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モノクロの蝶  作者: Riviy
第六章:不気味な色
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第七十ノ世界:涙


匡華さんを待っている時、誰かがやって来た。素早い動きで私に攻撃して来た。痛い、痛かった…でも、それよりも鳳嶺が匡華さんを疑い始めた事が辛かった……!嗚呼、ごめんなさい鳳嶺。怪我が治ったのに目覚められなかったのは、私の心が弱いから。あなたを元に戻せるか不安だったから……でもね、鳳嶺。私達は、あなたを疑ってもいないの。微塵もね。信じてたのよ。だから、話した。ねぇ、鳳嶺。戻らないわけじゃないのよ。最期に、あなたが理解してくれた…それだけで私は……目を覚ます勇気が持てたのよ。だから……ねぇ…最期になっちゃう前に、未練になっちゃう前に、あなたに会いに行くわ。


…*…*…


そんな彼の願いが通じたのかもしれない。千早がゆっくりと目を開けた。それに鳳嶺は目を見開くと共に嬉しさが込み上げて来た。


「千早……っ!」

「鳳……嶺、?…嗚呼、分かった、のね…」


千早は鳳嶺の方に痛む体を懸命に動かしながら言う。痛みで顔が歪むがそれでも嬉しかった。千早の目から涙が零れ落ちた。


「…悪かった…俺がっ」

「いいの……間違いは、正された…のよ……死んじゃうわね…私達…」


千早がゆっくりな動きで鳳嶺に向かって手を伸ばした。紅く染まった千早の手が鳳嶺の頬を掠め、そしてその手を鳳嶺が掴んだ。決して、離すわけにはいかない。そう言うように二人は固く手を繋ぐ、指と指を絡ませて。

鳳嶺は千早の言葉に驚いたようだった。それに千早はクスリと小さく笑った。


「あの…声、ね、私……ずっと…眠りながら…聞いてた、の……」

「……ごめん、ごめんなぁ…」


千早と繋がれた手を複雑な思いで歪む顔に押し付けた。それに千早は大丈夫と云うように小さく微笑んだ。その笑みに鳳嶺も笑った。

お前は、俺に気づかせてくれたんだよな。ずっと、気づかなかった。ありがとう…すまん。


「………鳳嶺…ずっと、言えな…かったの……最期に、言わ…せて…」

「俺にも……言わせ、て、くれ…」


今言わないと、もう一生言えない。ずっと、世界のために、自分のために、云えなかったこの想い。今なら言える、いや、言わないといけない。


「「ずっと……あなた/お前を、愛してた…」」

「許されないと、思い…ながら…」

「場違いだと……拒みながら…」

「「それでも」」

「「愛してる」」


固く手を繋ぎながら、二人は言う。ずっと、愛してた。〈闘技場(この世界)〉に来る前から、あの世界でずっと一緒だった時から、ずっと。

千早は顔にそれはそれは綺麗な華を咲かせながら微笑んだ。白くなった頬に紅い色がさす。二人はお互いの気持ちに気づきながらも蓋をした。そうしないと、崩れてしまうから。でも、もう崩れても良い。鳳嶺がゆっくりとした動きであるが、千早の顔に自身の顔を近づける。そして、口付けした。その口付けに千早は鳳嶺の顔が離れた時、嬉しそうに微笑んだ。ギュッと繋いでいる手を力強く繋ぐ。もう、この手は離さないから。


「……もし、来世が…あるのな、ら……」

「嗚呼……」

「「また、二人で」」


顔を近づき合わせ、額を擦り合わせ、二人はそう誓い合う。その時、ドアノブを捻る音がした。


「あれ?開いてる…」


匡華の声だ。ギィと鈍い音がして扉が開き、匡華と村正が入ってきた。そして、血塗れで瀕死状態の千早と鳳嶺に気付き、匡華が慌てたようにベッドに駆け寄った。村正は目を見開き、その表情は怒りに染まっていく。その様子を横目で見ていた鳳嶺は、やっぱり俺は間違っていたのだと改めて理解した。その表情は、友人を心配する表情だったのだから。


