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第48話 本当の事を言うと


「驚いたでしょ? ま、キミの事は色々と調べさせてもらったからね」

「……」

「何故?ってとこかしら。まあ私たちは情報が命だからね。これくらいでないと帝国相手に張り合うなんて出来ないわよ」


 シュボッと言う音とともに彼女の人差し指に小さな火が灯る。

 それを、いつの間にか咥えていた煙草の先に持って行った。慣れた手つきである。


 フーッと大きく煙を吐き出すと、彼女は続けた。


「正直言うとね、ダンナや娘には用はないの。私はあんたに会いたかったのよ」


 ラーシャの口から衝撃の事実が告げられる。

 どういう事なのか全く分からない。

 遠路はるばる旅して来た家族に用はないと。そもそも娘とは生まれて直ぐに離れ離れになったはずだ。どんな事情があったにせよ、娘の成長した姿を見たいとは思わないのだろうか。


「ってね。驚いた? 嘘よ。冗談に決まってるじゃない」

「えええ?冗談?」

「そうよ。後で会いに行くわ。場所もわかってるからね。明日の夜行くからって伝えておいてくれる?」


 彼女はカラカラと笑った。

 その後は取り留めも無い話しをしてから二人と別れた。


 しかし海斗の心には何とも言えない不安な気持ちが残ったのである。

 キャンプに戻るとグレン達にラーシャに出会った事を伝えた。明日の夜に会いにくる事も。だが冗談で言われた事は伏せて置いた。グレンはともかく、アンジーが聞いたらきっと悲しむだろうから。それに、本当に冗談かどうか不安だったのだ。もし冗談でなければアンジーの心の傷は相当なものになるだろう。


 その夜はラーシャの言葉が気になって眠れなかった。

 よく考えると空間回帰はミカ達以外にも見せた事がある。ジェイコブ事件の際に、一緒のパーティだった人たちだ。


 詳しく説明していないものの、ダンジョン内から一瞬で脱出した事は明白だ。

 彼らに聞けば、そういった類のスキルがあると知る事は出来るだろう。


 問題は、何故海斗の事を調べていたのか、だ。

 可能性としては、レイチェルと一緒に旅したことか。レイチェルは文句なしの有名人である。それも世界中にその名を轟かせていると聞く。なら、そのレイチェルとしょぼい冒険者が連れだっている事に疑問をいだき、調べるという事は考えられる。


 翌日の夜、約束通りラーシャが来た。

 海斗は寝不足の目をこすりながらの再会だ。


 昨日、あんな話しを聞いたから少しは予想していたが、グレン達も特に感動の再会なんて雰囲気にはならなかった。


「大きくなったね、アンジー」

「……母さん」

「死んだって言われてたんだってね、コイツに。まぁそれで良かったかもね。私の周りはいつも危険だから」


 こんな物なのだろうか。

 初めての親子の会話というものが。


 なかなかそんなシチュエーションに会った事がないから分からない。

 アンジーも、それほど喜んでいる雰囲気ではない。


 それはきっと、ラーシャのせいだ。

 やはり昨日の言葉は冗談なんかではなかったと海斗は思った。


 自分の娘に逢えた事を少しも喜んでいない。

 アンジーもそれを分かっているのだろう。自分の母親は、自分を生んで捨てたのだ、と。


 上辺をつくろう会話がしばらく続いたあと、ラーシャは仕事があると言って帰っていった。この場の空気に耐えられなくなったとかではなく、本当に仕事があったのだろう。

 逆に海斗の方が空気に耐えられなかった。


 しかも別れ際にラーシャは海斗に向かって、明日の夜にまた町に来て欲しいと言った。

 見せたいものがあるのだそうだ。


 はっきり言って、このタイミングで言わないで欲しかった。

 娘との再会はそっちのけで、海斗にまた会いに来いなどと。


「アンジー。昨日ちょっとユリエスの事を頼んでおいたんだよ。だから、その手掛かりをくれるんだと思う」


 完全にでっち上げだが、とりあえず、フォローを入れておく。

 効果あったかどうかわからないが。


 その夜はアンジーが一人になりたいからと言ってキャンプではなく馬車で眠った。きっと一晩泣き通したのだ。翌朝早くに一人で顔を洗いに行ったが、目の腫れは完全には取れてなかったから。


「んで、これからどうしよっか?」


 アンジーが元気一杯、声を上げた。

 それはもう、母親の事は吹っ切ったと言いたげである。


 空元気なのはミエミエだが。

 しかし海斗も、その流れに乗った。


「んじゃあ約束通りユリちゃんを助けに行こうかぁ!!」

「そうね! でも今日の夜、また母さんとこに行くんでしょ? 出発は明日からかな」

「そうだった」


 折角なので、早めに町に入って更に色々と見物することにした。皆には申し訳ないけどアンジーはどちらにしても観光気分ではないはずだし、ナッシュと二人で狩りでもしていた方が気が紛れて良いのではないだろうか。グレンが一緒だと狩りにならないので、彼は荷物番だ。


