第五十五ノ世界:情報探索
結論から言うと、桜丸、ヘレーナ、茉亞羅が使っていた部屋を懸命に探したが、情報はなにもなかった。特効薬で傷を治してからも探したが、やはり何も出ず。四人は肩を落としながら最後の部屋、朱雀の部屋である扉を押した。
「………さすが強者だった者、とでもいうのかな?和室だらけって」
「というか全て畳ですよね」
扉を開けた先は驚く鳳嶺と村正の言う通り、和室だった。と云うよりも床が全て緑色の畳で敷き詰められている。例外は扉を開けてすぐの、靴を脱ぐスペースであろう場所と風呂場、風呂場へ続く扉である。何故か扉は洋式仕様だった。よくわからん。部屋の奥にはきちんと畳まれた布団とちゃぶ台に、座布団。壁には何が書かれているか達筆すぎて不明な掛け軸が掛かっており、その前には美しい赤色の花を基調とした生け花が鎮座している。畳、と云うか和室に戸惑う匡華を横目に村正、千早と鳳嶺がさも当たり前のように靴を脱いで中に入って行く。その光景にも驚いている匡華に気付き、千早が匡華の元へと近づくとその手を取った。
「匡華さん、靴を脱いで上がって」
「あ、嗚呼…」
千早にそう促され、匡華は靴を脱いで畳に恐る恐る足を上げる。いつもは頼りになる匡華のちょっと意外な様子が微笑ましくて、千早は終始クスクスと小さく笑いながら匡華をエスコートした。いつもなら鳳嶺にしてもらう行為を友人である匡華に出来て、千早は嬉しそうだ。そんな二人の周囲には花が舞う、ほのぼのとした幻が見え、村正と鳳嶺は顔を見合わせてクスリと笑った。暫くしてようやっと、部屋の中央であろう場所に辿り着いた。
「じゃあ、此処に情報が眠っていることを願って探そうか」
「私、お布団のところ探してくるわね」
「それじゃあ俺は風呂場」
「僕は居間を調べますね」
此処に来るまで計三回も同じ事をやっているので三人の動きは的確で素早い。彼らの動きに頼りになるなと、感心していると匡華は生け花と掛け軸があるところから調べ始める事にした。生け花の横を水を溢さぬよう慎重に体を滑り込ませ、掛け軸を捲る。掛け軸の内側にも壁にも情報らしき物体はない。匡華は明らかに残念、と云うように肩を落とすと掛け軸を元に戻す。と生け花が匡華の目に止まった。
「(……まさか、な)」
こんな水が張られた花器の中や底、花に情報があるはずがない。そう思いながら、匡華は念のため、と生け花の前に回り込むとしゃがみこんだ。と、花器の底になにかを発見した。袖を捲り、左側によっている生け花にぶつからぬよう慎重にそのなにかを取り出す。水の中から出されたそれは透明な袋に入った封筒だった。袋は防水加工のようで中の封筒は水に濡れていない。匡華は袋を開け、中の封筒を取り出す。封筒には封がされておらず、すぐに開いた。中に入っていた四つに折り畳まれたA4サイズの紙にチラッと目を通して、匡華は叫んだ。
「あったぞ!」
「本命?」
近くにいた千早が匡華の手元を覗き込む。が、見えないので怪訝そうに眉を潜めた。匡華がくるりと千早の方を振り返るとちょうど村正と鳳嶺が帰って来た。鳳嶺は匡華と同じ事を考えていたのか右腕の長い袖を捲っており、水に濡れている。ピッピッと腕を振って水を払う鳳嶺の隣で村正にその水しぶきが飛ぶ。不機嫌そうに顔をしかめる村正と悪戯成功とニヤリと笑う鳳嶺。匡華と千早は小さく笑う。全員が揃った。
「何処にあったんですか?」
「水の中だ」
「なんでそんなとこに置くんだよ神様…」
「まぁあの神様だものねぇ」
あきれたように目元に手を当てて天井を仰ぐ鳳嶺に、千早が苦笑しながら言う。確かにあの神様だ。洗面所の鏡に情報を配置したあの神様なのだから、普通の場所にないのは当然だ。水の中、なのは驚いたが。匡華が情報が書かれた紙を覗き込んでいた村正と鳳嶺に見せると、二人は顔を見合わせ、ニィと笑った。それが意味するのはただ一つ。気配を感じ取った千早も嬉しそうに笑い、両手を合わせた。
「本命だったのね!」
