第24話 自然を大切に
結局、恐れていたような敵に襲われる事なく、無事にダムダの町に到着した。
グレンはダムダに寄らずにそのまま行く事を進言したが海斗が色々と理由を付けて寄ってもらう事にした。
本当の理由はセーブポイントの書き換えだ。
どうやら町に入った瞬間に書き換わるようだ。これならわざわざ一泊しなくても良い。適当に食料を買い足したり、ダムダの町で滞在中契約していた家の解約を行ったりしたあと、また進路を東に取った。
「海斗、お前ってホントに強くなったな」
稲妻の剣でモンスターを次々と仕留める海斗をみてナッシュが感心するように言った。
「まあ、ほとんど剣の性能によるものだけどな」
「だがそれで強力なモンスターを倒せるから、経験値がどんどん入って来て基本性能自体も早いスピードで上がってるんだろう?」
「そうかも。あまり実感は湧かないけど数カ月でギルドランクがEからDに上がったんだから、きっとそうなんだろうさ」
「カッコ付けやがって~」
「へへへ。カッコ付ける事に関しては、オレはまだまだナッシュにおよばねぇよ」
ナッシュは相変わらず、これ見よがしに高級そうなスキルを付けていた。どこまで隠ぺいしているのか分からないが、本当に金持ち全開のスキルだ。
「おーい。お前ら。この先にガルーダって村があるんだが、別に寄らなくても良いよな?特になーんも無い村だし」
グレンが後ろを振り返りながら大声で尋ねてくる。
みんな「うんうん」といった感じだったが、海斗は空気を読まず言った。
「あ、オレは寄りたいかも……」
「なんでだよ」
「だって何か美味しい物があるかもしれないし……」
「だぁー! 何でお前はいつもそればっかなんだよ」
ライアンが面倒くさそうに言って来たので、ちょっといたずらしてみる事にする。
「女ってよ、甘い物に弱いんだぜ。村で何か買ってマリンちゃんに上げてみたらどうかな?」
「な、なんだと?」
「オレの推測では、よく冷やした甘い果実が好きと見た。今みたいに疲れている時に差し出せば好感度100%アップだな」
本当はセーブポイントの書き換えがしたかっただけなのだが、ライアンを餌にしてみると大成功だった。めちゃくちゃでかい声で村に寄ると叫びだしたので、皆はしぶしぶ馬車をガルーダ村に走らせた。
「……海斗くん?」
「ん? 何かなライアン殿」
「これの何処に甘い果実があるってんだよ!!」
「すまん。これほど何もない村だとは思わなくてさ」
「ぐおぉぉぉぉぉ~!!!!お前のせいで、俺は……俺は悪者になっちまったじゃねぇか!!!」
だが無事にセーブポイントの書き換えは出来た。
こんなしょぼい村でも出来るようだ。これなら安心だ。さすがにここまでは白装束の男も追いかけてはこないだろう。
その後、無事国境も超えてコンラート領に入った。後は数日かけて北上すればユーグリの町に到着だ。
「いぇーい!!!!!」
ライアン達が歓声をあげる。
「おいおい、ここからが本番だぞ。今から通る『ルミネの森』ってのが厄介なんだ。最悪、更に東に進んでガザム山脈を越えた方が無難かもしれないんだからな」
「そうなの?」
「この前ちゃんと話したじゃねぇか。聞いとけよな」
グレンが疲れたように肩を落とした。
そういえば、何かそんな事を言っていた気がする。皆、そんな感じだったから。
「もう一度言うが、ここでは極力戦闘は避けるようにな。モンスターを発見しても、こちらから攻撃を仕掛けてはダメだぞ。向うから襲い掛かってくるなら応戦しても良いが」
「神獣ルミネだっけ?」
「そうだ。奴は争い事を極度に嫌う。ここで戦いを仕掛けた奴はモンスターであっても始末されるらしいからな」
「でもただの伝説って話なんでしょ?」
「俺も実際に遭遇した事は無いのだが、聞く限り伝説ではなく実在するらしいぞ」
「ひええ……」
襲い掛かられて仕方なく応戦しただけでルミネの逆鱗に触れたら最悪だ。一応グレンの話しでは襲い掛かったほうだけが成敗されるとの事だが。
