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モノクロの蝶  作者: Riviy
第二章:血で償われた戦場
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第十七ノ世界:新たな敵



翌日、ヘレーナがいた〈御伽噺妖精フェアリーテイル・フェアリー〉が消滅した事が確実となった。ヘレーナと双子が、朝食の時間になっても現れなかったためだ。もう一つは、神様が「消滅した」と休息時間に宣言したからでもある。だが、本当に消滅したのか。それを確かめる方法を代表者達は持っていない。


広間で思い思いに休息時間を過ごす代表者達。匡華達も気持ちを切り替えていた。


「それでね、匡華さん。その時、鳳嶺がね」

「ふふ、楽しそうだね、千早」

「ええ。私、頑張るから」


ぐっと両の拳を胸の前まで挙げて「どんとこい」と云うように真剣な表情で言う千早。それに匡華は、自分でも言い表せないような感情になった。嬉しいのか悲しいのか。分からないままに、千早の頭を優しく撫でた。それに千早は、気持ち良さそうに身を委ねた。それを二人の前のソファーで見ていた村正と鳳嶺は、二人の周りに花が飛んでいる幻さえ見える光景に和んだ表情を浮かべていた。


あと、数分。あと数分もすれば、殺し合いの時間開始だ。刻一刻と時間が迫っていくと、代表者達の口数も減り、雰囲気も殺伐とし始める。唯一と言っていいほどに匡華と千早、村正と鳳嶺は普段通りだった。そんな時


「はぁ?この茉亞羅様に楯突くつもり?」

「は?」


甲高い声と少し低い声が広間に響き渡った。匡華達、いや、全員が声のした方向を見るとそこにいたのはヘレーナに不意討ちを行った青年の片割れと、美人と云うか可愛らしいと云うかどちらにも取れる少女で、二人は睨み合っていた。両者共に不機嫌だと云うことは漂うオーラで嫌と云うほど分かった。


「なんでアンタの言うこと聞かなきゃいけないわけ?拒否権って、知ってますぅ~?」


青年は少女を煽るように言い放つ。少女はギリギリとこちらまで聞こえてきそうなほどの歯ぎしりをし、顔を怒りで歪める。


「こ、の……この茉亞羅様に暴言?…良いわ、良いわよ、アンタのその喧嘩、買ってやったわっっっっ!!!」


少女が怒りを叫んだちょうどその時、ゴーン、ゴーン、ゴーン、と殺し合い開始の鐘が鳴り響いた。だが、誰一人としてそこから動こうとしなかった。理由は、怒りに震える少女の凄まじいオーラである。今、自分が動けば、そのオーラの、少女の怒りの矛先になってしまう。何をしたのか知らないが彼女をあそこまで怒らせたのは青年だ。当事者同士で殺って欲しい、切実に。その時、青年の片割れである眼鏡をかけた青年が緊迫した空間の中、一人、ゆっくりと立ち上がった。少女の矛先が彼に向く。眼鏡をかけた青年は少女と対峙していた青年に目配せすると……


「?!何処に行ったのじゃ?!」


少女と青年二人の姿が消えた。驚く周囲。だが、匡華も村正もなんとなくだが予測できた。恐らく、あの青年の能力によるものだろう。そこまで考えて、元凶がなくなった事をいいことに村正は呆れたように立ち上がった。それに匡華と千早、鳳嶺が続く。彼らは会話もなしにさっさと広間を出ていく。あの少女の怒りに触れただけでなく、殺し合い開始の音。それらに喚起され、ある意味巻き添えを食らいたくはない。そんな思いからだった。だが、無情にも帰してはくれないようだ。

村正が広間の扉に手をかけた、その時。何かに気づいた鳳嶺が千早を背に隠し、村正も自分の背後にいた匡華の腕を引っ張って自身の背に隠した。千早は驚いたように視線をあっちこっちに動かしているが、匡華は村正と鳳嶺と同じように何かに気づいていたらしかった。彼らが見る方向。殺気と戦闘意欲を放つ女性が一人。他の代表者達には目もくれず、匡華達だけをランランと輝く、愉しげな瞳で見つめている。その隙に、と云うように他の代表者達はもう一つの出口ー先日まではなかったので神様が付け足したのだろうーから出て行った。女性は自身の身の丈以上もあろう大太刀を一振り、背中から抜き放つと口元を歪めた。