「嗚呼、それじゃあ読み上げようか」
しゃがみこんでいる匡華の隣に座り込み、千早が急かす。村正と鳳嶺の二人は座り込む事もせずに軽く腰を曲げて覗き込むような態勢を取る。全員が聞く姿勢を取った事を確認し、匡華は紙に記された情報を読み上げた。
「世界:〈地獄感染〉 異名:『方舟を壊した者』 代表者:ノア・カイン 能力:『感染者』……おお!嬉しい事に能力の内容まで載ってる。無造作に配置されていると云うが、これはありがたい」
「内容まで?本命中の本命ね!」
千早が急かすように匡華の肩に手を置いて発見を素直に喜ぶ。匡華はその喜び様がまるで子供のようだと思い、小さく微笑んだ。と、二人を見やる村正と鳳嶺に気付き、その視線の意味にも気づいた。ので、情報を読み上げるために紙に目を移した。
「能力:『感染者』…自分が攻撃、または攻撃された相手の傷口から能力、生を吸い取り、自身の眷属、僕にする能力。吸い取ったもので回復も可能であり、攻撃も可能。ノア・アベルはノア・カインの能力の被害者である……生は理解していたが能力までとは…」
能力の内容まで手に入ったのは嬉しいが、まさかの情報に彼らは言葉を失った。実際に、生を吸収する場面は匡華と村正、千早と鳳嶺は目撃している。そして傷口を覆う…隠せばカインの能力は途中で中断される。それを実践しているため、恐らく唯一の弱点と云うことは理解済みだ。そして、カインとアベルの関係も。
「能力は、傷口のように隠すしかありませんね。恐らく同じ仕組みでしょうし」
「そうだな。しかし、二人の関係は、複雑だな」
村正が腕を組みながら言うとそれに鳳嶺が付け足す。そう、仕組みは分かった。脅威であることも分かった。厄介な能力、代表者であると云うことも。それは一度闘ったからでもあるし、情報があるからでもある。こちらが一歩有利になった状態だ。だがそれで、絶対に勝てるとは言えない。何事にも。
「ん~そうね。アベルがカインに向けていた感情はそういうことなのでしょうね。兄妹だけど、被害者。複雑ね」
千早が悲しそうに言う。そんな彼女の頭を鳳嶺が優しく撫でると、千早はその手にもっと撫でてと言わんばかりに頭を擦り付けた。それには鳳嶺もさすがに驚いたらしく、ビックゥと驚いた。クスクスと笑う村正を軽く睨みながら鳳嶺は千早の頭を撫でている。そんな彼らを見て、微笑ましく思いながら匡華は立ち上がった。防水加工の透明な袋はいつの間にか傍らから消えていたが、情報は消えていない。微笑ましい彼らを横目に、内容を頭にインプットした。村正と鳳嶺の視線も紙に注がれており、文章の内容をインプットしたのは容易く理解出来た。匡華は二人がインプットしたであろうタイミングで封筒に紙を入れ、懐にしまいこんだ。千早が鳳嶺の手を借りて立ち上がり、それを期に、全員がしっかりと立つ。
「情報を見つけれた事だし、部屋に戻ろうか」
「そうですね。僕達と同じ事を考えた代表者が来るとも限りませんし」
匡華と村正がそう言う。千早と鳳嶺も同意らしく、力強く頷く。匡華が右手を差し出してお先にどうぞと促す。千早がまるで見えたかのように「ありがとう」と微笑んで鳳嶺を見上げた。気配で感じ取ったにしても、本当に千早は凄い。鳳嶺が優しく彼女をエスコートしながら扉に向かって行く。その後に村正が軽く頭を下げて続き、匡華が続く。匡華は行く前にチラリと情報があった生け花を振り返った。そして、掛け軸を見る。達筆すぎて読めないが、なんとなく朱雀好みの事が書かれているのは理解出来た。匡華は小さく笑い、彼らの後を追った。
追記だが、情報が書かれた封筒は時間が立てば朝食のように勝手に消えるようで、消えてしまった。何故かは知らないが、恐らく神様の気紛れだろう。千早と鳳嶺の部屋にあった情報も気づいたら消えていたし。まぁ、内容をインプットしていたのでなんら問題はなかったが。が、
「「消さないでください!!/消すなよ!!」」
と云うのが正直な心情である。
うえーい絶賛スランプ中ー(棒)




