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第30話 村人J


「やだーっ。やだやだっ! ユリも一緒に行くっ」

「だめだよ、言う事聞かなきゃ。ほら、海斗お兄ちゃんも困ってるじゃない」

「だってぇ……」


 ダンジョン攻略は、事前調査によるとかなり大きなものらしく、少なくとも一週間は見て置いてくれと言われた。


 ユリエスとは毎日顔を会わせていたから、急に一週間以上居なくなると聞いて彼女は半泣き状態になった。


「でもDランクなのに指名依頼だなんて、ホント困るわよね」

「覚えてないかい? 昔、一緒にエイベンの西側で大規模襲撃対応をしたときの事を。あの時のリーダーだったチェストンという人に誘われたんだ」

「……うーん、そんな名前だったかしら」

「ミカの事も覚えていたみたいで、脱退してなかったらオレと同じように声が掛かったと思うよ」


 本来ならダンジョン討伐は国の仕事なのだが、やはり例によってルマリアの内戦やブランカの参戦、帝国へのけん制などで全く人手が足りてないらしい。


 冒険者すら人手不足となっており、今回の様に小さな村だけの被害に留まるものは必然的に後回しになるようだ。


「だからってDランクメンバまで駆り出すなんて」

「まぁまあ。彼には世話になったしね」


 ミムの村の事は敢えて黙っている事にした。

 自分が捨てられた村なので、被害が出ていたところで彼女としても気にしないのかもしれないが。


 ユリエスを何とかなだめてギルドに向かうと、既にほとんどのメンバーが集まっていた。それなりにチェストンの人望が高いせいか、皆のやる気がうかがえる。逆に言うと、それだけ苦しい戦いになるという事かもしれない。


「みんな、よく集まってくれた。礼を言おう。俺達はこれから、この8人のパーティで南東に出来たダンジョンを攻略する。フォーメーションは移動中に説明しよう」


 馬車の中ではチェストンから役割やフォーメーションが説明される。驚いた事にDランクは海斗のみで、あとはCランク以上だ。


 だが他のパーティでありがちな、ランクでの差別の目線は受けなかった。それとなくチェストンに聞いてみる。


「ははは。そんな心の小せぇやつは今回の任務に不適合だ。ここに居る奴はみんな、俺が信頼しているメンバーばかりだからな」

「よく言うぜ、まったく。オメェは人が良すぎるんだよ。こんな厄介なものばっかり顔を突っ込みやがって」


 隣に居た同年代らしき男が茶々を入れる。


「ふ。そんな事言って、本当は嬉しいくせに」

「まぁモンスター相手に暴れるのは嫌いじゃねぇよ。だが真面目な話、今回はちと手こずりそうだぜ」

「……ああ、そうなんだよな。偵察した人間の話しだと、Bランクのモンスターがわんさか居るらしいぜ」


 馬車の中が静まり返る。

 このパーティには、Bランクは2人しか居ない。後は海斗を除いてCランクのみ。これでBランクモンスターがうようよ居る場所に乗り込むなんて無茶ではないのだろうか。

 

 一年前は、チェントンの油断から深入りし過ぎて被害を出し、かなり本人も反省していたように思う。あの苦い経験は忘れられてしまったのだろうか。


「だはははは。ほらよ、オメェが脅かすような事を言うからすっかり静まり返っちまったじゃねぇか」

「言い出したのはお前だよ」

「だいたい兄ちゃんも火球なんてBランクが付けるようなスキル付けてんだからよ、もっとエラそうにしとけば良いんだよ」


 結局は二人の冗談という事が分かって不安はぬぐえたのだが、なかなか悪戯好きな人達だ。海斗は本気で空間回帰がダンジョン内でもちゃんと発動するか考えてしまったのだから。


 聞くと、基本的にCランクくらいのモンスターばかりらしい。ただし、ボスはBランクの中でも強い部類に入るらしく、そこだけ要注意とのこと。


 ダンジョンに着くと、馬車を降りて中に入る。

 この世界のダンジョンは初めて見る。

 

 入り口は非常に広く、馬車に乗ったままでも全く問題なく入れそうだ。だが中では階段等があるらしく、結局はどこかで降りなければいけない。


「おかしいな。モンスターが居ないぞ」

「ああ、どういう事だ?」

「分からない。1カ月前に偵察した時点では間違いなく賑わっていた。誰かが殲滅したのか?」

「まさか。そんな物好きが居るかよ」

「だよな。ギルドからの報酬がある訳でもないし」


 あたりを警戒しながら、パーティメンバ達はダンジョンの奥深くへと進む。だが、どこまで進んでも全くモンスターが見当たらない。

 

