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第56話 覚醒


 ユリエスは更なる変化を遂げていた。

 今までは一応は人間の姿をしていた。背中に羽が生えたりしているけれども。


 身に纏っていたオーラは白から黒に変わり、全身も黒い鱗で覆われている。

 天使のように綺麗だった姿は欠片も残っていない。どこからどう見ても悪魔(デーモン)だ。


 鑑定内容に変わりはない。

 しかしハイドスキルは見えないので、新たなスキルが備わっていても分からない。というか、きっと有るはずだ。


 そして何よりも、その表情が海斗の心に衝撃を与えた。


 怒りだ。

 完全に怒っている。ラーシャ達の仕業(せい)だ。神獣から破壊神に変化を遂げた時のように、その身を痛めつけられると更なる個体へと進化していくのであろう。つまり、守護神を倒した時のユリエスよりもパワーアップしているのだ。


 何の合図もなく海斗は距離をとった。逆にレイチェルは破壊神に向かって行く。まるで事前に申し合わせていたかのように。


 戦闘は直ぐに始まった。


 かなり距離をとったために彼女たちがどんな闘いを行っているのかは殆ど見えない。だが、この距離でも時折り激しい爆風や衝撃、巻き上げられた岩の破片等が飛んでくるのだ。きっと想像を絶するパワーがぶつかり合っているのではないかと思われる。


 世界最強と言われるレイチェルが負けたらどうなるのだろうか。

 もしかして、この世界は全て破壊し尽されてしまうのではないか。まさに世界の破滅だ。


 防ぐためには、ラーシャ達に協力して古代禁呪を全て復活させるべきなのか。

 いや、彼女の変貌を見るに良い方法ではないだろう。むしろ、破壊神のような存在を増やすだけになるかもしれない。


 祈るしかないのか。

 だが海斗が祈る先でレイチェルは、闘いをやめて海斗の元へと向かって来た。


「そ、そんな……」


 何故、こちらに来るのか。

 あの激しい渦に巻き込まれれば、海斗はひとたまりも無いだろう。


「海斗!!!」


 レイチェルが叫ぶ。


「空間切削を使え!!」

「え!?」

「空間切削だ。ユリエスを異世界へと飛ばすのだ」

「でも……」

「すまない、私の力も及ばなかったようだ。あれは化け物以上だ。一旦退いて対策を練るしかない。が、その前に一応試しておきたいんだ」


 これもダメなら空間回帰で戻ろう、とレイチェルは言った。

 以前、海斗が放ったスキルの威力をとんでもなく増幅した例のアレ(・・)を使うらしい。ルマリア国に戻った際に媒体となる魔石を一つ手に入れたらしいのだ。


 確かにスキルの威力を増幅させたなら、海斗の放つ空間切削でも切り取る事が出来るかもしれない。


 問題は、ちゃんとセット出来るのかという事だ。

 ユリエスの移動スピードはそれほど速くない。範囲を大きくとれば問題ないようにも思える。スキルの威力が増幅されるのであれば、多少広く切り取っても大丈夫なはずだ。


「レイチェルさん。媒体になる魔石は一つだけですか?」

「ああ、一つしかない。だから失敗しないでくれると助かる」

「そうですか……。わかりました! では少し離れてもらえますか」

「ん? 何故だ」

「オレ自身も一緒に切り取ります」


 スキルの威力を増幅できるのなら、海斗自身も切り取る事が可能なはずだ。まさか二人同時に切り取ったら中で融合されて異世界に飛んで行くなんて事にはならないと思うが。


 でも、もしそうなったとしても海斗としては受け入れるつもりだ。


「そうか! なるほどな。よし、やってみろ」

「はい。……あの、レイチェルさん。本当に今までありがとうございました」

「ははは。礼を言うのは成功してからにするんだな」


 えっと。成功したらお礼は言えなんですが……。


 もう丁寧に挨拶を交わす時間も無かった。ユリエスは目の前にまで迫ってきているのだ。この状態で精神を統一し、転送先をイメージしなければならない。


 海斗は素早く深呼吸をすると共に異世界の自分の町をイメージし、自分自身とユリエスを含む空間を選択した。


 空間切削と念じると同時にレイチェルが増幅スキルを放ってくれる。

 流石としか言いようがない。詠唱も何も行っていないのに、スキルの発動にぴったり合わせてくれたのだ。


 そして空間切削は発動した。増幅されたスキルの威力が破壊神を上回ったと言う事だ。

 まず最初に足元の感覚がなくなり、まるで宙に浮いたかのような状態となる。直後、海斗の全身を覆っている皮膚が一気に剥がれて行き、粒子レベルまで細分化されていく。それに続いて筋肉や骨子までもが分解されていった。


