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モノクロの蝶  作者: Riviy
第二章:血で償われた戦場
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第二十七ノ世界:血塗られた決着




「千と云う数からして武蔵坊弁慶だろ?それがどうした?」


鳳嶺の答えに朱雀は満足そうに微笑んだ。フラッと貧血でよろめく朱雀。が、きちんと立つと言葉を続ける。


「そうじゃ。妾、呀武叉がむさ一族のご先祖様は武蔵坊弁慶様、つまりはその血族一帯……ただそれだけじゃよ」


にっこりと心の底からの穏やかな笑みを朱雀は浮かべた。それで、鳳嶺は頭の隅で考えていた事が現実になろうとしているのだと気づいた。村正はただただ、刀の切っ先を朱雀に向けるのみ。朱雀は悦に入ったような笑みを浮かべ、短刀の刃に頬擦りした。手入れが行き届いている証だ。頬擦りしたところから一筋の血が流れ出す。朱雀は自分を奮い立たせるような、傷つける行為にまた心が高鳴った。けれど、もうそれも終わり。朱雀は短刀を愛おしげに眺め、再び暗くなった空を仰ぐ。視界の隅にこちらへ身を乗り出す神様と隠れている匡華が映った。

妾は呀武叉がむさ 朱雀すざく。先祖返りにして『戦乱』が一人!嗚呼、戦友達よ。兄弟達よ。そして、家族。こんな弱い妾を許しておくれ。妾が償うべきものを、この命を持って、返そう。


「この短刀は妾の戦友、『戦乱』の友である者から受け取った大事な懐刀もの………誰かに殺されるのは恥じゃ。腸を切り裂けぬのならば、喉元を切り裂けば良い」

「?!おい嘘だろやめろッ!」


良い闘いであったぞ、名も知らぬ者達よ!

朱雀がにっこりと口角を三日月のように歪めて笑いながら、鳳嶺の制止も聞かずに短刀で自身の喉元を躊躇せずに掻き切った。それと同時に朱雀は仰向けに倒れていく。ドサッと静かな音と共に朱雀の亡骸は床に倒れた。紅い血が彼女の周りを覆って行く。鳳嶺は困ったような、困惑したような瞳を村正に向けた。けれど、村正は慣れたように彼を見返すだけであった。その表情が少し悲しそうに曇っていたのを鳳嶺は見逃さなかったが。村正と鳳嶺は倒れた朱雀に近づく。村正が朱雀の白くなった首筋に手を当てる。冷たい。村正はその冷たさを感じ取り、ゆっくりと手を離した。


「彼女が何を思って代表者になったのか、俺達を殺そうとしたのか。今なら少し分かる気がする……戦場に出た者の定めなのかもな…」

「そうかもしれませんね。けれど、大方の目的は一つでしょう?」

「嗚呼」


鳳嶺の悲しそうな、それでいて妙に納得がいった言葉に村正はそう答える。そう、目的は「最後の一つになる事」。朱雀にとっての最後の一つは、彼女の世界にとっての最後の一つは、どうだったのだろう。

朱雀の開けたままの瞳を手のひらで閉じさせた。と、その時だった。匡華の緊迫した声が響いたのは。


「村正!鳳嶺!」

「「?!」」


村正が顔を上げた時には既に鳳嶺がマシンガンで振り下ろされた刃物を防いでいた。彼の前には空中で浮かぶ神様。バッと神様を弾くと神様は空中でクルクルと回り、空中で態勢を整えた。空中で爪先つまさきを揃えて浮かぶ神様。その右手にはナイフが握られていた。そのナイフを手首で弄び、シュン…と消す。


「なんの真似ですか?」


村正が鳳嶺の隣に躍り出ながら問うと神様は彼らの背後、朱雀に侮蔑の眼差しを向けた。


「なにって。ボクはただ気に入らない敗退者で遊ぼうと思っただけ」


いけない?と悪びれる様子もなく首を傾げる神様。今、神様はなんと言った?消滅を望んでいるにしてもその言葉はあまりにも酷すぎた。憤怒の表情で神様を睨み付ける鳳嶺と侮蔑の眼差しを神様に向ける村正。神様の背後からも匡華と千早の憤怒の眼差しがビシビシと突き刺さる。けれど、神様にとってそれは痛くも痒くもない。嗚呼、でも


「(面白くない)はぁ、いいぜ?遊ぶのはやめてやる。これでいい?」


感情のない声で神様は言う。多勢に無勢と思ったのか。神様はいまだに自分に向けられた敵意と混乱に口元に袖口を当てて、クスリと笑う。神様ボクを恨んだって憎んだっていいさ。生き残るのはただ一つ。君達の中の一つだけ!その主催者であり、手綱を握っているのはこのボク。てめぇらなんかは、神のてのひらで踊っていればいいのさ!

