第二十五ノ世界:舞う赤と黒
そこにいたのは先程とは違う姿の朱雀だった。眼帯が外され、眼帯をしていた片目はギラギラと琥珀色に輝き、二振りあった大太刀は一振りに。その大太刀には禍々しいほどの力が霧となって刃にまとわりついている。彼女の周りには明らかに数が減った刃物の群れ。満身創痍であるにも関わらず、その姿は、瞳は、表情は、とても生き生きとしていた。そして朱雀の足元には割れた試験管が転がっていた。つまり、あの中身であろう何かを飲んだ可能性は極めて高い。相手の秘策対策を考えていない訳ではなかった、がこれほどとは正直思っていなかった。朱雀は口元を伝う血を左手の甲で強引に拭うと匡華、村正、千早、鳳嶺を初めて会った時のように値踏みする。ニィと嗤う。
「さあ、此処からもう一戦始めようではないか!血で血を洗う、喜劇で愉快で悪夢のような、最高に最凶の戦争をっっ!!」
目を見開いて、悦に入ったような表情で興奮したように叫ぶ朱雀。狂ってる。誰かがそう呟いたような気がした。朱雀は匡華達の答えを聞く前に一歩、また一歩と近づいてくる。刃物の群れもゆっくりと彼女に続く。こちらも満身創痍で、恐らく千早はキツイだろう。どうする?匡華の脳が答えを求めてフル回転する。恐らく、朱雀は私達を逃がしてはくれない。これは既に二戦…いや三戦目。どちらかが死ぬまでこの殺し合いは終わらない。嗚呼、なんと云う。
すると、村正が半歩前に歩み出た。そして、ゆっくりと刀を構え直した。そして、深呼吸をすると凄まじい殺気を放つ。ぴたっとさすがの朱雀も動きを止め、ヒクリと口角が震えた。それを見た村正が煽る。
「おや、怖いんですか?ふふ、そうですよねぇ。勝つのはあんたではない。僕達です。勝者と敗者の違いも分からない愚者は、さっさと死ぬべきです」
「なん、じゃと?!」
「おや、癇に障りましたか?それだけ、あんたが愚かって事でしょうね」
村正が朱雀を嘲笑う。そこで匡華は気づいた。村正は意図的にやっている。匡華達が作戦を打ち出す時間を作っている。信じているのだ。誰を?言わなくても、理解できた。匡華はクスリと、村正の行動に恐れ入り、小さく笑った。と、鳳嶺がコソッと匡華と千早に言った。
「俺とあいつで、できたら決着つけてくる」
「!?ダメ、よ…うっ」
「千早、無理は駄目だよ。お願いしよう。その間に」
「嗚呼」
痛みで顔を歪める千早を鳳嶺は心配そうに見やり、大丈夫だと頭を撫でた。千早は心配そうに鳳嶺を見上げた。が、力強く頷いた。匡華に千早を預け、マシンガン片手に村正と並んだ。匡華はゆっくりと千早の怪我を気遣いながら朱雀の視界から消えるように移動する。彼女は、村正と鳳嶺を対戦相手としたようだ。前に歩み出た二人を見て、口角が愉快そうに裂け、左右の色が違う瞳が暗くなった闘技場で不気味に光った。
「なるほどよのぉ。お主らが妾の相手、と云う事か……ならば、妾に働いた無礼、お主らを殺し叶えてやろう!!」
「はっ、生憎、そんなもんはいらないんでね」
鳳嶺が薬莢をセットしながら吐き捨てるように言い放つとそれに同意するように言う。
「そうですね。殺され、地べたを這うのは……ねぇ」
含み笑いをしながら、刃を自身の顔面に掲げる村正。その姿はある意味妖艶であった。ピクピクと村正に煽られ、怒り心頭になりつつある朱雀の口角が震える。良く見ればこめかみも痙攣しているようにも見えた。どちらも満身創痍。なのに、殺し合いは続く。村正はチラリと横目で千早を連れた匡華が観客席の後ろに一旦身を潜めたのを確認する。と、少し顔を出し、こちらを窺っていた匡華と目が合った。
「(………分かりました。匡華がそう言うのであれば)」
ニィと口角を三日月のように歪めた。数度、気温が下がった。ゾワリ、いや、ぞくぞくっとした凄まじい悪寒と殺気が敵である朱雀と村正の隣にいる鳳嶺を襲った。鳳嶺が何事だと彼を見て、固まった。村正から放たれている黒いオーラ。そのオーラからは先程感じた悪寒と殺気が漂っている。殺る気か。鳳嶺は冷や汗を垂らしながらクスリと笑った。嗚呼、体が震える。武者震いが止まらない。それは、朱雀も同じだった。朱雀はブンッと禍々しいほどの力が霧となってまとっている大太刀を横に振り、自身を奮い立たせる。大太刀の切っ先と能力の刃の切っ先を二人に向け、言う。
