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第37話 人間離れした人たち


 ジェイコブが、目の前に居る!

 レイチェルと共に探していた、とんでもない村人だ。


 瞬時に戦闘モードになって武器を構えたものの、その隣にレイチェルが居る事に気が付いた。


「レイチェルさん!」

「おお、海斗。心配したぞ。姿が見えないなと思ってギルドで尋ねたら、短期の依頼(クエスト)に出たきり帰って来てないと言うじゃないか。てっきり何かあったのかと思ったぞ」


 なんと、可能性が少ないと思っていたレイチェルが助けに来てくれていたようだ。

 これならもしかして、自力で脱出できなくても助かっていたかもしれない。


「ええまぁ、色々ありまして。そんな事より……」


 言いながら老人を見る。

 見る限り、どこもケガしているようには見えない。どうして大人しくレイチェルに従っているのだろうか。


「うむ、こちらは何とか上手くいったぞ。で、早速だがコンラートに戻りたいのだ。依頼(クエスト)は終わっているのか?」


 本当にレイチェルらしい言動だ。

 何から何まで、物事はチャッチャと済ます人なんだろう。


「ええ一応は。達成報告は未だだけど、まあ急ぐなら他のメンバにお任せすれば何とか」


 達成報酬は貰えなくなるが、彼女には大きな借りもある事だし良しとしよう。

 あまり状況を飲み込めていないメンバに挨拶を済ませ、海斗はレイチェルの馬車へと乗り込んだ。


 ラディッシュともお別れだ。1カ月ほどの付き合いではあったが、何か寂しい。

 口は悪いが憎めないキャラとして結構気に入っていたのだ。


 だが感慨にふけっている場合ではない。同じ馬車の中、隣には例の老人が座っている。これはとても奇妙な事である。レイチェルが馬車を操り、何か鎖のようなもので彼女と老人が結ばれているものの、攻撃をしようと思えば造作もないはずである。


「大丈夫だ、海斗よ。恐れる事はない。爺さんにはもう、お前に危害を加える気はないはずだ」


 心の内を読んだかのように、レイチェルが教えてくれた。


「もしや、あの時の坊主か? そうなんじゃな? 教えてくれ。どうやって急に姿を消したんじゃ?」


 老人が身を乗り出して迫ってくる。

 ……ち、近い。

 海斗は思わず身をのけ反って狭い馬車のなかで距離を置いた。


 だが直ぐに老人は鎖を引っ張られてレイチェルの近くへと引き寄せられた。まるでペットのようである。


「こら。それは聞かない約束だろ?」

「ふんっ。無理には聞かんと言っただけじゃて。ヌシも色々と知りたいんじゃろ? なら少しくらい大目に見るという事も必要じゃないかの?」

「私のミッションはお前を国に突きだすだけで、色々知りたいのは単なる興味本位だ。勘違いするな」


 良くは分からないが、二人の間では何らかの話し合いが出来ているようだ。海斗に危害が及ぶことも無いのだろう。それが分かり、ようやく気持ちを落ち着ける事が出来た。


 そうなると気になるのは、老人の持つ特殊スキルである。

 はたして聞いてよいものか。


 今から例の空間移動をしたダンジョンを通り、コンラートに戻るらしい。

 とりあえず、コンラート国の町か村まで戻ってから聞いてみようと考えた。セーブポイントさえ書き換えておけば、最悪何かあっても飛べば良いのだ。


 ダンジョンに入ると、以前と同じように凶悪なモンスターが次々と襲い掛かって来た。ラ=バラ周辺のモンスターよりも数段各上ではあるが、海斗もここ一カ月で随分と鍛えられた。比較的何とかなりそうなモンスターに対しては、自分から攻撃を仕掛けて行ったのだ。


「ほほう。暫く見ない間に逞しくなったものだな」

「レイチェルさんのお陰ですよ。強いモンスターを頑張って倒せば、より早く成長できると聞いてオレも結構頑張ったし」

「ははは、そうか。まぁほどほどにな」


 難なく最下層に到達し、例の黒い壁を通り超えて海斗達はコンラートへと戻って来た。ダンジョンを出ると、当然ながら馬車は町に戻っていた。徒歩で戻るしかない。


 と思ったら、後ろから馬車の走る音が聞こえて来た。


「え?」

「申し訳ございません、遅くなりました」

「構わぬ。私たちが早く到着し過ぎただけだ」

「はっ」


 なんと、レイチェルが馬車を手配していたようだ。

 そういえば帝国で馬車を乗り捨てる際に御者に何か伝言していたが、これだったのだ。何から何までスマートな人だ。


「レイチェルさん、このままコンラートに向かうのですか?」


 先ほどの会話からは、老人を捕らえてコンラート城へ連れて行く事は分かるが、出来れば一旦ランソールの町に寄って欲しいのだ。セーブポイントを書き換えたいというのもあるが、何より、ユリエスの事が心配なのだ。何も言わずに旅立ってしまったのだから。


