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モノクロの蝶  作者: Riviy
第三章:二人のマリオネット
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第三十六ノ世界:散った桜



カラン…と刃物が床に落ち、小さく跳ねた。その落ちた刃物の上に紅い雨がポツリ、ポツリとゆっくりと降り注ぐ。刃物は脇差で、脇差の前に苦痛の表情で立つのは桜丸であった。右腕からはおびただしい量の出血をしており、脇差を持つ左手で深く抉られた右腕を押さえているが血は止まらず、左手をも紅く染めて行く。桜丸の額には出血により汗が滲み、彼の前には匡華と村正がいる。村正が刀を軽く振っているところから桜丸を攻撃したのは村正だろうと思われた。その近くには白い骨が所々から見える樹丸と彼を取り囲む千早と鳳嶺がいる。一見すると匡華達の方が圧倒的である。が樹丸はいまだ余裕綽々とした笑みを浮かべていた。その時、桜丸が狂ったように笑いだした。突然の事に樹丸の相手をしていた千早と鳳嶺も、彼の前に立っていた匡華と村正も驚愕しその動きを止めた。桜丸は紅くなった左手を口元に当てながら笑いを押さえる。


「……どうしたんだい?」

「どうした、ですって?ふふ、どうしたもこうしたもないですよ。私には…私には殺し合いなんて、無理なんですよ!」

「は……?」


桜丸の悲痛な叫びに樹丸は呆気にとられたようだった。呆気にとられた数秒後、悲しそうに顔を歪めた。


「…桜丸くー


樹丸の悲しげな言葉は桜丸にも届いたらしく、彼は心底申し訳なさそうに顔を歪めた。桜丸が何か言おうとするのを止めるように樹丸はゆっくりと歩み出すと、桜丸の方へ駆けた。驚愕で千早も鳳嶺も対処が遅れ、樹丸は二人に軽症を負わせながらも駆ける。匡華と村正も樹丸に気づいていたが反応が早かった千早が『闇』の鎖で樹丸を捕らえた。鬼気迫る視線を桜丸じぶんに向ける樹丸を見て、桜丸は申し訳なさそうに笑った。ごめんなさい、樹丸いー。私には……


「私にはできっこないんですよ!いつも私の代わりに手を汚す樹丸いーには悪いですが、私に人を殺める覚悟なんてないんです………私ではなくて、樹丸(貴殿)が代表者なら良かったのに」


悲しげな、それでいて憎らしげに小さく微笑んだ桜丸は樹丸の目にどのように写ったのだろう。桜丸は残った左腕を大袈裟に広げながら殺気を放つ村正に視線を移した。村正は桜丸を苛立ちと憎悪の目で睨んでおり、それに気づいた匡華が軽くたしなめた。村正は自分でも気づいていなかったのか否や、慌てたようにその目をやめ、軽く匡華に頭を下げて謝った。桜丸はあんなに怯えていた殺気が本当はこんなにも恐ろしいものだったのかと改めて感じていた。目の前の匡華と村正は警戒したように桜丸を眺めている。


「ねぇ、殺してくださいよ。此処は殺し合いの場なのでしょう?私は、龍に育てられた異端児で、殺しは樹丸(能力)がやったとしても全て本体()の成果になる……そんなのもう、嫌なんですよ。殺しも、全てっ!!」


吐き捨てるように、狂ったように叫ぶ桜丸。嗚呼、当たってしまった。匡華は村正を横目で見、少し驚いた。村正ならこの言葉をどう受け取ると思ったのだろう?「あの時」ならば、怒っていたであろう彼の表情かおはひどく無表情だった。匡華は村正の服の袖を軽く引っ張った。それに村正は大丈夫だと匡華に笑ってみせた。匡華はにっこりと笑い返す。


「そうですね」


桜丸がピクリと反応した。村正が賛同したと思ったのだ。だが、彼は続ける。


「けれど、途中で覚悟や全てを放り捨てるあんたの方が酷く残酷な人間ひとじゃありません?あんたの云う樹丸(能力)すら裏切ったあんたには、本当に何も心残りがないんですか」


村正の言葉に桜丸はハッとして樹丸を見た。彼は千早の『闇』から逃れようと短刀二振りを振り回しているが、しっかりとこちらを見ている。強い意志が宿った瞳。嗚呼、本当に樹丸いーが代表者だったら良かったのに。貴殿に操られるように笑っていれば、それで良かったのに。何処で間違えてしまったのだろう。裏切りは


「"疑わしきは罰せよ"……はは、そう教わった私に、心残りなどあると思いで?」


即刻、死刑(退場)

桜丸はクスリと嘲笑う。誰に対してか、自分か相手か。桜丸はさっさとトドメを刺せと言わんばかりに匡華と村正を見ている。匡華が半歩、流れるように下がった。匡華の行動に気づいた村正は軽く頭を下げた。


「行って来な。貴方が考えている事は良く分かる……でも、忘れないで。此処は"あそこ"じゃない」


匡華の言葉に村正の脳裏に焼き付いたある光景が浮かび上がった。半歩下がった匡華が暖かくも優しく村正の手を握っている。村正は力強く頷き、匡華を振り返った。


「ええ、分かっています」


村正は滑るように桜丸に接近すると彼の残った脇差を弾いた。抗う気がないのか、桜丸は茫然とした表情だった。全てを受け入れたようで、死を望んでいた。生者と云うよりは、死者に近い感じだった。それほど、なのだろう。村正は刀を振り上げると桜丸が懇願した表情で彼を見上げた。