◆
ラルクは今回の任務について、全く気乗りしなかった。
それもそのはずだ。いくら上からの指示とはいえ任務を遂行すれば罪人扱いになってしまうのだ。
確かに自分はブランカ教の信者である。だから罪人となった所で日常生活に支障はきたさないのだが。
「森に入ったら殺るぞ」
「う……ん」
「なんだ? お前まさか、本当に『見』に回るとでも?」
覆面の下で、仲間が非難に満ちた表情をしているのがありありと分かった。だがラルクはやはり気が乗らない。
「申し訳ないが、やっぱりそうさせてくれ。奴らがルマリア国に入るなら俺も参戦するつもりだったんだがな」
ターゲットはブランカ城近くで囮として用意した帝国パーティを襲った冒険者達だ。本来なら返り討ちにする予定だったのだが、何故か失敗したらしい。ラルク達は後始末として、冒険者の抹殺を命じられたのだ。
しかし彼らは既にルマリアからの任を解かれているため、一般の冒険者なのだ。ルマリアを経由せずコンラートに逃れようとしている彼らを襲うと罪人になる可能性がある。
そう説明して仲間に見張り役をさせてもらうよう頼んだ。
「罪人なら教祖様がなんとかしてくれるはずだ」
「俺もそう聞いてはいるが、現に罪人のまま戦士をやっている人間が沢山いるじゃないか」
「教祖様にも都合があるのだろう。それよりも任務を放棄するなら異教徒扱いになるぞ」
「いや、だから俺も手伝うさ。だが我々ブランカの戦士がたかだかCランク以下の冒険者なんぞにやられるはずがない。奴らには何か秘密があるはずだ」
もしかするとSランクの人間が混ざっているのかもしれない。それならば上に報告する必要がある。誰かが生き残って報告しなければならないのだ。
その役目を自分がやる、とラルクは説明した。
ありえない程のご都合主義的な言い訳だ。
仲間の二人は、しぶしぶ承諾した。
そしてラルクは更に警告する。
「それと、やるなら森を抜けてからの方が良いんじゃないか?」
「ルミネの伝説か? そんなもの真に受ける必要はない」
「いや、本当に居るとの噂だぜ……」
仲間は全くとりあわない。まあラルク自身もそれほど信じている訳ではなかったのだが。それに、『見』に回るなら森の中のほうが都合がよいのも事実だ。平地なら離れていても相手に見つかってしまうのだから。
ターゲット達がルミネの森へ足を踏み入れてから少し進んだところで仲間達が攻撃を仕掛ける。不意打ちをする必要もないくらいの相手であるはずだが、そんな事はお構いなしとばかりに走っている馬車に向かって『幻魔爆衝』のスキルを放った。
あれでは益々『罪人』扱いになるだろうなとラルクは思ったのだが、驚いたことに仲間が放った魔力を伴った衝撃波は障壁スキルらしきものに阻まれてしまった。
「あれは、聖壁? いや、違うな。そこまで強力なものではない」
障壁が僅かに光っていたように見えたので、一瞬『聖壁』スキルかと思った。もしそうなら相当の手練れである。相手はSランクの実力があると見るべきだろう。しかし『幻魔爆衝』を受けて障壁のほうも崩れ去ったところを見ると、もっと威力の弱いスキルだと推測される。
だがどちらにしても不意打ち攻撃を瞬時に退けたのである。少なくともBランク以上の実力があると見るべきだ。
ラルクは固唾を飲んで見守った。『見』に回る、というのは単なる言い訳けだったのに、本当に報告する羽目になるかもしれない。
不意打ち失敗により、相手と真正面に対峙する事になってしまった。
改めて敵のギルドランクを確認するが、全員Dランク以下だ。Bランク以上の人間がわざわざ称号を書き換えるなんて事はしないだろう。あとは商人が元々冒険者だったという可能性はある。
確かな事は、あの中の誰かが『幻魔爆衝』を防いだという事だ。
その答えは直ぐに分かった。
ラルクが睨んだとおり、グレンという商人がすさまじい強さであったのだ。もちろん仲間たちも瞬時に把握したらしく、二人ががかりで応戦している。
助太刀するべきか?
