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モノクロの蝶  作者: Riviy
第六章:不気味な色
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第六十九ノ世界:二つの闇堕ち2


トントン、と云う控えめに扉を叩く音に鳳嶺はハッと我に返った。また、匡華と村正が来たのかと体を硬直させ、扉を睨み付けた。が違うようだ。


「ねぇ、いる?」

「……アーギスト?」


やって来たのは自分に情報を渡したアーギストだった。鳳嶺は壁にかけられた時計を軽く見上げた。いつの間にか殺し合い時間が終わり、朝方になっていたようだった。鳳嶺にとっては数秒の思考だったはずなのに、そんなにも長い時間が経っていたのか。逆にそれが不思議であるし、その間二人が戻って来なかったのも意外だった。いや、もしかすると鳳嶺が深い思考の渦にいて気づかなかっただけで来ていたのかもしれない。どっちにしろ、鳳嶺が深い思考に陥っていたのは確かだ。

鳳嶺は少し眩暈がする頭を軽く振りながら立ち上がる。千早はまだ目覚めない。いまだに安らかに眠っている。そんな千早の頬を愛おしげに撫でる。


休息時間があと数分で終わり、新たな殺し合いが始まる。鳳嶺は扉に駆け寄ると覗き窓から外を確認する。アーギストがまだかな~と覗き窓を見上げている。鳳嶺は彼を信用している。何故なら、情報をくれ、自分の考えを確定させてくれたから。鳳嶺は鍵を外し、ドアノブを捻り、扉を開けた。そしてアーギストを中に招き入れた。頑なに殻に籠った籠城は意図も簡単に開いた訳である。中に入れてもらったアーギストは嬉しそうに笑うと素早く扉を閉めた。そして、千早を見やり心配そうに顔を歪めた。


「彼女、大丈夫?」

「嗚呼。目覚めないけど……ところで、お前の情報、助かった」

「良いんだよ。欲しいのは事実だものね」


鳳嶺が千早の元へ彼に背を向けて歩いていく。その様子にニヤリと微笑むと言う。


「新しい情報あるんだけど、聞く?」

「?」


それに鳳嶺が千早の元、数メートル前でアーギストを振り返った。鳳嶺の頭に「聞かないで」と誰かの声が反響する。途端、彼の良心が天秤を微かに傾けた。疑心と良心、嘘と真実、様々な事が鳳嶺を揺らす。鳳嶺の顔がなにかによって軽く歪む。アーギストはその様子に気付かず、親しみ深く微笑む。


「……とりあえず、俺は匡華と村正を殺す。どうやったかは知らんが、千早を攻撃したのは確かだ」

「うん、そうだね。ボクもその作戦が手に入ったから早くに教えたかったんだけど……間に合わなかったみたいだ…ごめんなさい」

「お前のせいじゃない。ところで、どういう作戦だったんだ?」

「………その前に新しい情報聞いてよ」


アーギストの有無を言わせない迫力に鳳嶺は仕方なく頷いた。本当は作戦の方が聞きたかったのだが。それにアーギストは満足そうだ。


「まず、村正って人。あの人は人であり人ではない存在。匡華って人は彼を上回る存在」

「人であり人ではない存在ってのは、どういう意味だ?」

「……そのまんまだよ。能力で誕生うまれた形跡はない。神様にその嘘の事実を知られまいとしているから敵になってしまったアナタにさえ、怯えているんだよ」


鳳嶺はその時、村正のあの怯えた瞳を思い出した。友人でなくなることに怯えていた瞳、鳳嶺に何かを知られることを怯えていた瞳。神様に嘘が知られるのが怖かった?嘘を知ったと、俺がその嘘を知った事が恐ろしかったのか?いや、違う。ずっと一緒にいた訳ではない。匡華のように村正の相棒と云う関係でもない。けれど、俺と村正は親近感を持っていた。それは、誕生の仕方とかそういう事じゃない。なんで今まで気づかなかった?

鳳嶺の疑心に、微かな亀裂が入る。鳳嶺は動揺を悟られぬように意気揚々と話すアーギストの言葉に耳を傾ける。


「それで、匡華って人は人の心を手玉に取るのが上手い。相手の懐に潜り込み、情報を引き出す……匡華って人が彼女を攻撃したんだ。彼女の悩みを引き出し、相談に乗ると優しく声をかけた……そして能力を用いて彼女に近づき、攻撃した…その間、村正って人は他の人の足止めをしていたようだよ」

「匡華は、俺の後に来た。それも作戦か?」

「うん。背後から遅れて来た方がたった今来たって印象付けられるからね。だってあの匡華っていう規格外の代表者だよ?アナタたちを騙す事なんて容易だったんだよ」


確かに、匡華は騙す事は朝飯前、という感じがする。だが、本当にそうだとしたら千早とのあの絆は一体なんだと云うのだ?千早が庇うまで、信じるまで演技をしていたとでも云うのか?そっちの方が可笑しい気がする。

黒い光が、何かを探るように細められ、アーギストを見た。


「……あの二人の能力について聞きたいんだが、匡華の持つ小太刀…あれは一体?」

「へ?小太刀?小太刀なんて、全部同じじゃないの?村正って人が持つ刀も、そうでしょ?」


何を当たり前な、と言いたげな雰囲気でアーギストが言う。アーギストでも武器についてはわからなかったのだろうか。けれど、鳳嶺にとっても匡華にとっても村正にとっても、全部同じではないのだ。村正の持つ刀は妖刀であり、恐らく彼自身を形作っているもの。匡華の持つ小太刀は、能力を最大限に生かす専用。闘わなくても分かったのは、村正と親近感を持っていたからだろうか。匡華と千早が心を通わせていたからだろう。これは矛盾か、それとも別の疑問か。ただ単に知らなかっただけか。いや、あれほどの情報を手に入れたアーギストなのに、これしきりの情報が手に入らないものなのだろうか?鳳嶺の疑心に大きな亀裂が入る。その亀裂の隙間を縫って、誰かの声が「信じろ」と囁く。その声は優しく、暖かい。鳳嶺はゆっくりと深呼吸をすると、アーギストに気付かれないように千早の様子を確認する。


