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モノクロの蝶  作者: Riviy
第九章:消えた愛情、失った想い
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第九十五ノ世界:和平案




村正は沙雪の話を聞きながら、代役に鋭い視線を向けた。「あの時」の『創命』と同じ気配がしたこの代役は一体何者なのだろう?仮面に隠れて表情が読めない。けれど、なんとなく仮面越しにその表情を読み取る事が出来た。真剣。本当にこの代役は、誰だ?


「貴女の言いたい事はよく分かるが……本当にそんな事ができるのかい?」

「……ええ、できるわ。できないと思う事でも、できると思えばそれは実現できる。お母様の言葉よ。私は、それを胸に秘めてずっとやって来た。できるわ。その第一歩が、カインくんとアベルちゃんの兄妹だった。アベルちゃんはちゃんと話を聞いてくれた。カインくんは……私が闘えば、聞いてくれるって云うから仕方なくだったし無理だったけど…できないことはないわ!」


立ち上がって沙雪が力説する。その隣で代役は立ち上がった沙雪を見上げながら、パチパチと拍手を送っている。仮面で見えないが、瞳が輝いているのは理解できた。匡華は目の前の沙雪を見据える。能力があろうとも会話で平和的に解決しようとする彼女の心意気は賛成だ。しかし、それが可能かどうかは不明だ。実際、彼女はカインとアベル兄妹にそれを提案し、逃げている。代表者が少なくなった今、協力すべきだと思ったのだろう。


「村正、貴方はどう思う?」


小声で隣の村正に聞く。村正は沙雪と代役に素早く視線を走らせると少し考え込んだ。


沙雪(この女)の考えは良いと思います。しかし、和平案を持ちかけて安心仕切ったところで寝首を掻くつもりかもしれません」

「嗚呼、その可能性も考えた。だが……村正、貴方なら分かるんじゃないかな?」

「……ええ、そうですね。わかります、彼女は嘘を言っていない。平和的に解決したいと本当に思っている」


村正は匡華に少し不安そうな視線を向ける。すると、それに匡華は大丈夫だと云うように軽く彼の手を握った。村正は深呼吸をし、もう一度、沙雪を見上げる。自分には、沙雪が本当に平和的に解決したいと思っている事が痛いほどわかった。沙雪の瞳は強い意志をたたえていながら、悲しみを宿していた。友人を失った自分達と同じ。大切な人をこれ以上失う事がないように、自ら予防線を張っている。その予防線が、殺し合いではなく話し合い。能力が人々を支配し、神様が世界を支配するこの世の中で、あり得ない、不可能と云われた事を成し遂げ、救おうとしている。そこにはいない、誰かのために。村正は軽くため息をつき、優しくも暖かい匡華の手を握り返した。その村正の行為に匡華は俯いたまま、小さく頷いた。嗚呼、私と同じだね。匡華も村正と同じ考えだった。けれど、確証がなかった。一人だと不安だった。友人達を失ったからかもしれない。だから、誰かと寄り添いたい。


「分かった。それで貴方はどうしたい?」


沙雪は二人が自分の意見に賛同してくれる気になった事が嬉しかったのか、顔を綻ばせると、いそいそと席に座った。そして、荒れていた呼吸を整えると真剣な眼差しを向けながら話す。


「和平案、殺し合わない約束を結びましょう。永遠って訳じゃないわ。何かあった時は、助け合うの。本当は、破らない事が良いんだけど、それは到底無理だから最低限でも、仲良く行きましょう?これ聞いてた君ももちろん、含むからね」

「え~我も?」


沙雪が隣を振り返って代役にそう言えば、代役はめんどくさそうに頭の後ろに両腕を回した。が、言葉のはしはしからは了承の意、と云うか楽しそうな雰囲気が滲み出ている。沙雪の話を真剣に聞いていたことに彼女は気づいていたらしく、自分の意見に賛同してくれるのもわかっていたようだ。沙雪が匡華に向かって手を差し出した。この手を握れば、和平案は成立する。匡華は暫く思考する。この女性、沙雪は真実を言っている。そしてその心は誠実。この和平案を取れば、彼女と代役とは闘わない。けれど、決して闘わないと云う選択肢はこの世界には存在しない。これは、一瞬の気休めに過ぎない。それを沙雪は理解しているのだろうか。していてもしていなくとも、神様は話し合いで解決するのを認めない。それでも。

