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第46話 心の叫び


 だが鑑定すると、また別の異変に気が付いた。


===============

Name:ユリエス

Caption:破壊神

基本スキル:

 - 破壊神の鉄槌

 - 超再生

===============


 なんと称号が変わっている。

 見たこともないものだ。それにスキルもパワーアップされたような感じがする。


 それはブゥーレーン達も直ぐに気が付いたようで、今まで参戦していなかった紫々花(シシカ)がいきなりスキルをぶちかました。


 まるでダイナマイトが破裂したような爆風が発生し、海斗は風圧で吹き飛ばされそうになる。辛うじて地面にしがみ付いたものの、直撃を受けたユリエスは大丈夫なのか?


 見るとオーラのようなものを身にまとったブゥーレーンが切り掛かっているところだった。きっとあれも紫々花(シシカ)のスキルに違いない。あんな感じで連携して闘う事により、Sランクの依頼(クエスト)もこなして来たと思われる。


 そしてユリエスのほうは、あれほど激しい爆破を受けたにも関わらず、まったくの無傷だった。二人のAランク冒険者から次々と繰り出される強力な攻撃を、その身で全て受け止めている。


 受け止めていると言えば聞こえが良いが、単にやられているだけである。

 斧で切られれば体に深い切り傷ができ、スキルを受ければ体の一部が破壊されている。しかし一秒と経たずに瞬時に修復されていくのだ。


「なんて奴だ。こんな敵は初めてだぞ」

「ブゥ、プリズン行くよ」

「わかった」


 ブゥーレーンが距離をとった瞬間に紫々花(シシカ)がスキルを発動する。ユリエスの周りに鉄格子のような囲いが出来たかと思うとそのまま徐々に彼女の体を締め付けて行く。最初のうちは檻から逃れようともがいていたが、やがて諦めてその身を破壊しながら強引に脱出を試み始めた。


「早くっ。逃げられるわ!」

「ああわかっている。行くぞ!」


 今度はブゥーレーンが短い詠唱と共に斧を薙ぎ払った。あの技は一度見た事がある。グレンが使っていた。斧が虹色に光り、相手を一刀両断する技だ。魔力を込めれば込めるほどに威力が増すらしい。


 檻に囚われている間ずっと魔力を込めていたはずだから、かなりの威力になったのではなかろうか。プリズンと呼ばれた檻もろとも、ユリエスの体が真っ二つに切断された。


 これは流石に再生できないか。

 と思ったが彼女は見事に再生した。二つに分かれた体が、まるで磁石の様に導き合い接続されたのだ。


「くっ。奴は不死身なのか?」


 渾身の一撃が効かなかった事に動揺したのか、僅かな隙が生まれたらしい。彼の頭上には破壊神の鉄槌が迫っていた。気が付いた時には既に手遅れになっていた。すばらしい反射速度で逃げたものの体の半分が鉄槌により破壊されてしまった。


「ぐぉぉぉぉぉおおお!!!」

「ブゥ!!」


 焦る紫々花(シシカ)にも、ここぞとばかりに鉄槌が振り下ろされる。2度、3度と打ち下ろされる破壊神の鉄槌に、さすがの彼女も防戦一方だ。逃げ惑いながらも詠唱を試みている。


 まずは一旦体制を立て直したいと言ったところか。

 バリアか何かで攻撃を防いだあと、改めて戦闘態勢を取るつもりなのだろう。


 だがその作戦は、ものの見事に打ち破られた。

 紫々花(シシカ)が造りだした障壁ごと叩き潰されたのだ。


「そ、そんな……。魔焦壁すら突き破る……なんて……」


 一瞬のうちに二人のAランク冒険者が戦闘不能になった。いや、もう放っておいても数分と持たないだろう。道案内に来ていたガードマンはとっくに逃げ出している。


 海斗は戦慄を覚えた。

 まさか、自分はユリエスに殺されるのか?

