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第38話 帝国の動き2


「強敵だ。アナトリアス、結界を張ってくれ」

「御意」


 レイチェルが御者に命令する。

 この人は、戦闘スキルまで持っているのか。単なる御者だと思っていたが。


 馬車のまわりにうっすらと赤い幕が現れた。これが結界か。聖壁とどちらが上なのだろうか。


「さて、帝国の人間が一体何の用だ?」

「我々が目的は、ジェイコブだけだ。無関係の者は速やかに立ち去るが良い」

「ほほう。こんな爺さんのためにわざわざ裏部隊の戦闘集団が出張って来るとは只事ではないな」


 海斗も目の前の人物たちを鑑定する。称号は、アダマン帝国の狩人となっていた。

 狩人と言うからには森で動物とかを狩る人たちなのだろうか。とてもそんな風貌には見えないのだが。明らかに戦闘スタイルだ。


 レイチェルの言葉を聞いたとたん、その狩人の中の一人が威嚇して来た。


「貴様、何故我々の事を知っている?」

「よせっ! こいつは、あの(・・)レイチェルだ」


 武器を構えた男を、隣の男が制する。


「レイチェルだと? ……こいつは驚きだ。こんな場所で遭うなんてな。ははは、面白い。じじいと一緒にまとめて確保するぞ」

「馬鹿な。正気か?」

「一対一ならともかく、まさかこの人数で怖気ずいた訳ではあるまい? それに、我々の存在が知られてしまっているのだぞ。放っておくと厄介な事になる」


 少し仲たがいのような状況になっていたが、残念ながら向かってくる方向で意見が一致してしまったらしい。6名の狩人が次々とレイチェルに攻撃を開始する。


 彼女が逃げようとしただけの事はあって、敵はすさまじい強さだ。アナトリアスという御者――これだけのスキルを持っているので、おそらく単なる御者では無いのだろうが――が張ってくれた結界がなければ、爆風だけで吹き飛ばされてしまいそうである。


「ジェイコブよ、お前も捕まりたくは無いだろう。手を抜かずにちゃんと相手してくれ」

「わかっとるわい!」


 二人は鎖で繋がれているため、少し闘いにくそうだ。

 それを見て、アナトリアスが時々サポートをしている。時には遠距離スキルだったり、時には障壁を出したり。


 海斗もそれを見て、同じように空間障壁でサポートする。

 が、敵の動きが速すぎてなかなか思うように効果的なサポートが出来ていない。


 しばらく悪戦苦闘していたが、敵からするとそれはそれでウザかったらしい。


「面倒だ。結界のほうを先にやるぞ」


 帝国の狩人たちはレイチェルを攻撃する人間と結界を攻撃する人間とに別れて襲い掛かってきた。


 3名の狩人が攻撃の構えに入る。二人が両腕を前に突き出して腰を落とし、詠唱に入った。まるで腕の先から何かが飛び出すような雰囲気だ。そこへ、アナトリアスが遠距離攻撃を仕掛ける。

 

 術式が終わる前に潰してしまえと言ったところか。


 だがもう一人の狩人が障壁スキルを出して防がれてしまった。一人が防いでいる間に残りの二人で協力して攻撃のための魔力を貯めているようだ。


 アナトリアスは構わず連続攻撃を行っている。


「オレもやった方がよい?」

「お願いできますか」


 たぶん、奴らが詠唱を終えたら超強力な攻撃が飛んでくるのだろう。この結界では持たないと思ったのかアナトリアスが必死で攻撃を仕掛けているので、海斗もそれに便乗した。


 といっても、一番強力な攻撃は火球だ。

 随分と扱いにも慣れて連続で何個も投げつける事ができるようになったのだが、果たしてどれだけ効いているのか分からない。


 狩人も何枚も障壁を出しているので、海斗達の攻撃は、ある程度の効果があるのではと思われるのだが。


「撃てーっ!!!」


 掛け声と共に二人の男が時間を掛けて造りだした火の玉が放たれる。

 海斗は念のため、結界の内側に空間障壁を造りだした。結界が突き破られた時の保険だ。


 轟音とともに火の玉が結界にぶち当たり、地響きが起こる。その衝撃は、海斗の腹の中まで響き渡った。


 幸い火の玉が貫通する事はなかったが、結界も同時に崩れ去った。

 相打ちのようである。だが狩人たちは再度同じ構えで詠唱に入った。


「足りないぞ。さらに魔力をつぎ込め」

「ああ分かってる。お前こそ大丈夫か?」

「笑わせるな。あんな攻撃程度、俺には通用せん!」


 なんと、先ほどの火の玉は威力を自在に変えれるらしい。今の攻撃で相打ちだったのなら、更に威力を増した火の玉は貫通してしまうのだろう。果たして空間障壁で防ぐ事は出来るのだろうか。