「お主らは、闘いがいがありそうじゃ」

「そうですか。生憎、僕達は闘う気など全くありませんがね、人間」


ギロッと村正が女性を睨み付けながら殺気を放つ。その殺気を直に食らった女性は半歩、後退ったが愉しそうに笑っていた。それに村正が訝しげな表情になる。この殺気で逃げない、と云うことは


「幾多の戦場を突破した者、か…」


村正の考えと同じ事を考えていたのであろう匡華が呟いた。それに村正は小さく笑った。匡華、村正、千早、鳳嶺が女性と対峙する。女性は大太刀の切っ先をこちらに向けながら、村正の殺気に警戒を払いつつも彼らを舐めるように品定めしていく。そして、女性はやはり嬉しそうに微笑んだ。「ヒッ」、となにやら不穏な気配を感じ取った千早が短い悲鳴をあげ、鳳嶺が女性から千早が見えないように動く。千早が感じ取ったその笑みは、不気味で、愉快げで、恐ろしかった。様々な感情が混ざったその笑み。女性はペロッと乾いた唇を舌で舐める。


「ふふふ、良い、良いなぁ。お主らと闘うのは、とても良い。じゃが、四対一と云うのは妾の理念に、我が世界の規則ルールに反する……のぉ、お主ら、妾と二人、闘わぬか?」

「「…………は?」」

「「…………ん?」」


女性からのまさかの提案に彼らは呆けた声を上げた。それに女性は「はっははっ!」と強者とは思えないほどに軽快に笑った。


「我が世界ではな、闘いは一対一か、一対二が規則ルールなのじゃ。神には、あらかじめそう伝えておったが…お主らは知らなかったのか…うむ……与えてはならん情報ものを与えてしもうた…」


茫然とする四人を置き去りにして、女性は一人、ぶつぶつと言いながら物事をまとめていく。ようやっと、匡華と村正が正気に戻り、声を上げた。


「い、いやな?何故、闘う事が前提なんだ?それに、私達は「妾が闘うと決めたからじゃ」…」

「……匡華、無理です」


遮られた言葉に村正が顔を片手で覆いながら呆れたように項垂れる。それには匡華も気づいたらしく、小さくため息をついた。そして、千早に相手に気づかれぬよう近寄ると耳元で言う。


「千早、此処は私達がどうにかしよう。だから、先に」

「っ。それじゃあ!?」

「おや、貴女は私達が信用できないかい?」


千早が緊迫した表情で匡華を見上げると匡華は大丈夫だと笑って見せた。それに千早は小さくため息をつくと、「ふふっ」と悪戯っ子のように小さく笑った。


「分かったわ。二人に任せる……私達の部屋で会いましょう?」

「嗚呼、承知した」

「ふふ…聞いていたわね鳳嶺」


千早は真剣な表情で目の前の鳳嶺に訊くと彼は短く、「嗚呼」と答えた。千早は匡華と村正に向かって軽く頭を下げると、鳳嶺の手を握った。それが、合図だ。鳳嶺が女性に背を向け、千早を振り返りながら彼女の腕を引いて抱き上げる。自分の腕の中で横抱きになった千早を確認し、鳳嶺は視線だけで友人である村正に告げた。


「死ぬなよ」

「はっ、何を言っているのです?僕が死ぬと思います?それこそ、愚問です」


そんな目に分かっている問いを訊くなと言わんばかりに鼻で嗤う村正。それにそれもそうだな、と鳳嶺も嗤い、扉を蹴りで開け放つと、出て行った。匡華が視線だけで振り返ると千早が二人に向かって「頑張って」と拳を挙げていた。


「ほぉ…お主らが、妾の相手か」


ブンッと大太刀を振り、それを肩に担いで女性が言う。千早と鳳嶺が行ってしまったことは気にならないらしい。ただ単に、闘いたいだけの強者なのか。匡華はそう思いながら、腰に帯刀している小太刀の柄に手をそえながら、村正と並んだ。村正も匡華と同じように刀に手をかける。それを見て、女性は再び愉快そうに口角を上げた。


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