 

 単なる記憶喪失だったとしても、今の彼女は明らかに狂気に満ちている。その名のとおり、目の前にあるものを破壊し尽すかのような雰囲気だ。まさに破壊神だ。


 破壊の神は、ゆっくりと海斗へと近づいてきた。


 空間回帰で逃げるべきである。

 しかし体が言う事を聞かない。単なる恐怖からなのか、それとも未だにユリエスへの想いが強いのか、はたまたアムルを残して逃げる事に躊躇しているのか。


 次のアクションに迷いを見せている海斗の頭上に鉄槌が振り下ろされる。

 Aランク冒険者を以てしても手も足もでなかった破壊神の鉄槌は、空間障壁によってがっつりと防がれた。


 その後、様々な角度から何度も何度も鉄槌が降りかかるが全て空間障壁によってブロックした。


「ユリエス! 頼む! 目を覚ましてくれ」


 いくら叫んでも無駄だろう。

 もはや記憶喪失というレベルの物ではない事は明らかだ。明らかに、別物(・・)に変異してしまっている。


「ぐうぅぅっ!!」


 突然体中が焼けるような痛みに襲われた。

 ユリエスが別のスキルを放ったらしい。辺り一面が黒い炎に包まれているのだ。これは障壁ではなく、バリアや聖壁のようなタイプでないと防ぐ事ができなさそうだ。


 容赦ない高熱の攻撃に、海斗の地肌が溶け出してくる。

 視界も薄れ、このままだと直ぐに焼け死んでしまいそうだ。今度こそ本当に空間回帰を発動させなければいけない。


「ユリ……ちゃん」


 焼死寸前の海斗に対し、ユリエスは再度、破壊神の鉄槌を振り下ろしてきた。その刹那、彼女と目が合う。


 あの夜、罪人から逃れ海斗の元へと身を寄せた、あの時の目だ。

 やはりユリエスは記憶喪失なんかじゃない。抗う事のできない『何か』によって支配されているのではなかろうか。もちろん、それが何なのかは全く分からない。


 振り下ろされた鉄槌は、海斗に当たる直前に止められた。

 空間障壁ではなく、彼女自身が攻撃を止めたのだ。その目が訴えかけている。


 ――お兄ちゃん。助けて。


 そう言っている。

 ユリエスは急に苦悶の表情を見せたかと思うと、再度黒い靄に包まれた。また何か別のものに変異するのだろうか。

 

 いずれにせよ、この隙に少しでも回復しなければならない。

 治療スキルと上級回復(ハイ・ヒール)を自分に掛ける。火傷は治るまで暫く時間が掛かるだろう。ついでに冒険者達も助けるべきか。


 そんな義理は無いし、助けたら再度ユリエスを倒そうとするだろう。なら放っておくほうが良いか。色々と悩んだが、彼らを鑑定すると回復不要である事が判明した。既に息絶えて居たからだ。


 ダメ元で治療スキルを二人に掛けてみると、死体であるにも関わらず、体の修復が始まった。とりあえずこれで自分の中にある良心は救われそうだ。体が修復されれば、生命の雫で蘇生させる事は可能だろう。そこまで海斗がやってあげる必要は無い。出来る事はやったのだ。


 靄が晴れた後、残ったユリエスに変化はなかった。

 相変わらず破壊神のままで凶悪なスキルも健在だ。いや、良く見ると背中に羽が付いていた。その羽が静かに羽ばたき、ゆっくりと体が宙に浮く。


 やがて彼女はそのまま何処かへ飛んで行ってしまった。


          ◆


「なんだ、アムルじゃん。居たの?」


 火傷を負った体も治療スキルで8割方治ったため、そろそろ山を下りようかと立ち上がった海斗の目線の先に、アムルがへたり込んでいた。どうやら勝手に山に入って来たらしい。


