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第47話 いくつになっても若僧


「彼女がジェイコブ捕獲に行く際にパートナーとして海斗という冒険者を指名したらしいのです。なんとDランクの冒険者ですよ。我々も変だと思って色々と調べた所、アンジェリカのパーティメンバをやっていた事があると分かりました」

「なるほどな。その海斗という男がレイチェルに頼み込んだと?」

「はい、その可能性もあるかと思いました」


 確かにアンジェリカと知り合いなら、親のグレンとも面識はあるだろう。グレンから拉致された事を聞きレイチェルに救出を依頼した。考えられる事だ。レイチェルが、ここに居るならば。


「我々は現在、その海斗という男に接触を図っているところです」

「居場所は分かっているのか?」

「はい。なんと、この城下町に居るんですよ」


 ドトロフの騎士は、面白くてたまらないという表情で言った。

 如何にも関係してそうでしょう?と声が聞こえてきそうだ。


「だが目的を達成したなら直ぐにトンズラするんじゃねぇか?」

「可能性は否定できませんが、おそらくはラーシャと接触を図るのではと」


 そういえば、そうだった。

 海斗という男はどうか知らないが、アンジェリカ達はわざわざコンラートの国から母親に会うために移動してきたと思われる。一度捕まったからには、より慎重に行動するだろう。


 これはまた、大老(ターロン)に怒られそうだ。

 せめてものお詫びに、奴らを探してみるか。


 と言っても何処を探すんだという事だな。闇雲に探しても見つかる訳はあるまい。それよりも、次こそはレイチェルに勝てるように師匠のところで再度修行をするべきか。


「しかしまぁ、何だな。しばらくの間は退屈しないで済みそうってもんだぜ」


 ギャロットは魔力付与された壁に触れながら、次に取るべき行動を思い悩んでいた。


          ◆


 海斗はドトロフ城下町の南西に位置する『レルフィン』という町に来ていた。

 グレンが言うには、この町でレジスタンスのメンバーとコンタクトが取れるらしい。


「オレ一人で行くの?」

「ああそうだ。俺達は面が割れてるからな。残念ながら町には入れねぇ。何とか頑張って来てくれないか」

「言われた通りすれば良いんだよね」

「うむ、頼んだぞ」


 レルフィンの町も、特段変わった所がないごく普通の町であった。

 というより、海斗も色々な町を訪問してきたためか単に少々の事では驚かなくなっているだけなのかも知れない。


 よく見ると町によって細部の雰囲気は異なるものだ。

 この町は、とにかく人が多くごった返している。まるで元の世界で言う主要な都市に居るみたいだ。人の数だけは。


 これならレジスタンスのメンバーも潜伏し易いかと思われる。

 30分ほど歩き回ったところで、ようやく目的の店を見つける事ができた。見た目は普通のショップだ。武器防具から魔石、魔道具まで置いてある。


 さらっと一通り商品を眺めたあと、一番安い盾を手に取りカウンターへと向かう。


「すいません、これに魔力付与して欲しいのですが」

「どんな種類でしょう?」

「レッドドラゴンのブレスを防ぎたいので、耐火かな。あとはワイバーンのブレスにも耐えうるようにしたい」


 店員は少々怪訝な顔をした。

 そりゃそうだ。二種類の魔力付与はかなり高等技術になるらしい。それをこんな安い盾に付けるなんて変人のする事だろう。


「お客様、よろしければ付与術者を呼んでまいりますので、コーディネートの相談させていただきましょうか」

「ホント? ありがとう。実はあまり詳しくなかったんだ」

「お待ちください」


 つかみは上々。

 冒険者ランクDながらも高級スキルを付けているため、カネ持ちのボンボンと思ってくれたのだろう。そうでなければ、こんな変な相談しても無下に断られるだけである。


 商談用のテーブルで待っていると、白髪のお爺さんがやってきた。


「魔力付与を希望してるのはアンタかな?」

「はい。何か変な相談しちゃったみたいで」

「気にせんでいいさ。それよりも何故二種類の付与が必要なんだね?」

「神獣と闘う為です。火と風、両方の属性攻撃をしてくる敵なので」


 爺さんは一瞬目を細めた。

 年齢は70歳くらいだろうか。鑑定すると鍛冶師だった。この世界では付与術師という称号を付けている人は少なく、たとえ付与を仕事にしていても職業は鍛冶師にする人が多いらしい。


