第九十四ノ世界:参戦
遠くで殺し合い開始の鐘の音がする。匡華と村正はいつもの席で、沈黙していた。既に広間に神様はおらず、二人と女性、そして代役がいるのみだ。あの青年達は、片方が突然、神様がいなくなった後、立ち上がったかと思うと急いで出て行き、もう一人もそれを追って出て行ったのだ。なにかあったのであろう事は予想できるが、それを追いかけて行くほどの重要性はないに等しい。
「村正」
「…はい」
匡華は組んでいた両手から顔を上げ、村正を見据える。彼も彼女を真剣な眼差しで見据え返す。
「神様は、何か隠しているのは間違いない」
「そう、ですね。鳳嶺が言っていたアーギストが諸事情でいなくなるって、タイミングが良すぎます」
「嗚呼……昨日、復讐に駆られてますみたいな演技でもして、近付けば良かったか?」
そう匡華が口にすると村正はやめておいた方が良い、と首を横に振った。
「そう思わせておいて、他の代表者が隙を狙って襲って来たら元も子もありません」
「だな…」
二人は同時に肩を落とした。最重要情報候補であったアーギストがいない以上、クヨクヨ昨日の事を後悔していたって意味はない。それに、昨日今日でいきなり離脱と云うのも不自然だと二人は考えていた。あのオドオドとしていた少年の事だ。何かあったにしろ、絶対、少なくなる前から離脱できるものならしていたはず。なのに此処に来て、離脱。何かあったとしか考えられない。
「まぁ、様子見かな。村正、行こう」
「分かりました」
匡華が小さくため息をつきながら、テーブルに手をついて立ち上がる。村正もゆっくりと立ち上がった。その時、村正が視界の隅に代表者を捉えた。途端、殺気を放つ。それに気づいた匡華が振り返るとこちらにあの女性が歩いて来ていた。武器を抜いてはいないが、持っている。此処で殺し合いをする気か。そう思い、彼女の表情を盗み見ると、そうではないらしい。畏れを放つ女性、と云うよりは少女と言っても通じそうな心配した表情を浮かべていたのだ。いや、もしかするともあるかもしれないが。と、匡華は村正がギョッと目を見開いたのに気づいた。今度はなんだと、彼が顎で示す方向を見れば
「?!」
さすがの匡華も驚いた。あの代役が何故かこちらに向かって来ていた。スピードはほぼ女性と同じ。両者共、殺し合いをする気か。匡華と村正が視線で会話し、テーブルの後ろに並びながら柄に手を伸ばした。ちょうどその時、女性と代役がついさっきまで二人がいた席の真ん前に到着した。村正の殺気が一層濃くなる。その殺気に代役はオーバーリアクションを取り、一瞬、後退した。が恐る恐る近づく。そのリアクションがオーバー過ぎて匡華も村正も一瞬呆れた。なんだこいつ。女性も村正の殺気に怯えた面はあったのだが、代役のオーバーリアクションに目を真ん丸くさせ、動きを止めてしまった。それに気づいた代役がごめんね、と言いたげに軽い口調で言う。
「あ、ごめんね?此処はレディファースト、だよね。はい!どぞ!」
いや、そういうことじゃない。多分、代役以外の全員が満場一致した事だろう。よく通る、透き通った声が響いた。透き通っているが、少し男っぽい。代役は、男か?そう考えていると、ハッと我に返った女性が匡華と村正に向かって言った。
「お話ししたいだけなの。アベルちゃんについて、とか。君達でしょ?アベルちゃんを救ってくれたのって」
アベル。ノア・アベルで間違いないだろう。匡華と村正、千早と鳳嶺が兄妹(兄弟)と殺し合いをしていたことを知っているのはあの時、逃げ出して来た彼女と恐らく神様のみ。匡華が警戒した様子で頷けば、女性は突然頭を下げた。これには事情を知らない代役も驚いたらしい。
「あの時は、ごめんなさい!君達にカインくんの事、押し付けちゃって…」
「い、いや、その事はもう良いよ…頭を上げてくれ…」
さすがに、突然頭を下げられて匡華も動揺したらしい。頭をあげるよう要求した。それに女性は心配そうに頭を上げる。まだ、話したい事があるらしく、その視線は二人に注がれている。そして、何故かいる代役を警戒してもいる。匡華と村正は顔を見合わせた。代役はともかく、女性は殺し合いではない事は確定だ。匡華と村正がおずおずと席に並んで座ると向かい側の空いている席に何故か一番先に代役が座り込んだ。おい、なんでいる。仮面で表情が読み取れないが、代役も用があるようで、「終わるまで一緒にいる」と云う事らしい。女性は代役の様子と行動に目をぱちくりさせていたが、クスリと何故か愛おしそうに微笑んで席についた。村正は代役の行動に殺気を放つ気も失せたのか、天井を一瞬仰ぎ見た。匡華がそれにクスリと笑みを溢す。そして、女性に何の用かと視線を投げ掛ける。その視線は敵か味方か、値踏みをしているようだった。
「で、話ってなんだい?」
「あ、ごめんなさい。その前に自己紹介させて。私は沙雪。〈戦国乱闘〉の代表者なの。私、あんまり闘いたくはないから君達とは、平和的に話し合いで解決出来たらなと思って来たの……アベルちゃん達は、無理だったけど」
そう最後に悲しそうに女性は付け足した。そして、殺し合いではなく、話し合いと云う、能力を持った自分達や代表者らしからぬーいや、本来は能力を持っていてもそれが良いのだろうがーその行動に匡華も村正も目を見開き、驚いた。
女性、沙雪は白梅鼠色のセミロングで暖かくも優しい眼差しの空色の瞳。服は白の着物ドレスで袖口や帯には名前の通り、霞色で雪の結晶とワスレナグサの花が描かれている。帯は空色。灰色の膝上まである足袋に白と赤を基調とした下駄。
沙雪は驚くのも無理はない、と言いたげな表情で頷いた。
「此処は殺し合いで生きるか死ぬかを決める場。けれど、私は殺し合いをしたくないの。能力があるから話し合いでの解決なんて無謀だって云うのは理解しているわ。それでも私はっ!!」
ダンッ!と両手をテーブルに強く叩きつけた。テーブルが女性ながらも強い力で叩かれため、大きくテーブルが震えた。代役に至っては、沙雪の行動に驚いたのか再びオーバーリアクションを取っていた。匡華がうむ、と考え込んだ。そして、肩で荒い息をしている沙雪に向かって、村正と軽く視線を合わせ、言った。
沙雪姉さんお待ちしておりましたぁああああああああ!!!!!やっと!出せた!何度出そうと思って!出せなかったか!やった!姉さんお帰りぃいいいいい!!ウチの過去作読んだことある人は分かると思います!やっとです!(興奮中)←




