼らの傍らにはうっすらと黒い光、水色の光、蜂蜜色の光を放つ武器が寄り添うに置かれていた。キャンプファイアーの赤とオレンジの光と武器から放たれる光が混乱している三人を不気味に、それでいて儚げに写し出している。その様子に村の女性達から感嘆の息がもれる。
「面を上げよ」
その時、村長が威厳のある声で三人に言い放った。シン…と静まり返る村人達。だが、村長の言葉にも三人は混乱しているためか、誰も顔を上げようとはしなかった。それに嫌気が指したのか、それとも別なのか。村長はその老いた体に似合わぬスピードで三人に近づく。と三人のうちの一人、漆黒の髪に一房だけ紫色をしている青年の顎を強引に掴むと上を向かせた。青年が突然の事に軽く呻き声をあげた。村長はそんな事などお構い無しに青年の瞳を覗き込む。そして息を呑んだ。息を呑む音が異様に大きく響いた。しかし、その音だけで村人達には村長が見た事が容易に想像できた。ざわめきが少し起こる。そのざわめきは恐怖や同情、興味のような可愛らしいものではなかった。ざわめきに混じっていたのは、それこそ狂喜だった。
「『滅命』じゃ」
「……え?」
「『滅命』じゃ!!鎖を持って来い!縛り上げろ!」
「「「?!」」」
村長の言葉に村の男性達が雄叫びを上げ、我先にと三人に向かって手を伸ばす。突然の事に三人は何も出来ない。ただただ、怯えたような表情をするだけだった。その怯えた表情に男性達は助ける事もなく、侮蔑の視線を向けるだけであった。それは女性達や幼い子供、お年寄りまでもがそうだった。助ける?何故?と言わんばかりの表情だった。三人は一瞬、驚いたようで絶望したようでもあった。だが、次の瞬間、強い力で両腕を背中に回され、縛り上げられた。そして、彼らに寄り添うように置かれた武器は村長の手で持ち去られた。と村長の息子が太い紐を差し出した。村長はそれを受け取り、抜けぬよう柄と鞘をその太い紐で手慣れた手つきで結び、繋げた。そうして武器三人分を息子に預け、縛り上げられ、痛みにもがく三人を見下ろした。見下ろされた三人は屈強な男達に抵抗しても無駄だと理解したのか、ただただ何故このようなことをする、と村長やその息子、他全ての村人達を睨み付けている。そんな三人を村長は値踏みするように眺める。
「うむ…『滅命』が三…これは良い収穫じゃ。そして、愚かよのぉ」
そう、村長は彼らを嘲笑った。すると、彼らのうちの一人が村長を鋭い眼差しで睨み付けた。彼の赤に近い朱の瞳が夜の暗闇によく映え、美しいと云うよりも妖艶だった。その視線を村長は煩わしそうに手で払った。
「『滅命』は歴史を途切らせた極悪人。お主らの運命は、いや、この世界に生まれ落ちたその瞬間から決まっておるようなもの……いつものように牢屋に放り込んどおけ。儂らが、正義を尽くそう」
暗闇の中、村人達が口角が上げて不気味に微笑んだ。それに三人はビクゥと体を恐怖とこれから起こるであろうなにかに怯えて震え上がらせた。のちの誰かは村人達をこう評価した。
「歴史を重んじているのではなく、偽善者として作り上げられた、悪意の村だ」と。
そんな村に舞い降りた三つの光及び三人は、最期の被害者である。
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