 痛みは無い。

 何故か海斗自身が別の場所から崩れゆく自分の体を見ているのだ。これを見ている自分は一体何?という疑問が出るくらいだ。


 そうだ。

 大輔が話していた。

 

 空間切削で切り取ると、肉体は元の世界に飛ばされる。だが元の世界では異物とみられて消滅してしまうと。


 まさに今、消滅している現場を目撃しているのだ。

 ユリエスの体は見えないが、おそらく同じように消滅していくのだろう。まさか超再生スキルが消滅を阻止するとかって有るのだろうか。それはそれで、嬉しいような、怖いような……。


 元の世界で破壊神があのままのスペックで出現したなら、えらい事になる。


 と、いう事を考えている今の自分は何なのだろうか。

 肉体は既に消えてしまった。今は魂だけなのか。


 そんな心のトリップに近い状態もいつの間にか終わっていた。


 気が付くとベッドの上である。

 見た事のない部屋。


 白を基調とした、やや無機質な感じの部屋。

 知らない場所だが知っている。この雰囲気は紛れもなく元の世界だ。


 海斗は元の世界に戻っていた。

 病院のベッドに寝かされていたのだ。


 戻って最初に試した事は、鑑定だ。

 自分に向けて『鑑定』と念じる。すると、ステータスウインドウが……開かなかった。それが、嬉しかった。元の世界に戻ったのだと実感できた。


          ◆


 両親はもちろん、喜んだ。

 そりゃあ3年も眠っていたんだから、もうこのまま意識を取り戻さないのではないかと不安に思うだろう。


 そう思っていたのだが、ここで海斗は驚愕の事実を知った。

 なんと、バスの事故から3日しか経っていないのだ。


 これは一体どういう事か?

 まさか今までの事は夢だったのだろうか。


 転落事故で体に強い衝撃を受け、そのまま昏睡状態になっていたと考えられていたらしい。その割には外傷もなく、検査をしても何処にも異常もない事から頭に何か衝撃を受けた可能性も踏まえて更に詳しい検査をする予定だったと言う。


 しかし同級生36名が全員同じ状態のため、全員の検査に時間が掛かっていたらしいのだ。


「え? 目を覚ましたのはオレだけ?」

「そうよ。ホントにもう心配したんだから!」


 母親に同級生の事を聞くと、いくつかの病院に別れて運び込まれたらしく海斗が居る病院には8名だけだと言う。だが他の病院に運ばれた同級生も全員、未だ昏睡状態らしい。


「詩織ちゃんも、この病院に居てるわよ」


 詩織は海斗と仲が良かったクラスメイトだ。家族ぐるみの付き合いをしていた。同級生全員と言うことは、彼女も意識不明の状態なのだろうか。


「あいつも目を覚ましてないの?」

「うん。あと大翔くんもね」

「そっかぁ……。様子を見に行ったりできるのかな」

「まだ止めておいた方がいいかもねぇ」


 面会謝絶ではないんだけどね、と母は言った。

 大事故でどこの家族もお見舞いの受け入れどころでは無いらしい。


 考えてみれば、まだ3日しか経ってないのである。

 でも絶対に夢なんかではない。いくら時間軸が合わないといっても、夢がこれほどリアルに記憶に残るはずは無いのだ。


 だが気になる点はある。

 大輔は、また向うの世界に転移するためのスキルだけは使えると言っていた。


 しかしスキルウインドウは出ないし、頭の中で念じても全く作動する気配が無いのだ。


 やはり夢なのだろうか……。

 なんだか良く分からなくなってきた。そういえば大輔の言葉をもう一つ思い出した。


 帰ってみたら驚く。

 確かに彼はそう言った。そして、海斗も向こうの世界にもう一度行きたいと思うかもしれないと。


 向こうの世界で過ごした期間が3年。しかしこちらでは3日。

 もし時間の進み方が違うのだとしたら……?

 大輔は200年以上も異世界で生活している。しかしこちらの世界では1年も経過していないと言う事か。

 なら、海斗も休日にちょっと異世界トリップして半年くらい過ごして帰って来る事が出来る?


