第二十四ノ世界:雨が降る闘い
ガキンッ、と三人の刃物が交差する。朱雀は二振りの大太刀を振り払い、二人を後退させる。そして、自身の背後に漂っていた刃物全てを後退中で前方不注意となっている二人に向けて攻撃させた。が、二人の目の前で刃物は動きを止めた。朱雀が訝しげに思っていると二人の背後にいる千早の存在に気が付いた。こちらに向かって両腕が伸びており、彼女の腕には蛇のように靄が巻き付いている。そして止まった刃物の前にはよく見れば、靄が。朱雀は悔しそうではあるが愉快げに笑った。
「まだ、よ?」
「?」
千早が自分を見ながら笑った。途端、匡華と村正が左右にわかれた。二人の動きに警戒し、態勢を低くすると刃物の群れを右側へ行った村正と千早に向けた。タンッと軽快な音が突然、左側からした。朱雀が慌てて振り返るとそこにいたのは匡華。上段から小太刀を振り下ろす匡華の攻撃を後退によけてかわすが左腕に一線刻まれた。追撃が来る前にと朱雀が大太刀を匡華に向かって振り回す。小太刀を横にしてそれらを防ぐ。ギギギ、と筋力で云えば有利な朱雀が匡華を押し込んで行く。匡華が苦痛の表情を浮かべる。と、突然、下がった。前のめりになるが、急いで態勢を立て直す。能力が村正と千早を傷つけた事に横目で確認してしまったのが駄目だった。態勢を立て直した朱雀の前方には匡華ではなく、拳銃ではなくマシンガンを持った鳳嶺がいた。そして、靄が朱雀の退路を阻む。ボゴッと変な音に後ろを振り返れば、靄で出来た毒の沼があった。鳳嶺がマシンガンを乱射。朱雀は上へ大きく跳躍し、そこへちょうどタイミング良くやって来た刃物を足場に銃弾を避けたり、防いだりする。が、当たるものは当たり、『闇』の靄が鋭い刃となって銃弾と共に朱雀を襲う。頬や露出した肌に攻撃がめり込み、血が噴き出す。嗚呼、愉快!朱雀は口元を歪めて笑うと右の大太刀を眼下の彼らに向けて、攻撃するよう命じた。途端、匡華達を襲う刃物の雨。千早が両手を頭上に翳すとそこに紫色と黒色の薄い膜が張られ、近くにいた匡華と千早自身を守った。だが、少し遅かったのか、匡華は左脇腹、千早は右足から血が出ていた。
「千早、大丈夫かい?」
「ッ。ええ、大丈夫よ!」
匡華が心配そうに問うと彼女は痛みに顔を歪めながらも気丈に答えた。嗚呼、強く、美しい。匡華は殺し合い中にも関わらず、そう思ってしまった。膜に凄まじい勢いで刃物が当たる。匡華が村正と鳳嶺の方を見ると鳳嶺はマシンガンを朱雀に向けて乱射しており、そんな彼を村正が襲い来る刃物から守っていた。刀を操り、同じ刃物を床に叩きつけていく。さながらそれは美しい演舞。だが、村正だけでは全ての刃物は捌ききれず、鳳嶺がマシンガンを持っていない片手に拳銃を持ち、サポートしている。それでも、村正と鳳嶺両者にも傷があった。村正は左肩、鳳嶺は腹。二人共に服が黒い系統なため分かりにくいが、痛みと闘っている事は一瞬表れる表情でわかった。
「村正、大丈夫か?!」
「あのですねぇ、腹をやられた鳳嶺よりはマシですよ!」
「……減らず口」
「言ってなさい」
村正の毒に鳳嶺がそう反撃としてもらすが村正にとっては痛くも痒くもない。「あの時」に比べれば。
村正と鳳嶺の会話を見ていた匡華と千早。匡華はなにやってんだと呆れ、千早は楽しそうに含み笑いをしていた。
「……何をしているんだあの二人は」
「ふふ、仲良しねぇ」
と、刃物の雨が止んだ。彼らがそのまま頭上の朱雀を見上げる。と彼女は大振りの薙刀の上にバランス良く立っていた。朱雀の周りには他の刃物が彼らに切っ先を向けている。両者、暫くの沈黙。ブンッと朱雀が二振りの大太刀を横に振った。大太刀の切っ先を擦り合わせてカキィンと甲高い音を奏でる。瞬間的に彼らは何か来る、と感じ身構えた。朱雀が頬から伝って来た血を舌で舐めた。その瞳は獲物を狙う猛獣そのもので、それでいて狂気的だった。ゾワリ、背筋を走る悪寒。千早を朱雀の視線から庇うように匡華が前に出る。武器を構えた彼らを見下ろし、朱雀はペロリと乾いた唇を舐める。
「『千本の刄』、」
ポツリと朱雀が呟いた。途端、幾多もの刃物が彼らを囲み、突進してきた。驚く彼らに向かって鋭い切っ先が向けられる。瞬間的に千早も鳳嶺もダメだと、死を覚悟した。先程よりも速度が速いし、数が多い!
