第33話 ヘビの王様って
「じゃあ、また明日。ロビーで落ち合ってからギルドに行こうか」
「まさかボクと一緒に依頼を受ける気かい?」
「あれ、違った? まぁ別々でもいいけど」
「なるほど。確かに田舎のギルドとは勝手が違うからね。心配なのも分かるよ。仕方が無い。付いていってあげようじゃないか」
「おう。サンキュー。んじゃあな」
何にせよ、ラディッシュ節が戻って来て海斗は少し嬉しかった。
それに、彼の言うとおり若干の不安がある事も事実だった。聞いていたとおりラ=バラ周辺はランクC以上のモンスターが多数出現するのだ。果たして海斗に出来る依頼はあるのだろうか。
しかし幸いな事にレイチェルと移動した事によって高ランクモンスターのドロップ品が色々と手に入った。今日のところはひたすら合成を行って少しでも装備やスキルの底上げをしておくのが良いと思われる。
そして……。
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基本スキル:
- 上級回復
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「おおお」
思わず声が出た。
ついに、ついに手に入れたのだ。
どれだけ待ちわびた事か。
基本、ソロが多い海斗にとって無くてはならない魔法なのだ。唯一の回復職であるマリンも冒険者を辞めた事だし。
これで時空魔法の更なる探索が進むに違いない。
更に合成を進めると再度『テンペスト』のスキルが出来上がった。以前は、これに『黒炎』を組み合わせて『火球』が出来たので、もう少し素材を集めて『黒炎』を作るべきだろう。今までの流れでいくと、おそらく『火球』を2つ合成すれば更に強力なスキルが出来上がる可能性が高い。
だが海斗は待ちきれなかった。
明日から早速ギルドの依頼を受ける必要があるのだ。それも、他の町よりもギルドの格が上だというラ=バラの依頼を。
危険な賭けではあるが、『テンペスト』と『アイスストーム』を合成することにした。どちらとも稲妻で代用できるものだから、失敗しても大きな痛手ではない。『火球』×2の合成が遠くなるだけだ。
そして……。
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基本スキル:
- 超広範囲氷雷結晶
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「おおお」
また声が出てしまった。
実際に使ってみないと何とも言えないが、おそらく当たりではないだろうか。
翌朝ラディッシュと共にギルドに向かい、Cランク向けの討伐依頼を受ける際に早速スキルが役にたった。ラ=バラでのCランク向け依頼なのである。海斗はおそらく2ランク下と見なされたに違いない。しかし付けているスキルが強力なものだと言う事で特に揉める事なく依頼を受ける事が出来た。
◆
レイチェルは海斗達と別れたあと、再度、空間転移したダンジョンへと戻って来ていた。何の手がかりも無いため、やはりこの場所から捜索を続けるしか無いのだ。
まずはダンジョンの中を一通り見てみる事にする。
先日と同じように高レベルモンスターが大量に襲い掛かって来る。もし例の村人もここを通ったのであれば、相当の実力があると考えざるを得ない。トリックか何かでBCランク冒険者を翻弄した可能性も少しは疑っていたのだが、その考えは捨てた方が良さそうだ。
ダンジョン内の捜索は一週間ほどで終え、さらにダンジョン周辺を探し回る事一週間。ついに怪しい箇所を見つける事が出来た。
川沿いの単なる岩場なのだが、明らかに人が滞在している形跡がある。
近くには森もあり、食料調達も可能だろう。
報告にあったような子供たちは存在しなかったが、どこか他の場所に拘束しているのかも知れない。
レイチェルはとりあえず張り込む事にした。
数日間は頑張ってみるつもりだったが、幸運にもその日のうちに老人は姿を現した。
鑑定してみると、間違いなく『ジェイコブ』という名前である。
だが称号が『町人』となっている。『東の都』の町人である。どうやら書き換えを行ったらしい。
老人が住処に落ち着いたのを見計らい、レイチェルは接近した。
何らかの探知スキルを持っているのだろう。10メートル以上の距離があるにも関わらず、相手はレイチェルの存在を察知した。
「どちらさんかな?」
まったく焦った素振りはない。落ち着いたものだ。この落ち着きは単に呑気なだけ、という訳ではなさそうだ。自分の実力に相当の自信があるのだろう。
