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モノクロの蝶  作者: Riviy
第五章:別れた愛と憎しみの兄妹
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第五十四ノ世界:無理です撤退



しばらく闘った。結果、カインの殺戮具合に匡華達が本気で引き始めた。女性が匡華に相手を擦り付け、逃げる気持ちもよく分かる。

千早と鳳嶺が匡華と村正のところに来ると千早が匡華にすがりつき、震える声で叫んだ。


「なにあの子怖い、怖いんだけど!なんかこう、半端なく怖い!」

「落ち着け千早」


ぶるぶるとカインの殺戮具合に震える千早の頭を匡華が落ち着かせるように優しく撫でる。あの後、一度、カインとアベルが交代し、対戦相手が変わったのだがカインの殺戮具合は相変わらず。急所を的確に狙ってくるわ、狂気じみたオーラを漂わすわで千早が怯え、鳳嶺の顔がひきつるほどまでになっていた。


「アッハハハハハ!!!殺し足りねぇなぁ!?逃げんじゃねぇぞ獲物が!」

「兄さん、あたしだったら逃げるからね。兄さんの能力がなかったら………兄さん殺すのにね」


突然のアベルの憎悪に匡華達は驚いたようだった。が、依然としてアベルはニコニコと愛らしい笑みを浮かべているし、憎悪を向けられたカインに至ってはそんな彼女を恐ろしいほど優しい目で見つめるだけである。本当にある意味どうなってやがる、である。千早が思い出したかのように匡華と村正の間に行きながら小声で言った。その間、鳳嶺は兄妹を見張っている。


「あのね、アベルって子が言ってたんだけどあの子、カインが死なない限り死ねないし死なないの。兄である彼の能力らしいわ」

「…二つ持ちかそれとも能力自体の効果か。やはり一度情報を求めに行った方がいいな」


千早の情報を元に匡華がそう言うと村正が鳳嶺と共に警戒に当たり始める。カインとアベルはこちらの様子をーと言ってもアベルがー窺っているらしく、動きを見せない。三人の話を聞いていた鳳嶺が拳銃に銃弾を込めながら聞く。


「退却?」

「そうですね…匡華のアレで逃げても良いですがあの人間が、みすみす見逃すとも考えられません」

「アベルは見逃してくれそうだけどな」


鳳嶺の付けたしのような言葉に村正が小さく笑った。あの女性の一例を指しているのは容易に分かったし、「匡華のアレ」とは能力の事だろう。そう考えて、鳳嶺の脳裏にあの情報が浮かび上がった。

村正と鳳嶺がカインとアベルを警戒しつつも誰かが逃げ道を作る時間を稼ぐ。アベルはなにか考え込んでいるのか、視線が四方八方に飛んでいる。と、その時カインが動いた。大きく跳躍し、村正に向かって片手に纏めた短剣とナイフ、もう片手に持ったダガーを振り下ろした。それより一拍早く、拳銃でダガーを持つ手首を撃ち、ダガーを弾き飛ばした。だがそのまま、カインは村正に向かって降下。ガキンと甲高い音が響く。村正は二つの刃物をそのまま防ぐとバッと振った。後方に後退するカインと入れ替わるようにアベルが前のめりにるように素早く迫る。迫られたのは、鳳嶺。一踏みで鳳嶺の顔面に迫るとアベルは片手を上に掲げた。とそこへちょうど良いタイミングで先程、鳳嶺がカインから弾き飛ばしたダガーがその手中に収まった。そしてその二本のダガーを鳳嶺に振りかぶり、振り切った。拳銃で辛うじて防ぐ。村正が横から援護に入るため、アベルに向かって蹴りを放つ。その一撃を脇腹に受け、つまずくようによろめきながら苦痛の表情で移動した。すると、鳳嶺の視界の隅ににっこりと笑った千早が写った。その笑みを理解した鳳嶺は、村正の腕を引っ張った。村正が何事だと彼を振り返り、理解したようで二人は妖艶に微笑んだ。それに気づかないのはカインとアベルの兄妹のみ。


「こっちを向けっっっ!!!」


その時、匡華の大声が響き渡った。その声にカインとアベルが匡華と千早を見る。アベルがハッとしたが、


「遅いわ」


千早が妖艶に微笑んだ。千早が両手に纏わせていた靄をカインとアベルの目元目掛けて放った。目眩ましだ。靄は二人の目を覆い、視界を防ぐ。その間に匡華達は撤退を試みる。目が見えないながらに刃物を振り回すカインと目元を抑え、苦痛にもがくアベルの隣を素早く通り過ぎる。匡華が近くの部屋の扉を開き、二人に聞こえるほどに大きな音で閉めた。所謂、囮だ。だが聴覚だけでとらえた獲物にカインはほぼ一目散に駆けて行った。匡華達はできる限り気配を消している。