「血を吸え」
ガキンッと音がして朱雀は訝しげに顔を歪めながら薙刀から飛び降り、着地した。自分の位置からでは能力の刃の山しか見えない。匡華と千早、村正と鳳嶺がいた場所は距離がどちらかと云うと近かったので少し大きめの山が出来ている。ゾワリ。刃の山に一歩近付いた朱雀の背筋に走った畏れ。柄を握る手に汗が滲む。今までなかった緊迫感と緊張感。愉快ではない、不愉快。血が滾る。
朱雀が山の前まで来るとその音の正体がわかった。
「…ったく。こうも"予想通り"とは……妬けてしまうね」
ブオンッ!と呆れたような、楽しんでいるような、どちらとも取れない声と共に幾多ものー正確に云えば千本ーの刃が吹き飛んだ。吹き飛んだ際に生じた強い風を防ぐために朱雀が顔を腕で覆う。腕と腕の隙間から見えたのは、あの時と同じ「黒と白の蝶」が美しく舞い、飛び交う中、武器を振るう匡華と村正。そして、こちらに銃口を合わせた紫色と黒色の『闇』の銃と黒光りするマシンガンだった。
「千早!」
「鳳嶺!」
「「撃ちまくれ!/当てなさい」」
二人の声援を受けて千早と鳳嶺が笑い、引き金を引いた。今から大太刀を振っても防げるのは半分。『千本の刄』で防いでも…嗚呼、駄目だ、間に合わぬ!
「クッ」
朱雀に降り注ぐ銃弾の雨。肩や足に貫通する鈍い痛みに耐えながら、朱雀は懐に手を伸ばした。
「作戦、一応成功みたいですね」
痛む左肩を押さえながら村正が銃弾の雨を浴びて、見えなくなった朱雀を見ながら言った。だが、油断してはいけない事など、それを聞いていた匡華も村正もわかっていた。
これは千早が考えた作戦だった。朱雀は攻撃範囲が広い大太刀二振りと名の通りの能力『千本の刄』を使う代表者だ。容易に近付いたところで相手の策に嵌まるか、攻撃範囲に嵌まって終了である。そこで千早が考えついたのは「朱雀をこちらに近寄らせる事」。攻撃範囲が広くて、こちらが不利になってしまうのならば、自分の攻撃範囲に相手から来てもらえば良い。そう考えたのだ。朱雀の能力が自分達に集中し、こちらが何も動きを見せなかった場合ー音でもなんでも良い、朱雀から見えなければー、朱雀は様子を見に来る。自分達の攻撃範囲……領域に踏み込んだ瞬間に
「「狙い撃つ」」
「……大ダメージであると願いたいが…」
そう、匡華の言う通り、今のところ不利なのはまだこちら。朱雀は掠り傷等が多い。この乱射で少しでも体力を減らし、動きを鈍らせたい。そうすれば、こちらにも勝利が見えてくる。けれど、用心に越した事はない。匡華と村正が武器を構えた。ちょうどその時、ブオンッッッッッ!!!!凄まじい風と土煙が彼らを襲った。自分達とは比べものにならない。凄まじい風により、千早と鳳嶺が観客席付近まで吹き飛ばされた。
「千早!」
「鳳嶺!」
匡華と村正が二人を心配しながら、ゆっくりと後退する。二人の元に辿り着くとこめかみから血を流し、顔が真っ赤に染まった千早が運良く無傷に近い鳳嶺の力を借りて立ち上がろうとしていた。匡華が慌てて鳳嶺とは反対側に駆け寄り、千早を助ける。小さく苦痛の声をもらす千早。だが瞳はまだやれると息巻いている。
「は…?」
「村正?」
三人を背にしていた村正が心底驚いたような声をもらした。彼らの視線の先、晴れて行く土煙に浮かび上がる一つの人影。誰だなんて訊く必要などない。カランカラン…と何かが床に落ちて反響した。続いて、パリンと云う何かが割れた…いや踏み潰されたであろう音も。
「ふふふふ、アハハハハッ!妾はなんとも軽く見られていたものよ…こしゃくなッ!」
ブウン!と大太刀を振ったために起こったであろう風によって煙が払われる。そこにいたのは。
「……ハハ…聞いてませんよ?でも、殺り甲斐はありますね」
ポツリ、と村正が吐いた言葉を聞き取れたのは恐らく匡華だけだろう。嗚呼、そうかもね。そう心の中で村正に同意しながら匡華は小太刀を構えた。