匡華は村正と繋いでいる方ではない片手を出し、沙雪の手を力強く握った。その行為に沙雪は嬉しそうに微笑んだ。


「〈シャドウ・エデン〉代表者、加護夜 匡華。その和平案を受け入れよう」

「!!ありがとう!えーと、匡華ちゃん!!」

「「!?」」


匡華の手を嬉しいからか両手で握りしめ、ブンブンと上下に振る沙雪。が、匡華と村正はその後の沙雪の言葉に驚いていた。沙雪は、匡華が女性であると一発で見抜いたのだ。代役は匡華が女性だと分からなかったらしく、「うっそぉお?!」と驚愕の様子で匡華を見上げている。それは匡華と村正もだった。何故、分かった?と言いたげに二人で顔を見合わせている。沙雪は三人の困惑した様子に気付き、当たり前じゃないと言いたげに匡華の手を握り締めながら首を傾げて言った。


「声でわからない?」

「「いや、分かりませんよ?!/わからないよ?!」」


村正と代役のそっちこそ分からんわ!と云う叫び声が響き渡った。




笑顔で帰って行った沙雪を見送って匡華と村正もさっさと此処から撤退しようと思った。沙雪とこの代役と、和平案を結んだが、絶対にそうなるとは限らない。匡華は明日にでも沙雪と今後について話せたらな、と思いながら村正と共に広間を出た。扉を開け放った途端、背後で大きな音が響いた。ドッターン!だが、ドッカーン!だがそんな大きな音だ。二人がそれに振り返るとどうしてそうなった、代役が席から転げ落ちていた。転げ落ちても、仮面は外れないようだ。匡華が心配になって駆け寄ろうと、振り返りかけたが、その手を村正に掴んだ。


「?村正?」

「行きましょう?僕、なんとなくですがあいつ、苦手です」

「何故?」


村正を振り返りながら、匡華が問うと村正はどう言い表して良いのか分からないらしく、顔を歪ませた。匡華は、『創命あいつ』の事を知らない。いや、それは僕達にも当てはまる。あのあと、置いてきぼりにしたのだから。匡華の伯父は「大丈夫だ」と言っていたが、それでも同じ気配を持っていた代役は何故か、苦手だった。匡華はそんな村正の心情も表情も読み取ったのか、代役を顔だけで振り返ると叫んだ。


「気をつけな!……さて、村正、行こう」

「……良いんですか?」


まさかの匡華の行動に村正は面食らい、目をぱちくりさせた。それに匡華はクスリと笑って云う。


「村正と代役(あの人)、どちらを取るかと言われたら、私は迷いなく村正を選ぶよ。それに」

「はーい」

「大丈夫そうだしねぇ」


匡華の先程の言葉に代役が呑気に答えた。そして、素早く立ち上がった。先程、転げ落ちた事など一切感じさせない動きだ。あの動きを見て、匡華は改めて大丈夫だと感じたらしい。あそこまで素早く立ち上がれるところから見て、何処か怪我をした可能性もなさそうだ。と、云うよりも匡華が駆け寄るより先に立ち上がりかけていた。多分、匡華が行ったら別の意味で怪我が増えた。匡華に。匡華は大丈夫だと村正に笑いかけ、安心させる。村正は少し歪んだ表情で頷くと掴んでいた手を離した。そして二人は広間を後にした。二人が出て行ったのに気づいた代役が慌てた様子で彼らを追った。代役にも二人に用事があったのだが、沙雪との和平案の印象が強すぎて、掻き消されていた。それは、代役にも当てはまるのかもしれない。


目指していた日にちまで終わらなそうな予感がして慌てて出す(いそいそ)

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