「兄さん!動いちゃだめ!」


走る背後でアベルの憎々しげな、それでいて歓喜している、不思議な叫び声が響いていた。


…*…*…


普段自分達が休息に使っている部屋があるところまで全速力で走ってきた彼らは、暫くの間、息を整えていた。四人分の荒い息が静かな空間を支配する。


「なんとか、逃げれたかしら……?」


千早が走って乱れた胸元の着物を直しながらそう聞くと村正が静かに背後を振り返った。カインとアベルが追いかけて来ている気配はない。村正が不安そうな彼らを向き、大丈夫だと頷いて見せる。千早と鳳嶺がホッと胸を撫で下ろす。匡華が額から落ちてきた汗を袖口で拭いながら言う。


「あの二人の情報が確実に欲しいな。カインの能力が厄介すぎる」

「そうだな。カインの能力が分かれば、アベルを倒す方法もおのずと分かる……でも無差別に置かれているんだろう?どうやって特定の人物(情報)を探すんだ?」


匡華の提案に鳳嶺が疑問を投げ掛ける。それに匡華は問題ないと言わんばかりに近くの部屋の扉を指差した。自分達が使っている部屋と色形は同じだが、扉に施された模様がそれぞれ違う事に彼らは気づいた。どうして今まで気づかなかったのだろう。と云うか、扉の表面の模様だなんてそんなに詳しく見る訳もないので気づいた匡華も匡華で凄いのだけれど。その事実に村正と鳳嶺は自分達の背後や左右にある扉を振り返る。やはり模様が違う。匡華が指差した扉には十振りの刀が交差し、その中央に分厚い本が刻まれている。村正が振り返った扉には今にも飛び立ちそうなほどに立派な龍と美しい桜。鳳嶺が振り返った扉にはたくさんのお菓子。その模様が示すのはただ一つ。


「分かりやすいようにその世界のモチーフか、代表者自身を表すものが扉に刻まれていたんですね…恐らく、僕の前にあるのは桜丸と樹丸が使っていた部屋でしょうね。模様を見るに」

「じゃあ、俺のはヘレーナか」

「???ねぇ、どういうこと?」


なるほどと納得している村正と鳳嶺を横目に理解できていない千早が匡華に問う。


「恐らく、神様は分かりやすいように扉に印を付けた。その印を見ると消滅した世界の代表者が使っていた部屋はまだ残っている。まだ代表者がいると思われる代表者の部屋を家捜しするよりは、家主のいない部屋で情報を探した方が効率的で安心、と云うことだよ。まぁ、情報がない可能性もあるし、求めている情報ではないかもしれないがね」

「そう云う事なのね。でも、なんで残っているの?」


匡華の説明を聞き、千早は納得した様子だったが疑問がまだ残っていたらしく、少し悲しそうに尋ねた。その問いに「恐らくですが」と腕組みをしながら前置きをした後、村正が答えた。


「代表者がまだ残っているからではないでしょうか。それに、神様は"無造作に情報を配置した"と言っていました。つまり、家主がいなくなった部屋にも情報を配置した可能性があります。配置した手前、早く人を減らすために部屋をそのままにしているのでしょう」

「好都合ちゃあ好都合だな」


村正と鳳嶺が「なー」と顔を見合わせてそう頷き合う。そんな二人の仲良さげな雰囲気に千早が少し頬を膨らました。が、その表情には嬉しさが滲んでいる。そんな二人と千早を匡華は微笑ましく思い、彼女の頭を小さく笑いながら撫でた。


「じゃあ、早く見つけましょ。治療もあるし!」

「それなら、僕が特効薬を取って来ます」

「嗚呼、分かった。頼んだよ」

「んじゃ、俺達は何処から行く?」


いまだ少し膨れている千早の手をクスクス笑いながら鳳嶺が取りつつ言う。それに匡華はうむ、と顎に手を当てて悩むとぐるりと周囲を見渡し、うんと頷いた。村正は匡華達のこの後の様子を確認してから特効薬を取りに行くようで、いつでも動ける用意をしている。匡華はビシリとある部屋を指差した。その扉に刻まれているのは龍と桜。そう、〈ドラゴン・ライン〉代表者、桜丸の部屋である。


「此処から行こう」


そう言って匡華はドアノブに手を伸ばした。


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