「さあ、殺してくださいよ。貴殿は、殺しに慣れているのでしょう?!ねx」


その時、桜丸の言葉が途切れた。桜丸は目を見開きながら後ろの壁にもたれかかった。首から流れ出る生暖かいものを肌で感じ、そして凄まじい痛みを感じ、桜丸は自分の前に立つ村正を見上げた。彼は桜丸を苦痛と云うか憎悪と云うかどちらとも取れない微妙な表情だった。だが、桜丸にとっては恩人だった。村正は桜丸を見下ろしながら此処できちんとーと云うのは些か変かー殺したのは初めてだなと思った。ヘレーナは不意討ち、朱雀は自害。自分達と殺し合いの際に怪我を負わせたが直接ー直接、とは言い難いかもしれないー手を下してはいない。直接手を下したのは、以前だ。


「……己の信念のために自ら死を選ぶ、あんたにとっては良い選択なんでしょうね」

「……え、ぇ……感謝致し、ま……」


コテンと首を傾げるようにして桜丸は事切れた。村正は彼の前に跪くと開け放たれたままの彼の瞳を閉じさせた。その時だった。


「あ、あああああああああああああああああああ!!!!!」


怒りかそれとも悲しみか樹丸が狂ったように叫んだ。それに匡華と村正が驚いたように振り返った。能力である彼は、桜丸の死亡と共に消滅するはずでは?常識的に考えれば普通なのに、常識が外れている。と鳳嶺が何かに気付き、千早をかかえて樹丸から距離を取った。その瞬間、ブチリと『闇』の鎖が切れた。鎖が切れた事を良いことに樹丸は立ち上がる。立ち上がった樹丸は事切れた桜丸に悲しげかそれとも裏切られた事による憎悪か分からないがそんな視線を向け、近くにいた村正と村正に近寄った匡華に鋭い視線を向けた。


「ははははは!嗚呼、そうだよな。汝は弱いもんな。オレと逆だったら良かったのに…()()()()()()()()()()()()()と逆だったらなぁ!!」


そう憎しみをぶつけるように叫ぶと樹丸の体は足元から舞い上がった桜の花びらに包まれた。桜の花びらは事切れた桜丸の元へと漂う。匡華と村正が慌てて彼の亡骸を抱えて後退しようとする。


「!村正!」

「!?」


が、そうしようとする村正の片腕を強く後方に匡華が引いた。後ろによろめいた村正の目と鼻の先を紅く濡れた刃物が通り過ぎた。匡華に引っ張られなかったら、今頃顔は消えていたであろう。匡華と村正は千早を抱き抱えた鳳嶺へ少しずつ後退しながら合流した。合流したと同時だった、樹丸を覆っていた花びらが消え、彼がその姿を現した。樹丸は壁にもたれかかる桜丸の亡骸を口角をあげながら見下ろす。その目は酷く無感情だった。

なぁ、桜丸くー?オレはな、汝のためにいたのに。汝のためにこの魂を置いていたのに。それを、覚悟を捨てて、裏切った汝は


「ははははは、本当に逆になっちまおうぜ?今、汝は死んだ、オレは『変化(代役)』となろう」


愛しき兄弟。

樹丸の体がだんだんと透明になって行き、その体は桜丸に吸収される。事のなり行きを息を潜めて見ていた匡華達はいまだに何がなんだか理解出来ていなかった。だが、云える事はある。「村正が殺し合いを放棄した桜丸に勝利し、放棄した桜丸の亡骸に能力であるはずの樹丸が吸収された」である。


「な、何が起きてるの…?」


千早が青ざめた表情で問い、ぎゅっと自分を抱えた鳳嶺に抱きつく。この状況は誰もが理解できていないため、返答はない。突然、ガクン、と事切れたはずの桜丸の体が動き始めた。ロボットのようにぎこちなく立ち上がる。首からは血がまだ流れており、深い一撃だったことを物語っている。警戒しながらその様子を窺っていると今度は髪色が徐々に金になって行く。金色は樹丸だったが、どういう?


「ま、まさか、乗り移ったとか言わないよな?」

「いえ…そんなまさかがあるわけないでしょう?」


鳳嶺が震える声で言った事に村正がそう答える。その声色は驚愕に満ちており、彼自身も理解していないのは明らかだった。桜丸か樹丸か、どちらか分からないその人物はゆっくりと顔を上げた。桜丸の面影を残しながらも樹丸の面影を持つ人物は驚愕し、怯える彼らを見てニィと嘲笑った。その途端、背中を駆け巡る悪寒と不気味な気配。匡華と村正が武器を構え、千早が鳳嶺の腕の中で『闇』を構える。その人物はもはや使い物にならない右肩に手を置いた。バキバキッ!と何かが折れるような音と共に右腕が変形していく。右腕から肌色が消え、黄色の鱗が浮かび上がり、爪は長く鋭くなる。左目が青磁色に染まり、その目の回りが鱗に覆われる。異様な大きさになった右腕を見せつけるように広げながら、その人物は意地悪な笑みを浮かべる。


「はは、これでいいのか?桜丸くー……あははは!!」


体を二つに折りながら、左手で腹を押さえて大笑いする人物、いや樹丸か。その笑みは不気味だった。桜丸の体で、魂は樹丸になった彼はいまだ混乱を極めている匡華達を見、言う。


「さあぁ、どちらかが本当に死ぬまで殺し合おうぜぇ?お望み通りになぁ?!」


その笑みはとても不思議な笑みであった。右目は悲しげに、左目は憎悪に歪んでいたのだから。


なんかねー桜丸さんの性格考えたらこうなりました。樹丸さんはねぇ…ねぇ…そうなんですよ、はいこの二人。

……まだ、道のりは、遠い…頑張れ自分

改めて、読んでくれてありがとうございます


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