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モノクロの蝶  作者: Riviy
第五章:別れた愛と憎しみの兄妹
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第五十ノ世界:朝の色



「〈イヴィル・リベリオン〉を消滅した」と神様が宣言したその翌朝。匡華は洗面所で顔を洗った後、水が滴るのも気に止めず、顔を上げて鏡を見た。寝起きで、水浸しの顔の匡華が鏡の中でこちらを薄桃色の瞳で見つめている。片手で近くのタオルを取って顔を吹きながら、匡華は考えていた。

何度も思っていた事なのだが、本当に世界は消滅したのか?外、世界同士を行き来できる手段を持たないため、消滅したと云う世界へ行こうにも行けない。この〈闘技場〉から他の世界への通信手段もない。夜空さえもが人工的に作られたこの世界では、それを知るすべはない。伽爛のような能力があれば、匡華じぶんでも確認できるのだろうが。


「(神様にでも聞いてみるか?いや、それがルール違反だなんて言われたら元も子もないか……けれど)」


匡華は顔を拭いて、軽く息を吐くと思考を中断した。そして、いつか聞こうと考えた。神様に問うのは、ある意味一発で崖っぷちに陥る。前回は自分達がある意味崖っぷちにまで追い詰めたが、相手は神様。千早が心配して怒ってしまうように、注意しなければならない。とりあえず、この課題は頭の隅にでも置いておこうと匡華は考えながらタオルを畳む。他の世界の様子が探れないのは日常茶飯事、いつもの事なのだ。消滅の事実を考えると、自分の行動に遅れが生じ、こちらに危害が及ぶのは確定だろうし。殺し合いの勝敗で命が消えるのはどちらにしろ確定済みなのだ。

今のところ、十一人ー能力での誕生抜かすー中四人と、同じく十一中四つが消えている。気を引き締めて行かなくては。パンと軽く両頬を叩いて気合いを入れ直すと匡華は畳んだタオルを近くの籠の中に入れ、洗面所を出た。


「おはようございます、匡華」

「嗚呼、おはよう村正」


部屋に戻るとベッドの縁に座りながら、長い髪を纏めようとしている村正がいた。匡華と村正はそう挨拶を交わす。今は午前七時。時間帯的には代表者達が起き出し、早い者は広間で朝食を摂っている時間だ。これから二人も千早と鳳嶺と合流し、朝食を摂る予定だ。匡華はベッドの上に置いていた小太刀を手に取ると慣れた手付きで帯刀し、村正を振り返った。村正は口で簪を持ちながらポニーテールに髪を纏めており、頬に垂れた色の違う一房や彼に当たる暖かくも優しい光、簪の持ち方など、その姿は色っぽいと云うよりも妖艶であった。この部屋には明かり取りーと言っても太陽の光さえ人工的だろうがーの小さな窓が二つあるが、そこから入る光がなくても妖艶の一言。匡華がその姿に少し見とれている間に村正は髪を纏めて結び終わったらしく、仕上げとして結び目に簪を挿していた。簪からは美しく華と蝶が揺れ動いた。村正が傍らに立て掛けておいた刀を手に取り立ち上がると、惚けていた匡華を振り返った。村正が怪訝そうにしていると我に返った匡華はクスリと笑った。


「?匡華?」

「ふふ、ふふふ。いや?村正は相変わらず、格好いいと思っただけだよ」


村正の横を通りすぎながら匡華がそう云う。村正は一瞬、キョトン…とした後、その意味が分かり、頬が紅く染まった。既に匡華はクスクスと楽しそうに笑いながら扉のドアノブを捻り始めている。村正は慌てたように匡華を振り返った。が、楽しそうな匡華に何も言えなくなり、肩を竦めた。そちらに行きながら自身もクスリと笑う。


「本当、匡華には敵いませんね」

「おや、私にだって村正に敵わない事があるんだよ?」

「へぇ?気になりますね」


扉のところへ辿り着いた村正に匡華が笑いながら言うと彼も笑う。匡華の頭の上に手を置いて閉じようとー何故かー意地になっている扉を村正が抑え、匡華を先に行かせると自分も部屋を出た。