 このお爺さんも、鍛冶師で通したいのだろう。

 名前はラングウッド。グレンからコンタクトしろと言われた人物だ。


「その若さで神獣か。アンタはなかなか優秀なんじゃな。だが残念ながら、火と風の組み合わせは非常に難しくてな。ワシには無理じゃ。他をあたってくれないか」

「いえ、あなたなら出来るはずです。ラングウッドさん」

「どこで聞いたか知らんが、付与には失敗したんじゃ。そのせいで仲間を死なせてしまった」

「あなたのせいではありません。あれは前衛のミスです。あの盾はちゃんと機能していた」


 ラングウッドは大きく目を見開いた。

 無理もない。20年も音沙汰のなかった親友からの使いだと分かったのだから。


 海斗はコンタクトが上手く行ってホッと胸をなでおろした。


「若僧は元気にしとるのか?」

「ははは。グレンさんが若僧だなんて、変な感覚ですよ」

「聞いたところだと冒険者を辞めたらしいじゃねえか。Aランクまで行ったくせに。んで、今は何処にいるんじゃ?」


 海斗は帝国に追われている事を話し、町に入れないと言った。

 だからレジスタンスのメンバーに連絡をとって欲しいのだと。


 ラングウッドは快く請け負ってくれた。


 その日、店が引けるまで待ってラングウッドと共に町の外で待っているグレンに会いに行った。


「この野郎!図体だけはでかくなりやがって」

「アンタこそ、髪がもう真っ白じゃねぇか。がはははは」

「うるせぇ。お前と違ってこっちは苦労しとるんじゃよ。んで、この子が娘さんかね?」

「ああ、娘のアンジーと旦那のナッシュだ」

「なんと結婚までしとるのか。……そうか、もうそんなに月日が経ったんじゃのう」


 ラングウッドがしみじみと言う。

 本当に色々と苦労して来たんだろうなと海斗は思った。もちろん何の苦労かはさっぱり分からない。グレンからは詳しい話しも聞いていないので推測にはなるが、レジスタンスとして帝国相手に戦うには相当の体力が必要なのだろう。


 そのレジスタンスのリーダーが、グレンの妻であるラーシャだ。彼らから見れば、妻がリーダーとして頑張っているにも関わらず、夫は遠くコンラートでのんびりショップを開いているというのは気持ちの良いものでは無いのではなかろうか。


 そんな疑問が頭に浮かぶものの口にはしない。

 ラングウッドもグレンを責めるような事は一言も言ってないし。


 グレンからは、娘のアンジーに危害が及びそうになったので仕方なく帝国を離れたのだと説明を受けた。だが海斗は言葉のままには受け取っていない。何故ならば、ラーシャが帝国に残ったからだ。その頃のラーシャは、リーダー等の要職では無かったと聞く。なら、何故母親であるにも関わらず、レジスタンスに残ったのか?


 海斗はそれ以上追及しなかった。

 それは何よりも、アンジーが知りたがっていた事なのだから。アンジーは自分の母親に会った事がない。それどころか、死んだと聞かされていたのだ。彼女の性格からして、たとえ一人でも無鉄砲に母親に会いに行き、本人の口から直接理由を問いただすだろう。


 だからグレンとナッシュも着いて来たのだ。


「ところで、レジスタンスって一体何のために帝国と闘っているんでしょう?」


 海斗は別の疑問を口にした。

 帝国がブランカを使ってルマリアを攻めたのは知っている。ルマリアを皮切りにラージニア大陸を支配下に入れようとしている事も聞いた。しかしそれは、国と国との戦争である。


