第25話 帝国の動き1
ラージニア大陸・北東方面司令官であるジェルヴァは、アダマン帝国の司令部にて数人の部下から状況報告を受けていた。
「戦況は思わしくないようだな」
「はっ。ルマリア国の戦力が想定以上だったのではないかと。ブランカ兵の消耗が激しすぎます」
「ブランカの兵などどうでもよいが、我が帝国の中枢部隊にも被害が出ているではないか。もう少し戦局が固まってから投入するように指示したはずだが?」
ルマリア国の内乱を誘発し、ブランカ兵を使って一気にルマリアを乗っ取るつもりだったのだが、どうも雲行きが怪しい。とてもじゃないが、これでは皇帝様に顔向けが出来ない。
「申し訳ございません。あまり深追いはさせてないのですが、どうもレイチェルという女騎士が単独で切り込んで来たとかで戦局が掻き乱されておりまして……。いえ、所詮は単騎です。不意さえ突かれなければ、どうと言う事はありません。すぐにでも沈静化させるようにします」
「なに? 女騎士のレイチェルだと? ばかもの。貴様はレイチェルを知らんのか。……なるほど、奴が出て来たか」
奴はもう騎士団とは縁を切ったと聞いていたのだが、偽りの情報だったのか。
15歳にして神獣を倒すなどAランク級の実力を身に着け、その後も大陸中にちらばる伝説級のモンスターを軒並み討伐して回ったと聞く。すでにSランクを超えているのではと噂されているのだ。
そんな人間相手なら、いかに帝国の精鋭たちと言えど相手に出来るはずはない。
「そいつは一騎当千の化け物だ。対抗するにはこちらもS級の部隊を送らねばならないな。すぐ手配するから、それまでは決して近づくなよ」
切り札とも言えるエリート部隊を動かすのは痛手だが、仕方が無い。ジェルヴァは指示を出し終えるともう一方の懸案事項の確認に入った。
「ラーシャの行方は未だ分からないのか?」
「はい、一度東の都で発見したとお伝えしましたが、偽りの情報だったようです。どうやら兵にカネを掴まさせて嘘の情報を流させただけとの確認がとれました」
「その兵を締め上げれば、誰からカネを貰ったか分かるのでは?」
「は。現在詰問しておりますが、なかなか口を割りません」
「生ぬるいのではないか。殺してでも吐かせろ」
「御意」
レイチェル程ではないが、ラーシャも一筋縄では行かない相手だ。彼女だけでも相当の実力はあるが、彼女の配下で動くレジスタンスのメンバーが更に厄介だ。今までことごとく帝国は邪魔をされてきた。何としても捕らえて皇帝様へ差し出さなければならない。
「ジェルヴァ様。ラーシャの捜索に関しては進展ありませんが、一つ面白い情報を入手しております」
「ほう。どんな情報だ?」
「彼女の夫である『グレン』という冒険者ですが、もしかすると、ブランカ領に潜伏しているかもしれません。先日、ブランカ城下町付近で目撃したとの情報がありました。称号は『鍛冶師』になっていたらしいので、冒険者を辞めて商人にでもなっているのだと思われます」
「同一人物か?」
「商人にあるまじき強さでモンスターを狩っていたとのことですので」
グレンもAランク以上の実力があった。ということは、確かに部下の言うとおり本人なのであろう。
「面白い情報ではあるが、ただそれだけだな。今さら奴を捕らえたところでラーシャは動くまい」
「ご推察のとおりです。しかし、娘ならどうでしょうか。確かアンジェリカという娘が居たはずです」
「……なるほどな。娘も一緒か?」
「残念ながら確認できておりませんが、その可能性は高いかと」
「わかった。では貴様に任せよう」
◆
海斗達はコンラート城を経由して、ようやくランソールまで戻ってきた。ライアン達は数カ月振りの帰宅である。家族へは何度かギルドを通じて連絡を入れていたらしいから、行方不明になったと騒がれている事はないだろうが、家族からしてみれば心配は心配だったろう。
二人とも、何はともあれ家に直行した。
ミカはもともと一人暮らしだったので家族は居ないが、マリンは家族どころか家も無いらしい。そりゃそうか。ずっと専属従者として拘束されていたのだから。
とりあえずはミカの家に一緒に住む事になったとのこと。
「海斗さんも、おうち無いんでしょ? 一緒に来る?」
「ちょっとアンタ。何いってんのよ!!」
マリンが超天然爆弾を投下したが、海斗は笑ってスルーして二人とも別れた。
ミカはこれからどうするんだろうか?
