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モノクロの蝶  作者: Riviy
第六章:不気味な色
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第六十四ノ世界:届かぬ思いは、



少し怯えたような村正を冷たい瞳で見送っていた鳳嶺に千早が気配で気付き、ギュッと自身の両手を握りしめた。あの目は、匡華に相談した時に言った目と同じだった。何故、こうなったのか。千早は思いきって鳳嶺に聞いた。


「鳳嶺、なんで村正さんを攻撃したの…?」

「なんでって、あいつが怪しかったから」

「……へ…?」


さも当たり前の事のように言う鳳嶺。その答えに千早は目の前が真っ黒になる錯覚を覚えた。喉から声を絞り出しながら、訊く。


「な、なんで、そう思ったの?」

「…俺が手に入れた情報には匡華と村正の能力や異名があった。それに、前々からあの二人には疑心があったんだ。殺し合い中に漂う凄まじい畏れ、オーラ、殺気。俺達以上の、鬼である俺ですら分からない異常な気配。"何者"か。それを聞いた時、村正はなんて言ったと思う?"答えられない"。答えられない事があるのは百も承知。だが、あの様子は異常だ。絶対に何か隠してる。疑心しかないんだ……信じられないんだよ、疑って。あいつは…あいつらは千早が生き残るための障害でしかない。だから、殺られる前に殺ろうとしただけだ」


鳳嶺の主張に千早は心の底から怒りが沸き上がっていた。何故、友人で共犯で仲間である二人を、仲の良かった人をすぐに疑える?コロッと手を返してしまえる?私には、理解出来ない。視えないからじゃない。()()()()()()

鳳嶺は懐からある封筒を取り出した。千早にとっては自分を見た後に必ずと云っていいほどに見ている何かだ。その封筒から紙を取り出し、鳳嶺は千早に笑いかける。彼女の顔が強張っている事になど、目が曇り始めている彼には分からない。


「匡華の異名知ってる?『無垢の白銀』って云うんだと。二人の能力は『白蝶』と『黒蝶』……思い当たる節、あるだろ?能力。あの、人を超越したような力は能力じゃなきゃ、ほぼあり得ないし……「それ、いつも鳳嶺が見てた情報なの?」嗚呼、情報がぴったしで、疑心がまさった。だから、疑った」


封筒に紙をしまい、懐にしまい込んだ。一瞬、封筒を触った時、胸が何故か痛んだ。その痛みが誰に対しての痛みかは、鳳嶺には理解出来なかった。すでに村正を敵と見なし、裏切りと見なしていたから。鳳嶺にとって事実は、何処なのだろうか。千早は、悲しさと怒りが入り交じった不思議な感覚だった。信じてた、信じてたのに……その感情が誰に対してか。千早には理解出来た。

鳳嶺はポンと千早の頭を優しく撫でながら微笑みかける。その笑みは、()()()()()()()()


「大丈夫。千早の事は、俺が守ってみせる」


その途端、千早は鳳嶺の手を振り払うと彼の頬を思いっきり平手打ちをした。鳳嶺は茫然とした表情で千早を見つめ返した。その時の千早の瞳には怒りと悲しみが宿っていた。一方、鳳嶺の瞳は冷たい。千早は、目尻に少量の涙を溜め、それを振り落とすほどに力強く叫んだ。


「酷いわ鳳嶺!匡華さんや村正さんがあなたに何をしたと云うの?そりゃあ確かに、人じゃない力だなって、殺気凄いなって私も思わなかった訳じゃない。初めて代表者全員が集まった時だって、沙雪(あの女性)の殺気や畏れに私は震え上がった。けれど、あの二人は普段通りで、それよりもとっても凛々しかった…だから私は、あの二人と友人になりたかった。鳳嶺だって、村正さんに親近感を感じたから私に同意してくれたんでしょ?」

「……嗚呼、そうだよ。でも…」


千早の言葉に一度は同意した鳳嶺だったが、その思考も瞳もほぼ完全に疑心へと傾いていた。千早は冷たい、怖い瞳をする鳳嶺を見上げ、ギュッと拳を握りしめた。途端、彼女の感情と共鳴して『闇』が美しく周囲に漂う。その様子に鳳嶺の肩が一瞬、震えた気がした。千早は一度、俯いた。鳳嶺の途切れた言葉の続きが容易に想像出来て、心が痛い。自分の能力で誕生うまれた。けれど、感情や表情は、夢で出会ったまま。私が、そう願ったから。成長したのは、鳳嶺だけじゃない。私は、鳳嶺あなたにこの思いをぶつける。それで考え直してくれるなら、思い直してくれるなら、私はーーー

千早は息を吸い込み、叫んだ。心の内を、愛しい彼に届くように。


「あなたは、私が夢で出会った人物ひとで、私が呼び出した。だから、なの?ずっと一緒にいたから、私の事は微塵も疑わないの?ずっと住んでた人達も疑わないの?……そりゃあ、匡華さんも村正さんも別の世界の人よ。それに私と同じ代表者で。でも、私を友人として見てくれた。代表者じゃなくて、みんなと同じように見てくれた。私はそれが嬉しかったの。鳳嶺も、そうだったんじゃないの?村正さんと話してる鳳嶺は、とても楽しそうだったわ。村正さんだって、殺気を放ってたりする表情じゃなくて、心の底から楽しそうだった。そんな二人を見て、匡華さんも楽しそうに、嬉しそうに笑ってたわ。それが、私は嬉しかった、束の間の、〈闘技場ここ〉での幸せだった……ねぇ、その束の間の幸せを鳳嶺の疑心が壊そうとしてるの。友人としての絆を壊そうとしてるの………何言ってるか分かんないかもしれないわね、私、匡華さんみたいに頭良くないなから。でも、これだけは言わせて………わっちの事は一回も疑んせんし傷つけありんせんくせに他人(友人)の事は簡単に疑うのね!」


ブワッ!と『闇』が鳳嶺を睨み付けた千早を覆い隠す。千早の言葉に鳳嶺はぐっと思い止まり、胸の服を手で握りしめた。途中から支離滅裂になっているかもしれないが、千早の言いたい事はよく分かる。けれど……


「……僅か頭を冷やした方がいいわ」


そう言って千早は美しくも漂う怒りの『闇』を纏わせながら早足に闘技場を出ていく。と、鳳嶺が言わんとしていることが分かったのか、扉付近で鳳嶺を振り返ると言い放つ。


「大丈夫、一人で帰れるわ」


そう言い放ち、颯爽と闘技場を出ていった。それに茫然としていると、鳳嶺は別の気配に気づいた。扉のところにいる、情報をくれた相手。千早と鳳嶺の会話を聞いていたのか、悲しいよね、と言わんばかりの表情で鳳嶺の傾き始めた心を貫く。


「残念。アナタは彼女のためを思っての行動だったのに。でも、大丈夫。ボクは()()だから。アナタは間違ってなんかないよ」


ゆっくりとその相手は鳳嶺に近づくと俯く彼を下から覗き見る。彼の浅紫の瞳に微かな黒い光が混じった。それに相手は、満足そうに笑う。親しみ深い、好意的な笑みで。


「だって、ボクーーーー」


鳳嶺の傾き始めた心は、少し片方に沈んだ。そして、鳳嶺の周りを紫と黒の煙が微かに包む。それを見て相手は再び笑う。ご存知だろうか?この相手、アーギストは()()()()()、と。


平手打ちって、ある意味便利ですよね

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