神様はフードの中で笑いを堪える。


「"遊ぶのは"、と云うことは他の代表者の亡骸では遊ぶ、と捉えても問題ないな」

「あ"?」


思わず、苛立った低い声が出た。神様が仕切り直すように背後を顔だけで振り返ると立ち上がった匡華がいた。血塗れになった左脇腹を押さえている。血は止まっているようだ。その隣には観客席の後ろから頭だけを出した千早がいる。匡華は神様の声に臆する事もなく、言う。


「此処にいるのは自分が住む世界のため、生き残りのため、誰かのために命を賭け、代表者となった者達だ。そんな彼らの亡骸しごを貴方に委ねる理由はない」

「ちょっ!匡華さん!」

「大丈夫だよ、千早」


慌てる千早に匡華は安心させるように微笑みかけ、優しく頭を撫でた。嗚呼、匡華の言う通りだ。村正は口角を上げ、言う。


「確かに。神とはいえ、許されるものではないでしょう………特に、"他の世界"にとっては」

「!!てめぇら…」


村正の言葉に神様は目を見開いた。彼の言葉で我ながらに遅い結末に至ったのだ。「能力を与えた世界」が神様じぶんに危害を加えないといつ言った?ブーイングは来る。しかも自分は世界を創った創造神。感情を持たないはずの世界かれらが放つ言葉かんじょうの意味はよく分かる。これ以上のお遊びは、確実に別の事項を起こしかねない。つまり、二人の言う通り。神様はチッと不機嫌と云うよりは愉快と云いたげに舌打ちをするとクルクルと回った。


「ははっ。ボク自らが問題を起こす訳ないじゃんか。世界を消滅せるのに!好機を好機と捉えすぎて、遊び過ぎたかなぁ?ははっ、やっぱり、消滅するに限る!!」


そうだ。あの時考えた通り!

フードの隙間から見えた神様の笑みが異常過ぎて気温が下がった。ヤバい。そんな事を思う彼らを気にも止めずに神様はパチンッと指を鳴らした。途端、視界が歪み、闘技場が歪み、その歪みに堪えかねて一瞬瞼を閉じた次の瞬間には匡華達は千早と鳳嶺が使っている部屋にいた。驚く彼らに何処からともなく神様の声が響く。


「さあ、その能力で殺し合え。生き残るのは、ただ一つ!」


その、いつも通りの感情がこもっていない声が聞こえなくなると場を支配していた緊張感、緊迫感は消えた。途端、カランと甲高い音がして全員が振り返った。床に落ちる刀。フラッと村正が倒れかける、が、それを鳳嶺が支えた。鳳嶺は村正の脱力した腕を自分の首に巻き付けて、支える。顔は少々青白い。出血のせいだろうか、と千早と鳳嶺は思った。ならば、自分達もそろそろ倒れそうなものだが。匡華が慌てた様子で村正に駆け寄るとその頬を両手で包み、顔を覗きこんだ。慣れた手付きに彼を支える鳳嶺が逆に驚いた。その後ろに千早も続いた。


「大丈夫かい?」

「ええ、少し、無理をしただけです。原因は分かっています」

「そう…けれど無理をしてはいけないよ、村正」

「……分かっています、匡華」


心配そうに、だが彼の言葉に安心したように村正の頬から手を離す匡華。千早も心配そうに彼を見上げていたが、村正と鳳嶺にとっては匡華と千早の方が心配である。仮にも千早は女性であるし。


「あ、匡華さん?もう危険な事しないでね」

「危険、とは……嗚呼、あれか」


千早が思い出したかのように腰に手を当ててプンプンと言いたげに言えば、匡華は彼女の様子に困ったように微笑んだ。


「相手は神様よ。そりゃあ私だって「俺も」…私達だって酷いと思ったわ。けどね、お友達が目の前でいなくなるのは、嫌よ」


涙目になった千早が涙を流すまいと俯く。匡華は申し訳ない事をしたなと思いながら、此処まで純粋な千早を羨ましく思った。貴女がそうだから、鳳嶺かれもまたそうなのだろうね。泣きかける彼女をあやすように頭を優しく撫でれば、千早は涙腺が崩壊したのか、わぁっと泣き出してしまった。


「え!?」

「あーあー匡華が千早を泣かせましたぁー」

「あはは、泣いちゃったなぁ千早」


村正が匡華をからかうように言えば、それに鳳嶺がノる。匡華はアワアワと慌てている。こんなに慌てる匡華は見たことがないかもしれない。そう思い、村正は少し優越感に浸った。鳳嶺と視線を合わせて、ニヤリと悪戯っ子のようにどちらと云うわけもなく笑えば、泣いているはずの千早から小さな笑い声。匡華が訝しげな表情で千早を見下ろす。と千早が顔を上げた。目尻は紅くなっていたものの、そこに先程までの泣いていた彼女はいない。千早は楽しそうに笑う。それに匡華はなんだか怒る気も失せて脱力した。


「早く治療しましょ?特効薬持って来るわね」

「……ふふ、そうだな。鳳嶺、村正を支えてやっておくれ」

「分かった…て、千早!お前足怪我してんだから無理すんな!」

「匡華も無理しないでくださいね…脇腹怪我している事を忘れないでください!」


動き出した二人をそう二人が注意すると、二人は顔を見合わせてクスリと可笑しそうに笑った。そんな二人に、また二人はあきれたように優しく笑うのだけれども。一緒にいるのが楽しい。だから、あの時考えた事は全て、まやかしだ。




残り、九



朱雀姐さんが持ってる武器は分かる人には分かる。だって戦闘の世界だもん

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