「情報はそれだけか?」

「まぁ、うん、そうだね……何かある?」

「いや……じゃあ聞いていいか?」

「ん?何?」

「村正にとっての()()()?」


アーギストはその問いに理由を見出だせないようであったが、自分が手に入れた情報を提示した。


()()()()()

「(嗚呼、わりぃ。俺は間違っていた)」


違う。村正にとっての友人は、千早と俺じゃない。()()()()()()()()()()()()()が「友人であり仲間」で、俺達は此処での、()()()共犯者(友人)だ。なんで、今まで気づかなかった?なんで、今まで見ていなかった?あの二人の能力で舞うのは黒と白。白と黒、つまり、()()()()()()()()()だ。()だ嗚呼、俺は、間違っていた。俺が疑ったのに、彼らは信じていた。失望したはずなのに、敵と見なしたのに匡華と村正は説得しに来た。怒りを露にしながら、俺に問い掛け、自分で考えていた千早。何も考えずに見極めもしなかったのは、俺だ。

鳳嶺の心に囁いていた疑心は、音を立てて崩れた。


ピクリ、と鳳嶺の様子が変わった事に気づいたのかアーギストはこめかみを痙攣させた。アーギストは鳳嶺に気づかれぬようにクスリと笑う。気づいたか。何処で気づいたのかなんて関係ない。横目で見た時計はまだ休息時間。殺し合い時間になるまで待ってもいいけれど、めんどくさいし……ねぇ神様、アナタにチャンスをあげるよ。邪魔者(違反者)を殺すチャンスを。けれどそれは、アナタにとって()()()()()だけどね!

アーギストは軽く片腕を上げる。アーギストが突然なにか始めようとしていることに、本当の敵に気づいた鳳嶺の瞳が黒く光る。角が生え、爪が鋭く伸びる。正常か否や。もう、分からない。アーギストは鳳嶺ではなく、眠ったままの千早に視線を向けた。その視線に気づいた鳳嶺が「まさか…」と呟く。その呟きにアーギストはクスリと笑う。


「何故、千早を狙う?…千早を攻撃したのは、お前か」


あり得ない事ではない。アーギストは音も立てずに人に接近できる。それはつまり、気配をも消すと云うこと。


「どうだろうね?……ふふ、すぐに教えるのは面白くないし、すぐ信じるのも馬鹿らしいとも思っていたけれど……みんな、馬鹿だね」


にっこりとアーギストは笑い、コテンと首を傾けた。その笑みに鳳嶺は絶望を感じた。アーギストの笑みは肯定に、いや肯定だった。


「『光』」

「?!」


突然、鳳嶺の視界を眩い光が覆った。目の前は光で何も見えない。鳳嶺は目の前にいるであろうアーギストではなく、背後で眠る千早へと駆け寄った。そして、彼女に覆い被さった。攻撃されるのは、千早だと思ったから。その時だった。光が突然現れた時のように突然晴れたのだ。その途端、千早と鳳嶺に凄まじいほどの痛みが走った。背中から千早と鳳嶺をベッドに磔にするように大きな剣が突き刺さっている。その足元や腕、ベッドが置かれた床や壁、天井にも剣と同じ装飾が施された無数の剣が突き刺さっており、二人の血であろう紅い血痕が飛び散っている。反撃の隙など、全くなかった。アーギストはゆっくりとベッドに横たわる二人に向かって歩み寄ると、二人に突き刺さった大きな剣を容赦なく抜いた。


「ぐ…は…」

「ふふ、馬鹿だよねぇ…」


剣を抜いた途端、息の根が少しあったのか、はたまた抜かれた痛みで意識を取り戻したのか鳳嶺が呻く。それを見てアーギストは心底馬鹿にしたように鼻で嗤った。アーギストがパチンと指を鳴らすと鳳嶺の懐にあった封筒が光の粒子となって消えていった。そして、その剣を傍らに投げ捨てると二人のその後など気にも止まらないのか、部屋を出ていった。それを気配で感じたのか、鳳嶺は血塗れで痛みが支配する体を懸命に動かし、起き上がった。千早の顔は青白くなっており、鳳嶺と同じ場所には紅い華が咲いている。青白いその頬を優しく撫でると、そこに紅い一線が記された。鳳嶺は近くの剣に手をかけるとそれを杖にベッドの上に血を吐いた。痛む体を懸命に動かしながら千早の上からどいた。退いたと云ってもベッドの上から転がり落ちたと云った方が正しいかもしれない。鳳嶺はベッドの上で眠る千早の元へと上体を寄らせると彼女の手を取った。鳳嶺には分かっていた。この命は、今から特効薬を飲んでも間に合わないと云うことを。


嗚呼、せめて……千早、お前に俺の想いを伝えたかった。場違いながらも想っていたことを。そして、あの二人に謝りたい……


そんな彼の願いが通じたのかもしれない。


皆さん、緊急事態です……書き溜めていたものの数が大変な数になりました。ので、今日でこの章を終わらせますよ!

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