第四十六ノ世界:読めたのは、詠めた
茉亞羅は匡華に向かってナイフを振った。それを上体を反らしてかわすと匡華は小太刀を茉亞羅に振った。ガキンと二人の刃が交差する。茉亞羅がナイフを少しずらして小太刀からナイフから外すと態勢を低くして匡華の足を刈る。が、それを後方に倒れながら床に片手をついて回転しながらかわされる。茉亞羅が態勢を戻すよりも早く、村正が彼女の懐に潜り込む。村正は茉亞羅に向かって刀を横に振る。その一撃をナイフで防ぐが、村正の追撃はそれよりも早く、茉亞羅の左肩に刀が食い込んだ。茉亞羅が痛みに顔を歪める。と後方に自分から下がり、左肩から刀を抜く。
そして床を強く蹴り、上へ跳躍すると上段から村正に向かってナイフの切っ先を突きつける。上からの素早い攻撃を横にずれてかわすが、右頬に浅い一線が刻まれる。床に着地した茉亞羅はそのまま村正に向かって回し蹴りを放ち、蹴りを次々放つ。それらを刀を逆手持ちにして、両腕をクロスさせて顔に向かって放たれる蹴りを防ぐ。凄まじい勢いで蹴りを放つ茉亞羅の勢いから逃れれるように村正は少しずつ後退って行く。村正は横目に匡華を探し、ニヤリと笑った。村正は茉亞羅が首を傾げ、攻撃と攻撃との隙間を開けたそのタイミングで刀をきちんと持つと彼女の顔面目掛けて刀を突き刺した。それを首を傾げる要領でかわすと再び、足を蹴り上げた。その一蹴は村正の右肩を直撃し、茉亞羅の踵が村正の右肩に乗っかるような形になっていた。
村正が突然、態勢を低くすると突然の事に驚いた茉亞羅が無防備で落ちてくる。脇腹に向かって回し蹴りを放ち、茉亞羅を吹っ飛ばす。何も出来ずに飛んで行く茉亞羅に素早く攻撃すると茉亞羅も負けじと攻撃。数秒間の出来事だった。浅い傷がそこかしこに刻まれた村正と深い一撃と浅い一撃を持ちながら飛んで行く茉亞羅。茉亞羅は飛ばされた先にあった反対側の壁に足を付け、クルンと回ると跳躍した。
とそんな茉亞羅の目の前に上から匡華が降ってきた。小太刀がギリギリで茉亞羅の目を貫きそうになり、顔面蒼白で茉亞羅は壁にへばりついた。グサッと床から小太刀を抜き、ナイフを振った茉亞羅から素早く身を引き、腹に向かって蹴りを放つ。それをナイフを振ったために前のめりになっていた茉亞羅は真に受け、壁に頭と背中をぶつけた。
「カ…ハ…何よ、さっきの。危ないじゃない!」
匡華の足で壁に固定されながら茉亞羅が怒鳴った。茉亞羅は匡華の足をどかそうと殴ったり、ナイフの柄頭で攻撃したりと必死だ。辛うじてナイフの刃で刺す、と云うことが思い付かないほど怒っているようだ。危ない、か、と匡華は嗤った。と嗤って気づいた。嗚呼、まるで村正のようだ、と。
匡華は足に来る鈍い痛みに顔を歪めながら小太刀を握る。
「殺し合いにおいて、"危ない"は命取りだよ?」
「ふふ、そうね!」
匡華の言葉に茉亞羅はクスリと笑い、足を振り上げ、匡華の足を自分の足で外した。まさかの事に驚く匡華はそのまま小太刀を振りかけ、
「『欲罪・傲慢』!」
その、勝ったとで云いたげな声をあげながら茉亞羅は両手を匡華に向かって突きつけた。ナイフを辛うじて避けたが脇腹に少しかすった。匡華は壁に片足を付け、回転する要領で茉亞羅の次の攻撃を避けようとする。が、
「(またか)」
また「読めない」。読めないのは気配も行動も、全て。まるで匡華の前に薄いヴェールがかかっていて、目の前が霧に覆われて見えていないように。目の前に回り込んだ茉亞羅がー恐らくー透明なナイフを匡華に突き刺す。途端、茉亞羅はギョッと目を見開き、驚愕した。何故なら、匡華が透明なナイフを素手で掴んだのだ。匡華は左手で透明なナイフの形を血で露にすると愉快げに笑った。そして、驚く茉亞羅の透明なナイフを自身の方へ引き寄せる。呆然としていた茉亞羅は容易く匡華の胸元へと飛び込むようにやってくる。匡華は透明なナイフから手を離し、茉亞羅に気づかれぬように小太刀を持つ。そうして、彼女の耳元で囁いた。
「二度もその手を食らうとでも、思ったかい?……甘い」
「ッ!」
茉亞羅が我に返り、匡華から距離を取ろうとする直前、匡華の攻撃が炸裂する。深い傷を負っている左肩を容赦なく切り裂き、彼女の体にバツ印が刻まれる。口元から血を吐き出す茉亞羅は鬼の形相で匡華を睨み付ける。匡華の小太刀には赤黒い血のような色をした透明な小さな蝶が妖艶に舞っていた。茉亞羅は匡華に向かってナイフを振り、壁に追い詰めるが匡華は頭上へ跳躍し、その一撃をかわす。
「『欲罪・強欲』!」
茉亞羅が自分の頭上を回転しながら通過する匡華に向かって叫ぶ。匡華が着地した途端、その足元の床から粒子が吹き出し、匡華を包み込んだ。匡華はその粒子を小太刀で振り払い、後退。頬や腕に紅い一線が出来ていた。あの粒子が刃物のように鋭かったためだ。茉亞羅がその粒子を突っ切って匡華に迫る。粒子は茉亞羅のナイフに纏う。茉亞羅が匡華に迫る、とその間に村正が滑り込む。ガキ、と刃物同士を擦り合わせる金属音。村正がナイフごと彼女を弾くとその横から茉亞羅に向かって匡華が蹴りを放つ。その一撃を軽く頭に受けながら茉亞羅は後方にクルンと後転しながら距離を取る。両者が軽く睨み合った。
今日は二つです