ラルクは悩む。
グレンという商人以外のメンバーのなかで、五名の冒険者は見覚えがあった。以前、ダムダの町近辺で出会った事がある。ルマリア国に加担する人間かどうか確かめて、もしそうなら情報を引き出したうえで抹殺せよとの任務を受けて後を追ったのだ。
結果は白だったので、そのまま見逃した。
その際、ラルクの攻撃に手も足も出なかった事は確認済みである。Dランク以下の実力に間違いは無いだろう。となれば、後は『ナッシュ』か『アンジェリカ』という名前のDランク冒険者だ。
この二人も称号通りの実力であれば、ラルクが参戦する事により勝利する事は可能だろう。まずは、この二名の実力を測るのだ。
仲間たちは、グレンが繰り出す激しい攻撃を受けながら、更にはDランク以下とはいえ、7名の冒険者からの攻撃を処理している。決して余裕がある訳ではなさそうだ。確かに、これなら我がブランカの戦士と言えど一人では討ち取られる事もあるだろう。
しばらく様子を見たところ、グレンという商人以外の実力は大した事がないとわかった。称号通りだ。なら大丈夫だろう。ラルクは『雷光』の詠唱に入った。これで場をかき乱せば、仲間たち二人も『雷光』の詠唱が出来て戦局は一気に傾くだろう。
ラルクは早速『雷光』を敵に投げつける。この不意打ちにさすがに彼らも驚いたのか、倒れ込むようにその場から飛びのいた。もちろん、攻撃はこれだけでは終わらせない。通り過ぎた『雷光』を呼び戻しつつも二つ目の詠唱に入る。
これで仲間達も詠唱の時間が取れたらしく、次々と光の玉が彼らに襲い掛かる。
だがまたしても攻撃が防がれた。
「ちくしょう。あのおっさん魔力付与の盾を持ってやがる」
思わず悪態が口をつく。
商人が持っていた盾で防いだのだ。並みの盾で防げる攻撃ではない。魔力が付与された強力な防具であることは間違いない。
まさかブランカの戦士が3人でよってたかって商人一人とDランクメンバに負ける訳には行かない。まずは鬱陶しいザコを片づけてから商人を三人がかりで囲もうと考え、『雷光』をザコ達に向けた。
しかし今度は、彼らに到達する前に破壊されてしまう。
「な!?」
魔力付与の盾ではない。何かのスキルだ。『雷光』を防ぐ事ができるなんて『聖壁』くらいなのだが、一体何が起きているのか。
何らかの障壁スキルなのは間違いない。四元魔法ではない何かだ。見たところは風系のものに見えるが、そんなヤワな魔法で防げるほど雷光の威力は弱くない。
ラルクは参戦してしまった事を後悔した。この障壁は商人が放ったものではない。あのザコ連中のうちの誰かだ。やはり『見』に回っておくべきだった。
幸い、彼らとの距離はある。だが、ブランカの戦士ともあろうものが戦闘中に敵に背中を見せるのか。『見』に回っていたときならともかく、今は既に自分からも仕掛けた後なのである。
そんな葛藤が頭をよぎった時、更に事態が急変した。少女が一人、戦場に出現したのだ。
「いつの間に?」
あたかもずっと、その場所にいたかのように少女は静かに佇んでいる。いつから居たのか分からない。だが鑑定してみるとラルクの後悔は更に大きなものになった。
===============
Name:ルミネ
Caption:神獣
基本スキル:
- 物体誘導
===============
全体的に淡い色合いの衣服を身にまとい、髪も淡い緑色をしている。良く見ると、わずかに足元が宙に浮いているようだ。
「キミたち、うるさいゾ」
ルミネが軽く手を上げると仲間の戦士達は、まるで天から吊し上げられたかのように両手を引っ張られてルミネと同じように宙に浮かされた。そして地面から植物の茎のようなものが生えたかと思うと急激に成長し、二人を縛り上げる。
ラルクはもちろん、敵であるグレンたちも誰一人として動く事もできず成り行きを見守っている。二名の戦士たちは息をする事すら出来ないくらい強烈な力で茎に締め上げられているようで、顔が恐怖と苦痛に満ちている。
どうする事も出来ないまま、やがて彼らの体が痙攣するようにビクッと震えたかと思うと動かなくなった。
ラルクは手を震わせながら彼らを鑑定する。眠らされただけなのか、それとも死か。
結果は後者であった。
攻撃魔法のような派手さもなく、音もなく、ただ静かに、しかし確実に息の根を止めた神獣の攻撃に、ただただ恐怖するしかなかった。
「あーあ。大切な木々たちをこんなに破壊してしまって……」
ルミネはそう呟くと、まるで犯人はお前だと言わんばかりにラルクに視線を向けて来た。同じブランカの戦士が二人とも、手も足もでなかったのだ。勝てるはずが無い。