「人を探している」
「ほほう。よほど奇特な人を探しているとみえる。こんな何もない場所にいらっしゃるのかな、その人は」
「ああその通りだ。単なる村人なのにBランク冒険者達を手玉に取るほどの奇特な人を探しているのだ。もっとも、今は町人になっているようだがな」
老人は目を細めてレイチェルを値踏みするように観察した。
その目はまるでレイチェルが隠ぺいしているスキルの一覧をも確認しているかのような、鋭いものだった。
ひとしきり観察が終わったのか、老人はまた元の穏やかな目に戻ると目線も自分の手元に戻しながら言った。
「帰られよ。ここにはそんな人物はおらん。もし居たとしてもあんたに用事は無さそうじゃ」
とぼけた口調ながらも、レイチェルは老人が密かに戦闘態勢に移行しつつある事を悟った。本人はバレてないつもりだろうが、百戦錬磨のレイチェルからすれば、見逃すはずが無かった。
老人が杖を振りかざすよりも早く、レイチェルの耐魔バリアが発動する。
そこに大量の黒い靄が襲い掛かった。
「耐魔バリアすら崩れ去るという報告は確かなようだな」
聖壁を掛けても良かったのだが、レイチェルは相手の力量を確認するために、わざと耐魔バリアを発動させたのだ。だが、その言葉に老人は強く反応した。
「あのときの仲間なのか!? 教えてくだされ。奴らはどうやって姿を隠したのじゃ?」
「ふふ。気になるだろう。それなら先にお前の正体を話すんだな」
「ヌシの称号はルマリアか。思ったよりも大ごとになっているようじゃな」
「そうでもないさ。私は本当にお前の正体が知りたいだけなのだよ」
「コンラートの事件でルマリアの騎士さんが動いたんじゃろ。国家レベルの事件になった証拠じゃよ」
老人の言うとおり、正体を聞き出すだけが目的ではなく連行するのがミッションだ。個人的には正体さえ分かれば良いという気がしないでもないが。
「話し合いは難しそうだな」
レイチェルは耐魔バリアを捨て、代わりに聖なる光を身にまとって老人との距離を一気に詰めた。だが老人もぼけっと見ている訳では無い。杖を捨てると両手で更なる強力な魔法を撃ちだして来た。
やはり杖は単なるけん制攻撃に使うだけで、自ら強力なスキルを保持しているのだと思われる。
聖なる光だけでは防ぎきれないと踏んで、魔焦壁を発動させる。耐魔バリアよりも数ランク上の強度を持つ障壁ではあったが、老人の発する遠距離攻撃を数回受けて崩れ去った。
「今のはなかなかの攻撃だな。魔焦壁がこんな短時間で崩れるのは久々だ」
「その割にはちっとも焦っておらんな。一体ヌシは何者じゃ?」
「変だな。先に正体を聞いたのは私だったはずだが?」
レイチェルは、僅かながらに老人に焦りが出た事を見破った。どうやらさっきの攻撃が一番強力なものだったらしい。
用心しながらも、じわじわと距離を詰める。掴まえてしまえば何とかなるだろう。
老人は身を屈めると、先ほど捨て去った杖を拾った。
あの杖で何かするつもりなのだろうか。
念のため立ち止まり、様子を見る。さらに強力な攻撃が来た時のためにスキルを唱える準備をしておくのだ。
確かに何かスキルを使おうとしている。
見たことも無い攻撃が来る可能性があるため、一瞬のスキも見せないように老人の体を凝視する。やがて老人の体がレイチェルの視界から消え去った。
「!?」
単に姿を消しただけではない。気配すら無いのだ。
レイチェルの実力と気配探知のスキルを合わせて使えば、この世で見つけられないものは無いと思っていた。
だが、老人の気配が全くしない。
まさか気配を完全にゼロに出来るのだろうか。
ならばこれほど厄介な事はない。どこから来るか分からない攻撃に、常に待ち構える必要があるのだ。体力の消耗は想像を絶するものがある。
それからたっぷり十分以上は待っただろうか。
レイチェルはその場で立ち尽くしたまま、老人の気配を探り続けていた。
そろそろ体力の限界が近い。
これはどう考えても、老人が居なくなったと考えるべきだ。おそらく海斗の空間回帰というスキルのように何処かに移動したのであろう。
レイチェルは構えを解くと、久々に酷使した体をいたわるようにその場に座り込んだ。
◆
海斗はラディッシュの称号書き換えに立ち会っていた。
ラ=バラに来てから1カ月。ようやくラディッシュの称号がラ=バラのCランクになったのだ。元々Cランクだったので、正確にはランクを下げる事なくラ=バラの称号に付け替える事が認められたと言うべきか。
まぁ、本当に実力はあったのだろう。案外、彼の言ったとおりギルドの判断がシビア過ぎただけなのかもしれない。