 危険だから来るなと言っておいたのに、仕方のない奴だ。

 実際あのまま海斗がやられ、ユリエスに存在が発見されていれば次の標的はアムルになったはずだ。運よく助かっただけにすぎない。


 まぁ念願のAランク冒険者も見れた事だし、希望が叶ってよしとするか。

 ただ様子がおかしかった。良く見ると表情は恐怖に歪んでいた。


 そうか。目の前で人間が死んだのだ。無理もない。

 ただ単に人の死だけであれば、村でも何回か見ているはずだ。しかし今回のものは少々刺激が強かったのだろう。鉄槌で潰される感じだったし。


 アムルが落ち着くのも待ってから、二人で山を下りた。

 ガードマンは居なかった。

 きっと破壊神が怖くて逃げたのだろう。ちゃんと仕事しろよな。


「兄ちゃんて、すごいね。Aランクの冒険者よりも強かったんだ」

「ははは、んな訳ないよ」

「だって二人とも死んじゃったのに、兄ちゃんは大丈夫だったじゃん」

「たまたまだよ。聞いてたんだろ? あれはオレの知り合いなんだよ。だから逃がしてくれたのさ」


 馬車で村に着くころにはアムルも随分と落ち着いて雑談が出来る位になっていた。

 この先もトラウマにならない事を祈ろう。


 ってか、そもそも海斗に他人を心配する余裕はないのだ。


 神獣はユリエスだった。

 そして彼女はもう、彼女では無くなっていた。更には、破壊神という凶悪なモンスターになってしまった。神獣だった時は、こちらから手を出さなければ無害だった。しかし今はもう、人に害を及ぼす存在になってしまったのではないだろうか。それもSランク級の。


 レイチェルなら討伐出来るかもしれない。でもユリエスを助ける事は不可能だろう。


 あるいはジェイコブなら。

 やはり、あの爺さんとは一度話しをしなければいけない気がしてきた。


「もう行っちゃうの?」

「ああ。もう少し仲間を集めて、またユリエスを探さなきゃね」


 それはつまり、村を離れると言うことだ。

 アムルはもう少し一緒に居たいと言ってくれた。実際には暫くの間はドトロフ城下町に居るので、会えない事もない。でも海斗は敢えてその事は言わなかった。もうアムルは一人でやっていけるはずだ。


 名残惜しそうに見送るアムル達を背に、海斗はドトロフ城下町へと向かった。


 城下町で待つ事一週間。

 グレン達から連絡が入り、海斗が宿泊している宿で落ち合う事となった。


「そうかぁ。破壊神とはな」

「知ってるんですか、グレンさん」

「ああ、実際に見た事は無いがな。神獣にも増して規格外のモンスターが多いんだ。それに神獣が比較的温厚なのに対して、破壊神は本当に手が付けられん」


 幸か不幸か、被害が大きい分だけ存在場所は分かりやすい。

 ユリエスが降り立った地がどこにせよ、近い将来、噂となってそこらじゅうに広まるだろう。海斗の耳にも入るはずだから、探すのに手間は掛からないはずである。


「という事でオレの方は一旦待ちになったので、先にアンジーを助けましょう」


 待ちどころか、手が無いと言うのが事実であるが。


「そうだな。なんとかアンジーの場所も分かって、救出の目途もたった」

「はい」

「前にも言ったとおり、俺達二人でやるつもりだったんだが……」

「グレンさん」

「ああ分かってる。結局お前にも手伝ってもらう必要が出て来たんだ」


 綿密な下調べにより、監禁場所までの侵入及び脱出の目途は立ったらしい。しかしどうしても、鍵を入手する術がないのだ。当然、監禁されている部屋の扉を開けなければアンジーを救出出来ない。


 そこで海斗の出番である。

 空間切削で扉を壊してくれとのことだ。


「グレンさんのパワーで破壊出来ない扉なんて」

「単なる扉なら、俺のスキルで破壊は可能なはずなんだ。だがな、海斗。レジスタンスのメンバーも屈強な戦士揃いだ。だからきっと対策は取られていると見るべきだろう。まず間違いなく、扉は魔力強化されている」