「いや、一旦琉球村という所に寄る」

「琉球村?」

「そうだ。ジェイコブが面白いものを保管しているらしい」


 でた。

 これだ。


 やはり、どこまで行ってもレイチャルさんである。ぶれない人だ。国家レベルのミッションであるにも関わらず、自分の趣味のために堂々と寄り道をする。彼女が如何に大物であるかを物語っている。


 ランソールに行かないのは残念だったが、とりあえずコンラートの国内にある村でセーブポイントを上書き出来るのは歓迎だ。最悪、一人で飛んでしまっても何とかなる。もし単身で帝国に飛んでしまった日には、目もあてられない。まずは書き換えを最優先にすべきだ。


 琉球村は、ダンジョンがある場所からおよそ半日程度の場所にあった。


 小さな村だ。

 ざっと見たところ、村人は30人ほどしか居ないのではないだろうか。果たしてこれで村として機能しているのかどうか疑問ではあるが、ちゃんとセーブポイントは書き換わっていた。


 ジェイコブに案内されるまま、とある建物の中に入る。


「ここは一応、ワシの家と言う事になっておる」


 まぁ他にも家は沢山あるんじゃがな、と老人は笑って言った。

 海斗がそこで目にしたものは、たくさんの魔石だった。早速、その中の一つを鑑定してみる。


===============

Name:魔石

Caption:

基本スキル:

 - スキル付与

特殊スキル:

 - 魔獣化

===============


 称号が無い魔石を見るのも初めてであったが、それよりも特殊スキルがある魔石の方が海斗の興味を引いた。それに、内容も異色だ。使えば魔獣になってしまうのだろうか。


「何の効力もない、ガラクタ魔石ばかりだな」


 レイチェルが呟く。

 彼女には、特殊スキルが見えてないのだろう。とすると、やはり海斗や老人のように特殊スキル持ちの人間しか見えないのか。


「ふぉっふぉっふぉっ。ヌシには分かるまいな。この魔石の真の力が」


 そう言いながら老人は一つの魔石を手に取ってレイチェルに手渡す。


「通常の魔石と同じように、体内に入れて『スキル付与』と念じるがよい。ヌシに新たな力を授けよう」


 ジェイコブが手渡した魔石の特殊スキルは『召喚(ゴブリン)』だった。だが彼女には何の魔石かは分からないのだろう。さすがの彼女も、手に持ったままためらっている。如何に百戦錬磨の強者(つわもの)といえど、やはり目に見えない物には慎重にならざるを得ないのか。


 と、思っていたらレイチェルはパクっと魔石を口に入れてしまった。


「よかろう。試してやる」


 そう言うと、直ぐにスキル付与と念じたのだろう。海斗が鑑定してみると、レイチェルに特殊スキルが付いていた。本人も自分を鑑定したみたいで驚きの表情をしている。


「使ってみるが良い」


 ジェイコブが促すと早速彼女が詠唱に入り、まもなく目の前にゴブリンが君臨した。

 

 いや、所詮はゴブリンだ。君臨と言う程のものでは無い。単に現れただけだ。レイチェルも、確かにスキルが発動した事を確認した後、速やかに返喚していた。まぁゴブリンを召喚しても嬉しくないだろう。