一方海斗のほうはDランクのままだったが、新スキルのお陰で依頼を受ける際には困らなかった。
だが残念ながらと言うか幸いと言うか、新スキルを使うタイミングは発生しなかった。
上級回復を使う程の大きなダメージを受ける事も無かったし、強敵に囲まれる事もなかった為に強力な範囲魔法も不要だったのだ。流石ラ=バラの冒険者達と言うべきか、皆レベルの高い人間ばかりである。
「ところで海斗。お前さん、何でDランクなんてやってるんだね?」
いつものように依頼を受けて移動中に、何度か一緒になった冒険者から疑問を投げかけられた。
こんな質問が出るという事は、海斗がCランク並みの実力があると認められたと言う事なのだろう。
しかも、他のギルドよりも格が高いと言われるラ=バラの人間から出た言葉である。
正直嬉しい言葉だった。
「うーん、何でだろ。なんか、タイミングが無かった……から?」
「なんだよ、そりゃ。まぁカネに困ってない連中は面倒を避けるためにDランクのまま冒険者を続けるって言うしな」
いや、カネには困ってるんだけどね。白金貨1枚以上の借金がある事だし。
「おしゃべりはそこまでだ、諸君。いよいよ本命である白ヘビの巣へ突入する時が来た! さあ、馬車を降りたまへ」
ラディッシュの芝居じみた声が響き渡る。
ここ数日は海斗が活躍した事もあり、何だか元気がなかった彼なのだが、今日はノリノリだ。何故ならば、今日の敵である白蛇王というモンスターに対抗するためのスキルを唯一、彼だけが持っていたのだ。
そんな状況だったため、皆から随分と持ち上げられて上機嫌だ。
「で、ラディッシュ。作戦はどうするの? キミの耐魔バリアに籠っているだけじゃ、倒せないぜ」
「ふふん、もちろん心配ないさ。何と、このボクはバリアを張りながら攻撃魔法を撃つ事ができるんだよ。まぁ、なかなか出来る人は居ないから信じてもらえないかもね! ははは。どうだい、驚いただろう」
「いや、まぁそれはすごい事なんだけど。オレらは何をすればいいの?」
「え?キミ達?」
「そう」
「……」
どうやら考えて無かったらしい。
やっぱパーティリーダーは別の人にしときゃよかったよ。ラディッシュがどうしてもリーダーになると言うから皆譲ったのに。
「俺は耐魔付与の盾を持ってるから、とりあえず直接攻撃するぜ」
「んじゃ私は遠距離魔法で削るわ。サイコ系のスキルならダメージ通るはずだからね」
仕方なく、各メンバーが自分の出来そうな事を進言していく。海斗も耐魔系の防御やスキルが無かったため、ラディッシュが作った耐魔バリアの中から魔法攻撃することにした。
「とにかく何とかなりそうだから、入るとするか」
まるでダンジョンの入り口のような岩で出来た大自然の建造物に若干圧倒されながらも、海斗達は中へと入っていく。
「ものすごく広いね」
「まるでダンジョンみたいだ」
「だよな。まさに王の住処って感じだ……」
突然襲い掛かって来ても良いように、各自、身構えながら慎重に歩みを進める。
しばらく進むと、あれほど広かった通路が急激に狭くなり、人が一人、やっと通る事が出来る位の広さになった。
「みんな、気をつけるんだぞ。いよいよ白蛇王とのご対面だ」
ラディッシュが自信たっぷりに言う。
あまり彼の言葉に信頼性は無かったのだが、意外にも正しい情報だった。
狭い通路を抜けた先に、それは居た。
海斗はてっきり塒を巻いているのかと思ったが、そもそも蛇の形をしていなかった。
「鶏?」
サイズは人間の何倍もあるものの、形は鶏そのものだった。
何故、これが蛇の王なのか……。
「こ、こいつが……」
「ああ。俺も見るのは初めてだぜ」
「大きいな」
他のパーティメンバも圧倒されているが、海斗のように容姿に対して驚いている様子はなかった。もしかすると情報としては知っていたのかもしれない。
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Name:白蛇王
Caption:モンスター
基本スキル:
- トクシコン
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鑑定すると、確かに目的のモンスターだった。
A~Bランクに位置するモンスターなのだが、気を付けるべきは毒攻撃のみらしい。耐魔バリアでシャットアウトできるため、Cランクの冒険者には人気なのだ。準備さえ整えていれば比較的安全に倒せる事ができる上に、高ランクの経験値やドロップが手に入るという優れものだ。
人気が高いゆえに達成報酬も少ないのが唯一残念な所だ。