 カサノバの町は、昨日と特に変わりない。

 同じ店まで行き、そこからマークライルに連れられて歩いた道を辿ろうとしてみたが、途中で直ぐに分からなくなってしまった。帰りはまた別の道だったこともあり、さっぱりだ。


 あきらめて適当にその辺りをぶらぶらと歩いてみる。

 途中でギルドの建物も見つけた。グレンの言いつけを守り、中には入らないようにする。


 やはり国が変わると食べ物も変わるようで、露店には見たこともないものがいくつか並べられてあった。先日は保存食ばかり買ったので、食べ歩きはしていなかった。


 海斗はその中の一つを買い、食べてみる。

 ……不味い。

 やっぱりここも一緒だ。


 このラージニア大陸にはグルメの国は無いものだろうかね。

 マナー違反とは知りつつも路地裏の人目のない場所で食べ残しを捨て、そのまま散策を継続する。


 結局、暇つぶしにはなったかな?程度であった。

 時間になったので待ち合わせしているショップへと向かい、そこでマークライルと合流してから例の店へと向かう。


 今日も道は覚えられなかった。

 店に入ると二日前と同じように個室っぽい所でラーシャが待っていた。一体何の話しがあるのだろうか。


「これは……魔石?」

「だね。キミ、鑑定したんだろ?何か異変に気が付いたはずだ」


 ラーシャに渡されたものは魔石だった。

 それも通常の物ではなく、ジェイコブが持っていた特殊スキルが付いたものだ。


「ラーシャさんには、この魔石のスキルが見えるのですか?」

「見えないからキミを呼んだの」


 そういう事か。

 彼女も、特殊な魔石という事は分かっているらしい。


「これはスライムを召喚できるスキルですね」

「やっぱり見えるんだね。私の睨んだとおりだよ。キミはどこで能力を手に入れたのかな?」


 海斗は悩む。

 どう説明するべきか。

 もし、彼女が普通の母親でアンジー達と家族の再会を喜んでいたなら、正直に話しをしたかもしれない。


 だが、どう見ても何かが引っ掛かる。

 グレンやラングウッドからレジスタンスの活動内容を聞いた。まさに世のため人のため、だ。立派な集団である。そして彼女は、レジスタンスのリーダーだ。協力を惜しむべきでは無いだろう。


 理屈では分かっているのだ。

 しかし海斗の脳裏には、アンジーの目を腫らした顔が焼き付いて離れない。

 自らの使命に没頭するあまり、家族をないがしろにする。それは元の世界でも良く聞く話しであった。それがきっと許せないのだろう。


「……わかりません。気が付いた時には既に持っていました」


 海斗はアンジー達に話したものと、同じ説明をした。すなわち記憶喪失になり気が付いたら『ころふき村』で保護されていたのだと。


 ラーシャはそんな海斗の顔をじっと長い間見つめていた。

 全部嘘という訳ではないので、海斗の顔にも焦りの表情は出ていなかったはずだ。


 どれくらい向き合っていただろうか。

 やがて彼女は視線を落とすと、ふっと息を吐き出した。


「ま、そういう事にしておきましょうか。今は。この魔石はね、古代の失われた技術で造られているのよ。禁呪という物で、ね」

「!」

「やっぱり知ってるのね」

「い、いえ。禁呪という言葉は最近知りました。ラングウッドさんにレジスタンスの事を色々と教えてもらう中で聞いただけなんです」

「あらそうなの? まあいいわ。でね、帝国の動きが最近活発になったのよ。突然、古い遺跡を調べだしたのね。私はきっとそこに禁呪が眠っていると思うのよ」

「はあ……」


 海斗の気のない返事がお気に召さなかったらしい。

 ラーシャはテーブルを軽く叩きながら口をとがらせた。


「ちょっと、分かってるの? 帝国が禁呪を復活させれば大変な事になるのよ。だから私たちは全力で阻止しなければならないの」

「すいません、そうでしたよね。そのためにレジスタンスとして危険を顧みず闘っていると聞きました」

「う、うん。だから、キミにも協力して欲しいのよ」

「えええ?」

「キミの能力はきっと役に立つわ。いいえ、それどころか無くてはならないのよ」


 突然そんな事言われても。

 オレにだって色々と事情はあるしな。


「時空魔法も見つかるかも知れないわよ」


 しぶってると更にラーシャが被せてくる。まぁ時空魔法を探して旅していた事も、当然バレてるわな。


 だが彼女の提案にも一理ある。

 オレが元の世界に戻るためには、もしかすると禁呪に手を出さなければならないかも知れない。もちろん、この世界が破滅するような物であれば使う事はできないが、帰還するための呪文ぐらいであれば復活させても大丈夫かもしれない。それをハッキリさせる為にも手伝うべきかも知れない。


