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モノクロの蝶  作者: Riviy
第一章:毒入りお菓子のハッピーエンド
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第十ノ世界:毒に犯された少女2



神様は眼下の闘いを見て、勝敗はついたと嗤った。そして、空中に指を滑らせる。と、そこに代表者達の一覧表とステータスが書かれた一覧表の二つが現れた。それを見て、再び嗤う。


「(嗚呼、やっぱり)」


無表情な顔が、笑みを浮かべる。神様はその二つを消すと足を組み直し、眼下の闘いに目をやった。


「殺し合え~」


声は、愉快そうに弾んでいた。


…*…*…


匡華はヘレーナの怪我をしていない方の肩に置いていた小太刀を容赦なく、引いた。自分の下で痛みに悲鳴をあげる彼女が最後の抵抗と言わんばかりに暴れる。だがそれは、千早の能力によって出来た靄の手錠と足枷によって動きを封じられ、千早が右手を小さく振ると手錠と足枷は重みを増す。匡華はちらりと横目で村正達を見やった。あちらも双子を追い詰め、勝利は目前だ。だが、匡華には疑問が残っていた。ヘレーナは炎の球体か液体が入った小瓶を投げて攻撃してくるだけで、強い一撃は一度もなかった。代表者であるならば、こんな簡単に倒れるはずはない。


「匡華さん?早くトドメを!」


両腕を交差させ、ヘレーナの手錠と足枷の重さをあげながら千早が言う。匡華は思考を中断し、ヘレーナに向けて小太刀の切っ先をその首筋目掛けて振り下ろし…


「っっ!」


なかった。凄まじい殺気、と云うか力を感じ、匡華は咄嗟に後退すると驚く千早の手を掴んで、後ろ歩きで後退する。


「ど、どうしたの?」


千早の問いには答えずに、匡華の思考はフル回転している。拘束されたヘレーナがピクピクと、痙攣する。そして、ブチッと鎖を、怪我をしているにも関わらず、引きちぎると立ち上がった。千早が驚愕に息を飲む声が匡華の耳に入った。匡華は唇を噛み締める。と、その時だった。ドォンと音がしたかと思うと、ヘレーナの背後にお菓子の家が上から降ってきた。甘い香りが此処まで漂ってき、鼻腔を満たしていく。すると、お菓子の家はパズルのようにバラバラに壊れ始める。その壊れた破片はヘレーナについて行き、お菓子はとんがり帽子とマントとなった。色や香りを抜かせば、その帽子とマントを身につけたヘレーナはまるで魔女のようだった。ヘレーナの両肩の怪我がクッキー型ーとしておくーの包帯で覆われ、傷を見えなくする。ヘレーナが軽く肩を回し、正常であることを確認すると、驚く千早と苦々しげな表情の匡華を見やり、口が裂けるのではないかと思うほどに口角を上げて嗤った。その途端、匡華は理解した。嗚呼、これか。


「なんですかあれは!?」

「なんか変な気配がすると思って来てみたけど、なにあの子。変わってない?」


その声に横を見れば、ただならぬ気配を感じた村正と鳳嶺がやって来ていた。二人が相手をしていた双子はヘレーナの変わりように驚いており、彼女の怪我次第では引こうと思っていたのだろう。双子の体には傷がたくさんあるにも関わらず、村正と鳳嶺には傷がそんなになかった。匡華は片腕を天に突き出すように挙げたヘレーナを見た。途端、彼女の足元から炎があがり、匡華達に向かって来た。彼らは二手に分かれてそれを避ける。炎によって分断された。匡華がヘレーナを振り返ると次の攻撃準備に移っていた。


「!鳳嶺!」


その攻撃対象は明らかに鳳嶺だった。ヘレーナが再び、片腕を挙げると今度は、どろどろとした液体の手が鳳嶺に向かって迫った。千早と鳳嶺がその手に攻撃するが液体なためか、効果はない。


「は~や~く~死んじゃえ♪」


ヘレーナが楽しそうに、挙げていない方の手を頬に当てて、嗤って言う。目の前間近、と言うところで鳳嶺が千早を抱えて横に飛んだ。ギリギリで避けた、が、手は執拗に鳳嶺を狙う。千早が逃げる鳳嶺の上から靄を、『闇』を操って対抗する。

匡華と村正は炎の壁に遮られ、向こうに行けない。いや、それもあるが邪魔が入った。


「と、とりあえず~」

「愛し子のところには行かせない」


大盾を持ったヘンゼルと炎の球体を両手に浮かせたグレーテル。匡華と村正は殺気を放ちながら、刃物を構えた。その殺気に双子が、冷や汗を垂らした。怪我が酷いこの状況、勝率はこちらの方が上。だが、油断は禁物。けれど…

匡華はその答えに口角をあげた。そして、それを伝えるべく、村正に声をかける。


「村正」

「はい、分かりました」


匡華の鋭い声に村正は、口角をあげながら刀を構える。と、二人は同時に跳躍した。途端に双子も跳躍し、グレーテルが炎の球体を投げる。それをかわしながら、匡華はヘンゼルに向かって小太刀を振り下ろした。それをヘンゼルは大盾で防ぐと弾き、大盾を軸に回し蹴りを放つ。それを片腕で防ぐ匡華。とそこにグレーテルが投げた炎の球体が襲う。炎の球体が匡華にぶつかる瞬間、匡華はヘンゼルの大盾を弾き、小太刀を思い切り、振り切った。