 とうとう、最終階へ続く階段へと到着してしまった。

 最終階はボスが居るのみ、とのことだ。だが、この様子ではボスも居ないかもしれない。


 十分に警戒を続けつつ、一段一段、階段を下りて行く。


 果たしてそこにはローブを身にまとった一人の人間と、年端もいかない子供たちが十数名くらい居た。


 だが、子供たちは皆、地面に寝かされており生きているのか死んでいるのかも不明だ。ローブの男――女かもしれない――だけがぽつんと立っている。その人間の手から怪しい光が発生し、子供の体を持ち上げる。すると、子どもはフッと光の球に変わったかと思うと弧を描いてどこかへ飛んでいった。


 それを見て、パーティメンバのだれかが息を飲む。あまりにも非現実的な光景だったため、声に出てしまうのは仕方がない事だ。


「誰だ?」


 ローブの男が声に気が付き、こちらを振り返る。

 老人だった。


 風貌からは魔術師のような印象を受けるが、先ほどの現象といい、場所といい、かなり異様な雰囲気だ。一体こんな場所で何をしているのだろうか。


「わ、我々はランソールのギルドから依頼を受け、ダンジョンの殲滅に来たのだ。あんたこそ、一体何者なのだ」


 チェストンが気押されながらも質問に答え、逆に切り返す。

 海斗はようやく、鑑定するだけの心の余裕が生まれた。


===============

Name:ジェイコブ

Caption:

 - 職業:村人

 - 所属:琉球村

基本スキル:

特殊スキル

 - スキル生成

===============


 称号は、琉球村の村人となっている。

 だがここで、海斗は自分の目を疑った。


 特殊スキル?


 海斗が持っている特殊スキル『合成』は、鑑定されても他人には見えない。それならば、海斗がもし他人を鑑定した場合にも特殊スキルは見えないと思っていた。

 

 しかし現に今、海斗の目には特殊スキルの表示が見えている。これは、たまたまなのか?

 

 それとも、特殊スキルを持っている人間は、他人の特殊スキルも見えるのだろうか?


「まさかな。こんな場所がわざわざ依頼(クエスト)として出されただと? 周りにはちっぽけな村しかないのに、普通なら放っておくじゃろう」


 ジェイコブという名の老人は忌々しそうに吐き捨てた。

 まるで、誰も来るはずのないダンジョンの中で密かに何かを楽しんでいたのに、興ざめだと言わんばかりである。


「爺さん、その子供たちは一体?」

「ふん。ヌシらに関係ない事じゃよ」

「そんな訳にはいかないだろ」


 海斗が子供たちを鑑定してみると、名前の箇所に「死亡」の文字は無かった。まだ生存していると言うことだ。全く動きは無いが。

 

 眠っているだけかもしれないし、モンスターに襲撃されてダメージを負ったのかもしれない。


「とにかく、子供たちは保護させてもらう。あんたも事情を聴きたいので町まで同行願えるか?」


 海斗の頭に、ユリエスの事が思い浮かぶ。

 子供たちを保護したところで、チェストンはどうするつもりなのだろうか。たった一人の女の子ですら面倒は見れないと言われたのだ。十数人の子供たちを町に連れ帰って、一体だれがどうやって引き取るのだろうか。


 だがそんな疑問は一瞬で無駄に終わった。

 チェストンが子供たちに近づこうとすると、ジェイコブが杖を振りかざしたのだ。


 パーティメンバ達はすぐさま戦闘モードに突入した。

 といっても相手は村人が一人だ。しかも高齢の老人である。まさかBランク入りの8人パーティに敵うとは思われない。だから皆はこちらから攻撃を仕掛けるような事はせず、相手の出方を待った。

 

 それは下手に攻撃を仕掛けて相手が死亡してしまい、罪人になるのを恐れただけ、という訳でもない。

 

 ジェイコブが振りかざした杖が特殊なものだったからだ。

 鑑定すると『暗黒神の杖』と出た。スキル表示は無いが、名前からして低レベルな何処にでもあるような杖では無い事は明らかだ。そこから、どんな攻撃が繰り出されるのか。


 杖の周りに黒いもやもやした物がまとわりつく。

 次の瞬間、もやもやが一気に広がって黒い塊と化す。それは8人パーティ全てを飲み込むことが出来るくらいの大きさだった。


「みんな、集まれぇ!」


 チェストンの声と共に紫色の光る球体ようなものが発生した。おそらく何らかのバリアなのであろう。老人の仕掛けた攻撃を防ぐために誰かが発動してくれたようだ。


 黒い塊が襲い掛かってくるのと、皆がバリアに守られるのは殆ど同時だった。あと一秒でも遅れていたらヤバかっただろう。


 しかし――


「だめだ! 耐魔バリアが持たない」

「何だこの攻撃は。見た事ないぞ!」

「チェストン、バリアをもう一枚掛けるから、お前は攻撃してくれ」

「わかった」


 言うと同時にチェストンが詠唱に入る。その他のパーティメンバも次々と攻撃魔法を繰り出した。


 大小さまざまな攻撃魔法が老人に襲い掛かる。しかし老人の体も何らかのバリアで守られており、こちらからの攻撃は全てシャットアウトされている。


「ちきしょう、なんて強固なんだ。あれは聖壁か?」

「いや、違うな。聖壁はあんな色じゃない。だが強力なバリアであるのは間違いなさそうだ」


 海斗の持ちうる魔法のなかで、おそらく一番強力であろう火球を放った。

 