「どうしよう? 奴ら、もっと強力なものを仕掛けてくるようだ」

「とにかく攻撃するしかありません」


 アナトリアスが結界を再構築すると、引き続き狩人たちに攻撃を仕掛ける。

 こんな状況だというのに彼は冷静だ。


「レイチェル様もサポートしてくれるでしょう」

「わ、わかった」


 そうだ。彼女が見捨てるはずがない。今は海斗の出来る事をするのみだ。

 だが火球はBランクのスキルと聞いている。それに比べて目の前の敵はレイチェルが強敵と認める相手だ。おそらくSランクと言う事だろう。確かに『あんな攻撃程度』と言われても仕方が無い。


 なので海斗は別の攻撃に切り替える事にした。超広範囲氷雷結晶(ワイドギガ・アイスストーム)だ。ある程度範囲を絞る事ができるが、それでもかなり広範囲に渡って嵐が吹き荒れる魔法である。レイチェル達を巻き添えにしないよう気を付けなければならない。幸い、狩人たちが二手に分かれているため何とかなりそうだ。


 海斗は慎重に範囲を絞るとスキルを発動させた。

 今までの物と違い、ごっそりと魔力が奪われるのが分かる。それほどに強力なスキルという事だ。


 轟音と共に稲妻と氷の嵐が狩人たちに襲い掛かる。

 すぐさま敵は今までと異なる障壁を造りだして海斗の攻撃に対応した。火の玉を造りだしていた敵も詠唱を止めて防御の構えを見せている。裏を返せば、それほど強力な攻撃だったと言うことか。


 見事に防がれてしまった訳だが、その代わりに敵さんからの火の玉も飛んで来なくなった。敵が再度、魔力の充電に入ったら同じようにすれば防ぐ事ができるかもしれない。海斗の魔力が持てば、の話しだが。


 やはり大魔法だけあって魔力消費が激しい。果たしてあと何発撃つ事ができるのだろうか。


「海斗、さっきのをもう一度やってくれないか。可能か?」


 離れた場所で戦っていたレイチェルが結界内に入ってきてリクエストして来た。何か策があるのだろうか。


「え、ええ。あと数発くらいなら」

「たのむ」


 今度は味方が一か所に固まっているため、範囲を気にする必要はない。おもいっきりぶっ放せば良いのだ。


 2度目の超広範囲氷雷結晶(ワイドギガ・アイスストーム)を発動する。

 さっきと同様に、稲妻と氷の嵐が辺り一面を激しく叩き付ける。だが今度は様子が違う。嵐が瞬く間に威力を増したのだ。まるで荒れ狂う波である。


 狩人たちの表情が一瞬で引きつり、一段と激しさを増した嵐が彼らの障壁を次々とぶち壊していく。やがて彼らは身にまとっている鎧もとろも体をずたずたに引き裂かれ、竜巻の様な渦と共に空高く放り投げられた。


 海斗は自ら放ったスキルが暴走する様をみて、何が起こったのか分からず茫然と立ち尽くすしかなかった。空高く舞い上がった狩人達が、ぼたぼたと地面に落ちて来る音が聞こえてくる。もう既に息絶えたのかピクリとも動かない。


「こいつは想像以上だな」

「レイチェルさん、これは……?」

「術の威力を一時的に高めるスキルだ。特殊な魔石を媒体として利用するから今まで使った事がなかったんだ。まぁそれ以前に二人で闘う事なんて無かったからな」


 自分自身の放ったスキルは強化できないから、今まで使う機会が無かったらしい。確かに彼女程の実力があれば、二人で闘う必要なんて無かった事だろう。今回も老人と鎖で繋がれていたり、海斗達を守りながらでなければ一人で大丈夫だったのではなかろうか。


