第百三十四ノ世界:『滅亡』と『創造』
ゴゴゴ、ゴゴゴと足元から地面が揺れ動く。夕顔が慌てた様子で匡華を振り返ろうとし、足に力が入らないのかよろめいた。全員が満身創痍だ。既に伽爛と狐影は立っているのも困難な状態だった。匡華は手中にある『キューブ』を落とさぬよう、足に力を入れて耐えている。
「匡華!〈シャドウ・エデン〉はもう長くはない。現地時点での創造神が死んだ以上、〈シャドウ・エデン〉っつう"形"は残るが滅亡する。意味、分かるな?……ゲホッ」
夕顔が匡華と村正を振り返って叫ぶ。と体を二つに折りながら苦しそうに咳き込んだ。彼を包んでいた粒子は残り僅か。口元から手を外した彼の手にはべったりと血が付着していた。夕顔も、死が近いのだ。匡華が今では唯一の肉親を心配そうに見ると彼は大丈夫だと弱々しげに笑い、呑気に回転している『キューブ』を指差した。三人の元に伽爛を支えた祢々切丸、狐影を支えた蜘蛛切丸、全員が神様消滅時から起きた地震を乗り越え、やって来る。
「俺は『滅亡』に長けてる。つまりそれは、『滅亡』しかできないってkゲホッゲホッ」
「伯父さん!」
匡華が悲鳴にも似た声をあげる。そんな夕顔に向かって狐影が錫杖を向け、能力で少しでも治そうとする。が、いつもならすんなり出る能力名が出てこない。いや、喉元まで出かかってはいるのだ。なのに、突っかかったかのように出てこない。喉を押さえて苦しそうにする狐影を蜘蛛切丸が見上げた。
「狐影?どうした?」
「なんで……能力が、発動できない……」
「「「「「?!」」」」」
喉から絞り出したような声に夕顔を除く全員が驚愕する。村正と祢々切丸、蜘蛛切丸の武器に纏っていた光は消え、通常時に戻っている。匡華もいつの間にかいつもの格好で、よく見れば、村正の簪も元に戻っている。伽爛も試しに誰かを『鑑定』したようだが、なにもでなかったらしく、小さく驚愕の声をあげていた。能力を解除したわけでもないのに何故勝手に?神様が能力を与えていた訳ではない。狐影は微妙だが、なくなったところを見るに世界、〈闘技場〉か神様がいなくなったからと考えるのが妥当だ。まぁ夕顔は例外だろうが、ならば何故、突然?
「能力を与えた世界自体が、滅亡てるんだ。能力は既に無と消えたんだ。残ってるのは……創造神が造った『キューブ』だけ」
夕顔の説明にこのような現状であるにも関わらず、彼らは冷静に納得していた。と、云うことは。
「匡華が、どうにかするしかないんですね……」
村正が呟くように言った言葉は異様に大きく響いた。次世代の創造神と決まったようなものである匡華がどうするかによってこの世界も自分達も決まる。まぁ、〈シャドウ・エデン〉が『キューブ』によって限界を突破していたのだ。一度自分達は死ぬ。
匡華は困惑したように夕顔を振り返った。
「で、でも伯父さん。私は、やったことなんか……」
「わかってる。でも、お前は俺達双子の血を受け継ぎ、なおかつあいつの血も受け継いだ。自分が思うように、生き物が暮らす世界を創り出せ!それが『創造』だ」
夕顔がそう叫ぶ。その間にも地面は割れ、空は落ちるのではないかと言うほどに荒れまくり、木々は枯れて行く。匡華は自分の手中で浮かぶモノクロの箱に、『キューブ』に視線を向ける。まるで彼女が使うのを待つかのようにゆっくりと弧を描いて回転している。自分が創造神だなんて、この手に『キューブ』がある事でさえも信じられないのに。けれど、母さんも同じように、伯父さんも同じように、そして彼も同じように希望を抱いて、この世界を創った。ならば、私も、彼らに恥じぬよう……いいや、命を包む世界を創ろう。
スゥと匡華の瞳が開かれる。匡華は一人一人を見回した。そこにいたのは、長くも苦しい経験を共にしてきた仲間であり友人。彼らは匡華の視線に答えるように力強く言い放つ。
「加護夜くん、君には色々迷惑をかけたね。けれど、全てが無意味ではないから。君達の味方であろうと決めたのだから、君らしく」
「我ね、匡華に会えて良かったって思ってるんだ!だから、大丈夫っ!」
「オレらを闇から掬い上げたみたいに、アンタなりの『創造』を見せてくれよ!」
「大丈夫。ずっと一緒に此処まで来たんだから、やれるよ。絶対に大丈夫」
「……お前の思うように、世界を描け。そうすれば、世界が生きる」
「匡華なら、大丈夫ですよ。神様をみんなで救ったように、自分の意志で……信じてます」
彼らの言葉に匡華は内心、小さく笑った。そんなに信じられても逆に失敗した時が怖くなる。けれど、そんな事きっと起きないと云う感覚があった。村正が小さく、匡華を安心させるように笑い、重ねていた手を外した。それが名残惜しくて、自分のこれからの仕事を感じさせてくる。匡華は軽く息を吐き、決意を露にするように告げた。
「輪廻転生」
「お前らしい……」
この、今での世界では全員が輪廻転生をするのかは分からない。だが、匡華はそれを選んだ。姪の決断に夕顔は小さく笑った。匡華は小さく自分を鼓舞するように頷くと手中の『キューブ』に精神を集中させる。モノクロ色の箱に自分が思い浮かべる世界を描く。
「時間は、二代目が降り、三代目が創造神となった時にまで遡り、再び一つの世界へ。平和で幸せを、理想へ。死人も生き人も、創造神も、魂も例外なく、輪廻転生を」
『キューブ』が少しずつ、回転速度を早めて行き、その回転で起きた風が匡華の髪を揺らし、『キューブ』が白と黒のうっすらとした光を放つ。その光は新たな創造神となった匡華の『滅亡』と『創造』を受け入れ、その準備へと入る。美しく輝く二色の光が匡華と、その周りにいる彼らを少しずつ優しく包んでいく。その間にも地面は割れ、その割れ目に木々や家が吸い込まれ、行き場を失った生き物が右往左往してはなにかを悟ったかのように動きを止める。空は曇り、雷が鳴り響き、雨が干からびた地面に降り注ぎ、暑いほどの太陽と美しく輝く月が同時に現れるというあり得ないのオンパレードを繰り広げている。それほどまでに世界は動いていた、生きていた。それを今、改めて感じたように思う。台風のような強風が彼らを襲ったと同時だった。『キューブ』が匡華の手中から離れ、空高く頭上へと回転しながら浮かんで行く。それに続くように匡華はかざしていた手を、頭上へと掲げる。再び、頭上で『キューブ』と匡華の手が触れ合う。その時、『キューブ』がまばゆいほどの光を放った。
普通、自分の手でって云うのは色んな意味でも怖いと思うんですけど、ウチの主人公勢はやってのける。そこに痺れる憧れるー