 かつてランクC以上の人間にダメージを与えたスキルだ。

 しかし、この老人の造りだしたバリアを突き破る事は出来なかった。


「こうなりゃ物理攻撃しかない。レージ! 行けるか?」

「ああ。だがどうやって近づく?」

「チェストン、お前の耐魔シールドで何とかならんか」

「賭けだぞ?」

「わかってるさ。だがこのままじゃ、どっちにしたって同じだよ」

「分かった。レージ、行くぞ!」

「おう」


 レージという剣士とチェストンが二人で飛び出した。その身には紫色の耐魔シールドをまといながら。彼らの会話からすると、おそらく耐魔バリアより威力が劣るのだろう。その分、ダメージとして身に跳ね返ってくると言う事だ。

 

 事実、飛び出した二人は苦痛に顔を歪めながら走っている。

 役に立つかどうか分からないが、海斗はタイミングを見て治療を二人に施した。


「おお、海斗。お前そんな高等なスキルが」

「たぶん回復量は微々たるものだと思いますが」

「いや十分だ。奴らが持っている回復スキルも合わせて使っているからな」


 二人がまさに文字通り命を削りながら接近を試みると、老人は左の掌も天に掲げた。それは、更なる魔術を使うというしぐさに他ならない。


 もしかするとジェイコブという老人は単なる村人で、特殊な杖により強力な攻撃を繰り出しているだけという可能性もあった。


 しかし、今度は明らかに自分の力で何らかの攻撃を仕掛けようとしている。決して道具に頼った類の物には見えなかった。果たして、そんな村人が居るのだろうか。海斗にはこの世界の常識は分からないが、少なくとも、ここに居るパーティメンバ全てが面食らっている事だけは事実のようだ。


 老人が左の掌から出現させたのは、杖から繰り出される黒い塊とは対照的にまばゆいばかりの白く輝く球体だった。

 

 海斗は以前見た、ブランカの兵士が使った雷光を思い出した。色はあれよりも更に白く、サイズも大きい。威力はどちらが上か分からないが、その球体はいとも簡単にチェストン達を戦闘不能状態に陥れた。


 攻撃を受けて動けなくなってしまった二人を鑑定してみると、『死亡』の文字は出ていなかった。かろうじて生きては居るようだ。


 もはやこれは、どうやって老人を倒すか考えている場合ではない。

 どうやって逃げ延びるか、だ。


 海斗は『空間回帰』を発動させることにした。

 ダンジョン内でもちゃんと発動する事を祈りながら。


 焦る気持ちを必死に抑えながら、間違って照準が自分だけにならないように気を付けながら『空間回帰』と念じる。


 ……問題なく、発動した。


 海斗達8人パーティは、ダンジョンの入り口で佇んでいた。もちろん海斗以外のメンバーは何が起こったのかさっぱりである。当の海斗も困惑していた。発動したのであれば、てっきりランソールまで戻ると思っていたからである。


 もしやと思い自分を鑑定してみるも、スキルの表示は『空間回帰(ランソールの町)』のままだった。


「海斗、まさかお前なのか?」

「……う、うん。使った事ないからちゃんと発動するのか不安だったんだけど」


 ここは隠してもいたずらに騒ぎを大きくするだけだと思い、正直に告白した。だがしかし、単純にダンジョンから帰還するだけのスキルだという事に留めて置いた。


「おおっといけない。チェストン達を助けないと」


 ジェイコブとかいう老人が追ってくると危険なので、ダメージで身動きが取れなくなっている二人を収容すると即刻ランソールへと馬車を走らせた。


 馬車のなかでずっと回復魔法を掛け続けたお陰でランソールに辿り着いた頃にはチェストン達も自力で歩ける程まで回復していた。


 残念ながらギルドへの報告はチェストン達高ランクメンバが行うとの事で海斗は帰還早々に自由の身となってしまった。本当はギルド側のリアクションが知りたかったのだが。それと、今後どうするのか等も。


 それにあの老人は『特殊スキル』を持っていたのだ。非常に気になる存在である。だが残念なことに間違ってもお友達になってくれそうな雰囲気ではなかった。あれだけの事をしでかしたのだ。きっと高ランク冒険者か騎士団などが討伐に向かうのではないだろうか。


 そんな討伐劇に海斗が加われるはずは無い。


 もしかすると時空魔法の手がかりになるかもしれないのに、という思いを抱きながらも海斗には、なす術は無かった。



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