もともとはマリンの借金返済のためにギルドに入った訳だから、もう冒険者をやる必要は無い。
しかし海斗は時空魔法を集めるために色々と世界を回りたいのだ。まさか、ミカに着いて来てくれなんて言えない。それに、完成すれば元の世界に戻る事になる。さんざん連れ回したあげく、それは無いだろって事だ。
ミカの事は考えても答えが出るものではない。だから海斗は時空魔法の事だけ考える事にした。
また以前と同じ「楓」という宿に宿泊し、布団の中でこれからの事を考える。
まずはレイチェルに会って色々と情報をもらいたい。海斗の空間回帰を見せれば相談に乗ってくれそうな気がする。
だが彼女は戦争の真っただ中だ。簡単には会えないだろうが、とにかくルマリアの城に行けば可能性がある。ルマリアに入国するのは危険を伴うが、もし例の白装束の男が本当に襲ってきたら、空間回帰で逃げれば良いのだ。
それよりも先にクリアしなければならないのは、ガザム山脈のほうか。再度、あそこを超えて行かなければならない。それに、今度はおそらく一人で。幸いなのは、万一、想定以上の強敵に遭遇した場合は空間回帰で逃げれることか。
決まった。
もう少し依頼をこなしながら経験を積み、素材を集めて一人でガザム山脈を越えるだけの地力を付けるのだ。
しかし寝心地の良い宿に泊まると、どうしても朝が遅くなってしまう。翌日ギルドに顔を出したが、思ったとおりミカ達の姿は見えず、海斗は一人で適当なものを探してみることにした。
「そうですか。んじゃ、こちらの依頼は?」
「こちらは依頼主からどうしてもCランク以上が必要と条件が付けられてますので」
「わかりました。もう少し探してみます」
何個かピックアップしてカウンターに行ってみるが、ちょうど今さっき別の人が受けてしまったものだったり、条件が合わないものだったりばかりだった。
今日は運が悪いようだ。
仕方なく、以前に中途半端のまま放り出した『シリの森』探索に行くことにした。
そういえば、まだ最深部まで到達していなかったのだ。
あれから一年余り経った。装備は数ランクアップしているし、海斗自身の実力も相当上がっているはずだ。それを裏付けるように、入り口付近のモンスターは完全な雑魚だった。
ブランカでは沢山の依頼をこなし、金銭的にも余裕が出て来たためにこっそりと基本スキルと言われる強化系のものも付けた。もちろん隠ぺいも同時に。それによる強化も大きいだろう。
そして、少し内部に足を踏み入れると、また例の大きなモンスターにエンカウントした。
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Name:エンシェントワーム
Caption:モンスター
基本スキル:
- アースクエイク
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闘う際は、主にダブル衝撃波を使って仕留めていたモンスターだ。こいつの繰り出すアースクエイクという魔法はウインドバリアが効かないためだ。受けると結構痛い。だから少しでも早く終わらせるために魔力を惜しまず使って戦っていた。
しかし、今となってはこのモンスターも雑魚扱いになった。
いつものとおり、海斗の姿を見るやいなやスキルをぶっ放してくる。だが、もはや気にする程のダメージは受けなくなっている。慌てず騒がず、稲妻の剣を真正面から叩き付ける。以前と違い、通常攻撃であってもかなり効いているようだ。剣で切り付けるたびにモンスターは甲高い叫び声を上げる。
何の苦戦もなく、でかいワームを葬り去る事に成功した。
この一年の成長は思った以上に大きいようである。
これなら何も恐れる事はない。海斗は躊躇なく森の更に深い部分へと足を踏み入れる。
様々なモンスターを倒しながらずんずん進むと、前方で誰かが闘っている姿を見つけた。敵は一体だが大きさがある。気のせいか見たことのあるような……と思って鑑定するとオークだった。