「千早!鳳嶺!大丈夫かい?……特効薬では既に無理か……くそっ」


匡華が二人の傷を見て、そう分析すると感情を露にする。それに千早は何故か嬉しそうに笑った。その時、凄まじい殺気が彼らを包んだ。千早の『闇』よりも深く、鳳嶺の鬼の力よりも滑らかな、美しくも恐ろしい、あの時と同じオーラ。そのオーラは村正から放たれていた。村正の周りからはそのオーラと共に白と黒の小さな蝶が美しく放たれている。が、白い蝶は黒く染まって行き、それは黒い光となっている。なにやら発動されているのは容易にわかった。


「……誰ですか」

「村正!」

「誰が二人をこんな風にしたんですか?」


怒りに満ちたその表情とオーラに匡華は慌てたように村正に駆け寄ると彼の手を大丈夫だと握る。その意図が今なら鳳嶺にもわかった気がした。


「村正、落ち着きな。今此処で怒りを放出しても何も意味はない。だろう?さあ、深呼吸をして落ち着いて……その()()は、犯人にお使い」


匡華の言葉のはしはしに、村正と同じく犯人に対する怒りが滲んでいた。嗚呼、さすが、此処でずっと一緒に過ごした彼らだ。彼らなら、きっと……村正は、深呼吸をし、自分を落ち着かせる。オーラと蝶がスゥと消える。匡華がうん、と頷き、二人は千早と鳳嶺に近寄った。千早が匡華に向かって鳳嶺と繋いでいる手ではない方の手を伸ばす。その手を取り、匡華はベッド脇に立つ。


「匡華、さん…」

「無理して喋るんじゃない」

「ふふ……いい、の…」


匡華の心配そうな表情に千早は笑う。


「……友人に、なって、くれ…て、あり…がとう……仲、間で…いて、く、れ…て、ありが……と……」

「嗚呼、こちらこそありがとう千早。貴女がいるおかげで私達は笑顔になれた、笑う事ができた。感謝してもしきれないよ」


匡華は千早の手を優しく握りながら、彼女のために微笑んだ。それに千早も嬉しそうに笑う。千早が匡華の手を握り返し、静かに手を離すと匡華の小指に自身の小指を絡ませた。少し驚いたように首を傾げる匡華に千早がしてやったりと云うように微笑む。純粋な、美しいあの笑みで。


「ねぇ…匡華、さん……また、友達になっ……て…ね?」


嗚呼、本当に貴女は。匡華はクスリと笑って小指に力を入れた。指切り、約束だ。この約束をきっと、絆を深めた二人は忘れずに果たすのだろう。例え、記憶を失ったとしても。


「嗚呼、もちろんだよ千早。また友人に、友達になろう」

「ふふ……嬉しいわ…匡華……」


あなたと友達になれて嬉しかった、良かったわ、匡華。私と仲良くしてくれてありがとう、私達と一緒にいてくれてありがとう。また、ね。

千早、いつまでも、この世が終わってもそのままの純粋で美しい貴女でいておくれ。そうすれば村正も鳳嶺も、私もまた笑顔になれるから。


村正はベッドに寄りかかるように痛む体を動かす鳳嶺の前に慌てて膝をついた。その慌てようと、村正の少し泣きそうになっている顔に鳳嶺が力なく鼻で笑った。


「なんて、顔…してん、だ」

「…………鳳嶺」

「わりぃ……お前の事、うた、がって……まだ、俺、達は、友人…か?」


その言葉に村正の目が見開かれた。そして、一瞬、視線を逸らした。その視線はすぐさま鳳嶺の元へと戻ってくる。とその視線は力強く輝いていた。


「……言わねばならないことがあります。僕は、『荒神』の血縁者、子孫です」

「………は、なん、だよ……かっけぇ、じゃ、ねぇか……そん、なん、で、友人、やめる俺……じゃね、ぇよ……馬鹿」


『荒神』と云えば、昔、世界がかろうじて一つだった頃いたと云う。そんなんで、分かれた世界で、変わったその『荒神』だと知られるのが怖かったのか?…でもそれがお前にとっては、俺がお前を見る印象()を変えるかもしれないほど、恐ろしい答えだったんだよな。