「さあ、開戦じゃ!」
バッと村正と朱雀が相手に向かって跳躍し、刃物を振った。ガキンッと甲高い音を響かせながら弾いては防ぎ、弾いては防ぎを繰り返す。重い、重い一撃に村正の腕に痛みが走り、顔を少し歪めた。が、追撃が来る前に後退し、前のめりになりそうになった朱雀へ刀を振り回す。朱雀はクイッと大太刀を持っていない方の指を村正に向け、能力の刃の群れでその一撃を防御する。群れで村正を弾き、片手を天に突き出すように上げると群れが渦を巻く。そして、それを振り下ろす。眼下に迫る刃物の群れに村正は不意を突かれたようで動きを止めていた。が、次の瞬間、群れは粉々になってしまった。朱雀が大きく目を見開く。グサッと刃物が流星のように落ち、ボロボロの床に突き刺さる。村正の背後にマシンガンを構えた鳳嶺がいた。彼は驚く朱雀に気づくと目を細めた。その目がうっすらと赤く光っているように見えて、朱雀は嗤った。大きく跳躍し、上段から攻撃してくる村正の一撃を大太刀を横にし手を添えて防ぐ。村正の腹に蹴りを放ち、少し後退する村正。すかさず攻撃しようと大太刀を振りかざすと鳳嶺の銃弾が右の二の腕を貫通した。満身創痍の体に増える傷と痛みに顔を歪めて耐えると村正に向かって振り下ろす。村正はそれを横に避けると朱雀の顔面目掛けて回し蹴りを放つ。が、それを読んでいた朱雀は片腕でその蹴りを防ぐと村正の蹴り上げていた足を掴み、放り投げた。今度は村正が驚く番だった。
「っ!だから、どんだけですか?!」
「女じゃからと、油断するでないわ!」
飛んで行く村正に向かって朱雀は跳躍する。こちらに向かって銃弾を放つ鳳嶺を横目に確認し、能力の刃の中で一番大きい薙刀で銃弾を弾くとそのまま鳳嶺に攻撃させた。マシンガンで勝手に動く薙刀の攻撃を防ぐ鳳嶺。無理矢理弾くと薙刀の刃物目掛けて乱射した。目の前が閃光に包まれる。銃弾が止み、鳳嶺が注意深げに自分を攻撃しようとしていた薙刀を見やる。薙刀の刃物はボロボロになっており、力なく床に落ちた。それに鳳嶺は勝ち誇ったように微笑み、闘う村正と朱雀の方向へ跳躍した。
村正はこちらにやって来る朱雀を確認し、空中で一回転しながら刀を一度納める。その行動に朱雀が驚愕しながら大太刀を振り下ろす。
「なっ?!」
が、大太刀は着地した村正に当たる事はなかった。中指と人差し指を揃えて大太刀に軽く当てている村正。朱雀はまたか?!と目を見張った。彼は押しても引いても動かず、驚いている朱雀を下から見上げて、嗤った。その笑みに朱雀は再び、ゾワリとした。そして、思う。妾が相手にしておるのは、なんじゃ?
村正は当てていた指を下げ、朱雀の懐に迫ると顎を蹴り上げた。朱雀の視界がカチカチと瞬きながら後方に吹っ飛ぶ。床にぶつかる、と云う寸前で片手を床につけ回転。間一髪を避けると今度は銃弾が飛んできた。体を仰け反らせてかわし、立ち上がると自分は村正と鳳嶺に挟まれている事に朱雀は気づいた。逃げ場がない。朱雀は大太刀を持っていない方の指を悟られぬよう、クイクイと動かす。が、反応を示す刃物がない。いや、待て…脳をフル回転させると傷が痛み、苦しそうに顔を歪めた。が、闘う事が生き甲斐に近かった朱雀の脳内にはこの危機を突破する作戦は出てこない。ならば…
村正が刀の柄に手をかけ、低姿勢を取る。そこで村正は朱雀の琥珀色の片目が輝きを失っている事に気づいた。眼帯をしていた事から義眼だったのだろうが、何故、輝きが失われて?そこで視界に入るのは床に散った試験管。あの中身の効果が切れかけている、もしくは朱雀の力が落ちている。どちらでも、こちらにとっては好機。
刀を抜きかけている村正と大太刀を構える朱雀の視線が交差する。鳳嶺はその背後から様子をうかがっている。そして、村正と朱雀が駆けた。
もう本当に朱雀姐さんは女なのか怪しくなってくる筋力(白目)しょうがない、朱雀姐さんだもの!そうですよね!