 国に対し、国として対抗するのではなく有志のような形で対抗するのは府に落ちない。というか、そんなもので対抗できるのかという疑問しか湧いてこない。


「まぁお前らなら話しても大丈夫だろう」


 一瞬の沈黙の後、グレンが説明してくれた。

 帝国は古代の禁呪を復活させようとしていると。それを使えば、世界が破滅に向かう恐れがあり、レジスタンスは破滅を阻止するために動いていると。


「でもそれなら尚更、国で対抗するべきでは? 四ヶ国連合とかあるじゃん」

「他の国も禁呪を狙っているからな」

「まさか……」

「他の国は帝国ほど真剣に探しちゃいないがな。そもそも禁呪が存在するかどうかは誰も分からないんだ。存在するのでは?という程度だ。だから他の国にそんな話しを持ちかけた所で、誰も本気にしないさ。というか、本気にしたら帝国と同じように本腰入れて自国で探すだろうさ」


 帝国がこれだけ本気で探しているのであれば、何か存在するという材料を掴んでいるのかもしれない、とグレンは言った。その証拠を手に入れて他国にもって行けば、阻止するどころか他国も真剣に探しだすという事か。なら自分達で防ぐしかないというのがレジスタンスなのだろう。


「一体、レジスタンスのメンバーってどれくらいの人数が居てるんでしょうか」

「いくらグレンの知り合いだとしても、そこまでは言えんな。悪く思わんでくれ」


 ラングウッドが一瞬険しい表情を見せる。彼らはホントに身を削って世界の為に闘っているのだろう。


「い、いえ。そんな。当然ですよね……」

「とにかくリーダーに会えるよう手配はしてみよう。だが最近は帝国の連中も本気で我々を潰しに掛かってきておるでな。時間はかかるやもしれん」

「すまんな親父」

「へっ。すっかり親父になったお前に言われとうないわい」


 一週間後に、ラングウッドが再度訪れた。

 面会の許可をもらうには時間が掛かると言われていたが、意外と早々に出たらしい。


「ザルビア国?」

「ああ、リーダーは今、そこに居る」

「また何でそんな場所に?」

「ワシにも分からん。ちょうどルマリアとの国境付近にある『カサノバ』という町だ。まぁ許可は出たが移動するのが大変じゃのう」


 その通りだ。

 海斗も今回の旅でラージニア大陸の地図を手に入れたが、ここからだとブランカを超えてルマリアを横切る事になり直線距離で移動したとしても一カ月は掛かるだろう。


「移動に2カ月ってとこか」

「まぁそれくらいじゃの」

「そこに居るんなら仕方ねぇな。早速行くとするか。親父、本当にすまなかったな」

「気にすんな」


 今のところ、ユリエスに関する噂は出ていない。破壊神になったからには、噂が出るとすれば良ろしくない内容だとは思うが。


 一緒に行くべきか。

 しかし噂が無い以上はここに居ても無駄かもしれない。彼女の背には翼が生えて、遠くに飛んでいった可能性もある。以前だってコンラートから帝国まで移動しているのだ。次はザルビアだったとしても不思議ではない。


 アンジーの事も気がかりだし、とにかく一緒に行くことにした。

 さすがにもう、白装束の男が襲ってくる事もないだろうし、グレンというAランク実力者も居る。旅に危険は無いはずだ。


 海斗の予想通り、カサノバまでの移動は平穏そのものだった。

 驚くほどレベルアップした海斗を見てグレンが移動ルートを最短ルートに変更した事もあり、なんと町へは40日で到着した。


「あれが国境の町『カサノバ』かぁ」

「ルマリアの更に西にある国だよね。オレもついに5ヶ国目になったよ」


 コンラートから始まり、ルマリア、ブランカ、帝国。そしてザルビア。

 以前の世界では日本から出た事はなかったのに、異世界でこんなに沢山の国外旅行をしてしまった。


「なんだよ海斗、その5ヶ国目ってのは」

「ん、い、いや。こっちの話しだよ」


 ナッシュ達にとっては、コンラートが自国のため4ヶ国目か、等とどうでも良い事を考えつつ、まずは拠点を確保する事にした。


 やはりグレン達は面が割れているから町には入れないらしい。

 いくらなんでも、帝国からはるか遠く離れた場所だから大丈夫のような気がするのだが、彼は首を横に振った。


「帝国が本気になっているからな。念には念を入れて、だ。海斗よ、お前もこれから町へ買い出しに行ってもらうが、ギルドに寄るのだけは止めてくれよ。ギルドの記録は追跡に便利だからな」