「どうじゃな? 面白かろう」

「確かに特殊な魔石だな。だが今一つインパクトに欠ける。こんな物のために沢山の冒険者を危険に陥れたとなれば、残念だが私でも貴様を庇う事は出来んな」

「まさか、これが全てだと思ってはおらんじゃろ?」

「ああその通りだ。せめて貴様のもつ転移魔法程度は出してもらわないとな」


 老人はいまいましそうな顔をレイチェルに向けて何か言おうとしたが、海斗の驚きの声がそれを遮った。


「転移魔法だって?」

「ああそうだ。こいつは転移魔法の使い手だ。掴まえるのには随分と苦労させられたよ」

「まさかそんな……」


 やはり、この老人は元の世界に帰るための鍵となる人物なのか。しかし現在は連行されており、これからコンラートの騎士団にて身柄を拘束されてしまう。


 何か良い手はないものかと考え込んでいると、ジェイコブがもう一つの魔石をレイチェルに手渡していた。


 なんと、魔石の特殊スキルは『隷属』だった。

 考え事をしていた海斗は、まさにレイチェルが口に含んだ瞬間にギリギリ鑑定出来たのである。それはもう、手遅れ状態である事を意味していた。


 海斗が驚きの声を上げると同時に高らかな笑い声が響き渡る。


「ふふふ。ジェイコブの名に於いて命ずる。レイチェルよ、我が(しもべ)となりて我に従い、我に(つか)えよ」


 老人が両手を広げて凶悪な呪文を唱える。

 やはり、文字通り奴隷化してしまう魔石だ。奴は、これを狙っていたのだ。


 海斗には老人の体から悪魔のようなオーラが発生したように見えた。

 きっとそれは、気のせいだったのだろう。実際には何のオーラも出ていない。単に老人が気持ち悪い程の歪んだ笑みを見せただけである。


 レイチェルの瞳から光が消失する。

 そして表情からも感情がなくなり、まるで操り人形のようにその場で(ひざまず)いた。


「ご主人様、なんなりとご命令ください」

「ふはははは。やったぞ。この世で最強のコマが出来上がったぞい」


 ジェイコブの顔はもはや人間のものとは思えなかった。それ程までに、人間の闇の部分が浮き彫りになった表情だった。まるで今から世界を乗っ取るかのような勢いだ。


 レイチェルの力があれば不可能ではないかもしれない。

 まぁ実際にはたった一人の力では到底無理ではあるが、そのような気持ちにさせてくれる能力を彼女は持っている。


 とにかく、とんでもない事をしてくれたものだと海斗は思った。

 空間回帰を使えば、この場は逃げ出す事が出来るかも知れないが。いや、村に入ってしまっているのでスキルを使った所で此処に戻るだけだ。意味が無い。

 

 というか、そんな問題ではない。唯一頼りにしていた人物が奪われてしまったのだ。

 最悪だ。


 そんな思いでレイチェルを見ると、彼女はいきなりスタッと立ち上がって言った。


「悪い、ちょっとふざけて見た。まぁ貴様の本性が見れて結果的に良かったが」

「ななななんじゃとぉぉぉぉ!?」

「レイチェルさん! 無事だったんですね!!」

「ああ。魔石は飲み込んだがスキル付与はしておらん。最初の魔石を渡された時と違い、こいつの表情から邪念が感じ取れたのでな」


 どこまでも凄い人だ。

 単なる戦闘力としての強さだけでなく、このような洞察力まで備えているとは。


「良かった!!てっきりやられてしまったかと」

「まぁ良く考えると飲み込んだのも軽率だったのかもしれないがな」

「ホントそうですよ……」


 怖いもの知らずというのも実に厄介だ。


「さて、特殊な魔石は実に勿体ないが、これ以上ここで収穫は無さそうだな。あまり気は進まないがコンラートの城へと移動するか」


 実はオレなら何の魔石か分かるので収穫はあるかもしれない。

 何とかレイチェルにだけこっそりと伝えたいものだが。


「レイチェルさん、オレの知り合いに魔石を研究している人が居るんです。その人に見せれば何かわかるかも」


 ここは彼女の探求心に訴えかけるのが良いだろう。老人には分からないように、目くばせで『何かある』雰囲気も醸し出しながら。


 海斗の想いは伝わったようで、魔石を持ちだす事になった。

 レイチェルが適当に魔石を手に取ってバックに入れ出したので、海斗も手伝う振りをして良さげな能力が付与された魔石をいくつかピックアップした。老人が激しく抗議してくるが、もちろん無視だ。


「いかん。すぐにここを離れるぞ」

「え? え?」

「説明は後だ。変な連中が近づいて来ている」


 出来る限り良さげなスキルが付与されている魔石を取りたかったのだが、何か起こってしまったようだ。仕方なく近くにあった魔石を手あたり次第、空間収納(アイテムボックス)に放り込む。

 そして引っ張られるように海斗は馬車に乗せられ、そのまま急発進する。彼女がこれほど慌てるとなると、相当ヤバい事なのだろう。


「だめだ。奴らのほうが早い」


 レイチェルが口走る。

 誰かに追われているようだ。海斗には全然分からなかったが、索敵スキルか何かで探知したのだろう。

 やがて、その正体が明らかになった。


 人だ。

 人の集団が走って接近してくる。馬車よりも早く走る人達って一体……?


 レイチェルが馬車を停めた。確かに到底逃げ切れるスピードでは無い。此処で迎え撃つ事にしたのだろう。


 海斗は、万一のときは空間回帰で逃げようと目くばせで伝えた。

 今度も上手く伝わっていれば良いが。



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