第四十五ノ世界:影との一戦
もう一人の茉亞羅、長いので影と呼ぶが影は鳳嶺に目もくれず、千早に直進してきた。それに気づいた鳳嶺が千早の腕を引いて背後に下がらせると拳銃を乱射。銃弾の嵐を器用に避けながら、影は素早く鳳嶺の懐に入り込む。ガッと突き上げられた黒いナイフを弓なりに仰け反ってかわすとその腹に拳銃を押し当てた。容赦なく引き金を引くと影の腹から煙が立ち上った。血など、出ない。茉亞羅の能力で誕生た影だからか?だが影はそんなことお構い無しに鳳嶺に回し蹴りを放つ。それを肩に受け、後退する彼の背後から『闇』の薙刀を持った千早が躍り出る。鳳嶺と入れ違いになるように千早が薙刀を影に振った。その一撃は影の右肩を狙っていたが、寸でのところで肩と刃物の間にナイフを滑り込ませられたことで防がれた。千早はそのまま薙刀を力の限りに押し込むと影が重さに耐えきれずに沈んでいく。千早が小さく嬉しそうに笑った。その時、影のもう片方の手にもナイフが現れ、油断していた千早に向かって振りかぶった。
それに気づいた千早が慌てた様子で後退するが後の祭り。千早の左肩に凄まじい痛みが走ったかと思うと彼女の体は空を舞っていた。呆ける千早の視界に入ったのはナイフではなく鋭い爪痕が刻まれた薙刀と、左手が鉤爪となった影。千早は空中でクルンと態勢を整えると床に直撃する寸前で綺麗に着地した。そして、上段から落ちてきたナイフと鉤爪を薙刀を横にして防ぐ。左肩を負傷したため、防ぐ時に痛みが走る。と、影の腹に円形状の小さな穴が空いている事に気がついた。そして、にっこりと影に向けて笑った。
途端、影を容赦なく銃弾の嵐が襲った。影が銃弾を受け、仰け反りながらビクンビクンと痙攣する。千早が薙刀を振り切り、影を弾くと薙刀を振る。大きく斜めに刻まれた傷を確認する暇もなく、影に穴が空いていく。千早の隣に鳳嶺がゆっくりと拳銃を乱射しながらやって来た。千早の傷に少し不機嫌そうに顔を歪めたが影に向けての銃弾はやめない。影が壁にぶつかった。そのまま、乱射していくと壁に銃弾が当たり、土煙が舞った。乱射がやむ。鳳嶺が拳銃を構えながら恐る恐る土煙が晴れつつある影がいたところへ歩み寄る。その時、千早がなにかに気づき、薙刀を鎖に変えると土煙が晴れつつあるところへと放った。後ろで聞こえる金属音に鳳嶺は疑問に思いながら前方を凝視した。
「コンナチッポケナ銃弾デコノ茉亞羅様二勝テルト思ッタノ?」
「っ!?」
喋った。それも茉亞羅によく似た高い、可愛らしい声で。驚く鳳嶺に向かって土煙の中から何かが放たれる。放たれたそれが大量の粒子で作られた、トゲ付きの蔦だと気づいたのは黒い蔦が体に巻き付き、トゲが体に食い込んだその時だった。千早が放った鎖は後一歩と云うところで別の蔦に弾かれた。
「くっ」
体を刺す無数の痛みに鳳嶺が苦痛の声をあげると土煙がようやく晴れた。そこにいたのは右腕がトゲ付きの蔦、左腕が鉤爪となった黒い影。影は捕らえ、痛みにもがく鳳嶺を見るとニィと三日月のように笑った。目が、青紫色の目が鳳嶺を嘲笑う。鳳嶺がバンッと足を捕らえていた蔦を銃弾で引きちぎると残りは無理矢理。体中から血を流した状態で一歩後方に下がる。途端、影は凄まじい速さで鳳嶺に向かって跳躍し、鉤爪を振り下ろす。だが、次に笑ったのは鳳嶺だった。そんな事などお構いなしに突撃する影。その時、影の腹に何かが突き刺さった。振り下ろしかけた鉤爪が空中で静止し、蔦がバシンと痙攣する。影がコテンと顔があったならば可愛らしいであろう首を傾げる。その目の前には鳳嶺。いや、正確に云えば
「なぁ、俺の背後に誰がいると思ってたんだ?」
「……………ッ」