…*…*…


ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーンと殺し合い開始の鐘が鳴り響く。千早と鳳嶺と合流し、朝食を摂った彼ら。殺伐とした雰囲気が広間に漂う。匡華は視界の隅にあの青年達を見つけた。闘う相手がいるのか否や、オドオドとした少年が出て行くのに続くように、広間から出て行った。そうこうしているうちに匡華達四人以外の代表者全員が広間から出て行っていた。


「誰も来なかったわね」


千早がホッと胸を撫で下ろしながら言い、笑みを作る。それを横目に鳳嶺が「でも」と口を出す。


「そう言ってると来るんだよ、相手」

「鳳嶺、それフラグです。言わなければ成立しなかったものを」

「俺のせいか!?」


村正の言葉にテーブルを力強く叩きながら鳳嶺が言う。まさかテーブルを叩くとは思わなかった村正は一瞬目を見開いた後、クスリと笑った。鳳嶺はハッとしたように含み笑いで肩を竦めながら席につく。千早も村正や鳳嶺につられたのか、鳳嶺を宥めながら「まぁまぁ…クスッ」と笑っている。いつもの事なのだ。変わらぬ風景と云うかやり取りに匡華も小さく笑い、村正と顔を見合わせて笑う。その匡華と村正の笑みを鳳嶺が気づかれぬよう横目で見やった。千早が鳳嶺をどうしたの?と見上げる。それを鳳嶺はなんでもないと云うように彼女の頭を優しく撫でた。千早が嬉しそうに、それでいて恥ずかしそうに笑いながら身を捩る。それを見ていた匡華がテーブルに頬杖をつきながら言う。


「本当に、千早は鳳嶺が大好きだよね」

「だっ?!ち、違う!違うのよ匡華さん!」

「とても否定しているとは思えませんけどね、そのにやけきった顔…鳳嶺もですよ」

「!?……」


突然、自分に振られた鳳嶺は驚いたようで千早と同じように頬を染めた。だが二人は顔を合わせず、それぞれ明後日の方向を向いた。それにからかいすぎたと匡華も村正も思い、素直に謝る事にした。


「からかいすぎたね、悪かった」

「こちらもすいません」

「謝らないで二人共!」


千早が頭を下げた二人に頭を上げるよう慌てて促す。そして、匡華の方へ席を立って歩いて行くとチョイチョイと耳を貸してと手で示す。匡華が不思議そうに首を傾げながら千早の方へ耳を貸す。すると千早は小声で少し寂しそうに言った。


「でも、ありがと匡華さん。隠さなきゃいけないけれど、こんなんだから無理なの」

「嗚呼……貴女達の世界の性質かい?」

「んん~性質って云うか。私のせい、かな」

「千早の…?嗚呼、そう云うことか」

「ね?ふふ、だから此処では、自由でありたいの」

「……ごめん」

「謝らないで匡華さん。私が鳳嶺に謝らなくちゃいけないのよ、本当は」


悲しそうな表情の千早の頭を匡華が優しく撫でた。その優しさに千早は甘えながら匡華に抱きついた。突然の事で匡華は後ろに倒れそうになり、それを慌てて村正が支えた。匡華は顔だけで村正を振り返り、支えてくれたことに礼を云う。鳳嶺も慌てて立ち上がったが、村正に大丈夫だと促されて席に戻った。安心した表情で。

匡華は小さく「ありがとう」と呟く千早の背中を優しく擦る。千早と鳳嶺の出身世界が〈吉原の華〉と聞いて大体は予想出来た。聞いたことがある。「吉原を中心に発展した花魁と軍人の世界」だと。匡華はその世界の事情を詳しくは知らない。けれど、恐らく、そう云うことなのだろう。そう思いながら匡華は千早の背中をさすった。と、鳳嶺の嫉妬したような視線を受け、小さく笑った。嗚呼、貴方もか。そうして千早を優しく引き剥がす。千早も落ち着いたらしく、いつものように可愛らしい笑みを浮かべていた。



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