「すごいよ!! こんなスキルがあるならオレも十分役に立てるかも!」

「残念ながら魔石は1個しか無かったので新たに手に入れるまでは使えないスキルだがな。まぁ安心しろ。こんなものが無くてもお前は十分に役立ってるさ」


 つかの間の喜びだったようだ。社交辞令のようにレイチェルから褒められて、ますます意気消沈してしまった。


 レイチェルはレイチェルで、威力が高すぎて狩人達から情報を得る事ができなくなったと残念そうな感じである。


 とにかく無事で何よりだと言う事で、予定通りコンラートの城へと馬車を走らせる。


 馬車の中で海斗は魔石の一個を取り出してレイチェルに見せた。


「レイチェルさん。オレも魔石を試してみたいんだけど、いいかな?」


 ジェイコブがまたもや恨めしそうな顔で見て来る。なぜ自分に尋ねないのかと。

 だが海斗が持っている魔石をみて、特にどうでもよさそうな顔になった。それもそのはずだ。単なる『魔力増幅』というスキルだったから。


「大丈夫なのか?」

「えーと。うん。またレイチェルさんが、あの人の顔色を見ていただければ」


 一応、今のところは魔石に付与されているスキルが分からない振りをしておく。後で二人になった際にでも打ち明ければ良いだろう。


「残念だが二度目は無いだろう。奴も見てみぬ振りをしているからな」

「そっかぁ……」

「例の魔石を研究している知り合いとかにでも見せれば良いのではないか」

「え? このままオレが持って行っても良いんですか?」

「ああ、魔石は全てお前に任せる。何かわかったら知らせてくれ」


 おっ。これはとんでもなくラッキーな事になった。

 後でじっくりと吟味して良いものを探してみるとしよう。


          ◆


 ラージニア大陸・北東方面司令官であるジェルヴァは、アダマン帝国の司令部にて、またもや不本意な報告を受けていた。


「全滅だと!? 何があったのだ」


 闇のエリート部隊である狩人達が6名も死亡したとの報告に、さすがのジェルヴァも声を荒げずにはいられなかった。


 彼らは兵士にすると数万人以上の部隊に等しい。そんな貴重な戦力が失われたのだ。


「はっ。報告によりますと、またもやレイチェルという女騎士にやられたとの事です」

「ぐぐっ、奴か。なんという事だ」


 ジェイコブ確保のために派遣した狩人達が、まさかレイチェルによって消されるとは。

 ジェルヴァは何らかの因縁を感じずには居られなかった。


 レジスタンスのメンバーを統率しているラーシャという女が左目の上のたんこぶ(・・・・)とすれば、レイチェルは右目の上に新たに出来たたんこぶ(・・・・)である。これでは両目が塞がってしまうではないか。全くもって忌々しい。


 しかし彼女一人で狩人6人を倒すとは、誤算だった。

 レイチェル討伐のためにルマリアに派遣した狩人は全部で10人だ。もしかすると、この人数でも足りなかったのかもしれない。


「……とりあえず、ルマリアへ送った狩人は呼び戻しておけ」

「御意」

「で、何故に奴がジェイコブを囲うのだ?」


 ジェルヴァの知る限り二人の接点は無いはずだった。

 それなのに行動を共にしているのは何故か。


「確かな確認がとれた情報ではありませんが、どうも、コンラート国の要請を受けて動いているようです」

「それは本当か?」

「少なくともコンラートのギルドから派遣された事は間違いございません。彼女ほどの人間が、単なるギルドからの要請だけで動くとは思えませんので」


 事実なら非常に厄介だ。

 ジェイコブの能力が他国に漏れた可能性がある。


ジェイコブ(じじい)め、あれほど自粛しろと言ったのに」


 おそらく所構わずスキルを使いまくったに違いない。それを第三者に見られたのだろう。そうでなければ国から直接要請が来るなんて考えられないのだ。


「申し上げます」

「なんだ」

「皇帝様より伝文の魔石が届いております」


 軍議中ではあるが、皇帝からの伝言であれば受けねばなるまい。ジェルヴァは魔石を手に取ると己の魔力を流し込んだ。届けたい相手にのみ伝言を伝える事のできる貴重な魔石ではあるが、皇帝はあまり気にすることなくどうでも良い内容を送ってくる時が多い。


 今回もきっとそうだろうと思い、軽い気持ちで受け取った。

 が、残念ながら痛い内容だ。

 ルマリア攻略にどれだけ手間取っているのだというお叱りの内容だった。


 そこでジェルヴァは、はたと我に返る。

 そうなのだ。先日よりレイチェルにばかり気を取られていて肝心な事がおざなりになっていたのではないか。今現在の第一優先は、あくまでルマリア攻略である。


 今回、狩人6名という貴重な戦力を失ない、また、ジェイコブ捕獲というミッションも失敗した。しかし、レェイチェルがコンラート国にて(じじい)に引っ掛かって居るのなら、むしろ今が格好のチャンスでもある。


「おい、やはり狩人を呼び戻すのは止めだ」

「はっ」

「これより我が帝国軍もルマリア侵攻を開始する。狩人達と合流し、一気に城を攻め落とすのだ!!」

「はっ! 仰せのままに」


 こうなるとスピードが命だ。

 レイチェルが自国の異変に気付き、援軍として駆けつけるまでに戦いを終わらさなければならない。


 ジェルヴァは、とにかく進軍を急ぐよう部下に指示を放った。


「申し上げます!」

「軍議中だぞ。今度は何だ?」


 またしても割り込みが入る。

 皇帝から立て続けに伝文が来るはずもなく、かと言ってそれ以外に割り込みを掛けるような事態は思い付かなかった。


「ギャロット様が戻られて、司令官にお会いしたいと」

「軍議中だと伝えておけ」

「それが、どうしても直ぐにと申されておりまして――」


 部下の言葉が終わらないうちに司令部の外が人の悲鳴で騒がしくなる。そして悲鳴がどんどん近づいて来たかと思うと、扉が乱暴に開かれた。


「よう!大老(ターロン)、元気か?」


 相変わらず隆々とした筋肉の鎧を身にまとい、近づく者を雰囲気だけで圧倒する程の存在感を以てして我が道を進む大男の登場に、ジェルヴァは露骨に顔をしかめた。


 皇帝の側近でなければ、この場で張り倒している所だ。

 まぁジェルヴァが殴り掛かった所でビクともしないとは思うが。


「勝手に入ってくるでない! 何度言ったら分かるんだ!!」

「固い事言うなって。良い知らせを持って来たんだからよ」


 そう言うとギャロットは、どかっと空席に腰を下ろした。

 もはや何を言っても無駄である。


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