 それはそれで面白いのかもしれない。

 帰って来れるのであれば。

 だが海斗が帰るには、レイチェルが必要だ。彼女にスキルの増幅を行ってもらわなければならない。しかも、媒体として特殊な魔石を消費してしまうのだ。


 そう考えると、次も帰ってこれるとは限らない。

 あれが夢であっても無くても、もう考えるだけ無駄なのかもしれない。


          ◆


 医師や看護師からの取り調べ(?)も終わり、ちょっと歩いてくる、と母に告げて病院の中を散歩する事にした。


 それなりに広い病院で、何故ここに8名しか入れなかったんだとツッコミたくなる感じだった。


 もしかすると現場から近い病院に優先して運び、ハズレを引いて遠い病院となってしまったのが海斗達8名だったりして。


 そんな事を考えながら歩いていると、知った顔と出くわした。


「あ。由利ちゃん」

「お兄ちゃん」


 詩織の妹だ。

 詩織とは家族ぐるみの付き合いだったので、当然のことながら妹とも面識があった。しかし、出会った瞬間に海斗の体に電撃が走った。


 自分は、この子を知っている(・・・・・)


 知り合いとして、ではなく。


 彼女が誰なのかを。


「……お兄ちゃん」


 そして彼女もまた、海斗と同様に覚醒したらしい。

 もう一度、お兄ちゃんと言った。一回目の呼びかけと言葉は同じだが、中身は全く違う。


「ユリちゃん!!」


 海斗の二回目も、違う意味だ。

 彼女はユリエスだ。何故か分かった。どうして由利がユリエスなのか分からないが、そんな事はどうでもいい。


 海斗は駆け寄ると彼女を抱きしめた。

 恋人たちのそれ(・・)ではなく、家族としての抱擁だ。彼女はもう海斗の妹みたいなものだから。


 良かった。

 本当に良かった……。


 きっと次元の狭間で消滅してしまったのだろうと思っていた。もしかしたら、こちらの世界で魂だけ残り、転生という形で新たな生命として誕生してくれたら嬉しいと思っていた。いや、強くそう願っていた。


 だけど彼女はそのままの姿で現れた。

 確かに見た目はちょっと変わったが。というか、見た目は由利ちゃんのままだ。


 思えば昔から、詩織の家では由利ちゃんとも良く遊んでいた。詩織よりも仲が良いくらいだった。そして由利ちゃんは良く変な事を言っていた。


「大きくなったらお兄ちゃんと一緒に旅行したい」


 皆が誤解するから、そんな事を言うのはやめてくれと海斗は必死に拒否していたが、当の本人は完全にその気になっていた。


「詩織を見に来たの?」

「うん。突き当りの部屋だよ」

「オレも一緒に行っていいかなぁ?」

「当たり前じゃん。絶対、姉ちゃんも喜ぶよっ」


 由利ちゃんに引っ張られるようにして病室に入ると、一人の女の子がベッドに寝かされている。


 詩織だ。

 やはり海斗と同じで外傷はなく、原因不明の昏睡状態だそうだ。


「詩織ももしかして、向こうの世界に行ってるのかもしれないな」

「きっとそうだよ」

「ユリちゃんもそう思うの?」

「ううん。分かるの。お姉ちゃんが見えるから」


 由利ちゃんは、また変な事をいった。

 いや、これはユリエスだ。ユリエスが言っている。


「何が見えるの?」

「来て」


 ユリエスは海斗の手と詩織の手を同時に掴んだ。

 そして海斗に確認するように言う。


「お兄ちゃん、いい?」


 その意味は何となくわかった。

 もう二度と戻れないかも知れない。でも、もしかしたら詩織も向こうの世界で苦労しているのかもしれない。海斗は運良く色々な人に助けられて事なきを得た。だが一歩間違えば死んでいた可能性も低くは無い。


 海斗達は再度、異世界への扉に突入した。


          ◆


 目を覚ますと、またもやジャングルだった。

 しかし今度はユリエスが居る。無事に一緒の場所に降り立つ事が出来たようで、ひとまずホッと胸をなでおろした。

 転移の際にバラバラになってしまわないかだけが心配だったから。


「おはようユリちゃん」

「えへへ」

「体は問題ないようだね」


 こちらに来たとたん、破壊神に戻ってしまう可能性もあった。

 だが外見は由利のままだ。転移で元々の肉体は本当になくなってしまったのかもしれない。


 だがユリエスはそんな事を気にはしてないみたいだ。

 それもそうか。元々から由利だったのだ。アレ? 違うか。由利がユリになって、戻って来ただけなのか?

 頭がこんがらがって来た。


「やっと、お兄ちゃんと一緒に冒険できるね!」


 その笑顔がユリエスのものと重なった。

 どちらが彼女でもなく、どちらも彼女なのだ。


「ああ。まずは詩織を探すんだ!」


(本編・完)


 本編完了しました。

 次回少しだけエピローグを投稿します。それで最後になります。

 お読みいただいてありがとうございました。


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