鳳嶺の答えに村正の頬に水色の水が伝った。嫌われると思った。だって、〈シャドウ・エデン〉では……自分の血が、出生が時々恨めしかったから。恨めしいと思う事も何度もあったから。鳳嶺にそう言われて、匡華の時のように軽くなった。

初めての友人が、


「…っ、うるさいですね馬鹿鳳嶺」

「ふっ、減、らず、口…」

「ずっと、友人ですよ僕達は。あんたが僕を疑っても、ずっと」

「…悪かった、って……ホント……意地、悪…だなぁ…村正、は」


あんた/お前でよかった。

鳳嶺はクスリと笑う。黒い光から浅紫色に戻った瞳が柔らかく村正を見つめている。鳳嶺は小さく口を動かす。青白くなっていく美しい鬼の口から紡がれることばは、()()()()だ。その言葉に驚く村正を置いてきぼりに、鳳嶺は言う。


「我、継承を望みし者。彼の者に、我が能力ちからを継承す」

「ちょっ、鳳嶺?無理しないでください」


村正の心配を余所に鳳嶺の言葉は続き、彼から紫と黒の煙が渦を巻いて溢れ出す。その煙は村正へと漂って行き、それは今度は白と黒の小さな蝶となって村正を包み、彼に吸収されていく。村正には鳳嶺の力を吸収している錯覚に陥っていたが、鳳嶺は大丈夫だと軽く口角を上げて笑う。


「継承能力『鬼姫きき』、またの名を『鬼の花嫁』。この能力を継承す……」


継承の詞が全て紡ぎ終わると煙も蝶も消えた。その途端、鳳嶺は咳き込んだ。咳き込んだ拍子に口元から血が垂れる。


「鳳嶺っ!」

「大、丈……じゃ、ねぇ、な……なぁ、村正……この、能力…受け取って、くれ……『鬼姫こいつ』は……きっと、役に……立つ……持って、け」


そう鳳嶺が真剣な瞳で言う。それに村正は泣きそうな表情になりながらも頷いた。村正が頷いた事に鳳嶺は満足そうに微笑んだ。


「……また、会おう…」

「はい、必ず」


そうして二人は固い握手をかわした。


匡華と村正、二人との別れを終え、彼らと手を離した千早と鳳嶺は再び相手の顔を愛おしげに見た。繋いでいた手を離さないと言わんばかりに固く繋ぐ。何も言わない。もう少しで、この命は終わる。ならば、その最期の時まで。すると鳳嶺が思い出したかのように匡華と村正を見た。もう声さえ出せないのか、彼は口を動かした。その動きは、犯人を指し示す。そして、犯人のその意図も。匡華が力強く頷き、村正も頷く。それを見届け、鳳嶺は千早に再び視線を移す。二人は見つめ合い、最期の時を待つ。

〈吉原の華〉のみんな、ごめんなさい。私は、死んじゃうみたい。私を恨んでも良い、憎んでも良い…けれど、そんな事、しないって言うのかもしれないわねあなたたちは。それでも、ごめんなさい。嗚呼、でも、〈吉原の華〉と云うくらいなのだから、華を咲かせたこの状況はある意味、運命なのかもね。そう思わない?ねぇ鳳嶺……みんな、また会おうね。


最期に二人は、それはそれは安らかな笑みを浮かべて、瞳を閉じた。


はーいもう一個ー!

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