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Name:オーク・プライム
Caption:モンスター
基本スキル:
- 腕力強化
- 身体強化
- 衝撃波
- 一閃
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レイチェルが以前試し切りの相手として戦っていたモンスターではあるが、少し違うような……。
あれは単なるオークだったか。確かにこんなに色々とスキルは付いてなかったような気がする。
オークを取り囲むように四人の冒険者達が対峙している。
全員、ランクCだ。
オークが突き出した槍を前衛らしき屈強な男が斧で跳ね除ける。だが攻撃を受けた男のほうも少しバランスを崩した。相当強力な攻撃らしい。
だが一瞬固まったオークに向けて複数の火矢が突きささる。それだけに留まらず、次々とパーティから繰り出される攻撃を受け、やがてオークは力尽きた。パーティの表情をみる限り、特に苦戦した訳ではなさそうだ。そりゃそうか。Cランクが四人なのだから。
「どうした? もしかして道にでも迷ったか?」
そのうちの一人が海斗に話し掛けて来た。ぼけーっと眺めている事に気が付いていたのだろう。
「い、いや。ごめんなさい。ちょっと通りがかっただけなので」
「通りがかっただけって、あんた一人でか?」
「ええ、まあ……」
他のパーティメンバも寄って来て、四人して海斗の事を奇妙な目で見ている。
「エイベンから来たのか。それなら知らないはずは無いと思うのだが、ここはDランクが一人でうろうろするには危険な場所だぞ」
「大丈夫じゃない? その人、結構良い装備してるみたいだし」
「確かにな。実力も、Cランク以上あるんだろ」
勝手にパーティメンバ同士で会話しているが、どうも話が見えないので海斗は聞いてみた。ギルドにて、この森の最深部に一人で行ければDランクは合格だと聞いたのだが、違うのか、と。
「ぎゃははは。にいちゃん、ここは『ユングスタットの森』だぜ。あんた、シリの森を通り越してるんだよ。行き過ぎだぜ」
「うはは。面白いやつだな。ってか、よくこんな奥地まで来れたもんだ。相当運のいい奴だ」
四人とも大爆笑だ。
彼らが言うには、シリの森とユングスタットの森は隣り合わせになっており、確かにシリの森を突っ切ればここに来る事になるらしい。だが途中に僅かではあるが、木々が途切れる場所があったはずだと言われた。
そう言われてみれば、そんな気もしたのだが。特に地図も持ってなかったので、気にしてなかった。
「どうする? シリの森まで送ってやるか」
「だね。目の前で死なれちゃったら気分も良くないしねー」
珍しく親切なパーティみたいで、護衛してくれると言ってくれたが、海斗は申し訳ないからと断った。
「来た道を戻ればいいみたいなので、すぐ引き返します。ホント、教えてくれて助かりました」
海斗は礼を言って慌てて引き返した。まさか、シリの森を突っ切ってしまっていたとは。確かに途中からモンスターが弱くなったり強くなったりしていた。あれはおそらく、中心部を抜けて一旦弱くなり、ユングスタットの森に入ってからは、また強くなったのだろう。
ということは、海斗はDランクとしては問題ないレベルだと言う事がはっきりしたのだ。って既にDランクになっているのだが、苦戦どころか森の全ての敵が雑魚に思えるくらいまで強くなったと言うことだ。
これならCランクの敵とも闘う事が出来るのではないだろうか。
そう、目の前に現れたオークにも。
「え?」
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Name:ウェル・オーク
Caption:モンスター
