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モノクロの蝶  作者: Riviy
第六章:不気味な色
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第六十五ノ世界:誰にも言えない、言えるのは、貴方だけ



部屋に帰って来た匡華と村正。匡華は村正を彼自身が使っているベッドに誘導すると、特効薬を取りに駆けて行った。その様子をボーッと眺めた後、不意に、村正の瞳から涙が零れ落ちた。自分でも驚いたのか、村正は怪我した右手でその涙を拭おうとし、痛みで顔を歪めた。


「村正」


その声に顔を上げると特効薬の小瓶を持った匡華が心配そうな、それでいて優しい表情で村正を見ていた。匡華は村正の無傷な左手を取って、その手中に小瓶を軽く握らせると、彼の右隣に座った。二人分の重みを受けて、ベッドが軽く軋んだ。匡華は村正の涙にとやかく言うこともなく、黙ったままだった。じぶんが話し始めるのを待っているのか。そう思うと、やっぱり、匡華には敵わないと実感してしまう。僕()を救ってくれた、恩人には。

村正は流れる涙を放置して、言葉を紡いだ。


「……鳳嶺に、疑われました。敵じゃないかって。殺し合いの最中、凄まじい畏れとか出してるから、なんか疑心があったって……情報、が事実だった、って」


自分の声が震えているのを感じる。それでも匡華は焦らせる事もなく、頷いて相槌をうって聞いている。


「……"何者"って聞かれて、答えられないって答えました……だって、僕の事、知っても友人でいてくれるとは思えなくて、失うのが、怖かった…!でも、一番、痛かったのは、"鳳嶺が僕達を疑った事"……初めての友人だった、僕が悪いんですか?匡華。鳳嶺の問いに答えられずに己の心情を優勢した僕が悪いんですか?」


匡華にすがり付くように村正が問う。匡華は優しく、村正の右手を取ると微笑む。


「貴方は悪くない。無論、鳳嶺も。ただ、食い違ってしまっただけ。勘違いしてしまっただけ。大丈夫。もし、鳳嶺が本当に貴方を殺したいほどに敵と見なしていたら、私と千早の制止も聞かずに貴方を殺しただろう。でも、実際は大丈夫だっただろう?」

「…は、い」

「ね?だから、大丈夫。焦ってしまっただけだよ、二人共。きっと、鳳嶺にちゃんと話せば分かってもらえるさ」

「そう、ですか、ね?」

「嗚呼、きっとね。それに情報って云うのもどこかに矛盾や偽りがあるかもしれない。罠かもしれない……可能性なんて考えれば星の数ほどあるんだ。大丈夫。今は、ゆっくりお休み」

「………ッ、あ、あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!」


カラン、と村正の手から小瓶が抜け、カーペットが敷かれた床に落ちる。匡華の声は優しすぎて、今の村正には限界だった。止まることを知らない、水色の涙を流しながら村正は匡華の両肩に手を置いてしがみつく。それを振り払うことも、煩わしそうにすることもなく、匡華は受け止め、優しい笑みで彼の背中を擦った。

怖かった、辛かった。知られたら、幻滅される。そう思い込むほどに村正()は、その正体を隠す。それを知っているから、匡華は彼()を受け入れた。


匡華は優しく、一定のリズムで村正の背中を叩く。まるで、子供をあやすかのように。それが、「()()()」のようになっている村正には心地良かった。

鳳嶺が云うように、村正()は化物とも呼ばれた。その名は彼()が望んだものでは決してない。本音を言えば、()()()()()()()()()がそうさせていた。誰も歴史が間違っているだなんて、思わないでしょう?その裏の真実を、知る者は少ない。裏の真実の被害者でもある村正()………その話は、また後日にしよう。だが、良いことと云えば、間違いが正されて来ているということだろうか。


村正は泣き涸れた涙を拭い、落とした小瓶を拾い上げた。そして、まだ少し心配そうにしている匡華に今度こそ大丈夫、と軽く笑い、特効薬を一気に飲み干した。途端に、内側から傷を癒す痛みに襲われる。「()()()」に比べれば、痛くともなんともない。右手の傷が塞がっていく感覚。特効薬が治してくれるのは、殺し合いで出来た傷だけ。それが少し腹立たしくて、悲しい。右手の痛みが収まり、布を剥ぎ取る。そこには先程の傷はなく、綺麗な肌色があった。何かを決意するように右手をギュッと握り締める村正。そんな村正の右の肩にスルリと匡華の手が置かれた。その手を振り払うこともなく、村正が匡華に視線を移す。


「大丈夫。貴方は、化物なんかじゃない。私がそう、感じたんだからね。貴方は、貴方達は私の友人で仲間。そして、村正、貴方は私の唯一無二の相棒だよ。自信をお持ち」

「……ふふ、本当にあんたには敵いませんね……大丈夫です、すっきりしましたから」


ふふっと小さく笑いながら村正が匡華の頭を撫でる。匡華は村正の答えに満足そうに微笑むと村正に返していなかった刀を、自分の小太刀を帯刀している隣から引き抜く。切っ先には村正の血がついている…と思われたが、もう綺麗さっぱりなくなっていた。匡華が美しくも何かを宿す刃を指先で切らないように撫でる。そして、村正に渡した。刀を受け取り、村正は柄を確認するかのように握りしめた。次の瞬間、村正と刀を一瞬、黒い光が包んだ。優しくも美しく、それでいて暖かい。近くにいた匡華にも分かるほどだった。その黒い光は一瞬だったのですぐに消えてしまった。


「……変わりないようですね」

「嗚呼、そうに決まっているさ。貴方の事をよく知っている(その子)が、貴方を見捨てるはずないからねぇ」

「ふふ、そうですね…ねぇ(村正)


そう微笑んで村正は刀を優しく一撫ですると、鞘に納めた。立ち上がりかける村正を手で制止し、匡華が立ち上がる。不思議そうな村正に向かって匡華がクスリと悪戯っ子の笑みを浮かべ、口元に人差し指を当てた。


「落ち着いた所で、少し休憩でも入れよう。カインとアベル兄妹との闘いの後だし、千早とお話中のはずだしね。村正は此処で待っていな。紅茶淹れてくるから」

「はい」


匡華が言ったことに素直に村正が返事をすると匡華はよろしい、と頷いた。匡華の言い分は最もだ。すぐに行ってまた斬りかかられないとは限らない。

紅茶を取りに匡華が歩いて行く。その姿を見ながら、ふと匡華の小太刀に村正は目をやった。自分達とはまた違う、専用の性質を持っている小太刀。自分達と出会う前から持つその不思議な小太刀は、匡華の道筋を迷うことなく指し示す。村正は足を組み、その上に右肘をつくと頬杖した。


「本当、不思議ですねぇ…」


ふっ、と小さく笑う。匡華に言われると、本当にそうなる気がしてくる、大丈夫と云う気がしてくる。根拠なんてないのに、不思議とそう思う。

嗚呼、美味しそうな紅茶の匂いがしてきた。村正はなんなとく、文句を言われるのを覚悟の上でゆっくりと立ち上がると匡華の方へ歩み寄った。


「(だからあんたは……信じられたんだ)」


匡華の小太刀と村正の刀が風もないのに、何かを云うように揺れていた。


………………気づいた事言っていいですか?なんでウチはウチの子をよく泣かせるんじゃおい(自分に呆れ)。物語設定した当初は絶対に泣かない子だと思ってた子ほど泣く……なじぇ(ゲンドウポーズ)

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