「なるほど」

「お前の空間切削とやらは、魔力強化されていても大丈夫なのか?」


 正直分からない。

 きっと大丈夫だ、程度である。


 失敗すれば警備は更に強化されてしまい、救出がより困難になる事だろう。必ず一度で成功させなければならない。


 それは海斗も分かっていたが、事前に確かめる手段は無い。

 一応試しにグレンが魔力付与した壁を空間切削したところ、問題なく発動したから大丈夫ではないだろうか。


「仕方が無い。やるしかないな」


 海斗には空間回帰があるので一緒に飛ぶという手段もあるが、今のところは伏せておく。敵を欺くにはまず味方からと言うし。何よりも密室からいきなり消えるような有りえない事態が起これば、変な追手が掛かるかもしれない。例のジェイコブを追って来た狩人のような奴らが。


          ◆


「ギャロット様、お聞きになられたでしょうか」

「何の話だ?」

「ブゥーレーンと紫々花(シシカ)です。二人揃って挑んだ神獣で、今まで倒せなかった事は無かったと皆が動揺しております」

「へっ!んなもん気にすんなよな。所詮はAランクの冒険者だぜ。そりゃあ神獣にもやられるわな」

「し、しかし。彼ら二人揃えばSランクとの噂もございますゆえ……」


 ギャロットは、ドトロフ城下町の騎士に道案内をさせていた。

 なんと自分が捕まえたアンジェリカという娘が脱走したと言うのだ。聞くところによると、魔力付与された頑丈な部屋に監禁していたはずが、壁を破壊して逃げたのだと言う。


「そんな小物の話なんてどうでもいいんだよ」

「そ、そうでございました。ギャロット様にとっては大した話しではありませんでしたね」

「ああ。俺にとってはこっちの方が重要だな」

「と、いいますと?」

「見てみろよ、これを。こいつは妖魔の結束が付与された壁だぜ。それをこんなに綺麗にくり抜くなんて只者じゃねぇ」

「それほどでございますか」

「まぁ、俺にも無理だな」

「まさか」

「破壊するだけなら俺でも出来るだろうが、そうすっと派手にそこらじゅうメチャメチャにしちまうからな。城中の人間に気づかれて掴まえられるだろうな」


 これはありえねぇ。

 まさか、レイチェルの仕業なのか?


 今のところ、あの娘とレイチェルが繋がっているという情報はなかった。わざわざ、こんな場所まで無関係の人間を助けに来るとは思えない。何より、あれだけ有名な人間だ。誰にも知られずに此処まで移動できるはずもない。


「念のためだが、レイチェルの行方は未だ分かってないよな?」

「はい。我々ももしかすると彼女が関わっているのかと考えたのですが」


 レイチェルが関わっているかも?

 どういう事だ。


「なぜ、そう思う?」

「ギャロット様と同じ考えです。この強固な壁を破壊できるのは、ギャロット様を除けば彼女くらいかと」

「だが二人は何の関係もないはずだ」

「いえ、実は2年近く前に一度出会っているようです」

「なんだと?」

「ご存知の通り、レイチェルは趣味で色々な物を収集しております。おそらく、アンジェリカとも何らかの取引をしたのでしょう」


 たった一度、取引をしただけで帝国の牢から助け出すくらい親密になるものなのか。

 それとも、よほど良い取引をしたのか。


「まぁしかし、よくそんな事まで調べる事ができたな」

「偶然ですよ。我々はジェイコブ追跡の命を受けておりまして」

「ははは。それはまた厄介な仕事を押し付けられたな」


 騎士が困ったような表情を作る。

 確かに一介の騎士が上からの命令に文句を垂れるなんて事は許されない。ギャロットは好き勝手やってきているが、それは自らの功績があるからだと認識はしている。



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