基本スキル:
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今度こそ、レイチェルが試し切りをした敵だ。
いや違う。『ウェル・オーク』という名前だから、これも少し違うみたいだ。今度はスキルが付いていない。ハイドスキルはあるかもしれないが。
果たして勝てるのだろうか。
一撃でやられなければ、とりあえず空間回帰で逃げる事が出来る。まずは戦ってみる事にした。
念のため自分にウインドバリアを掛け、オークに切りかかる。
やはり一撃で倒すどころかレイチェルのように腕を切断する事すらできない。だが相手の攻撃はバリアによって防ぐ事が出来ている。これなら安心して攻撃に専念できる。
スキルを使ってもよいが、大体どれくらいで倒す事ができるのか確かめるためにも、純粋な物理攻撃のみで戦ってみる事にした。
途中でバリアが切れたので掛けなおそうかと思ったが、これもスキル無しで自分の力量を確認するために敢えて攻撃を受け止めてみる事にした。
……手が痺れた。
しかし、それだけだ。上手くいなす事が出来れば、もっと楽に受ける事ができるかもしれない。
やがて、ウェル・オークが海斗の前に力尽きて倒れた。
勝利を収めたのだ。ほぼ、スキル抜きで。まぁ、超強力な剣と防具のお陰なのだが。
「やるねぇ。一人で倒しちまいやがった」
振り返ると、先ほどのパーティが居た。
海斗がエンカウントしたのを見て、ヤバそうだったら助けようと思って見てくれていたらしい。
「Dランクだって馬鹿にしてごめんねぇ~」
「しかし、そのウインドバリアってのは強力だな。オークの攻撃を防ぐとは」
「あんたのパワーシールドとどっちが強いんだろうね」
「やめてくれよ。比べるのは」
褒めてるのかふざけているのか分からないが、少なくとも嫌味な感じはしなかった。純粋に驚いているだけのようだ。
「おっと。また出やがった。今日はやけにオークばっか出て来るな」
「しかも三体同時だ。めんどいな」
「にいちゃんも一緒にどうだい? もし良かったらパーティ入んなよ」
海斗はウェル・オークを一人で倒せた事で少し気持ちが大きくなっていたようだ。新たに出たオーク・プライムとも闘って見たくなったのである。Cランクパーティからの誘いを受ける事にした。
「念のため、補助入れとくかぁ」
僧侶の男性がサポート魔法らしきものを発動した。パーティメンバの物理的な攻撃力、防御力が上がるらしい。おそらく海斗のために掛けてくれたのだろうと思われる。
今度もとりあえず、バリア無しでやってみる事にした。先ほどの敵よりは強力なのだが、補助魔法の効力もあるため、もしかすると問題ないかもしれない。
オーク・プライムが振り回す槍を稲妻の剣で受け止める。だが、その衝撃はハンパなかった。
「どわっ!」
軽く2メートル程度飛ばされて、木に激突してしまう。
衝撃吸収のレザーアーマーがあったため、見た目ほどダメージは受けて無いのだが、パーティメンバが心配して駆け寄って来た。
「大丈夫か?」
「ええ、何とか。めっちゃ強いですね」
「まぁこいつは筋肉の化け物だからな。受けるのは俺らに任せて遠距離で削ってくれ」
「わかりました」
バリアが効くかどうか試してみたかったのだが、余計な心配をさせるのも申し訳ないので後方からの魔法攻撃に切り替ることにする。
少し距離を取ってから、新たに手に入れたファイヤアローを連発してみた。
オークの体に次々と火矢が突き刺さる。どれくらいダメージを与えているのかは不明だ。だが、彼らも同様にファイヤアローで攻撃しているので、おそらく有効なのだろう。
「む、キメラまで出てきやがった」
「順番は守って欲しいわね」
「そう言うなって。こいつのドロップは期待できんだからよ」
彼らの口ぶりに焦りはない。
これだけの敵が出て来ても問題ないという事だろう。