すぐさま身を翻し、逃走を試みたがもはや手遅れであった。先ほどと同様に植物の茎が体に纏わりつき、締め上げる。ラルクは深い森のなかで体を縛り上げられながらも助けを求めて天に手を伸ばした。そして、その指先を見つめながら彼は静かに息をひきとった。
◆
海斗は目の前で起こった事象を、どこか遠い世界の出来事のように眺めていた。それほど、非現実的だった。自分とは次元の違うほどに強い白装束の敵を、あっという間に葬り去ってしまったのだ。小学生くらいの女の子が。
いかに此処が異世界であろうとも簡単に理解できるものではない。一体何者なのだと思って鑑定した瞬間にようやく理解が追い付いた。これがグレンの言っていた神獣らしい。
「自然は大切にするんだゾ」
少女はそう言い残すと、まるで空気と同化するように姿が透明に変わり、やがて完全に見えなくなった。
「本当だったんだ」
「ああ。だから言ったろ?」
グレンも自分で言いながら驚いているようだが。
さすがにアレは危険だ。この先モンスターが襲って来ても極力その辺りの木々にダメージが及ばないよう注意して撃退しようと思った。
それは皆も同じ考えのようで、あまり派手なスキルは使わずに対処していた。ここでは『木』様なのである。
ようやくルミネの森を抜け、ユーグリの町へと辿り着いた。
「いやぁ~~~長かったぁ~」
サスケが安堵の表情を浮かべながら大きく背伸びをした。それは他のメンバーも同じである。ゴルドリックの城では2週間も牢に閉じ込められた。いざ目的を果たして帰ろうとすると、戦争が起こり帰れなくなった。ブランカでは気の休まる時はなかったし、一度は死にかけた。そして、ルミネの森ではものすごい体験をしたのだ。
だが皆無事で帰ってこれたのである。
ライアン達がはしゃいでいる様子を見ながら、海斗は自然とミカの肩を抱き寄せていた。
「あ~~~!! お前らいつからそんな関係になったんだよ!」
「ぎゃ~~ ホントだ」
すかさず目を付けられる。
「ちょ、ちょっとやめてよ! 海斗も何なのよ。急に」
「どわっ! 何だろ。何か変なものがオレに乗り移ったのかな」
「はぁ!? 変な物って何よ。信じられない!!!!」
ミカに盛大なビンタをもらい、海斗のほっぺたが大きく腫れ上がるハメになってしまった。
「ミカりん、海斗さんとすっごく仲がいいねー」
「そんなんじゃないってば」
「ふふ、楽しそうで羨まし~~」
「マリンちゃん、キミには俺が――」
「あ、そうだ! 今度みんなで『シリの山』に登らない? すっごく綺麗な景色なんだってー」
相変わらずライアンの言葉はマリンには届いていないようだ。
シリの山は以前にミカと登った山である。その時の話をミカから聞いたのだろう。まぁ海斗としても、あの絶景はもう一度見ても良いかなといった感じだ。無事帰って来た記念にのんびりと山登りをしても良いかもしれない。大したモンスターも居ないことだし。
「海斗って、こんなに楽しい固定パーティ作ってたのね……。ごめんね。また一緒にパーティ組もうなんて誘っちゃって」
アンジーが申し訳なさそうに小声で話しかけて来た。
「気にしなくていいよ。アンジーも、もうユーグリの町での生活に慣れたんだろ? ならここでナッシュと一緒に今までどおり依頼三昧を楽しめるじゃない」
「……うん。そうだよね。ナッシュも無事に帰ったこれたんだし」
気のせいか、アンジーの元気がなさそうだ。
まさか海斗と別れるのがつらいとか?
と一瞬考えたが、さすがにそれはないと海斗は否定した。出会ってから一度も、男として見てくれなかったのだ。人妻となった今は更にありえないだろう。
海斗は自分で自分を笑った。
こんな事を僅かでも考えるのは、心の片隅にアンジーに対する想いが残っていたんだろう。自分でも気づかないくらいのものが。
「俺も、もうしばらくユーグリに残る事にする」
突然グレンが変な事を言い出した。
「は? んじゃオレらはどうやってガザム山脈を越えるんだ?」
「心配するな。山脈を超えるまでは連れてってやる」
ギルドで馬車をもう一台借り、ガザム山脈を越えたところでグレンのみ引き返すと言うのだ。何故グレンは此処に残るのだろうか?
アンジーやナッシュも、特に驚いた様子は無い。おそらく既に聞いていた話しなのだろう。アンジーが元気がないように見えるのと何か関係があるのだろうか。
理由を聞いて良い雰囲気ではなかったため、海斗もそれ以上追及はしなかった。