右に少しずれた鳳嶺の背後には槍を持った千早がおり、その槍は影の腹を貫通していた。鳳嶺の影を嘲笑う笑みに影はピクリと口角を震わせた。千早が握る柄から刃にかけて紫と黒の靄がゆっくりと蛇のように巻き付いて行く。その姿は妖艶で狂気的。逃げなければ。そう思うのに影の足は固定されたかのようにびくともしない。それに今度は千早が笑った。
「ふふ、しっかり見ておいて?私は、『闇』なんだから」
槍を持つ千早の手首から垂れた靄。その靄は影の足元を捕らえ、足枷となって存在していた。影がようやっと意図に気づき、焦ったように後退しかけるが、足枷があることを忘れていたのか、仰け反るようにしか動かなかった。そんな影に蛇が巻き付き、鉤爪になった左腕の付け根を締め付けた。途端、パァン!と風船が割れるような音が響くと共に鉤爪は肩から弾かれるように切り離された。呆けたように左腕を見る影から槍が抜かれ、千早がクルンと槍を頭の上で回す。槍であった靄は薙刀へと代わり、動けない影に襲いかかる。薙刀の一撃を受け、我に返った影が後退する。足枷が外れている。影はそれを好機と思い、残った右腕を振り切り、床を蔦で叩いた。千早がそれに一瞬、半歩、真剣な表情で下がった。背後の壁を蹴り、千早に向けて跳躍。その時、影に向かって放たれた殺気。影は一瞬、びくついたが恐れずに跳躍。薙刀を構えた千早に向かって蔦を鞭のようにしならせながら、付け根から落ちた左腕を視界の片隅で動かした。
「『闇』に付き従うは?」
「?!何故、動カナイ?!」
左腕は動く事がなかった。薙刀で蔦を巻き取り、驚く影に向かって回し蹴りを放つ千早。その向こう側には鳳嶺。バタバタともがく黒い左腕を足で踏みつけながら、こちらに向かって黒光りする拳銃を向けている。千早が薙刀を下に振ると影も一緒に床に叩きつけられる。素早く態勢を立て直し、立ち上がった影の視界から消えた。慌てて探す影の視界に拳銃を構えた鳳嶺が写る。桔梗色に縁取られた爪が妖艶に引き金を引く。鳳嶺の隣には紫と黒の靄から姿を現した千早がいた。千早の両手から放たれた靄が動きを止めた影に襲いかかり、再び動きを捕らえる。そして、銃弾が放たれる。影は、闘うことを諦めたのか、はたまた何か策があるのかその銃弾を見つめている。
「終わりだ」
だがその銃弾は影の視界から消えた。そして、眉間に凄まじい痛みが走る。今まで感じなかった痛みに驚き、悔しそうにか体の自由を解放する千早と銃弾を放った鳳嶺を睨み付ける。その眼差しに鳳嶺が鼻で嗤い、答え合わせとする。
「なんで痛みが来るんだと思ってるだろ?それは俺が、」
仰向けに、後ろに倒れて行く影に見せるように鳳嶺が見せたのは一つの薬莢。その薬莢には紫と黒の煙が漂っていた。薬莢を持つ鳳嶺の手に千早が手を軽く重ね支えている。
「この薬莢に力を籠めたからだ」
「だって、誰も言ってないでしょう?そんな能力を持っているなんて、ね♪」
影は倒れながらに理解した。つまり、鳳嶺が薬莢に力、能力を籠めた。いや、もしかすると千早か?だが、恐らく、千早は靄なため鳳嶺だろう。嗚呼、もう無理だ。そこまで考えて影の意識は千早の『闇』のような真っ暗闇へと沈んでいく。眉間も、攻撃された怪我全てが痛い。影は粒子となって消える前、誰かに手を伸ばしながら、悲しそうに真っ黒な顔を歪めながら呟いた。
「………ゴ…メンナ……イ………サ……」
なんと言ったのか。いや、言いたかったのか。影は粒子となって消え、天井へと登って行った。鳳嶺は傍らで早く行こうと自分の服の裾を引っ張る千早を横目に脳がフル回転していた。
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