 悩んだ末に海斗は、ユリエスの件が決着すれば手伝うと言った。

 やはり彼女の事は放っておけないのだ。


「でも、その破壊神ってまだ見つかって無いんでしょ?」

「ええまあ」

「なら見つかるまでの間も協力してくれない? もちろん、行方探しだって手伝うわよ。私たちが探せば早く見つかるかも知れないしね」


 なかなか魅力的な提案をしてくれる。

 でも確かにそうだ。これだけ情報に強いレジスタンスが探してくれるのであれば、あっと言う間に見つかるかも知れない。


「分かりました。ではグレンさん達に伝えてきますので、今日の所は一旦帰りますね」

「待って。少しだけお願いしたいことがあるのよ」


 そういうとラーシャは空間収納(アイテムボックス)から魔石を大量に取り出した。

 凄い数だ。

 200個くらい、あるのではないだろうか。


「このスキルを全部教えて欲しいのよ」

「ぜぜぜ、全部ですか?」

「そう。さっき一瞬で判別出来たじゃないの」


 まあそうなんだけど。確かにちょっと面倒だなってくらいなんだけど。


 聞くとラーシャ達はこれを手に入れた当初、よく分からずにスキル付与してしまったらしい。たまたま最初に付与されたスキルが有用なものだったため、皆こぞって付けまくったと。

 

 すると、何人かが突然苦しみだし、間もなく命を落とした。

 生き残った人間は1人居たが、なんとモンスターになってしまったらしい。


 確かにジェイコブの魔石にも同様の物があった。魔獣化だ。きっとアレに違いない。

 やはり、モンスター化するスキルだったのだ。


「分かりました。鑑定しましょう。ただ……」

「ただ?」

「不要な魔石はオレに譲って欲しいのですが」

「ふふ。大きく出たね」

「ええまぁ。でも魔獣化のスキル魔石なんて不要でしょ?」

「魔獣化というスキルなのね、あれは。……ものすごく足元を見られてる取引だけど、仕方ないわ。そのかわりスキル内容を偽るのは無しよ。信じてるからね」

「もちろんです。アンジーのお母さんに対してそんな事は絶対しません」


 それから二時間くらい掛けてスキル鑑定を行った。鑑定自体は直ぐに終わるが、メモと共に袋に小分けしていく作業の方が手間が掛かった。


 結局は60個くらいが不要な魔石として海斗の手に渡った。

 瞬間的に治癒するスキルなど超レアな魔石は数個のみで、残り100個以上は魔力強化程度の『付けばちょっと嬉しい』レベルの魔石だった。だがそれでも戦力強化になる事は間違いないとラーシャは結構喜んでいた。


 確かに通常スキルで魔力強化した上に特殊スキル分が上乗せされるのだから考えようによっては非常に有効だ。それに今度はスキルの内容も分かるのだ。魔術師に物理攻撃力が強化されるスキルが付いてしまうような無駄な事もなくなるだろう。


「ちなみに、この魔石ってもしかしてジェイコブって人から盗んだんですか?」

「どうやって手に入れたかは内緒だけど、ジェイコブが絡んでるのは間違いないわ。キミもあの爺さんからもらったんでしょ? 知ってるわよ。キミが急に強くなったのは、これのお陰よね」


 海斗の事を色々調べたというだけあって、何でもお見通しのようだ。正確にはもらったのではなく奪い取ったのだけどね。


「やっぱり、あの人と知り合いだったんですね」

「それも内緒。で、キミはこの要らない魔石を使って更に力を付ける訳ね」


 何をするのかもバレてるようだ。

 合成の事は話してないから、正確には分からないんだろうけど。


 ようやく解放された海斗は、キャンプへ戻って直ぐにグレン達に今後の事を話した。

 レジスタンスのメンバに協力して禁呪探索に行くことを。


 するとなんと、かつて無いほどにグレンが激怒したのだ。それはもう、殺されるんじゃないかと思う程に。


 ナッシュとアンジーが間に入ってなんとか落ち着いてくれたが。


「なぁ海斗よ。本当に危険なんだ、今回は」

「でもユリエスの情報も貰えるし、時空魔法に関する事だって……」

「しかし命あってのもの、じゃねぇのか?」


 それはその通りだ。

 この世界の人達は危険に関する考え方が根本的に異なると思っていた。ミカもアンジーも、無鉄砲に強敵に挑んでいた。実際ミカは死んでたし。


 グレンはその中では比較的慎重派だったのは確かだ。しかし、これほどまでに引き止めるのは異常である。やはり帝国の存在が大きいのだろうか。


「アンジー。それにグレンさん。……オレ、記憶喪失になっていたというのは嘘なんだ」


 これは収まらないと思い、カミングアウトすることにした。彼らなら話しても問題ないだろう。


「オレはこの世界の人間ではなく、違う世界からやってきた人間なんだ。そこにはモンスターなんか居なくて、こんな手から火をだすような魔法も存在しない世界なんだ」


 三人とも、一体何を言ってるんだ?という目で見ている。


「元の世界には、ちゃんと家族も居る。友達もいる。皆きっと、オレの事を心配してるに違いない」


 一緒にバスに乗っていた友達はどうなったか分からないけど。

 少なくとも両親はきっと心配しているだろう。


 海斗が異世界召喚された時の事を詳しく説明するにつれ、皆の表情が硬くなっていくのが分かった。これが単なる作り話とかではないと伝わったのだろう。



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