 グレンも過去にレジスタンスとして多大な苦労をしてきたのだろう。帝国相手に。

 慎重さは尋常ではない。


 海斗は町に入り、全員分の食料その他を調達する。こんな時もグレンにもらった空間収納(アイテムボックス)は大活躍だ。調子に乗ってショップを何軒もハシゴする。


 様々な店で色々と物色していると、後ろから声を掛けられた。


「海斗さんですね。お待ちしておりました」

「はい?」

「リーダーがお待ちですので、一緒に来てもらえますか」


 リーダーがお待ち?

 

 リーダーって、例のレジスタンスのリーダー? すなわちグレンの奥さんにしてアンジーのお母さんということ?


 いくら何でも早すぎるのではないか。

 そもそも、まだ町に着いた事すら知らせていないはずだし。


「ははは。驚くのも無理はありません。しかし私たちにとっては情報が命です。誰が近づいてきているか、分からないようであれば今まで生き延びる事はできませんでした」


 とりあえず鑑定してみる。


===============

Name:マークライル

Caption:

 - 職業:町人(まちびと)

 - 所属:カサノバ

基本スキル:

===============


 特に不審な点は見当たらなかった。単なる町人(まちびと)だ。

 果たして信用できるのだろうか。


 まさか帝国の人間が先回りして網を張っていたのだとか。


 いや、そもそもリーダーがこの町に居る事も帝国にはバレてないと言っていたか。

 最悪の場合は例によって空間回帰で逃げる事が出来る。仮にもし帝国の人間であったなら、リーダーの居場所が漏れている事が分かる。どっちに転んでも問題はないか。


 海斗は付いて行く事にした。


 国境の町というだけあって、人の往来は多い。ごちゃごちゃした町並みを幾度も曲がりながら進んだため、何処をどう通ったのかさっぱりだ。


 10分ほど歩いたところで、少し寂れた店へと入った。中はぽつりぽつりと客が居る感じだ。席ごとに仕切りがあって若干個室っぽくなっている。なるほど、これなら他の客に見られる事もなさそうだ。


 案内された席には既に女性が一人座っていた。


 レジスタンスのリーダーである、ラーシャだった。

 アンジーの母親なんだから、それなりにオバさんの年齢になっているはずだ。だが目の前の女性はどう見ても20台後半だった。


「あのう、あなたが本当にアンジーのお母さん?」


 海斗は挨拶もそこそこに疑問をストレートに口に出していた。とても子供が居る年齢には見えないと。


「ふふふ、嬉しいわ。でもまぁ、これでも今年で45よ。若い頃みたいに帝国相手に無茶をしていた頃が懐かしいわ」

「こんなに早く会えるんだったら、アンジーも連れてくれば良かった」

「バカね。町に入れないから一人で来たんでしょ」


 そうだった。

 あまりの速い展開に状況を飲み込めてなかった。


「それにしても、よくマークに付いてくる気になったわねぇ。怪しいと思わなかったの?」


 ラーシャは横に居るマークライルを親指で指しながら笑う。


「まぁ少しは」

「何かあってもスキルで何とかなる、って感じかしら?」

「!」


 海斗の顔が引きつる。

 何故初対面の彼女がスキルの事を知っているのか。


 いや、彼女は『スキル』と言っただけだ。空間回帰とは言ってない。

 言ってはないが、このいわくありげな表情は一体何だ?

 どこまで知っているのだ?



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