「うっ!」


ヘンゼルの腹に小太刀の刃が食い込んでいる。だが、血は出ていない。峰打ちだ。苦痛の表情で意識を失うヘンゼルを抱き抱えると匡華は彼の首筋に小太刀の切っ先を当てた。その表情は酷く、無表情だった。それを横目に見てしまったグレーテルの手元が狂い、村正に当てたはずの炎の球体が彼の横を通り過ぎた。村正がその動揺を見逃すはずはなく。凄まじい勢いでグレーテルに接近。ポニーテールの髪が勢いで揺れ動いた。


「っっ」


目の前に刀を持って迫る村正に驚いたように、グレーテルは息を飲んだ。村正は妖艶に、彼女に毒ついた。


「余所見は厳禁ですよ、馬鹿が」


途端に、グレーテルの意識が飛んだ。村正がグレーテルの腹に峰打ちをしたのだ。倒れ込む彼女をそのままに眺めていると、グレーテルは、ページのような地面に着く前に同じくページのようなものに包まれて消えてしまった。それを無表情に眺めた後、村正は匡華を振り返る。ちょうど、気絶したヘンゼルもグレーテルのように消えてしまった。途端、ヘレーナの魔女姿も、彼らを分かつ炎の壁も音沙汰なく消えてしまった。呆けたような鳳嶺と、彼に抱えられた千早。そして、両腕が使えなくなり、ダランと垂らしたヘレーナ。ヘレーナのエプロンドレスは彼女の血で紅く染まっていた。


「やはりか」

「やはり、って、どういうこと?匡華さん」


鳳嶺の手を借りながら、千早が彼から降りつつ、匡華に問う。ヘレーナは憎らしげに匡華を睨む。それを村正が殺気を出して逸らさせる。


「ヘレーナの能力は『ヘンゼルとグレーテル』。双子が戦闘不能になると彼らは消え、ヘレーナの先程の能力は消えた。私はね、その魔女のような姿は追加能力ではないかと思ったんだよ。ヘレーナがすぐに倒れるはずもない。此処に集められたのは最強かそれ相応の者。ヘレーナの本気は双子がいる時……そう考えたんだが、違うかい?」


匡華の答えにヘレーナは、肯定を示すように口角をあげて、ニィと笑った。


「うんそうだよ~あたしは双子ヘンゼルとグレーテルがいる時が一番良いの~防御が高いヘンゼルと、炎属性の攻撃が高いグレーテル。そして、追加能力で強化されたあたし。完璧なはずなんだけどね~失敗しちゃったぁ~」


アハハと、空元気に笑うヘレーナ。ヘレーナはブランとぶら下がった両腕をそのままに、くるくると回る。回った反動で真っ赤に染まった両腕が広がって、血も広がる。くるくる、くるくると回っていたヘレーナは突然、立ち止まるとニィと、口角を上げた。三日月のように口が裂ける。その愉快と哀しみが混ざった、よくわからない表情ではあるが、笑っているのを気配で感じ取った千早が後退りした。そんな彼女を鳳嶺が背に隠した。それを見て、ヘレーナは小さく「ふふ」と嗤う。


「んーまぁいいや~両腕こんなだしぃ~きみたちの勝ちでいいよ~」

「……それはあんたが死ぬってことで良いのですかね?」


口元を押さえながら村正は警戒する。彼女ヘレーナの様子が可笑しい。匡華も鳳嶺もそれに気づいていたらしく、武器を構えている。一方、千早は気配を肌で感じ取り、靄が彼女の足元で漂う。村正の言葉に、ヘレーナは一瞬、きょとんとすると、小さく嗤った。


「違うよ~あたしは、まだお菓子作りしてたいもんっ♪」


ふふふ、と楽しげにヘレーナは嗤った。その意図に気づいた神様が組んでいた足を解きながら叫んだ。


「途中放棄する気か!?」


ヘレーナは神様の剣幕に一瞬、顔を強張らせたが、すぐに笑って言った。


「だって神様、言ってないじゃん~?"途中放棄は禁止"だなんて~それに、特効薬、使いたいもん。引くことも、闘いの一つなんだよ♪」


ヘレーナの正論に神様は、上体を後ろに引きながら、悔しそうに唇を噛んだ。


「それに、此処はあたしの世界がモチーフ。なら、出来るよね~?」


匡華は、ヘレーナがトンッと足を挙げたのを瞬時に確認すると、素早く彼女に向かって跳躍した。匡華に一拍遅れて、村正が続く。トントンッとヘレーナが床をリズミカルに叩いた。途端、ページのようなものが床から巻き上がり、ヘレーナを包んだ。ページのようなものに遮られ、匡華達は攻撃できない。


「ふふふ♪『盲目』さんっ!うんん、千早おねえちゃん、またあとで、あたしと遊ぼうね~!怪我治して…二回戦だよ!」


ページのようなものがヘレーナを竜巻のように包み、天井というよりも空に高く出来上がって行く。そして、それが消えた時、ヘレーナはそこにいなかった。薄くなっていく殺気。武器を静かに納める匡華達。相手がいないのなら、相手が再戦を望むのなら、ありがたくこちらも休もう。そう思いながら、相手を労る彼らを、神様はフードの中から見ていた。その表情は横目で神様を見上げた匡華にも見えなかった。


連続です!

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